そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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24:みんな頑張ってるよ

 冒険者たちは町中に突如として出現した黒騎士たちと戦っていた。

 しかし、相手は魔族。それも魔族の中でも上位の力を持つ、軍団長クラスだ。

 

 黒騎士たちは、どれほど本体の情念を引き継いでいるかで、個体ごとの力量にはバラつきがある。とはいえ、下位の黒騎士でも魔物で言えばCランク相当の強さはあり、一般的な冒険者や兵では個人では太刀打ちできない。

 

 事前に準備を行い集団で挑めばまた話も違ったのかもしれないが、突如の襲撃がそれを難しくしていた。

 

「うわあああ!?」

 

 新米の冒険者の一人に、黒騎士が迫る。

 彼は故郷を守るため魔族に立ち向かったが、当然の実力差の前に黒騎士に敗れた。

 

「私は黒騎士が一人『羨望』のセル! その上着、かっこいいな! お前を殺して、頂くとしよう!」

「まてい! ロンドの平和を乱す奴はこの俺が許さねぇ!」

 

 黒騎士の攻撃を、モヒカン頭の壮年の冒険者が剣で受け止める。

 

「アンタはマルさん!」

「おうよ、俺はマルさんだ! 俺が来たからには安心だ! ぺっ!!」

 

 そう彼は言いながら、口に咥えていた煙草を地面に吐き捨てた。

 

「アンタ……禁煙中だったはずじゃ!? 実家に帰ってきた娘さんが煙草嫌いだからって…!!」

「娘には黙っといてくれ。マジでな!! 殺される!! あと、ついでに床に吐き捨てた煙草を拾ってゴミ箱に捨ててくれると助かる! 昨今は路上での煙草のポイ捨てにマジで厳しいからな!」

 

 傷を庇いながら地面の煙草を拾い、ごみ箱に捨てに行った新米冒険者をマルトンは見送り、

「全く。エルガの野郎をぶっ倒したってのに、どうなってんだよ! ちくしょう!」

 

 ぼやきながら黒騎士の力をうまくかわし、距離をとる。魔族といつまでも

力比べに興じる愚は犯さない。

 

「おーい、新米冒険者諸君は無理して前に出ようとすんな! こいつは魔族だ! 自分の命を守ることを優先しろ!」

 

 後ろから彼を負ってきた仲間たちと共に、マルトンは黒騎士に立ち向かっていく。

 

 

 

 

 ロンドの片隅で少女が黒騎士の一人に襲われていた。

 

「きゃあああああっ!?」

 

 それを大盾で受け止めるのは―――。

 

「はあ!!」

「ありがとうございます…!」

「気にするな。民の盾となるのは騎士の使命にして誉れ! 聖騎士フェリア、いざ参らん!」

 

 金髪のポニーテールをはためかせ、フェリアは大盾と剣を構えた。

 黒騎士の得物であるククリ刀とフェリアの長剣が何度の火花を散らす。

 

「ほう! 先ほどお前と似た魔族と戦ったが、中々お前は歯ごたえがある!」

 

 既にファリアは一体の黒騎士を倒していた。

 

「人間風情が小癪なことを言う! わが名は黒騎士が一人、『狡猾』なるコバード! 『絶望』『愉悦』に並ぶ黒騎士筆頭が一人よ! だが私は『絶望』と違って臆病風に吹かされはしないし、『愉悦』と違って、遊びに興じもしない!」

 

「だが、その名の通り『狡猾』でいやらしい剣だな!」

「うるさい! だれがいやらしいだ! 女子がそのようなことを言うな! 卑猥だぞ!」

 

 フェアリアは『狡猾』なるコバードの、蛇のように縦横無尽にうねる剣技を盾でさばきながら、内心冷や汗を垂らす。

 

(こいつ! 強い!)

 

 狡猾の名の通り、こちらの隙を的確に突こうとする剣だ。

 

 負けはしない、が。

 勝つには一手足りない。或いは、多少の無理をする必要がある。

 

 頭の片隅に浮かぶのは民の無事、そして仲間たちの安否だ。

 

(ジーク! お前は今どうしている? 無事なのか!)

