そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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4:人族とエルフのコミュニケーション

 

「ありがとう勇者アレイン」

 

 シンデリカが涙をぬぐいながら言う。

 

「いいさ。それと勇者とはもう呼ばないでくれ」

 

 その称号は別の奴に移ったし、どうやら俺はやっぱり聖剣には認められていなかったようだからな。

 

「ええ。わかったわ。でもどうして?」

「色々あってな。理由は追々……」

 

「シンデリカ様! ご無事ですか!?」

 

 武装したエルフの一団がこちらに向かって走ってくる。皆耳が尖がっており、美形ぞろいだ。平凡な容姿の奴は一人もいない。イケメンとナイスミドルばっかりだ。

 

「っ!何者だ!? シンデリカ様から離れよ!」

「ひ、人族! どうして人族がここに! まさか魔族の仲間か!」

 

 エルフたちは俺の存在に混乱しているようだ。それぞれが武器を構え、俺を睨みつける。

 

「みんな! 待って! 彼はアレイン! 彼がブラック・ドラゴンとグリオンを倒し、私たちを助けてくれたのよ!」

 

 シンデリカが焦りながら、俺とエルフたちの間に割って入った。

 

「なんと…」

「人族が本当に? 我々でもブラック・ドラゴンと魔族には歯が立たなかったのに…」

「アレインとは、たしか外界で最近見つかった勇者の名前ではないか?」

「そうだったか? そもそもどうして人族がここに? 魔族の襲来もそうだ。大森林の迷いの魔法はちゃんと機能しているのか?」

 

 とりあえず俺は、自身が勇者に選ばれたアレインであること。本当はどうやら勇者ではなかったこと。真の勇者が見つかった為、パーティーを追い出された末に、聖女に命を狙われ、このエルフの都エルレインまで飛ばされたこと等を簡単に説明した。

 

 ちなみに周囲では、エルフの若い衆が鎮火活動と瓦礫の撤去に勤しんでいる。周囲が水辺という地形故に消火の為の水には困らない。

 

「なるほどな…。仲間である聖女に図られたか。不憫なことよ。……他種族はやはり愚かだ」

「だが、不幸中の幸いと言っていいのかもしれんな。おかげでこうして我らの元に救いの主が来てくれた。まるでお伽噺のある人族の英雄王のようだ。…うーむ、外見はいまいちパッとはしないが」

「おいおい! 僕たちエルフと他種族の容姿を比べるなんて、余りに残酷なことはしいちゃけないよ!」

「本当にありがとう! 縁も縁もない我々を助けてくれるなんて! 感謝してもしきれない! 他種族にもエルフのように清い心を持つ者がいるんだね!」

 

「うーん、息を吸うように他種族を乏しめるなお前ら」

 

 ナチュラルに傲慢すぎる。俺に同情してくれるのは悪い気はしないが、他種族をこき下ろす必要はあるか?

 

 頭の片隅にこいつら見捨ててやろうか、という邪悪な考えをちらついたが、まあ、ちらついただけだ。実行はしない。

 

 それはそうと、

 

「うええええん! うえええええん! そんなのひどいわああ!!! アレインは皆の為にがんばっていたのに! パーティーから追い出して、命まで狙うなんて! うえええええん! 確かに皆を騙していたのは悪いけど、あんまりだわああああ!!!!」

 

 シンデリカは大号泣していた。宝石の様な瞳からは洪水のように涙が流れ、鼻からは濁流のように鼻水が出ていた。美貌も形無しだ。

 

 見た目は俺と同じか少し上くらいなのに、子どものような泣き方だった。

 

「シンデリカ様はまだ130歳であられるからな」

「とても純粋なのだ」

「そ、そうか」

 エルフの年齢感覚はよく分からん。まあ、どうでもいいか。

 

「というか、いい加減話を進めてもいいか」

「え、ええ」

 

 ハンカチを涙と鼻水、涎で濡らしながらシンデリカが答えた。思い切り泣いて、一応スイッチは切り替わったようだ。

 

「2日前のことよ。突然2匹の魔族がこのエルレインにやってきたの。どういう訳か迷いの魔法は機能しなかったみたい。それに大森林に放っている使い魔からの連絡もなかった。突然の襲撃で、私たちは完全に後手に回った。魔族たちと彼らが使役するドラゴンに私たちは全く歯が立たず、瞬く間に奴らは宮殿に到達し、貴族たちと…私の姉、女王ラライアを人質にとった」

 

 シンデリカは視線を都の奥、宮殿と世界樹に移した。俺も釣られるようにそれらを見る。

 

「奴らの狙いは聖樹に蓄えられた莫大な魔力よ。だけど、それを取り出すには、聖樹に認められた姉上、女王ラライアの協力が不可欠なの」

「聖樹に認められた? まるで樹に意思があるみたいな言い方するな」

 

 俺は疑問を口に出す。

 

「みたい、ではなく聖樹様には本当に意思があられるのだ! 仔である我らエルフをいつも見守って下さる! エルフは聖樹様から産まれ、そして聖樹様に還る! 故に聖樹様には、我らの父祖の魂が宿るのだ!」

 

