そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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19:あなたの横顔

「し、失礼……」

 思わずアップルパイを吹いてしまった。

 

「聞き間違えかな? もう一度聞いても良いかな、お嬢さん。ふふ…」

 動揺で変なキャラになっている気がする。願望を籠めて俺は問いかける。

 

「いや。だからアンタ、アレインでしょ?」

 やはり聞き間違いではなかったか。

 

 ……何故だ? 何故バレた? 

 顔はずた袋で分からないはずだ。戦闘スタイルは大きく変えてある。

 

 まさか―――声か!

「ち、ちがうよ(裏声)」

 

 どうだっ! 誤魔化せるか!?

 

「………」

 マリアンヌは無言で俺を見ている。

 

 無理か…!? どっちだ、これは――。

 

 心臓の音がどくん、どくんと聞こえる。

 グレオン、クルーテル、エルガ、ここ最近色んな奴と戦ってきたが、今が一番緊張している。

 

「…………」

「…………」

 無言で俺たちは見つ合う。

 

 永遠にも感じられる、数秒の沈黙の後……。

 マリアンヌはやっと唇を開いた。

 

「ま、そんなわけないか」

 

 ……え。

 

「あの仏頂面で人生何も楽しくありません、俺の目的は魔族を殺すことだけです、って顔をしてるつまらない男がそんな愉快な覆面を被る訳ないしね。アイツは……剣が人の形を為したような男だったから」

 

 お、おお…!

 

「まあ、アップルパイが好物な所は似てるけど。あとアレイン……私も元仲間ね、アイツもアンタと同じようにとてもつもなく強かった。だけど、戦い方は全然違うし、流石にアンタほどじゃなかったわ」

 

 お、おお……!!

 

「き、気にするな勘違いは誰にでもある」

 

 勇者時代は剣しか使わなかったし、暴れる聖剣を無理やり力で言うことを聞かせていた。多分、不格好な剣技だっただろう。また、魔族と聖剣の両方と同時に戦ってるみたいなものだったから、いくら俺とはいえ今ほどの力は出せなかった。

 

 マリアンヌはくすりと笑い、

 

「世界はやっぱり広いわね。貴方みたいな強い人が在野にいるなんて。また貴方と肩を並べる日が来ることを楽しみにしてるわ。―――ずた袋のレインさん」

「ああ」

 

 そう言ってマリアンヌは廊下の奥に消えていった。そこにあるのはトイレだ。我慢させてしまったかな。

 

 ―――勇者時代はマリアンヌとは事務的な会話しかしてこなかった。俺はそれで良いと思っていたし向こうだってそうだろう。

 ただあいつ、あんな風に笑うんだな。

 今更ながら、もう少し色々な会話をすれば良かったと少しだけ後悔する。

 

 

 

 というか。

 どうでもいいが、俺の冒険者としての二つ名は『ずた袋のレイン』で決まりなのだろうか。

 

 ……本当に、どうでもいいが。

 

 

 俺は宴会場に戻ってシンデリカを探す。マリアンヌの言葉が気になったからだ。しかし、彼女の姿は見えない。

 

 外に出る。

 シンデリカは玄関を出たところにいた。

 

「ここにいたのか」

「アレイン」

 

 彼女は俺の存在に気付くと、顔のを俺の方に傾ける。

 

「少し風に当たりたくて。酔ったのかしら」

「ああ、お前は酔っている。だから水をお飲みシンデリカさんや」

「おお、すまないねえアレインさん」

 

 厨房から貰ってきた水を彼女に渡す。

「身体、大丈夫か? あのポーション、飲みすぎるとは身体に悪いって聞いたぞ?」

「ああ。それなら大丈夫。それ人族にとってでしょ? エルフなら2、3本飲んでも平気よ。流石にそれ以上飲むとまずいけど……」

 

 そう言うシンデリカは嘘を言っているようには見えない。酔っているようには見えるが。

 

「そうか。なら良かった」

 

 彼女は、似合わない小さな笑みを浮かべ、

「……本当にごめんなさいね」とこぼした。

 

 酔ったら気弱になるタイプかこいつ。

 これからはあんまり飲ませないようにしようと、俺はひそかに決める。

 

「まだその話続けるのか? どれに対して謝ってる? その水のこと?」

「違う。庇ってもらった。貴方ケガしたわ」

「ああ…。ほら全然平気だ。もう赤みも引いた。治癒魔法も必要なかったろう? 」

 

 俺はシャツを捲って腕を見せる。傷1つない綺麗な腕だ。

 

