そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~ 作:ナカザキ
村に着いた俺たちは村人たちのもてなしを受けた。
村の広場に人々は集まり、そこで料理と酒が振舞われる。
何か外の話を、と請われたので、俺はステラとの別れた後、2年ほど各地を放浪というか遭難した際のエピソードを披露する。
「―――そんなこんなで1か月飲まず食わずで荒野をさ迷うことになって、流石の俺もその場に腰掛け、昼寝をしたわけだ。そこに城くらいの大きさの魔物がやってきて、俺をそのまま飲み込んだ。亀の魔物だ。胃袋を突き破って外に出ても良かったんだが、魔物の身体の中には森の中みたいに色んな生物と植物がいた。動物もいたし、魔物もいたよ。果物も少し生えていた。どうせ外に出ても石ばっかりの荒野しかない。俺は折角だから、この巨大な魔物を馬車代わりにして、しばらく中で過ごさせてもらうことにした。
だが、2日くらいたつと―――ああ正確な時間は分からないぞ、魔物の中は光る結晶のお陰で明るかったが外の景色は見れないからな―――ともかく多分2日くらいたつと地震が起きたように世界が揺れ出した。
おまけに大量の水が外から入ってきた。何かと思って外に飛び出すと、なんと外は海で、亀の魔物はもっと大きな、ちょっとした島くらいのサイズの魚の魔物に食われていやがった。周りは海だから、逃げ場所なんて何処にもない。俺は亀の魔物ごと、魚の魔物に食われたわけだ」
魚の魔物の体内にも、同じように……いやもっと広大な森ができていた。おまけにそこに先客というか、何百年にも渡って、魔物の中に代々住み続けていた先住民もいて、一悶着起こすことになった。
俺がそこまで話すと村人たちは笑い出した。
「あははは! そりゃすげえ! 見てみたいもんだぜ!」
「なんで兄ちゃんは無事なんだ?」
「色々あって、その魚の魔物のえらから外にでて、2日くらい泳いでたら海賊に拾われた」
「わっはっは!!」
村人たちは大笑いだ。多分俺の話が本当とは信じていない。作り話だと思ってる。
まあ、楽しんでいるならいいか。
「ねえちゃん、アンタの連れ面白いな!」
「アハハハハハ! そうでしょ? アレインは面白いのよ!」
シンデリカも村人と一緒になって笑う。かなり上機嫌だ。
とはいえ酒は飲んではいないはずだ。
俺が飲むなと言った。前回酒を飲むとなんか気弱になっていたからな。たまになら、そんな彼女から心の奥にある本音を聞くのも良いが、毎回そんな調子になられるのも面倒臭い。
あと、2日酔いも大分辛そうだったしな。
「アハハハハハハハ!!!!!」
シンデリカは口を大きく開けて笑う。本当に楽しそうだ。砂漠の民はよく食べ、よく飲み、よく笑う人々だった。シンデリカも馬が合うのかもな。
「アハハハハハハハハハハハ!!!!」
……本当に飲んでないよな?
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
………笑いすぎじゃないか?
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!!!!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」
「こわっ」
狂ったように笑うシンデリカ。
絶対飲んでるだろ、お前!
