そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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16:冒険者レインと勇者ジーク

 エルガ討伐の冒険者たちに、なんと勇者パーティーが混じっていやがった。

 

 俺は周りを見渡す。

 丁度地面に俺の頭のくらいのサイズのズタ袋が落ちていた。俺はそれを手に取り、指で2つ穴を開けた。

 

 急いでそれを被る。

 

 ―――とりあえずこれで大丈夫だ。

 

 

「ど、どうしたのアレイン! 突然ずた袋なんて被って!?」

「あいつら勇者パーティーだ。俺がアレインってばれるといろいろ面倒なんだよ!」

「ああ、彼らがそうなのね…!」

 

 シンデリカは納得すると、同時に目つきが鋭くなる。俺が追放されたことを聞いたからか、今の勇者パーティーには良い印象を持っていないようだ。

 

「シンデリカ。必要ないトラブルは起こすなよ。スマイル(笑顔)だ」

「わ、わかった。スマーイルッ!!」

「スマーイルって言いながら睨みつけてどうするんだ」

 

 笑えよ、シンデリカ。

 

「わ、わかったわ……。スマーイル…」

 

 よし。

 スマーイル、スマーイル、とぶつぶつ呟くエルフを伴って俺は、冒険者の一団に合流する。

 

 ジーク少年が俺を見て、ビクッ!としながらも頭をさげた。

 

 そりゃズタ袋をかぶった奴が近づいたら驚くだろうな……。

 それでも挨拶ができるなんて彼はいい子だ。

 

「よ、よろしくおねがいします」

「ああ、よろしく(裏声)」

 

 すぐ近くにマリアンヌとクレアがいたので声色を変えて俺は答える。

 

 マリアンヌは俺を訝し気な目で見てきたし、流石のクレアも口を半開きにして『なんだこいつ』みたいな目をしていた。

 

 やがて。

 頭をモヒカンに刈り上げた強面の冒険者が俺たちの中央に立つ。

 

「よお、俺はマルドン! 冒険者ランクはA。気軽にマルさんって呼んでくれ! よろしくなっ! このクエストを取り仕切ることになってる!」

 

 外見に似合わない快活な笑顔と声だった。

 

「へへ、俺は嬉しいぜ! この命知らずどもがって、うわッ!? なんだお前ッ――!?」

 

 ただ、マルドン改めマルさんもジーク同様に俺を見て、ビクッ!となっていた。

 

「失礼、昔魔物の吐いた酸に顔をやられてな。衆目に前に晒すのは勇気がいる…」

 

「そ、そうか。大変だったな。そんな事情なら仕方ない。俺の昔の仲間にも、魔物に鼻を抉られてずっと鉄のヘルメットをかぶってたやつがいたよ……」

 

 マルさんは俺の嘘に心から同情しているようだ。

 

「ずた袋じゃなくてもうちょいマシなものをかぶったほうがいいんじゃないか」

 

 ――ーもっともな意見だった。

 

「これが気に入っているんだ」

「そ、そうか。ま、個人の趣味は自由だよな……」

 

 とりあえずマルさんは納得してくれたようだ。

 気を取り直して彼は俺たち全員を眺め、にっこりと笑う。

 

「えー。こほん。それにしても、素敵な命知らずどもが今日は集まってくれた! 知っての通り、今回のクエストの標的は国喰らいのエルガ、王国の騎士団も歯が立たず何年も手をこまねいている化けモンだ!」

 

「違う! 見つけられなかっただけだ! 騎士団は負けていない! 訂正しろ!」

「めんどくさいから黙ってて」

「むう…」

 

 聖騎士のフェリアが反論するが、マリアヌに頭を叩かれて沈黙した。

 

「エルガは小麦を好き勝手に喰いながらゆっくりとロンドに近づいてきてやがる。領主さまは国に救援を要請したが、騎士団が来るのは何日も後だろうよ。数日ありゃ、小麦畑の半分と何十人もの兵士がエルガの胃袋に収まっちまう。スライムに胃袋があれば、だが」

 

 この数年、エルガによって幾つもの村々とそこに住む人々が消えていった。このままではロンドも同じ運命をたどる。

 

「はっきり言う。相手はAランクの魔物だ。『百つ目のヴィナル』、『雷鳴のラオ二クス』、『醜悪なるオード』と同じ正真正銘の化け物さ。戦えば命の保証はない。だから、命が惜しい奴は今去ってくれてもかまわない。それを笑った奴には俺が地面と熱烈なキッスをさせてやる」

