そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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13:勇者パーティーのその後②

「あの人のことはいいでしょう? もういなくなった人のことです」

「いいんじゃないか? ジーク殿も知りたがってるし…」

 

 フェリアの言葉にクレアは小さくため息を吐いた。

 

「彼は祿でもない人間でしたよ。仲間との連携や周囲の被害も考えず、魔物や魔族を見付けるなり、一人で突出して、孤軍の状態に陥る。そのフォローをいつも我々がやる羽目になっていました。時には町や野営地を抜け出して一人で敵を狩っていることすらありました。理由を尋ねると『この方が安全だから』ですと。我々と戦うと逆に危ないとでも言いたいのでしょうか?」

 

「たまに、だろう? まあ確かにアレインにはそういう傾向があったな。もう少し周りを頼れと何度か忠告したんだが」

 

 フェリアが苦笑する。

 

 ……一応アレインが仲間との連携を乱してまで一人で敵に向かっていったのには理由がある。

 

 本来アレインは聖剣を使う資格を有してはいない。

 アレインの手の元から離れようと暴走する聖剣を無理やり御すためにはどうしてもその剣技は大振りになるし、細かい調整は効かなくなる。特に強力な魔物や魔族相手では暴走は顕著だった。

 

 故にアレインはそんな聖剣との戦いに仲間を巻き込まないために、単独での戦いを好んだのだ。

 

「顔はいつも仏頂面で無口で何を考えているか分からないし、時々一人で夜空を見ては不気味にほくそ笑むし、料理は嫌がらせとしか思わないものを作るし、本当に大変でした。何よりも…」

 

 舌の上に侮蔑を乗せて、クレアは言った。

 

「彼は聖剣に選ばれていないのにも関わらず、勇者を騙った大罪人です」

 

「まあ、そうだが。とはいえ、アレインがこの半年間勇者として我々と共に魔族と戦ってきたのは事実だろう? あいつの強さは本物だった。剣術は幾つかの流派を自分なりに組みわせていたようだったが…、その太刀筋の鋭さ・美しさには騎士として内心惚れ惚れしたよ。我々が多くの魔物と魔族たちを倒せたのはアレインがいたからこそだ」

 

「やけに彼の肩を持つんですね」

 

「私とて聖教徒の端くれだ。勇者を詐称した奴に思うところはある。だが罪は罪、功績は功績と分けて考えるべきだろう。今さらだが少し後悔しているよ。あの時アレインを追って、私たちのパーティーに居続けてもらうべきだったんじゃないかと」

 

「……どの道彼は死にました。それこそ、今さら、ですよフェリア」

 

 フェリアは頷く。

 腕を組んで納得できないように顔を顰めた。

 

「そこだ。本当に彼は死んだのか。 一時は同じパーティーだったからこそ言えるが、奴はそう簡単に死ぬ玉じゃない。あいつと別れた町の近くには名のある魔物や魔族もいなかったしな。私は正直疑っているぞ。何かの勘違いじゃないのか?」

 

 実際、アレインは死んではいないのだ。

 

 クレアは彼を殺そうとしたが、失敗し、次善の策として神器で遠方に飛ばした。砂漠のど真ん中や、人族では永遠に迷うことになる大森林など、人の生存できない環境に捨て置かれ、そのまま死んでほしいところだが。

 

「……私が死体を確認しました」

 

 クレアは嘘をつくことにした。これ以上フェリアにアレインの話を続けてほしくないし、万が一アレインの行方を探そうとでもなったら大変だ。

 

「なんだと、なぜそれを言わなかったっ!」

 

 フェリアの顔が驚愕に染まる。

 

「申し訳ありません。死体は魔族によって弄ばれており、あまりにも損傷がひどく…。元仲間として言い出せませんでした。きっと情に厚いフェリアのことです。本当はアレインの死体と対面して、最後の言葉をかけたかったでしょう?」

 

「ああ、勿論だ。奴の亡骸に魔王を必ず討ち果たすと誓いたかった…」

 

「しかし、私はアレインの死体と貴女を対面させたくなかったのです」

 

「くっ…! それほどまでに、アレインの死体はひどい状態だったのか!」

 

「はい…」

 

「おのれ、魔族め! ゆるせん! 必ずやこのフェリアが一匹残らず討伐してくれる! こうしてはおれん! 私は外に出て素振りをしてくる! 少しでも力をつけねば!」

 

 言うや否や、フェリアはテントの端に立てかけてあった自分の剣を手に取って、外に飛び出した。

 

 彼女は善人であり、どこまでも純粋だった。

 聖女の嘘には微塵も気づいていない。

 

 それは勇者である純朴な少年も同様だ。

 

「そうだったんだ…。クレアもつらかったね。元とはいえ仲間のそんな最期を見て…」

「いえ。今はジーク様がいらっしゃいますから…」

「クレア…」

 

 そして勇者と聖女の甘い空間が再び展開された。

 

(アホらしい。何この三門芝居)

 

 それをマリアンヌはしらけた顔で見つめる。

 

 マリアンヌはアレインが死んだとは思っていない。どうせ偽勇者であるアレインが再び表舞台に出てくるのを防ぐために聖教会とクレアが撒いた嘘だろう。

 

