そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~ 作:ナカザキ
スタンドールとアネットはガイアス王国の王城の一室で、ガイアス王とエルフの女王ラライアと対面した。
ガイアス王は40歳ほどの精悍な容姿をした男だ。宝石を散りばめた王冠を戴き、刺繍を凝らしたマントを羽織っている。
ガイアス王国は大陸のおおよそ中央に位置し、人・物・金が最も行き来する土地といっても過言ではない。
特に近年は勇者及び精強な兵達の活躍で、国内の脅威の多くを駆逐した。今後益々発展していくことが予想される。
今代のガイアス王はそんな時代の転換期に相応しい、バランス感覚と大局観を持った王だと言える。
「お久ぶりです、ガイアス王」
「うむ。確か前に会ったのは2年前の連盟の会議の時だったたか。お主も息災そうで何よりだ」
「そろそろ腰が曲がりそうです」
「ふっ、冗談は良せ。お主は余に剣術を教えていたあの頃から一切年をとっておらぬではないか」
ほんの短い一時ではあるが、スタンドールは幼いガイアス王に剣を教えていたことがある。
「見た目だけですよ、陛下。中身ももう老人です」
「ほう。手に豆ができたからもう剣は振れぬ…そう涙ながらに訴えた幼子を甘えるな、と一喝した鬼教師はもういないと?」
「お戯れを陛下…あの時は私は若かった」
「確かあの時お主は50くらいだったかの? 余は確か…」
「10歳でした。スパルタだったと反省しております。鬼籍に入られた先の大臣に後で大層叱られました」
「よい。あれも良い思い出だ。さてお主との思い出話にいつまでも興じていたいところだが、時間も限られている。…紹介しよう」
ガイアス王は、部屋にいたエルフの女王に顔を向けた。
「こちらはスタンドール。色々な肩書きを持つ男だが……どれが良い?」
揶揄うようにガイアス王はスタンドールに問う。王は普段はもう少し厳格な人物なのだが、かつての教師を前にして、心が童心に戻っているのかもしれない。
「この場では北方諸国連合前線指揮官兼夜明けの連盟総帥という立場でお願いします」
「少し長いが、ではそれで。スタンドール、こちらの方はエルレインの統治者、ラライア女王だ」
ガイアス王の紹介にスタンドールは僅かに目を見開いた。
「初めまして。ラライアと申します」
「拝謁の栄誉を賜り、深く感謝いたします。…正直な所、女王が王都ロンドに参られるとは思いませんでした」
「一族としてのエルフの誠意を見せるには、私が直接ここに足を運ぶしかないと考えました。こちらこそ、スタンドール卿…人類の中でも最も偉大にして最も強き英雄と謳われる存在とこうしてお会いすることができて、心から嬉しく思います」
「買いかぶりですよ。私はしがない老骨です。それと…ラライア女王。もし良ければ、その最も強き、と言う称号はやめて頂きたい」
「は、はぁ」
スタンドールの意外な言葉にラライアは目は丸くする。
「なに。最強という立場は数年前に
スタンドールは意味深長の笑みを浮かべた。
◆
会合はつつがなく進行した。ラライアはこれまでのエルフの排他的な態度を心から謝罪し、ガイアス王国はそれを寛大に許した。
会合が始まる前には控え室で色々文句を言っていたスタンドールも、この場でそんな失礼な物言いはしない。
むしろわざわざ女王をこちらに派遣してきたエルフの一族の誠意に好感を抱き始めていた。また、ラライア女王は王族ながらとても控えめな女性であり、同時に政治とは実施面・人情面の両方をバランス良く選択する必要があることを理解する聡明な女性でもあった。
現在の話の流れは、スタンドールが総帥を務める組織、夜明けの連盟についてだ。
「短く纏めるならば、夜明けの連盟とは人類を一つに纏め、魔族に対抗するための組織なのですね」
「そういうことになります。魔族は人類共通の敵です。一国だけで対処すべき存在ではない。国の自助努力にも限界がありますゆえ」
「目下の取り組みとして魔族の被害の大きい地域…主にガイアス王国の北側の国々になりますね…そこにへ兵と資金を貸し出しています。また国と国の話し合いの仲介をしたり、冒険者ギルドと連携して、冒険者の各地域に派遣したりなどもしています」
「素晴らしいです…」
「各国にもそれぞれ支部があり、一応私がそのトップを勤めていますね。大体は前線にいますが」
「こやつは各国に顔が効くからな。スタンドールが出てこなければ連盟に加入するどころか、交渉のテーブルに着きさえしなかった奴らもいるだろう」
スタンドールは魔族が出現する以前も以降も、各地で人々のために戦い続けていた。その知名度は世界でもトップクラスだろう。
そんな彼の働きかけで設立されたのが、夜明けの連盟だ。
