そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~ 作:ナカザキ
窓から吹き抜けるぬるい風を浴びて、俺は目を覚ます。
村には一軒空き家があり、俺たちはそこで一晩過ごさせてもらった。
砂漠の家の多くはレンガ造りだ。大陸の北部でよく見られるような焼き入れをした赤レンガではない。土をこねて直射日光で乾かした簡素なレンガによって。この村の家々は建てられている。
……他の地域から来た奴にとってはお世辞にも美しい建築物とは思えないかもしれないな。まあ、これはこれで風情がある。
というか、家のつくりとか住みやすさとか、俺はあまり気にならない。
どうでもいい。
寝れればいいし、何なら寝なくてもいい。
俺は水差しから水を飲みながら、シンデリカに声をかけた。
「おら、起きろ朝だぞ」
「ううぅ……頭痛い…」
彼女は枕に顔を押し付けうめいた。金の髪が乱れて床に広がり、触手に見えて、なんだが不気味だ。
「自業自得だよ」
可哀そうと言う気持ちは…あんまり湧いてこないな。俺は酒飲むなって忠告したからな。
「ひどーい…」
言いながらシンデリカは顔を起こす。村長の娘さんが、わざわざ朝食を運んできてくれた。
果物のような、ジャガイモのような……、初めてたべる茶褐色の野菜が入ったスープに少しのパン。パンの方にも茶褐色の野菜が練りこまれている。
「ほらスープをお飲みシンデリカさん」
俺はスプーンをシンデリカの口に運ぶ。
「五臓六腑に塩味が染み入るわぁ…」
おっさんみたいなこと言うな、こいつ。どこで覚えるんだよ、そんな言葉。
エルフの飲み会文化に多少の興味がわくが、俺たちにはまずやらなければいけないことがある。
朝食を済ませると、俺は言った。
「という訳で魔族退治に行くぞ。魔物かもしれんが。ともかく、最近この村が襲われてるらしい」
その言葉に少し眠そうに瞼を擦っていたシンデリカの顔つきが変わる。エルフの姫らしい、民草を守る責務を果たさんとする目だ。
「ええ、分かったわ…!」
やる気だ。
いいね。
お前のそういうところ、結構好きだわ。
◆
家の外に出るが、まだ朝だというに、太陽はらんらんと輝いていた。
らんらん、というかギラギラというか、もう人間死ね!!って勢いで輝いていた。
「あっつ…」
涼しい森林育ちのシンデリカは暑さが苦手なのかもしれない。
「ほら、日よけ用のローブだ」
昨晩村長から貰っておいた。ゆったりとした汗をかきにくい着心地で、色は薄ベージュ。黒色は太陽の熱を吸収しやすい……らしい。
「ありがとう! この長い布はどうするの?」
「太陽に頭がやられないようにこうやって頭にグルグル巻くのですよ」
そこに村長が現れ、見本を俺たちに示す。
「村長、昨日はありがとうな」
「いいえ、こちらこそ」
砂漠の装備を身につけたシンデリカがアレインたちに笑いかけた。
「アレイン、どう似合ってる?」
「良い感じ」
「反応薄いわね…」
「実際良い感じとしか言えないからな」
元の素材が美人だから何着てもサマになる。
わざわざそれを口に出そうとは思わないが。
「まるでこの砂漠の咲く一凛の白い花のようです。月も貴女も前では自ら隠れてしまうでしょうな」
「ええへへっ。照れるわぁ! アレイン! こういう! こういう言葉を私は求めてるのよ! 勉強しておいて!」
「へーい」
俺は気のない返事を返す。
というか、村長……さらっと歯の浮くような褒め台詞が出てきたな。
すげえ。
若い頃はブイブイ言わせてたタイプか?