「私、全然役に立ってないわね。貴方に恩を返したかったのに」

 

 彼女はそう呟き、外に景色を向けた。小麦畑に街灯なんてある訳ないから、一寸先くらいまでしか見えない。ほろがるのは闇だけだ。見ていて楽しいものなんて何もないだろうに。

 

 無一文字に結ばれたその唇、その横顔を見て俺は何か言わねば、と思った。

 

「そんなこと、ない」

 

 シンデリカは横顔のまま、瞳だけ動かして俺を見つめる。

「………」

 

 彼女は無言だ。

 

「―――シンデリカ、俺はさ。一か月くらい風呂に入らなくても平気な人間なんだ」

「ごめん、何のカミングアウト?」

 

「真面目な話だ」

「ここからどう真面目な話に繋がるの?」

 

「真面目な話なんです……」

「分かりました、聞きます」

 

「―――シンデリカ、俺はさ。一か月くらい風呂に入らなくても平気な人間なんだ」

 

 そのまま、言葉を続ける。

 

「飯も1週間くらい食べなくても平気だし、寝るところとは別にベッドじゃなくてもいい。砂の上でも海の中でも俺は寝れる。何なら一月くらいは寝なくてもいいと思う」

 

「突っ込みたいけど、真面目な話って貴方が言ったから我慢する…!」

 

「不味い飯よりはうまい飯の方が食べたいが、どっちの飯も腹に入れば一緒だ。アップルパイは好きだが、一生食べれないなら食べれないで問題ない。……多分、俺は色々欠けてる人間なんだと思う。拘りとか、何がしたいとか、好きとか嫌いとかが、怖いとかが、他の人間より少し薄い。というか、最終的に、どうでもいいかな、って思ってしまう」

 

 別に感情が無いわけじゃない。

 さっきのマリアンヌとの会話だって多少焦った。魔族と戦った程度には。

 

 ―――逆に言えば、俺は魔族と戦ってもその程度しか緊張しない。

 

「ステラを殺した魔族だって、当然憎いは憎い。だけど、その怒りの感情も同じように大切な人を殺された立場の奴らと比べると何処か薄っぺらいと思ってしまう」

 

 勇者時代、俺の隣や後ろには復讐に燃える兵士たちが沢山いたが、そいつらほどの『熱』を俺は持てない。ステラとの約束を理由にしないと戦えない。

 

 ―――俺は誰よりも強いから。

 たった一人で完成してるから、他の誰も何も必要ない。

 

 あの国喰いのエルガと似ている。あいつは大きくて、何でも喰えて、強いから、複雑な考えを必要としなかった。食欲っていう単純な思考だけで動いていた。スライムって種族は理由にならない。魔力が高まればどんな生物も、それなりには知能は上がっていくものだ。俺は食欲も薄い。

 

 大体のことがどうでもいい。俺のことを殺そうとした聖女クレアに対しても、ビンタするくらいには怒っているが、まあその程度だ。

 

 だけど、

 

「お前と旅をしたのはたった10日と少しだけど、俺はそれまでの俺に比べてかなり色々考えてると思う。お前と一緒じゃなかったら、チキンソテーを食べようなんて思わなかったし、ロンドを散歩しようとはならなかった。宿代も飯代も必要ないから冒険者にもならなかった。お前と一緒だと俺は色々やろうと思える。…お前と一緒だと、俺は楽しい」

 

 だから、お前がそう思わなくても。

 

「……俺はお前が必要だ」

 

「…アレインはわたしが必要?」

 あれ、俺今そういったけどな。まあ、いいや。俺は難聴系エルフになったシンデリカにもう一度言う。

 

「ああ。俺はお前が必要だ」

 

 そんな俺の言葉を聞いて。

「……そっか。ふふ。そっか」

 

 シンデリカは、小さく、笑った。いつもの彼女も太陽なような快活な笑みとは違う、月のような笑みだった。

 

「そっか」

 呟き、彼女は再び外を見た。

 そこには何も見えないだろうに、ずっと外を見てた。ほんの少し、唇は弧を描きながら。

 

 俺は無言でその横顔を見つめる。

 

 月明りの仄かな明かりでも輝く、背まで伸びた金の髪。長い睫毛に縁どられた宝石の様な碧眼。染み一つない白い肌。

 

 彼女のことを綺麗だな、と思った。その綺麗だな、という感情は他の奴に比べると薄っぺらいそれかもしれないけど、確かにそう思えたのだ。

 

 ◆

 