目がガンぎまってるんだよ…! 一緒に笑ってた村人たちも微妙に引いてるぞ。
彼女が持っていたコップをぶんどり、匂いを嗅ぐ。
「思いっきり酒じゃないか! 誰だこいつに酒飲ませたの!?」
「わしじゃが…、まずかったですか?」
人々の輪の中心にいた老人、俺たちをここまで案内したくれた村長が気まずげに手を上げる。
「いや、悪くは……ないが」
俺からコップを奪い返し、酒を片手に村人たちと外れ調子で歌うシンデリカを見る。
……まあ、いいか。
2日酔いで苦しむのはアイツであって、俺じゃないしな。
村長が俺のコップに水を注ぎながら訪ねる。
「宴もたわけなですが、伺ってもよいですか? 王国の他の地域のことです。こんな小さな村にいますと、世情にも疎くなりまして」
そうだなぁ。
俺は少し思案しながら答える。別に俺は情報通と言う訳じゃないが、答えれる範囲なら…。
「王国としての状況は悪くはないと思う。勇者たちが王国内の強力な魔物と魔族の多くを狩った。残ってる奴らはBランク以下だろう。これなら各地域の冒険者ギルドと兵士たちでも対処できる。昔使われていた街道も整備されて、人と物の動きが前よりも活発になるかもな」
俺がうち漏らしてたエルガやロンドに長らく潜伏していたハルベスタも最近ここ数日で討伐することができた。
勿論、国内の脅威がすべて消えたとは言えないが、半年前と比べると雲泥の差だろう。エルフとの同盟もこの先結ぶことになるだろうし、国としての幸先は良いんじゃないか。
「ふむ…なるほど。…ん、勇者、ですか?」
「ああ、半年前選ばれた。…いや、色々あって初代は死んで、最近2代目に交代したらしいが」
そこらへんの説明は面倒だし、どうしても嘘を混ぜなければいけない。俺は早口でその話題を切り上げ、逆に質問を投げかける。
「俺からも良いか? 俺が持ってる地図では、ここら辺はまだ湿地帯の筈なんだが」
俺はプエナ村で手に入れた地図を村長に見せた。古い古い地図だ。村長は焚火の明かりに透かすように、目を凝らして地図を見た。
「ああ、これは恐らく20年ほど前の地図でしょう。この村が砂漠に飲まれたのはそれ以降なので」
「なるほど。まあ、辺境の村で手に入る地図なんてそんなもんだよな」
とはいえ困った。
勇者としてガイアス王国とその周辺国は旅したし、ステラと出会ったあと、色々あって大陸各地の辺境・秘境と呼ばれる土地にも行ったことはある。
しかし、ガイアス王国の北部より北には縁がなかった。多少の知識はあるが、土を踏むのは初めてだ。
そして、早速事前に仕入れた情報と食い違いが出ている。
まあ、元々俺は事前準備なんて言葉と対極の存在だからな。
『何があってもどうにかなるだろう』の精神で生きているし、実際俺だけなら何とかなってしまうから、中々この癖は治らない。
ただ、もう俺だけの一人旅じゃないからな。この大雑把な癖は治さなければいけないだろう。
「確か30年前はここ一帯はリーリア湖を中心とした湿地帯だったが、急速に砂漠化が進んだんだよな」
「はい。今も砂漠は少しずつ広がっているそうです。浸食の速度は数十年前に比べると大分緩やかになったそうですが。…砂漠化のはっきりした原因は今も不明です。わしが若い頃は、まだここも水鳥が餌を求めて群れでやってくる水が豊かな土地だったのですが…」
懐かしそうに村長は周りの砂漠を見る。産まれてずっとこの老人はこの村の景色の変化を見てきたのだろう。本当に色々な苦労があっただろうな。
俺は村長から周辺の土地の様子などを聞いていく。
物々交換で砂漠用の装備も譲ってもらうことになった。
「そういえば、ここら辺に魔族は出てないか? 魔物でもいいが。いたら狩るぞ」
「旅の方にそこまでやって頂くのは…。砂漠用のマントや衣服のことでしたら、こちらとしては貰いすぎなくらいですし…」
「本当に被害はないのか? 魔族と魔物を狩るのは俺の役目で、趣味みたいなものだ。金を払うからむしろ狩らせてほしいくらいなんだがな…そっか、いないのか…」
残念だ…。
「はあ…。いえ実は、先月から魔族か魔物と思われる被害が出ております。村の若い衆が2人ナツメヤシの手入れをしている時に襲われ、帰らぬ者となりました。…一人は片腕しか見つかっておりません」
「それを早く言えよ」
俺は唇の端が吊り上がるのを感じた。
「明日シンデリカと退治しよう」
「ありがとうございます。旅の方、女神の慈悲を貴方に…」
聖教のお決まりの文句を村長は唱えた。
多分、女神は俺のことが嫌いだと思うがな。聖剣を無理やり抜いて我が物顔で振るうわ、聖女にビンタするわで、俺の印象が良いはずもないだろう。
俺は気付いたら砂地に横になっていたシンデリカの頭を軽くたたく。本当に、本当に軽く、だ。少し力を籠めたら、トマトみたいに人の頭が潰れるからな。
「ほら、行くぞシンデリカ。明日に備えて休もう」
「ひゃひゃひゃ、世界が回るぅぅ」
だめだな、こりゃ。
絶対明日二日酔いだわ。