村長の案内の元、ナツメヤシの畑に向かう。
ナツメメヤシは幹が太く固い。葉も固い。いかにも乾燥に強そうである。
今日の朝食のスープやパンに入っていた茶褐色の野菜がナツメヤシだという。
「ナツメヤシは村の大切な作物です。私たちの身体はナツメヤシによってできていると言っても過言ではないでしょう」
「2人亡くなったと言ったが、最近襲われたのはいつだ?」
「2週間前です」
「襲ったヤツの姿を見た村人は?」
「いません。ただ足跡は二足歩行のようでした。砂漠の方に続いていましたが、途中で途切れておりました」
俺たちは2週間前に村人が襲われた現場に向かった。この乾燥しやすい土地柄ゆえだろう、血の跡は一切残っていなかった。
俺は鼻をひくつかせるが、当然何の匂いもしない。傍らのシンデリカに声をかける。
「シンデリカ、魔力を辿れそうか?」
「流石にそんなに前だと無理ね」
まあ、そうだよな。
「遺体の一つは腕しか残ってなかったんだったな? もう1人は?」
「胸を中心に食い荒らされていました…。それは無惨で…。わしが若い頃にはここら辺にも魔族が沢山出ましたが、あいつらに襲われた遺体を思い出しましたよ、そっくりだ…」
現場を思い出したのか、村長は痛ましげに眉を顰める。
「なるほど、ありがとう。とりあえずは数日間は俺たちが畑に張り込もう」
村長と野宿やら夜食やらの打ち合わせをして、俺たちは畑に残ることにした。
畑では村人たちが作物の手入れをしている。それを眺めながら俺はシンデリカに言った。
「多分、相手は程度の低い魔族だ。兵士級だと思う。数日以内に向こうからやってくるだろう」
「どうしてそう思うの?」
シンデリカは首を傾げた。
俺は苦笑する。
やれやれ。鈍感な助手を持つと苦労する…。
「簡単な推理だよ、ワトソンくん」
「いや私の名前シンデリカなんだけど」
誰、ワトソンって?とシンデリカは問う。
「ステラ曰く、昔どんな事件でも立ち所に解決するシャア某って天才がいて、ワトソンっては彼の助手の名前らしい」
……19万年前(うろ覚え)の王都ロンド(うろ覚え)にいた、名探偵シャア
13歳の俺はステラのシャア?についての話を話半分にして聞いてなかったから、正直大分記憶は曖昧だ。しかし、ステラの言葉と彼女が語ってくれたシャアの活躍は俺の中に受け継がれている。
「シャア某…。家族に色々コンプレックスがありそうな名前ね…」
それはよく分からないが。
「肝心の天才の方の名前は覚えていないんだ…」
「まぁな。ともかくそういう、時間を解決する人の助手のことをワトソンに因んで、ワトソン役なんて言うらしいぞ」
「へぇー。勉強になるわ」
シンデリカは無邪気にうんうん頷いている。俺もつい笑顔になった。
ステラが語ってくれた知識を他人に伝えられて、俺も嬉しい。
ただ、シャア某とワトソンって王都の人に聞いても誰も知らなかったんだよな…。
ともかく、
「魔物ならもっと高頻度で村を襲うだろう。足跡が2つということも合わせると、恐らく犯人は魔物じゃなく魔族だ。そして、死体を食い散らかすのは、低級の魔族の特徴だ。肉体を食らって物理的に魔力を体に取り込もうとする。高位の魔族ならは人間を殺すだけで、わざわざ喰らわなくても、魔力を吸収することができる。どんな理屈は知らんが」
「おお! かっこいいね、アレイン! シャアみたい!」
魔族が世界にやってきて40年。人類は魔族のことをまだ殆ど理解しちゃいないが、それでも多少は分かったこともある。
俺は折角だからシンデリカに魔族について色々と教えていく。
「ちなみに魔族は、魔力に応じて兵士→師団長→軍団長→将軍→四天王といった具合に階級は上がっていく。前に戦ったハルベスタとかは軍団長だな」
ただ、
「これは魔族が人間たちの軍隊の階級を真似して何となく作ったもので、人間みたいなちゃんとした地位・階級が魔族の中にあるわけじゃない。勝手に参謀や総帥なんて名乗る魔族もいる」
シンデリカは真面目な表情で、時おり頷きながら俺の話を聞いていた。
「魔族は…どうして人間を狙うんだろう?」
故郷を襲われ、多くの仲間に殺された彼女にとってその問いは切実だろう。
勿論、エルレインを襲った2人の魔族の片割れ、クルーテルの目的はエルフという種への復讐だった。また奴らが聖樹の魔力を利用しようとていたことは、彼女にだってわかっているだろうし、俺に期待している答えではないだろう。
しかし、俺は――というか人類は彼女の問いに明確な答えを返せない。
「さぁな。下級の魔族は人間を食べないと飢えにも似た焦燥感に支配されるらしい。だから俺は数日以内にはこの魔族がまたこの村にくると当たりをつけた。…だが上位の魔族は違う。別に人間を殺さなきゃ死ぬ訳でもないって聞く」
とどのつまり、
「理由はどうあれ、あいつらは人間を殺さずにはいられない。人間の敵ってことだ」
少なくとも。
それさえ分かれば俺にとっては十分だ。