 アレインは本人は恐らく聖教会に大金を握らされて、大陸の端っこにでも強制的に隠居させられたというのが真相だと思っている。

 

 マリアンヌも流石にクレアがアレインを殺そう(・・・)としたとは考えなかった。

 

 ◆

 

 テントの中にいるのも独り身にはつらかったので、マリアンヌはトレードマークの魔女帽子を被り外にでる。

 

 夜風が気持ちよかった。虫の音色が心を清めてくれる。

 

「ふん、ふん、ふん、ふん! 魔族め! この! この! 成敗してくれる! 」

 

 

 ……この、暑苦しい声さえなければ。

 

 どうせ暇だったので、マリアンヌはイメージの中の魔族を叩き切るフェリアに近づいた。

 

「あつっ!? アンタの周り、気温おかしくない!?」

「滾る使命感と魔族への憎しみがそうさせているのだろう…」

 

「はあ、まあいいわ。ところでアンタどう思う?」

 

 はあはあ、と息を切らしながらも聖騎士は力強く頷いた。その瞳には騎士らしい固い決意が見て取れる。

 

「ああ、アレインを殺した魔族だろう? 必ず仇はとらねばな。何か外見の情報をないのだろうか」

「あー、そっちじゃなくて」

 

 一瞬テントの方を見る。

 これだけ離れていれば、聞こえないだろう。

 

「ジークのことよ」

 ささやくように、言う。

 

「……ふむ。どういう意味でだ?」

 

「戦力になるかって意味で」

 

「今のところは足手纏いだな」

 聖騎士はジークの戦力としての価値をばっさりと切って捨てた。

 

「結構はっきりいうのね」

 

「そこをごまかしても仕方なかろう。確かに聖剣は伝承にある青き輝きを放っている。魔物に対しても大した切れ味を誇っているし、あの分なら魔族の強靭な皮膚に対しても一定の効果はあるのだろう。アレインのようにな」

 

 そこでフェリアの脳裏にこの数日間のジークの戦いぶりを思い起こされる。

 グレイウルフ、ポイズンバッド、自分との訓練、そして今日のグランドタートル。

 

「だが、まあ身のこなしははっきりって素人だ。魔物相手にも人相手にも腰はひけていて、体に芯が通っていない。だから踏ん張りは効かないし、攻撃は弱い。それに刃を立てず、剣の峰で切ろうとしている。あれでは何も斬れん。騎士団の新兵の方がマシだろう」

 

 ひどい評価だった。とはいえ、剣の専門家と魔法の専門家という違いはあれど、マリアンヌの意見もほぼ同様だ。

 

(動きが鈍いせいで魔法に巻き込みそうで怖いのよね。ヘイトもとってくれないから、詠唱も安心してできないし…)

 

「剣をもって1週間だっけ? 元は孤児院にいたそうだけど」

 

 孤児院では小さい子供の遊び相手をするジークを想像するが、中々似合っていた。

 対して今の勇者の装備は、服に着られているという感じが強い。

 

 そして次に思い浮かぶのは、ある種のジークの対極、強さしかなかった男。

 

「アレイン、強さだけはあったものね」

 

「ああ、勇者としては絶対に必要なものだ」

 

 今のパーティーでは、勇者ジークはお荷物でしかない。そこらにいる魔物には負けないだろうが、名のある魔物やましてや魔族には、ジークを庇いながらでは勝ち目はないだろう。

 

 それどころか上位の魔族とされる軍団長クラスとぶつかれば、全滅も在りうる。

 

「……アレインって仏頂面で口数少ないわ、デリカシーないわ、料理はド下手だわ、何故か事あるごとにアップルパイを渡してくるわで人間としては好きじゃなかったけど」

 

「クレアもお前もはっきり言うなぁ」

 

「本当のことだもの。ただアンタの言うように、やっぱり強さは本物だった。剣技は門外顧問の私もアイツの剣術がとんでもなかったことは、見てて分かったし。なんというか、うん綺麗な剣技だったわ」

 

 一瞬考えこむように

 

「アンタはやっぱりジークよりアレインの方が良い?」

 

「む、どういう意味だ? アレインは亡くなったのだろう?」

 

 最悪、まだ生きているだろうアレインを探してパーティーにもう一度勧誘するという手もある。

 

 そもそも、彼を見付けられるのか、一度は偽勇者として追放した彼がパーティーに戻ってくれるのか、聖教会はどんな顔をするか、など問題は山積みだが。

 

「あーそうだけど。もしもの話。いや、ジークにアンタ不満がありそうだったから」

「そうは言ってはいない」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ、現状は役に立たないというだけだ。私は結構見どころはあると思っているぞ?」

 

「ほら」と、フェリアはマリアンヌの背後を顎で示す。

 そこにはジークが聖剣を抱えてテントから出てくる姿があった。

 

 ジークはフェリアたちに向かった小走りで駆けてくる

 

「……その、ぼくも一緒に訓練していいですか? 少しでも早くみんなに追いつきたくて…」

「勿論だ。だが私のシゴキは厳しいぞ、勇者殿?」

 

 聖騎士は快活に笑った。ちなみにフェリアはかつて青獅子騎士団の副団長を務めており、その訓練は彼女の元部下曰く『魔物と戦う方が百倍マシ』だそうだ。

 

 勇者は当然、地獄を見た。

 




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