「そろそろ戻ろっか」

「ああ…」

 

 流石に宴会場にいる他の奴らが心配するだろう。俺たちは共に中に戻ろうとするが――――。

 

 その時、小麦畑で何かが蠢いた。がさがさと、小麦をかけ分けて何かがこちらへ歩いてくる。獣ではないと俺は確信する。そいつの足音は余りにも大きかったし、何より金属の擦れる音が微かに聞こえた。

 

「なんだ?」

「この魔力!?」

 

 シンデリカの顔に緊張が奔る。俺は彼女に続いて、理解する。

 

「―――魔族っ。この気配、軍団長クラスだな…!」

 

 一寸先の闇の中から、夜から這い出るように魔族が表れてきやがった。

 

 そいつの風貌はまるで騎士の様だった。

 

 全身を真っ黒な甲冑で覆っている。顔にもフルフェイスの兜を被っており、その顔と表情をうかがい知ることはできない。額には魔族の証である角が3本兜を突き抜けて生えていた。手には大鎌が握られている。

 

「……我が名は黒騎士。『虚無』を司るキーラ」

 

 低い声で魔族はそう名乗る。

 俺は咄嗟に、今日の昼間にロンドの『クワガタ亭』で店主と交わした会話を思い出す。

 

『そういえば、ここら辺に魔族は出るか』

『ああ…黒騎士って呼ばれてる魔族だな。月に一回くらいの頻度でロンドの近くを通る商人や冒険者を襲ってるそうだ。詳しいことは私も知らんがね』

 

 こいつがロンドの周辺に出没するっていう魔族、黒騎士か…! 

 

 俺は思わず笑った。こいつは運がいい。

 ロンドを脅かす人間の敵を、一日に2匹も殺すことができる。

 

 黒騎士はその手に抱えた大鎌を振り上げて、さながら死神のごとく言う。

 

「人間よ。その儚き命、刈り取り、我が糧とさせてもらう!」

「言ってろ!」

 

 俺は間髪入れず黒騎士の腹に拳を叩き込む。

 黒騎士は小麦畑をなぎ倒しながら、勢いよく地面に倒れこむ。漆黒の甲冑が砕け、あたりに散らばった。

 

 血飛沫は、出なかった。

 血肉の代わりに、黒い靄を黒騎士はまき散らす。

 

「ぐ、ふっ!? やりおる……」

 

 そう言い残し、黒騎士の身体は夜の闇に溶けて、消えていった。

 

 

 

 

 

「………え、終わり?」

 

 シンデリカが口を丸くして言う。

 

「あっけないな。やけに手ごたえがなかったが‥‥」

 

 俺は黒騎士が倒れた地面を見る。

 

「見ろシンデリカ、やっぱり死体がない」

 

 血も飛び散っていないし、さっきまで地面に落ちていた筈の砕けた甲冑の破片消えていた。奴は突然現れ、まるで幽鬼のように跡形もなく消え去っていった。

 

 不気味、だな。

 俺は奴を本当に殺せたのか?

 

「ほんとだ? っと…」

 

 シンデリカも黒騎士の死体が無いか確認するが、足をもつれ倒れそうになる。俺は咄嗟に彼女の肩を支えた。

「気をつけろ。まだ酔ってんだから」

「ごめんね」

 

 その時、玄関の扉が勢いよく開けられる。外に出てきたのは、マルさんだった。

 

「おい、大丈夫か。何か物音がしたが―――」

 マルさんはそこまで言って、言葉を区切った。彼の目に入ったのはシンデリカの肩をつかむ俺だ。

 

「ああ、すまん。邪魔したな……」

 俺たちを気まずそうに見る。

 

 マルさん、多分お前は勘違いをしている。

 

「いや、邪魔してない。今魔族が出たんだ」

 

 マルさんは俺のそんな言葉に眉を顰めて言う。

「どこにだよ?」

「そこに……」

 

 俺は足元、黒騎士が倒れた場所を指さす。

 

「俺には見えねえ」

「俺にも見えない」

 

 奴の死体は消え去ったからな。

 

「そうか」

「そうだ」

 

 沈黙が流れた。マルさんは大きくため息を吐いて、言う。

 

「なあ、アレイン。人が愛し合うのは自由だ。誰が誰を愛そうが、何処で愛し合おうがな。だが、人の敷地内は良くないと思う。俺は良くないと思うぞ。法律じゃない。モラルの問題だ」

 

 マルさん、絶対に、お前は勘違いをしている。

 

 

 




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