そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

44 / 49
41:次元王ハイアール

 ハイアールの野郎は、本当に楽しそうに己の一連の行動の理由を明かした。だけど、聞いている俺はちっとも楽しくはない。

 

 アセロラが声を張りあげる。

「ハイアールッッ!! 自害し―――」

「お黙りなさい」

 魂を吐き出すかのような悲痛な叫びは、そんなハイアールの一言によって中断される。

 

 人形の糸が切れたように、アセロラの身体から力が抜け地面に倒れた。目も虚ろで、正気があるようには見えない。ハイアールは、手元で緋色に輝く筒状の何かを弄んでいる。

 

 距離があり、よくは聞こえなかったが、『魔法殺し』の柄とか呼んでたな。あれでアセロラの内部の『魔法殺し』の刃に干渉し、彼女の身体の自由を奪ったのか?

 

「『契約』の内容は確か、アセロラの言葉には従う、でしたか? 言葉を発するよりも先に自我を奪ってしまえば何のことはない。そもそもあんな『契約』ごときで魔王軍四天王を縛ろうという発想が愚かすぎる」

「―――なあ。もういいか? そろそろ、その口を永遠に閉じて欲しいんだが」

 

 俺はハイアールに問いかけながら、拳を握りしめた。

 こいつのご高説はもう聞き飽きた。姿を視界に入れたくないし、声も聞きたくない。

 

 今まで色んな魔族を見てきた。残酷な奴、馬鹿な奴、むかつく奴、悲しい奴……会った魔族は全員殺してきたが、本当に色々な奴がいた。

 そんな魔族の専門家と言ってもいい俺が、断言してやる。

 

 ハイアール。

 お前は、魔族の中でとびっきり陰湿で最低な奴だ。

 だから―――。

 

「もう少しだけお願いします、人族よ」

「いいや、待たない。お前はもう、死んでろッッ!」

 

 俺は地面を大地を踏み抜き、ハイアールの元まで全力で疾走した。

 クソ魔族の顔面をめがけて、全力で右の拳を振りぬく。ドラゴンの鱗ですらたやすく貫く俺の右ストレートは―――、そのまま空ぶった。

 

「ふははははははは!! 早いですねぇ!! 人族!!」

 いいや、違う。

 確かに俺の攻撃はハイアールにあたった。

 

 それなのに、

「すり抜けただと……!」

 

「私の『次元すり抜け』にはあらゆる攻撃は通用しない! どんな攻撃もすり抜けてしまのです!」

「ネーミングセンス磨いた方が良いぞ!」

 

 俺は再度ハイアールに殴りかかる。

 二度、三度、と攻撃を繰り返すが、そのどれもが無意味だった。

 

 傷1つつかない。

 水に映った月を掬うように、奴の身体をすり抜けてしまう。

 

 ハイアールは俺の攻撃を意にも介さず告げた。

 

「ふむ、3分といったところでしょうか」

「あ?」

「3分でこの町は私の構築した魔法に飲み込まれ、次元の狭間へと消えます。そして、ガイアス王国は滅ぶ!」

「させるかよぉ!!」

 

 詳しい理屈は分からない。

 

 ただ、奴の二つ名である次元王、そして次元すり抜けなんてダサい技名から推測するに、空間そのものを歪めることで俺の拳を回避しているのだろう。

 

 そして。

 

 ハイアールはおもむろに片手を上げた。

 

 ―――それをただ、斜めに振るう。

 

 俺との距離は10メートルは離れているが……、まずいっ!

 全身の毛が殺気立つ。

 

「―――――次元斬(じげんざん)

 

 俺は咄嗟に横に跳躍し、その場から離れた。

 

「っっっ!!」

 

 瞬間、空間が裂けた。

 何の前触れもなく、大地に巨大な亀裂が奔る。

 

 ……亀裂の底はあまりにも深く、底が見えない。棒立ちのまま攻撃を食らっていたら、俺の身体はどうなっていたんだ?