 

 

 同じころ、マリアンヌは魔法で黒騎士を攻撃していた。傍にはロンドの兵たちがいる。

 

「闇焦がす業火よ。降りそそげ。万象を滅せよ。ファイア・レイン!!」

 

「ぐああああああっ!?」」

「ぎゃああああああ!?」

 

 黒騎士の1体が瞬く間に炭となる。

 もう一体は強めの黒騎士だったのか、炎を食らいながらも、魔法の効果範囲から逃れた。

 

 それを見ながら、マリアンヌは周囲に指示を飛ばす。近くには逃げ遅れた一般人が数人いた。

 

「一般人は下がってなさい! 兵の指示に従って避難を! 治癒魔法が使えるか、医療の心得があるヤツは冒険者ギルドか救護院に行って! そこにケガ人が集まってる!」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

「礼を言ってる暇があった走る!!」

 

 鎖鎌を回す黒騎士に対して、マリアンヌは杖を構える。

 

「一応これでも栄えある勇者パーティーの一員だしね」

「俺たちが時間を稼ぎます! 魔法の準備を!」

 

 ロンドの兵たちが前衛となって黒騎士を抑え込む間に、マリアンヌは魔力を集中させる。

 

 戦いながらも、マリアンヌの頭の中に焦燥が沸いていく。

 

(こいつらは町中に突然現れた。兵や冒険者たちも大慌てで、討伐と避難の誘導をしてるけど後手もいい所よ。こうして間にも他の場所では、黒騎士とかいう連中が暴れまわってケガ人が増えている!)

 

 何か、状況を変える一手が欲しい。

 

 

 

 一組の親子がロンドの薄暗い路地を歩いていた。

 

「はあ、はあ。お母さん、頑張って! もう少しで冒険者ギルドだよ! そこまでいけば、治癒魔法を使える人がきっといるから! 大丈夫だから!」

 

 ぽたぽたと、母親の身体から血が流れ続ける。

 やがて母親の身体から力が抜け、路地に倒れこんだ。真っ赤な血が石畳を濡らしていった。

 

「うう……」

「お母さん! お母さん、しっかりして!!!」

 

 子どもは母親の身体に縋りつく。

 

 しかし、そんな子供の呼びかけ空しく、母親の身体からも徐々に熱が奪われていき―――。

 

 

 

 ――――そこに1匹の蝶が舞い降りた。

 

「……蝶々?」 

 

 仄かに紫の光を放つ、不思議な蝶だった。

 それは母親の傷口の傍に舞い降りて、光の粒子となって傷口に染み込んでいく。

 

「あったかい光、これ……魔法? すごい! 傷が治ってく!」

 

 それはシンデリカの魔法、フェアリイ・バタフライ。

 

 治癒魔法を乗せた使い魔が、ロンドの町の方々に舞い降りていく。

 

 その夜。

 ロンドは紫の光に包まれた。

 

 それは少女の献身による、一夜の奇跡。

 

 

 

 町を照らす無数の蝶を見て、冒険者たちが言う。

 

「すげえ、町が蝶で一杯だ…!」

「綺麗……」

「き、傷が治ったぞ!!」

 

 マルトンは蝶の一匹を腕に止めながら、呟いた。

 

「……なんだ、この蝶? ……わっかんねえが、俺たちを助けてくれてるってことでいいんだよな!」

 

 どうやらこの蝶たちは人々の怪我を癒して回っているらしい。

 実際、マルトンの背後にいた重症の冒険者たちも今は、動かして他の場所に運べる程度には傷が治っている。

 

(新米共の傷も治った。ここが攻め時、か)

 

「お前らが下がってろ! 巻き込まれたくねぇだろ!」

 

 マルトンが叫ぶ。

 その手に携えた剣に暴風が集まっていく。

 

「Aランク冒険者『狂剣王マルトン』! その名の通り、狂い、暴れさせてもらうぜ!!!」

 

 

 

「青獅子騎士団奥義! 『獅子咆哮斬』!!」

 

 大楯によるかち上げからの、長剣による鋭い突きがコハードの心臓に叩き込まれた。

「ぐ、はっ!!?」

 

 『狡猾』なるコバードを撃破したフェリアは、民を守るため、次の敵を探して足を鳴らした。

「はぁ、はぁ…、次だ――ッ!!」

 

 しかし、その歩みはやや重い。

 コバードとの戦いで幾つかの傷を彼女は負っていた。血が地面に零れる。

 

 そんな彼女の肩に一匹の蝶が舞い降りて、傷を癒していく。

 

 

 

「……これ。アンタの仕業でしょ、エルフの魔法使い。この規模、とても個人が尋常な手段で使えるとは思えない。あのポーション、どれだけ飲んだの…」

 

 マリアンヌは町を満たす蝶を見て、呟いた。

 

「……また、借りができたわね、エルフ」

 

 勝気な笑みを浮かべて、業火を生み出していく。

 

「さあ、とっとと終わらせましょう!」

 

 

 

 それを『彼女』は見ていた。

 使い魔を通じて、その景色を眺めていた。

 

 

 怪我人がいれば傷を癒し、魔力が尽きた者がいれば、分け与えていく。

 

 兵も冒険者も一般人も、皆。

 皆、自分にできることをしていた。

 

 頑張っていた。

 

 その光景を見て、シンデリカは顔をほころばせた。

 

 鼻から血を垂らし、今にも気を失いそうになりながらも、笑ったのだ。

 

「大丈夫だよ、アレイン。みんな頑張ってるよ……」

 

 

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