そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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15:冒険者ギルド

 城壁都市ロンド。

 その西部には広大な小麦畑が広がっている。どこまでも広がる黄金の海。

 

 そこに、波紋が生まれる。

 

 インクを煮詰めたような、どす黒く粘土の高い液体が、まるで地面から湧き出る間欠泉のごとく勢いよく吹き上がった。『それ』はやがて形を丸く変化させ、半固体のつぼ型となる。

 

 恐るべきはその巨大さだ。半固体の『それ』は小さな城ほどの大きさがあった。

 

 じゅうぅ、と黒色の『それ』に触れた部分が、煙と音を立てながら溶けていく。魔法学院でかつて作り出された王水もかくやという光景だった。運悪く『それ』が噴き出た地点にいた農夫たちはもう骨しか残っていない。

 

 『それ』はゆっくりと周囲を見渡す。『それ』には目も耳の鼻も備わってないが、どういう理屈か周囲の様子は知ることができた。

 

 獣のように単純な、しかしそれゆえに、恐ろしい思考を『それ』は巡らせる。

 

 ―――幸いここには食料が多い。

 

 周囲は小麦地帯だ。

 

 ―――だが、これはだめだ。腹は膨れても、満足できない。やはり肉がいい。特にあの2本の足でたつ生き物は最高だ。肉も骨も旨く、そして魔力もたっぷり蓄えている。

 

 そして『それ』は自身の程近くに数えきれない肉が集まっている場所を感知する。獲物を求めて、ゆっくりとゆっくりと、しかし着実に動き出す。城のような巨大な粘性物質が津波のように動きだす光景は、見る者に死が迫っていることを予感させた。

  

 

 

 ……その名は国喰らいのエルガ。

 

 

 数えきれないほどの年月を生き、数えきれないほどの命を食らい、遂には種としての限界を超えた歩く災害、スライムの魔物である。

 

 

 

 

 

 

 アップルパイを食した後、俺たちは宿屋に向かった。衛兵におすすめの宿屋を聞くと、少人数の旅人向けの安い宿屋を教えてもらったのだ。

 

 名前は『クワガタ亭』。

 多分創業者がクワガタ虫が好きだったんだろう。

 

 店主は愛想の良い人族の男性だが、料理はあまり美味しくなかった。

 

 そこで一晩過ごし、次の日の午前はロンドをあてもなく散策する。

 

 色々見て回ったが、大きな石造りの時計塔がシンデリカはいたく気に入ったようだった。天高く聳える見た目がかっこいいし、町の人全員が鐘で時間を知らせる仕組みも機能的で素敵だと思ったそうだ。

 

 エルフの都では時計はなく、太陽が頂点に登った頃とか、烏が鳴いたころ、とか自然の物差しで行動していたらしい。待ち合わせとの時など、それでは困ることも多いだろう。

 

 ただ、実際エルフの都に時計を持ち込むとなると、彼女は時間に縛られることを嫌がりそうである。

 

 宿屋に戻って昼食をとる。

 最近目ぼしい魔物や魔族の被害はないかと店主に尋ねた。

 

 店主は髭を撫でながら考え込む。

 

「そうさなあ。最近近くの町にでたグランドタートルは数日前に勇者が倒してくれたけど…やっぱりあいつだよなぁ」

「あいつ?」

「国喰らいのエルガだよ。昨日、西の小麦地帯に出たらしい。斥候として調査に向かった兵士の一人が、今朝骨だけになって仲間に連れられて帰ってきてたよ」

 

 エルガ、と俺は口の中で反芻する。

 

「Aランクの大物じゃないか」

 

 国喰らいのエルガとは城のように巨大なスライムの名だ。スライムといえば弱そうなイメージを持たれるが、こいつだけは別である。

 

 国喰らい……とは流石に大げさすぎる名前だが、いくつもの村々がこの数年でエルガに飲み込まれて消えていったのは事実だ。この半年、俺は王国内の目ぼしい魔物を狩っていったのだが、そこから漏れた魔物だった。

 

 ……あいつ、体から出る酸性の粘液で地面を溶かして、不定形の体を細長く伸ばしながら地中をミミズのように移動するから、居場所がつかめなかったんだよな。

 

 そうか。エルガはこの近くに出たのか。

 

「はやく何とかしてほしいよ。小麦が食われつくしたら大変だ。俺たち皆飢え死にしちまう。あんた、冒険者かい? ならギルドで討伐隊を募ってたそうだから、参加してみたらどうだい?」

 

「考えとくよ」

 

 流石にこいつは町の兵士や冒険者には手に余る。店主には曖昧な返事をしたが、俺の中では手を貸すことはほとんど決定事項だった。

 

 魔物については分かったが、一応魔族についても聞いておくか。

 

「そういえば、ここら辺に魔族は出るか?」

「あ…」

 