 

 

「よくかわしました! 良い判断です! 空間ごとを切り裂くこの斬撃に防御は意味がありませんからね!!」

 

 言いながら、ハイアールは次元斬を何発も撃ってくる。何が厄介かというと、空間そのものに作用しているせいか、攻撃の起こりと範囲が非常に分かりにくい。奴が手を振る動作に合わせて、勘で何とか避けているが……。

 

「ちィ!!! シンデリカッ!!!」

 俺は相棒に声をかける。

 

「分かってるわ! 魔法が解除できないか試してみる!!」

 

 シンデリカと(スミスたち)が倒れたアセロラに駆けよる。彼女を抱きかかえ、シンデリカはアセロラにかけられた魔法の解析に取り掛かる。

 

「小癪な真似を。次元――」

「お前の相手はこっちだ!」

 

 シンデリカたちに、次元斬を放とうとしたハイアールに向かって俺は蹴りを放ち、間一髪で阻止する。

 ハイアールは俺の蹴りを両手でガードした。衝撃で大地がめり込むが、奴自身には何のダメージも入っちゃいない。

 

 腰が入っていなかったとはいえ、俺の蹴りを受け止めるかよ…! 

 軍団長クラスなら今の一撃で瀕死になっていたぞ。

 

 

 いや、待て。

 なんで、こいつ今わざわざ両手で防御した?

 

 ……なるほど。

 

「次元掴み!」

 ハイアールの両手に次元属性の紫色の魔力が集まり、それを籠手のように纏う。奴の放った貫手で俺の肩が抉れた。鮮血が周囲に舞う。

 

 と、同時に俺はハイアールの顔面目掛けてカウンターの手刀を放っていた。奴の脳天を狙ったその攻撃は、俺の深手により大きく逸れ、ハイアールの頬を掠め小さな傷を作る(・・・・・・・)

 

「私の次元魔法は空間に作用する。どれほど貴方が防御に自信があろうと関係ありません」

「そうか。ところで綺麗な顔面が傷ついてるぞ?」

「なに?」

 

 ハイアールは言われて気付いたのか、自身の頬を手の甲で拭う。確かにこびりついた血痕を目にして、ハイアールは忌々し気に舌打ちする。

 

「お前! 次元跳躍…!」

 

 ハイアールの背後の突如として空間の亀裂が生まれ、奴はその中に飛び込んだ。

「どこにいきやがった!!」

 

「後ろよ、アレイン!!」

 シンデリカの叫び声に咄嗟に後ろを振り向く。

 俺の後方、約5メートルの位置で奴は既に片手を振りかぶっていた。

 

「これはかわせますかっ! 次元斬・格子切り!」

 

 編み格子上に放たれた数十の次元斬が俺に迫る。回避はもはや間に合わない。

 

 

 なら――。

 

「お、おおおおおっ!!!」

 俺は全身の力を片手に乗せ、全身全霊の拳を放つ。

 

 世界最強の俺が放った右ストレートと、魔王軍四天王の魔法が正面からかち合う。

 

 右腕の筋肉が引きちぎれ、切り刻まれる感触。

 

 しかし、俺は確かに生きていた。

 右手はしばらく使い物になりそうにないが…。

 

 ハイアールもこの光景は予想していなかったのか、その顔には流石に驚きが見られた。

 

「なんとっ。次元斬(じげんざん)を打ち破るとは……。信じられない。人族の分際で……」

「呆けてんじゃ、ねえぞ!」

 

 俺はハイアールの腹に蹴りを叩き込む。それをハイアールはバックステップでギリギリ回避する。

 

 やはり、すり抜けは使わなかったな。

 

「次元掴み!」

 

 ハイアールの攻撃に合わせる様に俺は左の拳を放った。

 それもまた回避されるが、その攻撃は確かに奴の肩を掠める。

 

 バキバキと肉と骨を微かに捉えた感覚が拳に伝わってくる。この戦いが始まって、初めてまともなダメージをハイアールに通した。

 

 俺は唇の端を釣りげた。

 

「私に攻撃を通しただと……!」

 

 ハイアールの目が僅かに見開かれる。

 その瞳には間違いなく驚愕の色があった。

 

「やっぱり攻撃の前後は擦り抜けができないみたいだな。 おまけに、大技を放つほど、擦り抜けまでのインターバルは長くなるんだろっ!?」

「……次元すり抜け」

 

 攻撃の後のインターバルが終ったのだろう。ハイアールは俺の攻撃をすり抜けながら、大きく距離をとる。

 

「……………面倒だな。相手をするのが馬鹿馬鹿しい」

 

 そして、ハイアールは俺とは別の方向を見やがった。シンデリカたちの方を。

 

