そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~ 作:ナカザキ
――死について考えてみた。
気付けば身近にあったものだった。
己は終わりに向かって歩いているのだと気付く。
多くの人は、自分の死に方は選べない。魔族が跋扈するこんな時代なら尚更だ。
意味のない死、突然やってる終わり。そんな最期を迎える彼らに比べれば、自分はまだ恵まれているのかもしれない。
少なくとも、自分は明日やってくる死には怯えなくて良い。
………………本当に?
いいや。さっきの考えは欺瞞だ。
自分で自分を騙す為の、脆く儚い詭弁。
終わりに向かって、自ら歩く。断頭台に向かう囚人はまさにこんな気分だろう。私は生まれながらの受刑者だった。
どうして自分だけが、と嘆く夜があった。逃げ出したい、と泣け叫ぶ夜もあった。
いつしか、両足が震えて立てなくなった。やがて震えさえも消えていった。
それでも終わりは向こうから近づいてる。顔を抱えて怯える毎日だった。
ふと、もう一度前を見る。
――――そこに
道の果て、終わりのその先に。
名前も知らない。顔も朧げだ。会話も交わしたことすらない。
だけど。私は一人じゃないという事実は、心に小さな火を灯した。
それを道しるべに、もう一度立ち上がってみる。
終わりを迎える数秒前、あなたに「頑張ったね」とだけ言ってほしい。それだけを支えに一歩を進める。
―――それを私は勇気と呼んだ。
◆
「………我らは望む。破れぬ誓いを。我らは紡ぐ。分かたれぬ糸を。我らは縛る。抗えぬ鎖を。今、ここに契約は果たされた。契約魔法、ロストチェーン」
シンデリカ、俺、アセロラの3人で三角形を作る。シンデリカが魔法を呪文を唱えると、禍々しい赤色の魔力が俺たちを包み、それは古びた鎖を形作った。鎖は俺たち3人を身体を結び付け、空気に溶けていった。
「はい、これでおしまい」
『契約魔法』はこれで終了したようだ。
アセロラがグラスを掲げた。中には琥珀色の酒が入っている。
「じゃあ、よろしく頼むファミリー。乾杯」
ニヒルに笑ったアセロラが酒を飲むと、途端に噴き出しやがった。俺の服にも盛大に飛沫がかかる。汚なっ。
「げっほげっほげっほげっほ! スミス! 水!」
「ボス、飲めないのに…格好つけて無理するから」
「黙れスミス!」
こうして俺たちは、マフィアのボス、アセロラと契約するになった。我ながら、勇者とは程遠い立場に来たよなぁ。
「じゃあ、俺はホテルに帰るよ」
俺がそう言いながら、立ち上がると、アセロラが眉を顰めて言った。
「……あのホテルは青虎の傘下だ。アンタらが私たちと接触し、何らかの取引をしたことは、すぐに奴らの知るところとなるだろう」
「ああ、だから?」
「危険だと言っている!」
「俺は危なくない。最強だからな。…ホテルに荷物とか置いてるんだよ。それに数日分の宿泊費を払ったばっかりだ。大トカゲの馬車がしばらく出ないって聞いたからな。今からキャンセルすると、料金をかなりとられる。もったいないだろうが」
「まあ、アレインは多分大丈夫よ」
シンデリカが自慢げに言いながら、アセロラの肩を叩いた。
「気安く肩を叩くな!」
「え、でもさっきファミリーって」
「アレは言葉の綾だ!」
シンデリカはショックそうだ。
「妹ができたと思ったのに…」
「い、妹? はぁ……帰るなら勝手にしろ、忠告はした」
◆
酒屋から外に出た俺の後ろにはシンデリカがついてきていた。
砂漠の町だけあって、何だかんだ夜は冷えるな。
スラムの雑多な街並みを眺めながら、俺はシンデリカに問いかける。
「これで良かったか?」
「うん、何が正しいかは正直分からない。でもあのアセロラって人のこの町を良くしたいって思いは本物だと思う。なら、私はその手助けがしたい」
彼女の脳裏には町の路地裏で見た光景が焼き付いているのだろう。
「少なくとも、この町がそのままでいいとは私には思えない」
「そうか。お前がそう思うなら、きっと正しいよ。じゃあ、あいつを信じてみよう。…シンデリカはどうする? ホテルに戻るか?」
「私は、ここに残るわ。少し気になることもあるし」
「気になること?」
「この砂漠は魔力が薄いって言ったでしょ? 多分、その原因はこの町にある。いいえ、湖があったという『ここ』が多分、異変の中心だった」
シンデリカは何かしらの確信を持っているようだった。村長は昔ここでサルモアという英雄が魔王軍四天王の一人と戦ったって言ってたよな。それが、砂漠化の原因かもしれないと…。
「使い魔を飛ばして調べてみるわ。砂漠化を戻すのは無理でも、原因が分かれば、遅らせることくらいはできるかもしれない」
「ここの治安が悪くなったそもそもの原因は一帯が砂漠になったせいらしいからな。……分かった。十分に気をつけろよ。明日の朝、お前の荷物とかを持ってくる」
「ありがとうアレイン」
アセロラたちを完全に信じ切れる訳じゃない。
だが、あそこまで強固に『契約魔法』で締め付けていれば、とりあえずシンデリカの安全は保障されるだろう。
俺はホテルまで、来た道を帰っていく。
「………女?」
スラムの路地のど真ん中に、一人の女がテーブルとイスを用意して、座っていた。ぶかぶかの白いローブを被った背の高い女だ。
見るからに怪しいな。
俺は速足で横を通り過ぎようとする。
「もし、そこの方。占いにご興味はありませんか?」
案の定、声をかけられた。
「結構だ」
「当たりますよ」
ローブを深く被っているから、その容貌を伺い知ることはできない。
……こいつどこかで会ったことあるか?
しかも割と最近に。頭の中を探ってみるが、答えは出なかった。
「あなた結構タイプだから値引きしちゃいますよ?」
「生憎、綺麗なねーちゃんには気をつけろって言われてるんだ」
「ええっ! 綺麗なお姉さんですって! 口説かれちゃいました! どうしましょう!」
「はい、さようなら」
という俺の言葉も聞かず、女は懐からカードの束を取り出した。素早い手つきで、上の何枚かをめくり、その中の一枚を俺に見せてくる。獅子と女が描かれたカードだった。
「ふむふむ。タロットは……獅子座。その意味するところは『力』。強固な意志、不撓不屈、知恵と勇気、大いなる力のうねり…あなたにぴったりですね」
女はカードを逆向きにして俺に見せてくる。
「ですが、タロットは逆にすると別の意味を持つ。『力』の逆位置は人任せ、優柔不断、自己評価の低さを示す」
「……何が言いたい?」
「それに『力』のタロットの絵柄を見てください。獅子を抱擁する女性の図。見ようによっては、女性に獅子が使われてるようにも見える。『力』とはそれだけでは意味がない。振るい、制御する者がいなければ……」
「……シンデリカのことを言っているのか。それともステラのことか? そして俺がカードの獅子だと?」
「さあ?」
女は肩をすくめる。食えない態度だ。
「占いはお好きじゃなかったですか。じゃあ次回は紅茶でも用意しましょうか。アレインくん」
瞬きする間もなく、女は俺の視界から消えていた。
テーブルもイスも、最初からなかったように影も形もなくなっている。この俺が目で追えなかった。ということは、魔法の類だろう。かなりの凄腕なのは間違いない。
……世の中には色んな奴がいるな。
「というか、名前。教えてないよな」