そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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43:ただの最強だ!!

 ―――少年は戦っていた。

 

 ある時は一人だった。ある時はその腕に血だらけの女性を抱えていた。ある時は神々しい剣を無理に振るっていた。

 

 仲間の一人に裏切られ、その立場を追放されたこともあった。エルフの美しい王女と出会い、共に悲しい魔族と戦っていた。

 

 エルフの都を救い、王女と旅に出た彼の世界は少しずつ色づいていく。冒険者としてズタ袋を被って、巨大な漆黒のスライムと戦うこともあった。エルフの王女の手助けの元、町を脅かす魔族を討ち果たした。

 

 そして、砂漠の町に彼は向かう。

 犯罪が跋扈する、まるでサルモアの故郷のようなその町の底で、彼は銀髪の魔族と戦っていた。

 

 サルモアを夢で震え上がらせた魔族に対し、一歩も引かずに渡り合う。

 

 少年は、どこまでも強く。

 故にその背中は、あまりにも寂し気だ。

 

 誰といても、彼は本質的には孤独であった。

 人間と言う枠の外に、半歩どころか、気が遠くなるほどの距離をはみ出た存在。

 

 それを悲しいという人もいるのだろう。

 哀れと思う人だっているのかもしれない。

 

 だけど。

 

 サルモアはその背中を頼もしく思えた。

 その拳に賭けてみたいと感じた。

 

 名前も知らない。

 顔も朧げだ。会話も交わしたことすらない。

 

 だけど。

 私は一人じゃなかった。

 

 道の果てには、あなたがいる。

 それを道しるべに、もう一度立ち上がってみる。

 

 ―――それを私は勇気と呼ぶことにした。

 

 

 

 私たちの戦いの結末なんて、最初から分かりきっている。勝てるわけがない。

 

 でも、だけど。

 私たちの死の意味は、必ずあなたが与えてくれる。

 

 

 殺戮と死と悲劇の荒野で無限に続く列の果て。その最後尾にあなたが立つ。

 

 あなたの先には何もない。

 魔族が齎したあらゆる殺戮と死と悲劇は、あなたの拳が粉砕する。

 

 それを、私は救いと定める。

 

 人はそれを諦観と呼ぶのかもしれない。自分の世代で勝つことを諦めた敗者の論理だと。そんなのただの思考停止だと、糾弾する人もいるかもしれない。

 

 だけど、確かに嬉しかったのだ。

 気が楽になったのだ。

 報われた気がしたのだ。

 

 自分たちの存在は無駄じゃないと教えてくれて。

 

 スタンドールの戦いも、師匠の傷も、グランの死も…。

 数多の名前も覚えていない人々の悲劇すらも、すべてはあなたに繋がっているのだと、分かって。

 

 私だけが、頑張らなくていい。

 あとは、あなたに任せていいのだと、そう言ってくれた気がしたのだ。

 

 

 だから。

 

 だから。

 

 ―――私は、全てを背負う(・・・・・)ことを決めた。

 

 私は戦った。

 あらゆる土地で、魔族と激突する。

 

 その度に私の名声は高まっていく。

 つまり、私の言葉で死に向かう人々が増えていくということだ。人でなしに一歩近づくたびに、世界を救えた気がした。

 

 夜を経るごとに、夢で見る未来視も更に鮮明になっていく。

 分かることも増えていく。

 

 剣の名前は『魔法殺し』。 

 魔族の名前はハイアール。

 あなたの名前はアレイン……くん。

 

 ………決戦地の地は、リーリア湿地のリーリア湖。

 

 私を命の恩人と慕い、私の命令なら疑問すら持たずに従う忠実な部下たち。

 各地を救った対価で得た金や財宝で雇った名のある冒険者たち。

 

 彼らと共にリーリア湖に向かう。

 相手は強敵だとは言ってあるが、魔王軍四天王だとは教えていない。

 

 それを言うと離脱者が多数出て、未来へと繋がらないと時詠みで出たからだ。少なくとも、このガイアス王国が滅ぶことは防がなければ。

 

 そのためには私は自分と部下と兵士たちの命を使い潰すし、リーリア湿地が砂漠へと変わることを許容する。

 

