そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~ 作:ナカザキ
次の日の朝。
ホテル『黄金の獅子』のレストランに俺は朝食をとりにきていた。
スープを飲む俺の背中に複数の視線が突き刺さるのを感じる。おまけにその面々は殆どが青いスーツを着ていた。
青虎の奴らだろう。俺が黒ウミヘビの代理人として市長選に出るのは、既に知られているらしい。
「よお、久しぶりだな」
巨漢の男が声をかけてくる。額に貼ってあるガーゼが印象的だ。
「お前は………誰だ?」
「忘れたと言わせねえぞ!」
言いながら男は懐から金塊を取り出し、俺に見せてきた。
思い出した。
一昨日、サイドリーリアに来たばかりの時に、純金を武器にして突っかかってきた男だ。俺にデコピンされた後、地域の人々に身ぐるみをはがされていたが、無事に生還したらしい。
「聞いたぞ、てめえ。市長選に出るんだって? 黒ウミヘビのアセロラの代理人としてな」
「まあな」
「おもしれぇ。あの屈辱を晴らす日がもうやってくるなんてな」
傷がうずくのか、男はガーゼで覆われた額を撫でる。
「てめえはこの純金のゴールドサムソンがぶっ殺してやる! 大勢の観客達の前で泣きべそをかくお前の姿を見るのが楽しみだぜ!」
凶悪に笑い、ゴールドサムソンは去っていった。俺に一度やられたというのに、あの啖呵……その度胸は買う。嫌いじゃない。
とはいえ今回は相手が悪かったな。俺は最強だぞ?
◆
朝食を食べた後、俺はスラムのウミヘビのアジトに来ていた。
昨日足を運んだ酒場『サソリの頭』の裏にある豪奢な部屋だ。ホテルから持ってきたシンデリカの荷物を彼女に渡す。
シンデリカは幹部の人たちとトランプでポーカーをやっていた。
「あ、おはよう。アレイン、このポーカーっていうの面白いわね!」
「ちーす、アレインの兄貴!」
と、馴れ馴れしく俺のことを呼ぶ黒ウミヘビの幹部。
兄貴?
俺、お前と話すの初めてだぞ。
「シンデリカ姉さん、強すぎっすよ~。俺、何年このゲームやってきたと思ってるんですかぁ! 10年っすよ!」
「ふふ……エルフの都にだって似たカードゲームはあったのよ。私はこの道100年よ!」
「でた~! 姉さんのエルフジョーク! あ、兄貴もどうですか、一緒に!」
「ああ…。でも俺、ルールはあんまり分からないぞ」
「私が教えてあげるわ!」
と、俺たちはポーカーに興じていく。プレイヤーは俺、シンデリアカ、トム(調子が軽い男)、マルソー(寡黙な男)だ。2人とも若い青年で多分俺とあまり年は変わらないんじゃないか。
トランプのカードを切りながら俺は、話を振る。
「昨日、部屋にいたのは黒ウミヘビ幹部たちでいいんだよな?」
「そうだ…」
とマルソーが答える。
「若いやつらが随分多いな?」
「アセロラ姉さんが黒ウミヘビのトップになる時、色々ゴタゴタがありましたからねぇ。歳食ってた奴らは大体その時に引退したか、土の下に行きました。まぁ、黒ウミヘビ自体が、元はかなり小さなマフィアでしたから、古株ってのがそもそも少ないんですよね」
話を詳しく聞くと、どうやら2人はアセロラが黒ウミヘビに入る前からの付き合いだという。幼馴染、ということになるのだろうか。
アセロラは子供の頃から周囲の中心に立つような女で、スラムの子供たちを束ねて、廃品を集めて売ったり、金を集めて闘犬の賭け事で倍にして返したり、色々なことをやっていたらしい。
しかしそのうち、アセロラたちの住む地域を根城にしていた黒ウミヘビに目をつけられ、半ば強制的にマフィアの一員にされたという。その後、アセロラは組織の中で出世して、黒ウミヘビを自分のものにしていく。黒ウミヘビの古株たちにしてみれば、アセロラに組織を乗っ取られた形になるのだろうか。
ちなみに、当時の彼女が率いていた子供たちの多くは現在黒ウミヘビの主要メンバーになっているという。
「やっぱりすごい人っすよ、アセロラ姉さんは。子どもの頃から違ったもんな。このポーカーとかもあの人が負けてるところみたことねぇもん。そういえば、覚えてるかマルソー。ガキの頃、黒ウミヘビの大人たちに『よくも俺たちのシマを荒らしやがって』ってアジトに連行された時、姉さんが助けに来てくれたよな」
「ああ…そうだ…。その時、アセロラさんは大人たちとポーカーで勝負をした。勝てば…俺たちを見逃すという条件で。負ければ……どうなっていたんだろうな?」