次いで彼らは、エルフの王国内での立場、夜明けの連盟での役割について話し合っていく。ここからはスタンドールではなく彼の秘書を務めるアネットが中心になって話を進めた。
「では…エルレイン及び大森林一帯はガイアス王国の中にある自治国…という扱いでよろしいですね」
言外に王国の領地にしなくても良いか、とガイアス王に確認をとる。ここの認識が後から拗れると大変だ。
「うむ。大森林は古くから、それこそガイアス王国が興る前から不可侵の土地であった。今更強欲ばるつもりはない」
「懸命なご判断かと」
スタンドールは教え子を褒める教師の顔になって微笑んだ。
「では具体的な大森林の取り扱いですが…実のところ大森林とは具体的にどこからどこまでと線が決まっているわけではありません。」
アネットの司会のもと、更に詳しい部分を詰めていく。
気づけば会合から数時間が経過していた。ようやく話し合う議題も終わりだ。
「流石にこの老体に応えました。肩が凝りそうです」
スタンドールが肩を回す。
ガイアス王が苦笑した。
「年寄りぶるなスタンドール。ラライア女王を見よ。お主より遥かに年を重ねておると言うのにまるで疲れを見せぬではないか」
「ふふっ」
「あぁ、これは失礼しました。申し訳ない。年上の方に会うのはとても久しぶりなもので」
「お前の魂胆は分かっている。疲れた疲れたと年寄りぶっていれば、周りが優しくしてくれるのが心地よいのだろう?」
「バレましたか?」
「…ふっ、よかろう。此度は余も老骨を労ってやろう」
王自らがスタンドールのカップに紅茶を注いでいく。
「素晴らしい香りです」
「ふふふ、王が入れた紅茶だからな」
「ところで陛下。かつての師として申しますが、先ほどの会話……レディの年齢を会話の種にするとは品が悪いですよ」
「ふむ、確かに。申し訳ない、女王」
「いいえ、私は全く気にしておりませんよ。それよりも本当に2人は仲が良いのですね」
「この男は皆の師だからな。現役世代で頭が上がらぬ者は多い。おまけに王族にも市政にも顔が効く。やっかない奴だよ」
「歳をとると知り合いばかりが増えていきます」
そんな会話を聞きながらアネットは、(いくら先生の弟子がたくさんでも一番弟子は私ですから!)と内心で対抗心をメラメラ燃やしていた。
そんなこんなで会合もお開きになった。
「お主はこの後大聖堂だったな。日も落ちかけているというのに多忙なことだ。王の次に働いている」
「国を両肩に背負う陛下に比べれば、私なんぞ身軽なものです。…申し訳ありません。勇者についての報告が色々あるようなので」
「勇者か。まぁ本人達から色々と聞くのが一番だろう。……まぁ、余は魔族を討伐してくれるならそれで良い。誰でもかまわん」
一応、勇者の現状について、簡単な報告はスタンドールは受けている。先代勇者が死に、その後をジークという少年が継いだという話だ。
「…………」
ちなみに女王ラライアは、アレイン本人から聖女に殺されかれて追放されたという真実を聞いている。
ただ、それを口にすると聖教会との関係が一気に悪化することが考えられるため、口を噤んでいる。これはアレインの発案だった。
「陛下はアレインにお会いしたことがありましたよね?」
「あぁ。余の前でも一切動じぬ、肝の太い男だった」
「髪の色は?」
「確か…黒。目は灰色であった。知り合いだったか?」
「いえ、知り合いではありません。それでは」
スタンドールとアネットは、ガイアス王城を後にする。次に向かうのは聖教会の総本山、サンガリア大聖堂だ。
「王の城の上に建てるなんて、聖教の方々は度胸ありますねぇ…」
アネットが大聖堂を見上げてぼやく。スタンドールも彼女の視線を追うが頭にあったのは別のことだ。
勇者アレインは死んだと言う。
(……本当に?)
当然だが、人間だから死ぬことはある。そもそもスタンドールは
しかし、スタンドールはその少年の名前に強い引力のようなものを感じてならない。
脳裏に何故か浮かぶのは、2年ほど前の出来事。
夜空。
荒野。
そこで対する2人の男。
(いや、もしアレインという男が私の想像した少年と同一人物ならば…アレが簡単に死ぬタマとは思えない。いや…死の場面を一切想像できない…)
スタンドールの唇が吊り上がる。微笑みとはまた違う、戦闘者としての獰猛な笑み。
(いつの日か、貴方と再会できる日を楽しみにしてますよ、名無しの最強くん、もしくはアレイン)
誰も知らない荒野にて、かつての最強は、次の最強と邂逅した。
黄金剣スタンドールとただの少年。
そして、最強の座は入れ替わり、ただの少年は、『ただの最強』となった。
それっきり2人は2度と出会っていない。お互いの名も分からない。
黄金剣スタンドール。数多の称号を持つ人類の英雄にしてかつての最強。
彼とアレイン達との道が再度交わるまで、後少し。