 そこで生まれる沢山の悲劇から目を逸らして、そうしてようやくハイアールの企みの一端を打ち崩せる。それでも計画の全てを壊すことはできない。

 

 私では逆立ちしたってハイアールは倒せない。

 それは私の役目じゃない。アレインくんの役目だ。

 

 ……そう自身に言い訳しながら、私はハイアールに殺されていく仲間達を見ていた。

 

 私に助けを求め無慈悲にも無視される声。

 果敢にもハイアールに挑む勇ましい声。

 それらすべてを魂に刻みつけながら、ただ、ただ、時を待つ。

 

 仲間の最後の一人が絶命した瞬間、私は『魔法殺し』をハイアールから奪い取ることに成功する。

 

 

 しかし、私の身体も無事ではすまない。

 ハイアールの攻撃で、瀕死の重傷を負う。腕を飛ばされ、心臓を潰され、私の死は決定づけられた。

 

 蓮華の花のように、無数の死体が真っ赤な花を咲かせるリーリア湖に、私の身体も落ちていく―――。

 

 ああ、痛い。

 

 ああ、これが死か。

 

 

 

 そして、

 

「これで、終わり。私の物語はここで終幕です。死の数瞬前に見た夢。それがあなたで、私です」

 

 一連の物語をアレインは見ていた。

 一人の女性のあまりにも悲しく報われない物語を。

 

 『過去』を背負い。『今』を生き。ただ『未来』に翻弄されたサルモアの人生に、流石の彼でも言葉がしばらく出ない。

 

 ややあって彼は唇を開いた。

 

「……お前は今、戦っているんだな。リーリア湖で、ハイアールと」

 

「ハイアールはリーリア湖の底に眠っていた『魔法殺し』に目をつけました。女神が造ったとされる人知を超える『神器』。それを更に暴走させ、リーリアの魔力を吸い取り、それを用いて甚大な被害を齎そうと画策していました」

 

「それを止めるためにお前は戦った」

 

「全ては決まっていたことです。多くの犠牲を出しながらも、魔法の発動する寸前で私は『魔法殺し』を奪取します。しかし、魔法の完全な阻止はできなかった。魔力の吸収は既に始まっていました。『魔法殺し』の中にも既に人の身には余る魔力が蓄えられていました。それを使い―――」

 

「お前はここで未来を見ていたのか。ずっと」

 

「はい。ハイアールと最後の戦いを繰り広げる直前。命が消える数舜前の時間を無限に引き延ばし、私はただひたすらに未来を観測していました。本来なら数十年先をこんなにも鮮明に見通すことはできはしません。……皮肉ですね、全てが終わり決定しまった今だからこそ、色々なことが分かる」

 

 サルモアは笑った。 

 その美しい幻想の笑みが、現実の彼女と重なる。

 

 現実の彼女は、腕を飛ばされ、心臓を潰され、絶対に助からない。

 死の『未来』は絶対に確定しており、それは覆せない。

 

 それなのに、サルモアは笑っていた。

 あなたと会えて本当に嬉しかった、と笑みを浮かべていたのだ。

 

「最期の数瞬をあなたと過ごしたかった。話したかった。聞きたいことがたくさんあった。私のことを知って欲しかった。サルモアという、自分の壮大な自殺に全てを巻き込んだ愚かな女がいたことを」

 

「愚か、なんかじゃないだろう……! 自殺なんかじゃない。それしか道はなかった。お前は必死に生きたじゃないか! 糞みたいな運命に晒されて、それでも自分にできることを探して、やり遂げただろうが…!」

 

「ありがとうございます。アレインくん。その言葉で少しだけ、救われた気がします」

 

 それからは俺はサルモアと少し話をした。

 

 とうでもいい、何でもない会話。

 

 或いは、これまでの人生について。或いは、死と平和と救いについて。それはほんの数分間のことであったし、或いは無限に引き延ばされた永遠のようだった。

 

 そして別れの時は訪れる。

 サルモアは告げた。

 

「私はこれから『魔法殺し』を武器にハイアールと戦い、撃退し、結果としてリーリアは砂漠と化します」

 

「そして、お前はアセロラになる……、のか?」

 

