そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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12:勇者パーティーのその後①

 ガイアス王国の城壁都市ロンドから馬車で1日東に進んだ平原地帯。

 そこでとあるパーティーが一体の魔物と戦っていた。

 

 パーティーの中心にいるのはくすんだ金髪を眉の上で雑に切りそろえた少年だった。顔つきはまだ少年の色を強く残し、体は華奢でどこか頼りない印象を与える。

 

 ―――ジーク・ヴァルライド。

 

 歳の頃は14。

 つい1週間前まで、少年は何処にでもいるありふれた孤児だった。

 

 ―――今は勇者、ということになっている。

 

 パーティーの仲間は3人。

 

 聖教会の聖女であり、ジークに勇者である運命を告げたクレア。

 

 かつてはガイアス王国青獅子騎士団の副団長を若くして務め、パーティーの壁役である聖騎士フェリア。

 

 魔法学園の天才児であり、Aランク冒険者としても活躍する魔法使いマリアンヌ。

 

 

 対する魔物の名は、グランドタートル。巨大な亀の魔物である。背には刺々しい甲羅を背負っており、その鈍重そうな見た目に反し、動きは俊敏だ。

 

 ジークの装備は赤いマントに皮の鎧、手には白く煌めく魔力を放つ聖剣を携えている。

 

 聖剣を構えるたびにジークは不思議な気持ちになる。

 

 自分がこんな格好をしていて、人類の希望を背負って魔物と戦っている。1週間前の自分に言っても、とても信じないだろうし、今こうしていても現実感はない。

 

 何かの間違いではないかと、思ってしまう。

 

 ジークは聖剣を魔物の頭に向かって叩き込む。聖剣の軌跡が白く光る。それは正しく人類の希望、見る者の心を捉え勇気づける仄かな光。

 

 しかし、それはグランタートルの固い外皮に弾かれた。

 

 ガアン!!と金属質の音が鳴る。

 

 聖剣の性能に不足はない。聖剣は魔物と魔族に対し、恐るべき切れ味を発揮する。足りていないのは少年の技量だった。

 

「勇者様、来ます!」

 

 聖女クレアが叫ぶ。グランドタートルが四肢に力を籠める。その巨体と体重を生かしたタックルだった。

 

 少年の細い体に凄まじい衝撃が襲う―――その直前、聖騎士フェリアが勇者との間に割って入る。

 

 その手に携えた大盾でグランドタートルの突進を正面から受け止める。

「はあ! 効かんッ!」

 

 更には大盾でグランタートルの頭を殴りつけ、後退させる。その隙に魔法使いマリアンヌが詠唱を開始した。あらゆる魔法には詠唱が欠かせない。詠唱によって、体内を巡る魔力を錬成し、魔法として外に放つことができる。

 

「闇焦がす業火よ。我が怨敵を滅したまえ。ファイアトルネード!!」

 

 グランドタートルを中心に、あらゆるものを焼き尽くす炎の渦が出現した。

 

 グランドタートルは悲鳴を上げながらのたうち、渦から脱出しようとするが、それよりも先に魔物の命が尽きた。

 

 魔物を倒したジークたちは、近くに設営していたテントの戻り、戦闘の疲れを癒す。

 

 もう夕日も沈みそうだ。魔物を見つけ出すのに、想定よりも時間がかかってしまっていた。今晩はここで野営をするしかないだろう。

 

 4人はテントの中に座り、戦闘用の装備を置き、緊張を解く。

 

「ありがとうマリアンヌ、フェリア」

 

 ジークは2人に礼を言った。フェリアには魔物攻撃を庇ってもらったし、マリアンヌには止めを担っておらった。

 

「気にしないで」

「それが役目だからな」

 

 聖女クレアが気付けば傍らにいた。

 女性特有の甘い香りがジークの鼻孔を満たし、少年の背筋が思わず伸びる。

 

「どうか手を。傷を癒します」

「あ、ありがとう」

 

 戦闘の中でどうやら腕を擦りむいていたようだ。クレアはジークの腕をとった。柔らかな緑色の光にジークの腕が包まれる。

 

