そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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44:ふざけた計画の終着点

「もうここまでだ。お前のふざけた計画の終着点はここだよ」

 

「知ったような口を利く。私の頬に拳を当てたからどうした。確かにそれなりに膂力には自信があるようだな、認めよう! だか、私の命にはとても届きはしない!」

 

 ハイアールは言いながら、俺に向かって攻撃を放つ。

「次元斬!」

  

 不可視にして必殺の一撃。

 それを俺はただ横に少し移動するだけで躱した。

 

「言ったはずだ、ここまでだと。もうそれは見飽きた」

「次元斬の範囲を完全に読んでいるのか!? 馬鹿な!?」

 

「最強だからな。それだけ撃たれればいい加減覚える」

 

 俺は大地を蹴る。

 攻撃の直前と直後、奴は次元すり抜けが使えない。

 

 俺は奴の腹にパンチを叩き込んだ。

 ハイアールはそのままバックステップで後方に跳び、俺から距離をとる。

 

「ぐうっ!! ならば、次元弾丸!」

「びびって距離をとったな。四天王の名が泣くぞ?」

 

 矢のように放たれた不可視の魔法の礫を俺は回避しながら距離を詰める。

「なぜ、当たらない! 次元鞭!!」

 空間を削り取る軌道の読みにくい鞭も俺はまた躱す。

 

「どういうことだ!! おかしい、理屈に合わない!」

「いくら品が変わったところで、技を放ってるのはお前一人だハイアール。俺に時間を与えすぎたな。お前の攻撃なんて目を閉じても、もう全部回避できる…! おらァッッ!!」

 

 俺はハイアールの鼻頭めがけてパンチを繰り出す。

 ハイアールは悲鳴をあげた。ボタボタと鼻血を出している。

 

「まだだ!」

「がああああああああああッッ!!?」

 

 俺は身悶えするハイアールに殴打を何度も何度も叩き込む。

 ハイアールは訳が分かないと言いたげに悲鳴を上げた。

 

「ぐはっ! 何故だ! インターバルは終わった! 次元すり抜けは発動しているのに、なぜ貴様の攻撃が私に当たるッ!?」

 

「言ったろ! もう慣れたんだよ!」

 

「ふざけたことを抜かすなァ! 慣れなどで、私の次元すり抜けが破れるか!!」

「実際できてる。俺ならできる。最強だからな!!」

 

 実際、慣れたとしか言いようがない。

 少なくとも、俺にはもう次元すり抜けは通用しない。

 

「アセロラァ!! 何をぐずぐずやっている! 私を助けろ!」

 

 ハイアールは付近でシンデリカたち相手に暴れるアセロラに声をかける。しかしアセロラはシンデリカがうまい具合に魔法でいなしていた。アセロラも自分たちも傷つけさせない絶妙な魔法コントロールだ。流石はエルフの王女だな。

 

「ちいっ! 使えない愚図が!! 仕方ない!!」

 

 ハイアールが手に持っていた『魔法殺し』の柄に魔力を集中させるのがわかった。

「させるか!!」

 

 俺の蹴りをまともに食らいながらも、

 

「ぐうううううッ!! ぐほ、ぐほッ!! は、はははは! やったぞ! 魔法が不完全に終わるのは口惜しいが……!」

 

 『魔法殺し』の柄が不気味に明滅する。同時に空に展開されたハイアールの魔法が何か動きを見せた。紫の空が震え、世界が悲鳴を上げていた。

 

「何をしやがった?」

 

「く、ははははははははははははは! もうお前らは終わりだぁ! アセロラからすべての魔力を吸い取ることはできなかったが! ここら一帯を吹き飛ばすのに十分な魔力は既に頂いている! 死ね!」

 

 中途半端な魔力でもいいから、とにかくぶっ放して俺たちを排除する気か――!

 

「小癪な真似を……」

 

 舌打ちする俺を見て、ハイアールは高笑いする。

 

「諦めろ! もう助からん! 人間に換算すると、50万人ほどの魔力の奔流だぞ! 抗える訳がない! 塵一つ残らず消えるさ! おとなしく死ね! 私だけは次元すり抜けで生き残るがな! 魔法! 次元創造・破滅楽園《ロストパラダイス》!!」

 

「できるさ。俺なら」

 俺は空を見る。今にも落ちてきそうな紫の空を。

 

 あんな魔法、俺が破壊してやる。

 そんな思いを共に拳を握りしめ―――。

 

「……アセロラ?」

 

 俺はその少女が空に剣を振りぬくのを見た。

 

 

 

『このままではあなたの大切な人が皆死んでしまいますよ。良いんですか、それで』

 

 声が聞こえた。

 誰だろう。

 

『私がだれかなんてどうでもいいじゃないですか』

 

 そうかな。

 そんな気がしてきた。いや、本当にいいのかな。

 