 片手を上げる。攻撃の予備動作。

 

「シンデリカ、避けろ!!!」

 叫んだ俺はハイアールを止めるため、奴に駆け寄った

 

「―――かかりましたね、人族。次元斬」

 そして、ハイアールは再度俺の方向へ向きを変えた。

 

 焦ってあまりにも無防備に近づいた俺の身体を、次元斬による一撃で迎える。

 

 強い衝撃。

 肩口から大きく切り裂かれた。

 

「ぐ、がああああっ!??」

 

 大量の鮮血が舞い、俺は地面に倒れ伏した。

 

 敵を前に倒れる。

 それは俺の人生で初めての経験だった。

 

 「信頼、つながり、仲間の絆……あなたたち人類の弱点です。あなたほどの強者でも判断を誤らせる」

 

「くそ、がっ……!」

「アレイン!!」

 

 シンデリカが俺に駆け寄ろうとする。

「やめろ…! 来るなっ、俺はまだ大丈夫だ……!」

 

ハイアールが指を鳴らすと

「アセロラ、出番ですよ」

「あ、あああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 気を失っていたアセロラは突如叫び出し、シンデリカの腕で暴れ始めた。

 

「アセロラ! 暴れないで! どうしたの!?」

「やめろアセロラ! 俺が分からないのか!」

 

 シンデリカとスミスが呼びかけるが、アセロラは正気を失っているのか、返答はない。

 

 それどころか、その手に黄金の魔力を剣の形に収束させると、それを武器にして彼らに襲いかかり始めた。

 

 その戦い方は酷く荒々しく洗練さとは程遠いが、体内の莫大な魔力のよってか、その攻撃はどこまでも苛烈だった。また、シンデリカもスミス達もアセロラの身体を気遣ってか、攻撃を躊躇している。

 

「仲間同士が…親子同士が戦い合う。悲しくも美しい光景だ」

 心底愉快そうにハイアールは言い、俺を見下ろした。

 

「おや。ずいぶん調子が悪そうですね。さっきまでの威勢はどうしました?」

 

 俺の真正面に立つ。

 断頭台に立つ処刑人の如く、片手を天に掲げた。

 手を振り下ろした先には、俺の首がある。

 

「終わりです。あの女の次くらいには、貴方は私を苛立たせましたよ、人族。さようなら。……次元斬(じげんざん)!」

 

 ―――ちくしょう、が。

 

 いいや。

 俺は、まだ。

 まだ―――。

 

 

 まだ―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 俺は、湖の上に(・・・・)、うつぶせに倒れていた。

 

 

 

 どういう訳か俺は湖の上に浮いていた。ガラスが間に一枚挟まっているかのように、俺の身体は少しも濡れない。水中に沈みこむ様子もない。

 

 湖は青みが強く、星の輝きを受けて輝いていた。底の方には黒い魚影が微かに見える。

 

 星の輝き? 

 

 俺は空を見る。

 ハイアールの発動した魔法の影響で空は紫色に染まっていた筈だ。

 

「――――どうも、アレインくん」

 声の方向に首を傾ける。

 

 

 そこにはあの占い師がいた。

 湖に立つ彼女は、愉快そうに俺を見下ろす。

 

「おや、地面に倒れてまで私の身体の起伏を堪能しようだなんて、中々にあなたも業が深そうな癖をもっていますねぇ。リーリアの端の村で会った村長の息子を思い出します。彼も私の胸ばかりを見ていた」

 

「冤罪だ。間違いなく。……ここは、リーリア湖、だな。湖の岸に見えるのはサイドリーリアか」

 

 30年前の、砂漠に代わる前にありし日のリーリアがここにあった。

 

「………俺の未来を占ってくれないか? 俺はこれからどうなる?」

「それはまだ秘密です」

「なら」

 

 交換条件として、

「………フードを、とってくれないか?」

「良いでしょう」

 

 女は素直にフードを外し、その顔を露にした。

 

 俺は小さく息を吐く。予想に似た顔ではあった。

 しかし、そこにはやはり驚きがあった。

 

 真っ赤な髪。

 漆黒の瞳。

 

「やっぱり、お前だったんだな。時詠みの賢者サルモア」

 

 年齢は俺が知る彼女より10は上だが―――。

 

 

「それともこう呼んだ方がいいか。……アセロラ(・・・・)?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。