「なるほど…」

 熱く語る青年エルフにとりあえず俺は頷いておく。エルフにとって、聖樹が凄く大切なことは分かったが、エルフは聖樹様から産まれ云々は、そういう伝承なのか本当に樹と樹の股からエルフが産まれるのか分からん。

 

 そういえば、聖女は女神の声が聞こえるとか言ってたな。それとエルフの女王も似たような存在なのかもしれない。人間ではない存在と意志を通わせる素養、資格?があるのかもな。まあ、どうでもいい。

「ともかく魔族の狙いは聖樹に蓄えられた魔力で、それは普通には取り出せない。シンデリカの姉さんの協力が必要な訳か」

「だけど、当然姉は首を縦には降らなかった。業を煮やした魔族は……」

 

「都にドラゴンと魔物をけしかけ、火を放ったか」

 

「ええ、みせしめのつもりなのでしょうね。都の約4分の一の区画が燃えてしまった…。逆に言えば、湖や川で区切られた他の区画は無事。自分たちの言うことを聞かないつもりなら、もっと多くの命が散ることになる、そう言いたかったのでしょう。だけど、そこにアレインが来てくれたわ」

 

 タイミングが良かったとも言えるし、悪かったとも言える。俺が来たお陰で最悪の事態は避けられたが、もう少し早く此処に跳ばされていれば、救え命もあるだろう。まあ、もしもの未来を考えても仕方はない。

 

「さて、じゃあ残った魔族は宮殿にいるわけか。人質の貴族や女王と一緒に」

「そういうことになるわ」

 

 俺はグリオンの死体を見ながら言う。

 

「そういえば、仲間の一人が殺されたってのに、不気味なくらい静かだな。普通の魔族なら怒り狂って更に虐殺を始めたり、仲間を殺した俺の命を狙ったりするもんだが」

 

 俺の疑問には、ナイスミドルのエルフが答えた。

 

「向こうも迂闊には動けないのでしょう。奴らの戦力は、魔族2匹にブラックドラゴン1匹、そして低級・中級の魔物数十体ほどです。魔族の片割れとブラック・ドラゴンは既にアレイン様に討伐されました。ここでもし、残った魔族が宮殿を離れれば、陛下がエルフの兵士たちに救出されるかもしれない。宮殿にいる魔物たちは雑兵ですから」

 

 なるほどな。

 

「先ほど言ったように、聖樹から魔力を取り出すには陛下の助けが不可欠です。敵討ちを優先してラライア様が自身の手を逃れ、隠れようものなら、元も子もない。そう魔族は考えたのではないでしょうか」

 

「中々冷静な奴なんだな」

「おそらく奴は宮殿で我々を、いやアレイン様を持っているのでしょう。そこで決着をつけるために」

 

 ナイスミドルの言葉に俺は、俺は笑った。

「分かりやすくていいね」

 敵は宮殿で待っている。俺はそれをぶん殴りに行く。とてもシンプルで、最高だ。

 

 

 宮殿の最上階は壁が大きく取り払われており、眼下の街並みをそのまま見ることができる。エルレインの木材と白亜の石材、そして陽光を反射する湖川が織りなす絵画のような色彩を眺めながら、その魔族は言った。

 

 「…グリオンがやれたか。相手は勇者アレイン。いや、今はもう勇者ではないのか」

 

 城下に放った使い魔からは、そんな話が聞こえてきた。突如現れ、多くの魔族を切り殺してきたあのアレインがまさか勇者ではなかったとは。

 

 魔族はふかぶかとローブを被り、その容貌は分からない。だが、口元は確かに嗤っていた。

 

「…いい景色だな、女王サマ。ずっとここから都を見下ろしてきたんだろ。この森に囲まれた鳥籠みたいな都をさ」

 

 会話の相手はエルフの統治者、女王ラライアである。

「エルレインを侮辱するか!」

 

 声を張り上げながらもラライアは身動き一つできない。魔法の鎖によって、柱に雁字搦めにされていた。その姿を見て、魔族はせせら嗤う。

 

「ああ、するね。ここは、外の世界に目を向けず、エルフたち同士で自分たちを慰め合う醜い街さ。エルフ以外の何もかも許されない。……今は少しだけマシな景色になったかな」

 

 灰となった地区を見ながら魔族は言う。

 

「貴方は一体何者なのですっ! エルフに代々引き継がれる知識と、エルフだからこそ行使できる魔法があって初めて迷いの魔法は突破できる! 例え拷問で同胞たちの口を割らせようが、エルフの肉体を持たぬ者が都まで辿りく筈がない! なのに…!」

 

「はっ。自分で答え、言ってるじゃないか。女王サマ。俺は―――」

 

 言いながら魔族はローブを剝ぎ取った。

 女王ラライアの目が見開かれる。

 

「あ、あああああああああああああああっ、ああああっ!??」

 

 その姿を見たラライアは、悲鳴とも嗚咽とも分からぬ声を漏らした。エルフの罪の形がそこにあった。それをラライアは突き付けられた。

 

 魔族は眼下のエルフの都、正確にそこにいるであろうアレインのいるであろう地域を見ながら、誰に言うでもなく呟いた。

「来いよ、アレイン。オレはお前と話をしたいんだ…」

 

 

 

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