『いいんですよ。今は』

 

 何か大事なことを忘れてる気がする。

 

『それはそうなんですが、今はあまり回想シーンに時間を割いている余裕はないんです。不完全とはいえ、ハイアールがあのとんでも魔法を放とうとしているんですから』

 

 いや、でも……。

 

『いいですって、今は……! 後にしてください!』

 

 でもなぁ……。

 

『しつこい!!!』

 

 あ、なんか少し思い出してきたかも。

 私はアセロラ。マフィアのボスにして、かつての名はサルモア。産まれはスラム。母と二人で暮らしていたが、色々あったそこを飛び出した。灼眼の魔女マリアに拾われ―――。

 

『だから今は良いんですって!! カットで! 長いからカットで!』

 

 そうか。

 まあ、アンタがそこまで言うなら……。

 

『はぁ。……それはそうと、あなたはどうしてマフィアのボスになんてなろうと思ったのですか?』

 

 話がいきなり飛んだな。

 それに時間がないんじゃなかったのか。いいのか、こんな話をしていて。

 

『いいんですよ。大事なんです、こういう自分の原点を振り返ることは』

 

 そうか。

 私がマフィアのボスになった理由かぁ。

 そんなの決まっている。流れだよ。流れ。別に面白くもない答えだろ?

 

『本当に? それは過程と結果であって始まりではない。あなたの始まりは何でした?』

 

 始まり?

 始まりは……そうだな。

 

 そうだ。

 私は、冷たい珈琲が飲みたかった。

 

『それだけ?』

 

 いいや。

 それだけじゃない。

 火の車の家計の手助けになりたかった。

 近所の友だちにも少しはマシな食べ物と食べさせてやりたかった。

 

 人の役に立ちたかった。

 自分は他人の助けのお陰で生きているって知っていた…!

 

 だから、受けた恩を返したかった!!

 

『ならば、あなたのすべきことは何ですか? こうやって魔族のいいなりになるのが、すべきこと?』

 

『違う! 違うが……』

 

『大丈夫。ハイアールがいくら魔法であなたを操ろうと、その全てを手中に収めることなんて出来ないはず。だって、「魔法殺し」はずっと貴方の身の内にあった。最早「魔法殺し」とはあなた自身。その使い方はあなたは一番よく知っているはず』

 

 振るったことなんて、一度もないのに?

 

『大丈夫。一度はあります。覚えていないだけで』

 

『一瞬でいいのです。あの魔法が大地に降り注ぐ、その一瞬。その瞬間に刃を振りき、相殺させる。頑張って。まだあなたは大切な人を全て失っていない。まだ、取りかえしがつく』

 

 ああ。

 ああ……!

 やってみるよ…!何とか頑張ってみる!

 

 ありがとう。ええっと。

 

『礼なら不要ですよ。だって、あなた(サルモア)ですから』

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 アセロラが、自身の胸か『魔法殺し』を顕現させ、空に向かって振るうのが見えた。

 

 黄金の『魔法殺し』の魔力の奔流と、大地に向かって落ちてきたハイアールの紫の魔力がぶつかる。

 

 轟音。

 世界が震えた。

 

 その魔力の源泉は同じだ。『魔法殺し』に吸収されたリーリア湿地の魔力。

 ならば、両者が激突して相殺されるのも、当然の結果だったのだろう。

 

 黒い夜に白い星があった。

 紫の不気味な空ではない、本当の夜。ハイアールの魔法はアセロラによって、綺麗に破壊されたのだった。

 

「ば、ばかなァ!!!! こんなことが!! サルモアぁぁぁ!!!!! お前だなぁ! いつもいつも! お前は私の邪魔ばかりする! この私を馬鹿にしやがって!!」

 

 ハイアールはアセロラに向かって唾を吐き捨てんばかりに激昂する。ハイアールに向かって俺は歩を進めた。指の骨をポキポキと鳴らす。

 

「さあ、準備はいいか」

「ひッ!」

 ハイアールは後ずさった。

 

「来るなッ!」

 足をもつれさせ地面に倒れこむ。

 

「来るなッ!!!」

 俺から背を向けながら、うつ伏せで必死に逃げようとする。

 

「くそ、おのれ! 私は魔族だぞ! その頂点、魔王軍四天王の次元王ハイアールだぞ! それがこんなところで!」

 

 当然逃がしはしない。

 お前の計画は無事に終着を迎えた。

 

 

 そして、お前の命もこれで終わる。

 頭に向かって、全力で、拳を振り下ろす。

 

「これで、全部、終わりだ!!!!!!!!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 あまりの衝撃に大地が裂け、サイドリーリアが揺れた。

 

 そこにはもう、頭部を失った魔族の死体があるだけだった。

 体の端はもうポロポロと崩れ始めていた。

 

 こうして俺は魔王軍四天王の一人を討伐したのだった。

 

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