そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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2章 たすけてなんて、言わない
27:湿地帯へ?


『ガイアス王国を北に進むとそこには広大な湿地帯が広がっている。 

 湿地帯とは海や河川、湖によって年中浅い水で覆われている土地のことだ。エルフには馴染みがないだろう。

 陽光を反射する美しい水面とそこに浮かぶ薄緑の草花。水辺に住む魚達を求めて舞い降りる鳥達は大森林とは全く違って生命の美しさを私たちに見せてくれる。

 この湿地帯の中心には王国最大の湖、リーリア湖(或いはリーリア海)があり、この尽きることのない水はそこからきているのだ。

 エドワード・ハンドー著 外界見聞録より』

 

「……とここには書いてあるわ」

 

 シンデリカは手に持った古ぼけた書物から顔を上げた。ロンドを出発して数日。俺たちは魔王がいると思われるレーシル王国を目指して旅をしていた。

 

「なるほど、ここが湿地帯?なのね?水浸しの土地でいろいろな野鳥が見れるらしいわ」

「あぁ、らしいな」

 

 シンデリカは周囲を見渡して言った。

「私には砂しか見えないわ」

 

「気が合うな。俺もだ」

 

 そこは砂漠だった。からからと乾いた不毛の大地が広がる。水なんてどこにも見当たらなかったし、生き物は影も形も見えない。

 

「いや、なんでよっ?」

「言っておくが、道を間違えたわけじゃないぞ。ここは間違いなく湿地帯だし、この先にあるのはリーリア湖だ。いや正確にはだった、だな」

 

 俺は命溢れる水の土地から不毛の砂漠と化した景色を見ながら憎々しげに吐き捨てた。

 

「これも魔族の仕業だ…! ここ一体の湿地帯は30年ほど前から干上がって砂漠になってしまったらしい」

「そうなのね…!おのれ、魔族!なんてことを」

「あぁ、きっと奴らに違いない!こんなロクでもないことを引き起こすのは魔族だ!大体魔族が悪いんだ!」

「魔族はこの地で何をやったの?アレイン!」

「知らん!」

「つまり証拠はないのね!」

 

 とはいえ魔族のせいで周囲の環境が激減したという土地は確かにある。このリーリア湖がそうかは分からんが。もしかしたら冤罪かもしれない。

 

 だが、別に冤罪だとしても、魔族相手なら全く心は傷まない。俺は悪いことはとりあえず魔族のせいにしていこうと思っている。

 

 俺たちはこの地を砂漠に変えた架空の魔族に対して暴行を加えていく。俺が架空の魔族にアッパーを加え、そこにシンデリカがドロップキックを加えたあたりで背後から声がかかった。

 

「もし旅のお方…?」

 

 砂漠の気候に合わせ、ターバンを巻いた老人だった。

「あぁ、どうした?」

 

「よかった。目の焦点はあってあるようですな。てっきり砂漠傘の胞子を吸い込んだのかと」

 

「砂漠傘?なんだそれは」

「砂漠に生えるキノコです。まぁ言ってしまえば麻薬の原料です。この砂漠に自生しとります」「そりゃ怖いな」

 

「えぇ、たまに村人が誤って食べたり吸い込んだりして大変なことになります。そもそもアレがなければリーリアの町がああなることは…いえ失敬」

 

 老人は一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに好好爺とした顔つきに戻って、

 

「わしはここの近くの村で村長をやっております。そろそろ日も傾き始める。夜の砂漠はひどく冷えます故、今からの移動はお勧めしません。良ければわしの村で一晩過ごされよ。ここは交易路からも逸れ、外の者が来るのも年に何回かしかない。旅の話などをしてくくれば、村人にとってこの上ない娯楽となります」

 

「そういうことなら、ありがたく世話になるよ。それでいいよなシンデリカ?」

 

「はぁはぁ…良いわよ」

 

 想像上の魔族退治を終わらせたシンデリカは肩で息をしながら答えた。

 

「ところであなた方は一体何をしてらしたのですか?」

「魔族退治。想像上の」

「はぁ…」

 

 こいつ何言ってんだ?という目で村長は俺たち2人を見てきたが、すぐに彼は気を取り直して、

「こほん。ではこちらです。村まで案内しましょう」

 

 村長の先導の元、俺たちは村まで歩いていく。足場は粒子の細かい砂地であり、気を抜くと足をとられ、こけてしまいそうだ。

 

「というか暑くない?私の気のせい?」

「いや、暑いと思う。気が合うな」

「いえーい」

「いえーい」

 

 疲れ気味のシンデリカとハイタッチする。

 

 頭上にはぎらぎら輝く太陽。眼科にはそれを反射する白亜の砂。湿度は低く、空気はカラカラに乾いている。俺は頬に垂れた汗を拭おうとするが、汗は数秒の間に蒸発していた。

 

 やばいな砂漠。割と舐めてたかもしれない。

「シンデリカ、水はしっかり飲んどけよ」

「うん…」

「悪い、俺の準備不足だ。しっかり砂漠用の衣服を揃えるべきだった。買った地図ではここら辺はまだ湿地帯になってたんだ。だけどあれ、かなり古い地図だったんだろうな」

 

 俺たちの装備はロンドに到着した時とほとんど変わっていない。

 

「ううん、気にしないで」

 彼女ははにかんだ。苦労をかけます、シンデリカさん。

「見えてきました、わしらの村です」

 

 白とも茶の中間色の砂漠地帯の中に、濃い緑色の地域があった。木々がまだらに生え、レンガ造りの家が立ち並ぶ。村の真ん中には池があった。奥には農地なのか、背は低い気が密集している箇所があった。

 

「綺麗ね」

 村に到着し、周りの景色を楽しむ余裕が出てきたのだろう。背後を振り返り、ポツリとシンデリカが呟いた。

 

「そうだな」

 俺も同意した。気が合うな。

 

 命が見えない白亜の不毛の大地は、地平線まで広がっている。人工物は一切見えない。こんなスケールのデカすぎる景色を見てると、自然への畏敬の念などが、柄にもなく湧いてくる。

 

 ガイアス王国北部、リーリア湿地改めリーリア砂漠にて俺たちの旅は第二部を迎えることになる。

 

 

 

 

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