「今頃は土の下で白骨になってるさ。でも、姉さんは勝った。かっこよかったなぁ。怖い大人たち相手に一歩も引かず、顔色一つ変えてなかった」
2人は思い出話に興じている。俺は折角だから、アセロラが昨日言っていた、『この町を元に戻す』という計画について2人はどう考えているか聞いてみた。
「そりゃあ良いことだとは思いますよ。色々、俺たちの仕事には影響はでるでしょうけど、ぶっちゃけ俺たちはなりたくてマフィアになった訳じゃねえっすから」
「俺たちが生まれる前のサイドリーリアは安全な住みやすい町だったと聞く……」
「何より姉さんがそう思うなら、そうすればいい。だよな、マルソー?」
「俺たちはあの人についていく。それだけだ…」
なるほど。アセロラを信頼しているんだな。
だが、具体的な計画についてはまだ2人とも聞かされていないようだ。
そんなことを話していると部屋のドアが開いた。赤い髪のスーツの女、件のアセロラがスミスを伴って、部屋に入ってきた。
トムとマルソーは立ち上がり、アセロラに向かって「お疲れ様です」と礼をする。何故かシンデリカもやっていた。お前はしなくていい。
「すまん、遅れた。仲良くやってるな。ほら」
「なんだこれ、紙の束…?」
彼女が俺に手渡してきたのは、数十枚ほどの紙の束だった。大きさ的にはトランプと同じくらい。
「何って。明日、市長選があるだろう?」
「ああ」
「だからアンタのデッキだよ。……なんだ? 自分でデッキをカードを選びたいか? だが私の勘はこれがアンタに相応しいデッキだと言っている。これを使え」
そこで傍らのスミスが口を挟んできた。
「ボス。俺はアンタの勘に絶対の信頼を置いているが、アンタは
そんな部下の言葉に対し、アセロラは吐き捨てる様に、
「ふざけるよ、スミス。この戦いには負ける訳にはいかない。個人のプライドなんてのは戦いの勝敗の前では犬の餌みたいなもんだ。それともアンタは私に負けてほしいのか?」
「ち、違うっ。アセロラ……俺は…」
「ボス、だ。育ての親でも皆の前では一線を引け」
育ての親。
そういえば、昨日ホテルの店員が言っていたな。アセロラは元々スミスの養女だったって。組織の中で出世していくうちに、自分の養父を部下にするようになったのか。
なんというか、それはお互いに気まずそうだな…。
いや、それは今はどうでも良いんだ。
「なあ、いいか?」
「すまんな、アンタにはつまらないものを見せた」
「いや……。なあ、明日あるのは決闘なんだよな?」
俺は確認をとる。
「ああ。決闘だ。決闘といえば、
「は?」
マジか。
………マジか。
◆
―――マジックオブモンスターズ。
俺が13歳の時にステラとやっていたあのカードゲームだ。
『銀の星』と呼ばれる魔法学院の天才が幼少期に作ったそれはグリモアール魔法国を中心に爆発的な広がりを見せ、僅か数年でガイアス王国にも進出した。貴族の子弟や裕福な商人をメインターゲットしながら、一般の市井の民にも、マジックオブモンスターズを嗜む者は多いという。
ガイアス王国の辺境であるサイドリーリアにもマジックオブモンスターズのゲームを行う者―――
マフィアたちがシノギを求めてサイドリーリアに大勢で移住した後、この町は(汚い金によって)復興を遂げるが、やがて社会の表側から様々な事業を主導する市長が求められた。
当然、どのマフィアから市長を出すか揉めに揉めることになるが、最終的に各マフィアから代表者を出して、トーナメントをしようと話になる。組織間による大規模な抗争はどのマフィアのボスも望んではいなかったのだ。
しかし、流血沙汰となるとやはり抗争に発展する恐れもあった。
故に選ばれたのは、マジックオブモンスターズだったのだ。
いや、なんでだよ。
◆
そんなこんなで次の日。市長選が始まった。
「さあ、ついにこの時期がやってきました! 5年に1度の市長選! みなさんご存じの通り、このトーナメントの優勝者はこのサイドリーリアの市長となります! ……ちなみに、市長選管理委員会に一定の寄付を行った者は代理人の決闘者を立てる権利があることをここに明記しておきます。世界で最も熱く、最も平和な闘争が今、開かれる!」
司会担当が拳を振り上げると、コロッセオの観客たちは応じる様に歓声で答えた。凄い熱気である。
本来なら剣闘士たちが血飛沫を飛ばしながら命を賭けあうコロッセオに、今日は数多の
開会式を終えた俺はアセロラやシンデリカ、スミスと共にコロッセオの選手控え席にいた。