「ハイアールと戦うにあたって私は『神器』と一体になりました。私は『魔法殺し』となり、『魔法殺し』は私になった。或いは、これこそが『神器』の本来の使い方なのかもしれません。……私は振るった一撃の反動で、その身を文字道理粉々に崩壊させました。死よりも酷い状況です」

 

 しかし、

 

「『魔法殺し』は刃と柄で分かたれながらも生きていた。吸収した魔力を使いながら、私の肉体はゆっくりと再構成されていきました。十数年かけて。そして私は赤子になり、アセロラになった」

 

「それが真実か。……ハイアールがあそこまでアセロラを弄んだのは、アセロラがお前の生まれ変わりのような存在だからか?」

 

「ええ、そうでしょうね。彼にとって私程目障りだった存在はいないでしょうから」

 

 アレインが知りたいことは全て知れた。

 それで彼が満足したわけではなかったが。余りに報われなかったし、哀しかった。

 

「そろそろお開きにしましょう。長い時間をつき合わせてしまい申し訳ございませんでした。また、最初は色々と煙に巻くような失礼なことを言いましたね。あれでも一応緊張していたのですよ。どう話そう、なんて声をかけよう、と柄にもなく考え込んでしまった結果があれです。私の方がずっと年上のなのに、恥ずかしいことです」

 

「いいや、あの会話も今思えばそこそこ楽しかった」

 

「ありがとうございます。思い残すことは数えきれないほどありますが、それでも私は往きます。ここに連なる全ての犠牲に報いるため、ここから始まる数多の死者に詫びる為。そして殺戮の荒野の最果てに立つ、あなたへの道を繋げるため」

 

「…………」

 

 ここまでの想いと献身を期待を受けておきながら。結局、アレインはサルモアには何もしてやれない。

 

 サルモアはどこまでいっても過去の人であり、その結末はとうに決まっている。現代でアレインがアセロラと出会ったということは、過去はもう絶対に変えられないのだ。

 

 

「サルモア……すま」

「謝る必要は全くありません」

 

 サルモアは片手を虚空へと突き出した。

 

 

 ………そこに握られていたのは一本の剣。

 

 刃は黄金、柄は緋色。

 今回の事件の中心にあった剣。銘は『魔法殺し』。

 

 いつの間にか手にあったその剣の感触を確かめる様に、ひゅんと彼女は軽く振るう。

 

 彼女の身体は、気付けばボロボロになっていた。片腕はなく、胸には大穴が空き、白いローブは真っ赤に染まっている。

 

 正しく満身創痍。死の数秒前。

 

「そして、最初から決めていたことですが―――」

 

 少女はかつて。

 ―――救いについて考えた。

 

 答えはすぐに出た。

 

「『助けて』なんて、言いません。絶対に」

 

 そんなものは、求めていない。

 その資格も、ない。

 

「……あなたが救うべき人々と世界は、あなたの眼前に広がっている。背後に……過去にではない」

 

 瞬間、世界も切り替わった。

 

「ただ、全てが終った後に一言褒めてくれると、嬉しいです」

 

 地獄があった。

 

 美しい湖に咲く真っ赤な花たち。

 それは命の残滓であった。誰も生きていない。

 

 ハイアールとサルモア以外。

 そしてサルモアも、もうすぐ力尽きる。

 

「ハイアール……」

「さあ、お行きなさい。あなたの世界を救うのです。あなたは、まだ何も終わってはいない」

 

 その魔族は現代で見た姿と全く変わっていなかった。

 

 この世界はサルモアが死の直前に見た夢のようなものであるため、ハイアールの動きは完全に停止している。サルモアに『魔法殺し』を奪われたことにより、その顔は激昂と驚愕に染まっていた。

 

 アレインはハイアールのその顔をみていると、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 

 お前がいなければ、リーリア湿地が砂漠に変わることはなかった。

 アセロラが、スミスが、サルモアが、ここまで苦しむことはなかった。

 

 多くの人が死に、それ以上の人々が喪失に苦しむことはなかったのだ。

 

 ずんずんと大股で、アレインはハイアールの元まで歩いていく。

 その姿にサルモアは焦ったような声を上げた。

 

「あ、アレインくん? どうしました―――」

「未来で待ってろ。今から俺が殺しにいってやる!」

 