 詠唱はなかった。彼女は詠唱をすることなく、他者の傷を癒すことができる。魔法とはまた違う力であり、聖教会はこのような力を『奇跡』と称し、それらは女神からの受け賜った力だと定めた。

 

 この癒しの『奇跡』はクレアが聖女である証の1つである。

 

「ち、近くない? 治療のためとはわかるけど…」

「ふふ、そんなことありませんよ。あら、こんなところにも傷が…」

 

 クレアは少年の頬を撫でる。クレアは16歳でジークよりも2歳年上であるし、彼は年の割には小柄な方なので、座ると2人の視線を位置は殆ど変わらない。

 

 ジークはクレアの空色の瞳を真正面から受け止めることになった。自分の頬の傷の具合を見ているのは分かるが、こんなに可愛い子に見つめられると、どうしても緊張してしまう。

 

「その、クレアも怪我はなかった…?」

 

 緊張をごまかすように、そんなことを言う。

 

「なんとお優しいんでしょう、勇者様。でも大丈夫ですよ、勇者様がしっかり守ってくださいましたから」

 

 少年のそんな言葉にクレアは、ぱあっと目を輝かせる。花の咲くような笑顔まで浮かべる。

 

「みんなの力だよ。ぼくはまだまだ全然だし…」

「謙虚なんですね。心配しないでください。これから勇者として色々なことを学んでいけばいいんです。勇者として、魔物を払い、魔族と魔王を打倒し、救世の英雄となるのは貴方…ジーク様なのですから」

「そ、そうかな」

「私にはわかります。私は女神の声を聴き、勇者を導く聖女ですから」

「なんだかクレアにそう言って貰えると安心するよ。ぼく、クレアの期待に応えられるように頑張る!」

 

 聖女だからだろうか。それとも自分をやたらと慕ってくれるからだろうか。ジークの中に、小さな(根拠のない)自信が産まれていく。

 

「はい、その意気です。でも、無理はしすぎないでくださいね。クレアはそれが心配です。勇者様は無茶をしがちですから…」

「だ、だから近いよっ…!」」

 

 ちなみに、であはるが。

 当然テントの中にはまだ残り2人の仲間、フェリアとマリアンヌがいる。

 

 聖女と勇者の仲睦まじい様子を見て、フェリアが言った。

 

「なんというか、随分と仲が良いのだな…」

「当然でしょう。私たちは聖女と勇者なのですから」  

 

 

「―――しかし、アレインの時とは大分様子が違うぞ?」

 

 ぴしり、と甘い空間に亀裂が走ったようだった。

 

 先ほどまで花が咲かんばかりに笑顔だったのに、一瞬にしてクレアの顔から表情が消えた。なまじ美人であるからこそ、その無表情はより恐ろしくマリアンヌには感じられた。

 

「馬鹿っ」

 マリアンヌが勇者と聖女には聞こえないような、小さな声でフェリアに注意する。

 

 どういう訳か、クレアはアレインを毛嫌いしていた。聖女と勇者という(結果的に違ったが)伝承に謡われるパートナーである筈なのに、基本的に博愛であるクレアはアレインにだけは、厳しい態度を取り続けた。

 

 その理由はマリンヌは分からないが、アレインがいなくなった今、そこを深堀しても仕方がないことだし、クレアの前でアレインの話題をすることは避けてきた。

 

(なのにこの騎士様は……)

 

「ん、何か私はおかしなことを言ったか? だったらすまん、クレア」

 

 フェリアは首を傾げるばかりである。彼女はまごうことなき善人ではあるが、人間同士の微妙な機微や徐堂などを、今一察知できない鈍感な人間でもあった。

 

「いえ、そういう訳では…」

「アレインさん、そのぼくも気になります。ぼくの前の勇者だったんでしょう?」

 

 ジークの脳裏に思い浮かぶのは、夜の町で見た黒髪に灰色の瞳の男。自分が勇者に選ばれたことでその立場を追われた存在――。

 

「どんな人だったんですか。ぼく、知りたいです」

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