「アンタの出番はまだ後だ。今は休んでいろ」
「ああ。……意外と出場者が多いな」
開会式では出場者たちが整列したのが、
俺の疑問に横の席に座るアセロラは答える。
「一応マフィア関係者以外も出場している。優勝すれば誰であっても市長にはなれるというのが表向きのルールだ。実際にマフィアの後ろ盾のない一般市民が優勝すると、市長になって次の日くらいに、青虎か赤狐あたりに消されるだろうが」
言いながらアセロラの背後の観客が彼女の首元にナイフを突き立てるのが見えた。とりあえず俺はナイフを掴み圧し折って、コロシアムの外までぶん投げた。
「酷いな」
「そういう町だからな」
アセロラはどこ吹く風だった。
背後では、彼女を狙った刺客がスミスたち黒ウミヘビの奴らにフルボッコにされている。
「それと、青虎や赤狐は金にものを言わせて、複数の決闘者とその代理人を立てている」
「アセロラはしなかったのか? 例えばスミスを出場させようとか」
「金の無駄だ。勝つのは結局一人だけだぞ。最終的には仲間同士で戦うことになる。……なら、アンタがいればそれでいい」
割と良い台詞だが、俺とお前は一昨日会ったばかりだ。関係性が薄すぎる。
あのトムとかいう幹部もそうだったが、黒ウミヘビの奴らは距離感おかしいのか。
まぁ、いいや。
俺はコロッセオで行われている試合に目を移した。魔法で
彼らの
「…………俺は最強だ」
「そうよ、アレインは最強よ!」
近くの席にいたシンデリカが答えてくれた。
「ああ。ありがとう。……だがその最強っていうのは戦いにおいてのことだ。俺は最強は自負してるが、別にお前より魔法の知識があるなんて思っちゃいない」
「なに、珍しく歯切れが悪いわね」
「俺は殆どマジックオブモンスターズ、したことないんだが……。それこそステラくらいしか……」
俺、勝てるのか?
僅かながら、不安を感じる。これは俺にしてはかなり珍しいことだ。
「大丈夫だ、私の勘を信じろ」
傍のアセロラが笑った。
お前の自信はどこからくるんだ。
◆
そうして、いよいよ俺の試合がやってきた。相手は茶髪の少年だ。観客席の最前列にいる少女と何かを話している。
「頑張ってルーク!」
「ああ、俺はこの大会で勝って、市長になってみせる。そしてこの町を変えるんだ! 親父の形見のこのカードと共に!」
「私、信じてるわ!」
「あの日の約束を果たす時がついにきたな…!」
彼らには何か色々込み入った事情がありそうだ。
「お前、黒ウミヘビの手先だろ! どんな敵でも、俺は負ける訳にはいかないんだ!」
「
司会の言葉と共に、俺はデッキの一番上のカードを捲り―――。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「ルークゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」
勝った。
普通に勝った。
個人的には、あまりにもあっけなく、これで良いのか?という感想だ。
「く…どうしてだ。どうしてお前ほどの決闘者が黒ウミヘビの味方をするんだ。お前との
カードとの絆って何だよ。
俺がこのデッキと出会ったのは昨日が初めてである。絆もクソもないだろう。
試合から戻ると、階段の途中でゴールドサムソンが話しかけてきた。
ニヒルに笑いながら、
「ふ、中々やるようだな。流石は黒ウミヘビが雇った
「知らん」
カードの精霊って何だ。
「ふっ。この町には俺を愉しませることのできる
そして、ゴールドサムソンは去っていった。
その後。
俺は着々と勝ち星を重ね、2日後の決勝戦に駒を進出させた。
その間、優勝候補のゴールドサムソンが無名の少年に敗北したり、
この市長選の中で、初めて聞くワードがいきなり多数出てきた。世界観が分からなくなる。
そんなこんなで、決勝戦。
「ぼ、ぼくが負けるものかぁっっ!!!!!!!」
「あいつ、まさか
「キングスライムでダイレクトアタック」
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「優勝者、アレイン!」
……俺はどうやら、デュエルの世界でも最強だったようだ。
自身の隠された才能に少し驚く。数年前、ステラとデュエルした時、俺が全勝したがあれは俺が強すぎたのかもしれない。
「な、言ったろ?」
アセロラは観客席でほら見ろと言わんばかりに笑っている。
こいつの勘、マジでどうなってるんだ?