 店主の顔がほんの一瞬ひくついた。

 

 なんだ、今の反応? まあ、いいか。

 

「ああ…黒騎士って呼ばれてる魔族だな。月に一回くらいの頻度でロンドの近くを通る商人や冒険者を襲ってるそうだ。詳しいことは私も知らんがね」

「そうか、ありがとうな」

「いえいえとんでもない。ごゆっくりどうぞ」

 

 店主は人好きする笑みを浮かべ厨房に帰っていった。

 

「アレイン、あの人……」

 

 どうかしたか、シンデリカ。

 

「ううん。多分気のせいだわ…」

 

 思わせぶりな態度はやめろよ。気になるな…。

 

 

 店内に飾ってあった(クワガタではなく)カブト虫のオブジェを眺めながら、食事を終えた後、気を取り直して俺はシンデリカに宣言する。

 

「冒険者ギルドに行きます」

 

「はい!」

 

 良い返事です。

 

「……冒険者ギルドってなに?」

 

 そこからか。

 

「簡単に言うと魔物を狩ったり、商隊の護衛をしたり、国や町に仕えずに色々な仕事をする人を冒険者っていいます。そんな冒険者のサポートする組織が冒険者ギルドです。クエストの斡旋や倒した魔物の素材や珍しい薬草などを買い取ってくれるんだ」

 

 ちなみに冒険者ギルドと名がついているものの、別に冒険者でなくとも、素材は買い取ってはくれるし、色々手続きをすればクエストを受けることも可能だ。実際俺も勇者になる前には、何度か魔物の素材をギルドに持ち込んで買い取ってもらったしな。ただ、手数料をかなりとられる。

 

 だから、長期的にギルドを利用するなら冒険者としての登録を済ませたほうが色々とお得である。

 

「わかったわ、じゃあ冒険者になりましょうか」

 

 そんなこんなで俺たちはロンドの冒険者ギルドに向かった。

 ギルドはロンドの他の建築物と同じく石造りの建物だった。2階はなく、横に広い。

 

 中に入る。

 素材の買取所に、クエストの掲示版、職員が控える受付等が俺たちを出迎える。

 

 俺たちは受付に向かった。

 対応しくれたのは若い女性職員だ。

 

「冒険者として登録をしたい。二人だ」

 

「はい、冒険者としてギルドへの登録でございますね。かしこまりました。それではこちらの書面に必要事項を記入をよろしくお願いします」

 

 若いが手慣れているのだろう、淀みなく受付嬢は説明していく。

 

 ……記入項目は名前、出身地、種族、職業(ジョブ)か。

 

「この職業(ジョブ)って何? 姫って書けばいいの?」

 シンデリカが書面を見て首を傾げる。

 

 その言葉を冗談だと思ったのだろう、受付嬢はくすりと笑い、

 

「いいえ。この場合の職業(ジョブ)というのは、パーティーでの役割のことです。剣技に自信があるなら『剣士』、魔法の心得があるなら『魔法使い』、弓矢の扱いに長けれいれば『弓兵』、恐れを知らぬ戦いをする者は『狂戦士』、といった具合に自分が何ができるのかを一言で表したものが職業(ジョブ)になります。クエストの際、見知らぬ他人とパーティーを組むときにお互いが何ができるのか分からなければ困りますよね。故に冒険者たちは職業(ジョブ)でそれぞれのパーティーでの役割を把握し合います。またギルド側が冒険者個人にクエストを紹介するときに参考にさせていただいたりもします」」

 

 なるほど。

 こうして冒険者の職業(ジョブ)についてちゃんとした説明を受けるのは実は俺も初めてだ。今までは素材の買取所しか用がなかったからな。

 

 

「どんな職業(ジョブ)を名乗るかは個人の自由ですが、この後にその職業(ジョブ)を名乗ることができる技能があるか、当ギルドの試験官が確認させていただきますのでご注意ください」

 

 つまり、魔法も使えないのに『魔法使い』なんて嘘をついてもばれるってことか。

 

「ここまでで何かご質問はありますか?」

 

「問題ない」

「大丈夫、だと思うわ」

 

 俺たちは書類に必要事項を記入していく。受付嬢は書面を手に取り、記入漏れがないか小声で読み上げていく。

 

「レイン様。苗字はなし。出身地はガイアス王国ミトラ村、職業は『拳闘士』。はい、かしこまりました」

 

 職業(ジョブ)は『拳闘士』を選んだ。拳や蹴りなど己自身の肉体を用いて戦う職業だ。

 聖剣がなくなって以降、武器なんて全然使ってないからな。

 

 それと、名前は『レイン』って偽名を使うことにする。アレインって名前は勇者として広まってるからな、余計なトラブルは少しでも避けたい。

 

「シンデリカ様。出身は大森林のエルレイン? 種族はエルフ? 職業は魔法使い…」

 