 

 勿論、誰もその場を動かない。

 だが、ジークが唾をごくりと飲み込むのが俺には見えた。

 

 ちなみに、今マルさんが名前を挙げた3つの魔物は長年ガイアス大国周辺を荒らしまわっていたAランクの魔物たちだ。エルガ以外はもう皆俺が殺したが。

 

「誰もいなくならねえか。最高だぜ、お前ら! じゃあ、皆でエルガを討伐して英雄になろうや!」

 

 マルさんが声を張り上げる。

 

「ああ、それと国からの騎士団の救援は遅れているといったが、代わりに特別ゲストが来てくださった! 聖剣に選ばれし2代目勇者のジーク様だ!」

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 いきなり注目を浴びてジークは面食らったようだが、マルドンと周囲の熱気に押されたかのか、

「がんばろう!」と腕を振り上げた。「勇者!勇者!」とコールがなる。

 

 盛り上がってきたな。

 

「勇者! 勇者! 勇者!」

 

 共に声を出して一体感を出すのは大切だ。

 特に、今回のような強敵に挑む前には。

 

 

 

 

 

「 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 」

 

 

 

 

 

 ……とはいえ、少し長いな。

 

 

 

 

 

 

 

「勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者! 勇者!」

 

 

 

 

 

 

 

 もう……出発しようぜ。

 

 

 

 

 勇者コールに盛り上がる冒険者の一団から、聖女クレアはそっと一人抜け出す。

 

「それではクレア様こちらへ……」

「はい。かしこまりました」

 

 傍らには金髪の若い女性がいた。聖教会の司教で、名はロッテリアと言う。

 

 今回、クレアはエルガ討伐には参加しない。王都にて、どうしても外せない用事があるのだ。

 それはパーティーの他のメンバーも了承していた。

 

(どうかジーク様。ご無理をなさらないで…)

 

 聖女の胸にあるのは、ただ真なる勇者の身を案ずる心だけだ。

 南門に停めてあった聖教会が用意した馬車に二人は乗り込んだ。

 

 その馬車をひくのは馬ではない。似ているが、その体は処女雪のように汚れを知らぬ純白で、その額からは一本の角が伸びていた。

 

「王都には明日の夕方ごろには着くかと…」

「流石ですね、ユニコーンの馬車は」

「女性しか使えませんけどね」

 

 ユニコーンは魔物である。しかし、数少ない人間が飼いならすことのできる魔物であった。

 

「大司教様はお怒りでしたか? ロッテリア」

「私からは何とも…。ただ、大司教様は新たな勇者様にも是非拝謁したいと仰っていましたが…」

「構いません。何度も言うが、勇者様は民と町を守るためにお忙しい」

「しっ、しかし…」

「貴方は民を見捨てよ、と申すのですか? それが聖教の教えだと?」

「かしこまりました…」

 

 聖女クレアは王都の大聖堂に座す聖教会のトップ、大司教に呼び出されていた。グランドタートルを討伐し、ロンドに戻った彼女らをロッテリアが待ち構えていたのだ。

 

 要件はただ一つ……アレインに代わって聖剣に選ばれら真の勇者ことジークについてだ。

 

 クレアはとある町の教会の孤児院で暮らすジークを見付け、勇者に見出した。一目見た瞬間に分かった、彼こそが聖剣に選ばれた真の勇者であり、己の英雄なのだと。

 

 熱に浮かされるようにクレアはアレインを追い出し、ジークをパーティーに加入させた。聖剣に選ばれているのは本当だから、マリアンヌやフェリアも表立って批判は口にしない。

 

 しかし、クレアはそれらの一連の出来事を聖教会には事前に告げずに行っていた。

 

 クレアが事の顛末を聖教会伝えたのは、アレインが魔族に殺されジークが勇者として立ったという噂を市政に意図的に蔓延させた後である。アレインを追放して数日後のことであった。

 

 故に聖教会の大司教は『これは一体どいうことなのか』と、クレアに説明と釈明を求めているのだ。

 

 ―――大聖堂に勇者と共に来い、と言われているがクレアはその言葉を無視した。

 

 あの魔境に住まう女狐に愛しいジークを出来るだけ会わせたくはない。それがクレアの思いだった。

 