 言いながら、ハイアールの顔面を思いっきりぶん殴る。

 

 ハイアールの身体はまるで石切りの石のように何度も水面をバウンドし、湖の淵にあった大岩に叩きつけられる。

 

「え、えええええ……っ!! ……ふ、ふふふっ!」

 

 最初は小さく。

 やがてそれは大笑いに変わる。

 

「は、あはははははははははははは!! なんで殴れるの!? ここは私の時代で! あなたは私によって過去の映像と音声を見ているだけに過ぎないのに!!」

 

「知るか!! 俺は最強だからな!!」

 

「はいっ! アレインくんは最強ですっっ!!」

 

 ハイアールが空中に浮かびあがり、こちらを凄い形相で睨みつけているのがアレインには見えた。

 

 アレインの視界が少しずつ黒く塗りつぶされる。

 意識が遠のくのをアレインは感じる。体にも力が入らない。

 

 そろそろここらが限界のようだ。

 アレインの意識は今から現代に戻るのだろう。

 

「………頑張れ、サルモア」

 

 サルモアは頷いた。

 怖いだろうに、嫌だろうに、寂しいだろうに、それでも彼女は前を見据えていた。

 

「はいっっ! 頑張ります! あなたも頑張って!!」

 

 それどころか、こちらを応援する余裕さえあった。

 

「どうか未来で―――」

 

 それがサルモアの最期の言葉だった。

 

 アレインの眼前で、サルモアの振るう『魔法殺し』とハイアールの次元斬が交錯する。

 

 世界が明滅した。

 湖が真っ二つに裂けた。

 空に光の柱が立ち上った。

 

 誰も見ていない湖上にて、やがて誰もが忘れる激闘があった。

 

 命の全てを燃やして戦う女がいた。

 

 その後ろ姿を、アレインは生涯忘れない。

 絶対に、忘れない。

 

 

 

 

 そして、彼の意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は自分の意識が覚醒したのを自覚した。

 瞳をすばやく動かし、周囲の状況を確認する。

 

 今まさにハイアールが次元斬を俺に振り下ろそうとしている最中だった。

 

 ああ、俺はやっぱり。

 

 俺は、まだ。

 

 まだ―――。

 まだ―――――――。

 

 お前に、恐怖は微塵も感じられないよ、ハイアール。

 

 俺は素早く飛び起きると、

「ほっぺがまたガラ空きだぞ!!!!!!」

 

 ハイアールの顔面に拳を叩き込む。

 

「ぐ、があああああああああああ!!!!」

 

 地面をゴロゴロと転がりながら飛んでいくハイアール。

 それを見送りながら俺は言った。

 

「30年前も思ったが、お前の顔面って殴りやすいいい形をしてるよな。気持ちいいわ」

 

 ハイアールは吹っ飛ぶ途中で身体を立て直し、自分の足を大地に突き刺してブレーキ代わりにした。

 

 獣のような形相で俺を睨みつける。

 良い男が台無しだ。

 

「演技だったのか! 私をおびき寄せ、近寄らせるための! この私の顔面が人族ごときに殴打されるとは! こんなことは生涯初めての経験だ! 許してはおけぬ!」

 

 そこで、奴の動きが止まった。

 数秒間、呆けたかと思うとわななき始め、震える手で自分の頬を触った。

 

「いいや、違う……! そうだ。私はこの痛みを知っている。30年前にも経験したはずだ。なぜ、なぜ、忘れていたっっ!? 微かにだがっ、思い出した。あのとき、あの湖にはあの女以外にももう一人いたはずだ!」 

 

 どうやら、先ほどの俺の行動が『今』のハイアールにも影響を与えたようだ。

 一体どういう理屈になっているんだろうな。

 

「そうだ、お前だ! お前が私を殴ったのだ! お前はっ、お前は一体何なのだ!?」

 

 俺は吠えた。

 

「俺はアレイン! ただの! 最強だ!!」

 

 そして。

 

 殺戮の荒野の果てに立つ者。

 数多の犠牲は俺に連なり、俺の後ろに悲劇はない。

 

 そう、請こわれた。

 

 だから、

 

「お前の全てを壊しに来た!!!」

 

 さあ、全部終わらせてやる。

 

 

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