 シンデリカをまじまじと見る。

 思いっきり嘘だと思っている顔だった。

 

「これ本当ですか?」

「本当よ!」

 

 言いながらシンデリカは自分の尖った耳を見せる。

 

 ……そういえば、シンデリカがエルフだって誰にもばれてないよな。そもそも隠してもいないが。

 

 確かに考えてみれば、誰もエルフを見たことがない。エルフは何千年もの間、外界との接点を断って大森林にひきこもっていたからだ。

 

 だから、書物や伝承でエルフの何となくの見た目は知っている人は多いが、いざ目の前に本物がいても、それが伝説のエルフだなんて思いもつかないし、理性がそれを否定するのだろう。

 

 実際、この受付嬢もシンデリカが自分がエルフだって主張しても信じようとはせず、耳が尖った何らかの獣人なのだと思っている。

 

 結局シンデリカの言葉は信じて貰えず、

 

「……冒険者ギルドはあゆる身分・種族を受け入れます。もうエルフということでいいです…」

 

 そんな受付嬢の辟易した言葉で締めくくられた。全然信じていないが、面倒くさいからそれでいいや、といった感じだった。

 

 可哀そうに…。

 俺は涙目のシンデリカの肩をぽんぽんと叩く。

 

「続きまして冒険者ランクについて説明させていただきます。冒険者ランクはEからSまでございます。まずは全員Eランクから始まることになますが、今から行う職業の技能試験の際に推薦を受ければ飛び級でDランクかCランクから始めることができます」

 

 なるほどな。

 そういえば元勇者パーティーのマリアンヌはAランクの冒険者とか言ってたっけ。

 

 受付嬢に案内され俺たちは別室の試験場に移動する。試験場は砂地の屋外だった。

 

 冒険者の修練上としても解放されているのだろう、トレーニングをする者たちが何人かいた。冒険者たちは俺たちの姿を確認すると、お手並み拝見、とでもいうようにトレーニングをやめ、試験を眺める。

 

 ―――試験は人型を模した人形を何らかの手段で破壊しろ、というものだった。

 

「ファイアアロー!」

 まずはシンデリカが魔法で人形を黒焦げにする。

 

 試験官と周囲の冒険者がどよめいた。

 

「あいつ詠唱してなくないか?」

 

 ……そういうえばあいつ詠唱してなくないか? 本当に今更だが。

 

 まあ、エルフだしな。そう納得する。

 

 次は俺の番だ。俺は『拳闘士』らしく無数のパンチを叩き込み、人形をチリにする。

 

「人形ってチリになるっけ?」

 

 試験の結果は―――。

 

「お、おめでとうございます。お二人ともCランクからのスタートです。当ギルド始まって以来の快挙ですよ、これは」

 

 2人とも飛び級での合格だ。受付嬢も興奮した様子である。

 

「だってよ、アレイン! やったわね! わーい!」

「わーーーい」

 

 シンデリカとハイタッチ。

 こうして俺たちはCランク冒険者となった。

 

 ロビーに戻った俺たちに、冒険者証が手渡される。薄い金属の小さな板で、名前や職業、冒険者ランクなどの簡単な情報が刻まれていた。

 

 それを懐にしまいながら、俺は受付嬢に尋ねる。

 

「ところで、国喰いのエルガがロンドの近くに出没したと聞いたが…」

 

 彼女は、ごくりと唾を飲み込みながら答えた。

 

「ええ。本当です。現在Aランククエストとして冒険者を募集しています」

 

「俺もエルガ討伐の部隊に加わることは可能だろうか?」

 

「か、構いませんが、命の保証はありませんよ」

 

「面白いジョークだ。誰に言っている」

 

 ……俺は最強だぞ?

 

 

 

 俺たちはロンドの西門に来ていた。

 

 国喰いエルガを討伐せんとする冒険者たちが俺たちの他にも集っていた。俺たちを入れて10人ちょっとってところか。町の規模的に、ロンドにいる冒険者の総数は数十名くらいだろうから、これでもかなり集まったほうじゃないか。

 

 なにせ相手はAランクの魔物だ。

 腕にかなり自信がなければ戦うなんて思わないだろう。

 

 そんな歴戦の冒険者の中に―――

 

 

「おのれ、数多の民の命を奪いし国喰らいのエルガめ! ついに姿を現したか! か弱き民草には指一本も触れさせん! このフェリアが制敗してくれる!」

 

「エルガには多分指ないけどね、スライムだから。……はあ、Aランクの魔物の討伐だなんて、本当に面倒だわ」

 

 

 見知った声と姿があった。

 

「ああ! ああ! 勇者様! どうかお気をつけて! クレアは勇者様の無事を心から祈っております…!」

「うん、がんばるよクレア…!!」

 

 

 

 

 

 まじか。

 

 

 

 

 ……まじか。

 

 

 

 




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