「知りませんよ、大司教に何を言われても」

「分かっています、ロッテリア」

 

 クレアはつまらなそうに窓の外の景色を眺める。ユニコーンは蹄を鳴らした。

 

「やることはやりますよ…」

 

 ―――魔物は殺す。魔族は殲滅する。

 

 聖女としてそこだけはぶれない。

 

 

 聖女クレアの中には激情が渦巻いている。使命感と呼べば聞こえはいいが、それは渇きにも似た感覚だった。

 

(この熱は、私の思いか。それとも誰か別の方の思いか)

 

 女神は問いに答えない。

 

 

 

 俺たちは幾つかの馬車に分かれて乗り込み、エルガの居場所に向けて出発する。奇しくも俺たちの馬車には、俺、シンデリカ、マリアンヌ、フェリアが同乗していた。

 

 ……どんな奇跡だよ。

 

 

 まあ、いいや。

 俺は横に座るジークに声をかける。

 

「やあ。改めまして、俺はレイン」

「ど、どうも…」  

 

「ジークくんだっけ」

「はい」

 

「年齢は?」

「十四です」

 

「ふーん、彼女とかいるの?」

「いえ、いませんが」

 

「へえ、いたことは?」

「な、ないですけど…」

 

「へえ。14かぁ。若いねぇ。そっかあ、これからだねぇ」

「はあ」

 

「ちょっと握手しようか」

「え、ええっ!? はい……」

 

 ジークはまたビクッ!となる。どうやら俺が被っているずた袋にまだまだ慣れていないようだ。彼は恐る恐る右手を差し出した。

 

 俺は彼の手を握りしめる。その感触を確かめるように、すりすりと、ねっとりと。

 

「ふうん。やわかい手だねえ。すべすべだ……」

「は、はあ…」

 

 そこで突然マリアンヌが叫び出した。狭い車内で大声を出すなよ。

 

「そこの変態ずた袋! うちのパーティーのメンバーに変なちょっかいかけないでくれる!?」

 

 心外な。

 

「違うよ。俺は純粋な気持ちで握手をしたかっただけだよ」

「絶対嘘よ!」

 

 俺は名残惜しくも握手を解き、肩を竦める。

 

「力を測りたかったのさ。……握力、皮膚の硬さ、腕から伝わる体幹、握手一つでもわかることはある。もちろん握手だけで力量のすべてがわかるわけではないが」

 

「ほ、本当?」

 

 マリアンヌは近接戦闘の専門家であるフェリアを見た。

 

「うむ。彼の言っていることは本当だ。一流の戦士ならば手を触ったり、立ち姿を見るだけである程度相手の力量を図ることができる」

 

 その言葉で魔法使いは納得したようだ。

 

「それで、うちの勇者様はアンタのお眼鏡に叶ったのかしら?」

「秘密だ」

 

 俺ははぐらすように笑った。

 ……ずた袋のせいで見えないな、俺の表情。

 

 というか。

 

「シンデリカ? 大丈夫か?」

「うん、大丈夫よ、アレ、レイン」

 

 さっきからやたら無口だ。珍しい。

 

「ただ嫌な魔力が近づいてるなって。都を襲った魔族ともまた違う。どろどろしてて、ぴりぴりした魔力」

 

 エルフは魔力に敏感だそうだから。エルガのそれを感じ取っているのだろう。

 そういうシンデリカの顔は少し青い。

 そんなシンデリカにマリアンヌが声をかける。

 

「アンタ、もしかしてエルフ?」

「え、ええ。その通りよ」

「なるほど。その容姿、たしかにエルフね。伝承に違わぬ美しさだわ」

 

 おお。

 よかったなシンデリカ、エルフって信じて貰えたぞ! 

 マリアンヌは魔法学院出身のインテリだけあって、常識に囚われず、己の見たままを信じるようだ。

 

 しかし、マリアンヌは挑発するように笑う。

 

「エルフって全員が魔法の達人って伝わってるけど本当かしら? 個人的はそこは伝承には誇張して書かれてると思ってるんだけど」

 

 …そうか。

 マリアンヌは魔法のことに関しては、高いプライドを持っているからな。

 

 魔法使いの軽口にシンデリカは目をパチパチとさせて…。

 

「ふふ、いいわよ。みせてあげるわ。誇り高きエルフに伝わる尊き魔法を…!」

 

 調子、戻ってきたな。よかった。

 

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