そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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45:助けて、と言えるまで

 

 ハイアールの亡骸はどういう理屈か塵と化し、空気に溶けていった。

 そこに残ったのは、『魔法殺し』の(つか)

 

 ……これ、一応アセロラに渡した方が良いよな? 

 刃と柄はセットだろうし。

 

 俺は緋色の柄に手を伸ばすが、

 

「私は魔王軍四天王だ。ただでは死なん……。暴れろ、アセロラ。命ある限り…。くは、くはははは! くははははは……」

 

 そんなハイアールの言葉が聞こえると、柄は粉々に砕け散った。微かに残っていたハイアールの気配はこれで完全に消えた。本当に奴は死んだのだろう。

 

 とはいえ。

 

 マジか。

 ………マジか。

 

(ここからです)

 

 サルモア?

 声に驚いて、周りを見渡すが彼女の姿は見えない。

 

(私が見たのは――――ここまで。ここが時詠みの果ての終着点。ここからの未来はあなたの手に委ねられた)

 

 ……ああ。分かったよ。任せろ。

 どうやらもう一仕事、しなくちゃいけないようだ。

 

「アレイン、やったのね! 凄い! 凄いわ! 四天王を倒すなんて!」

 

 ハイアールが死んだことでアセロラの動きも止まったのだろう。

 シンデリカが喜びの声を上げた。

 

「いいや。ここからだ。アセロラから離れろ、シンデリカ!」

「え、どういうこと!?」

「ハイアールの野郎、最後に置き土産を残していきやがった」

 俺は吐き捨てる。

 最後まで迷惑な奴だ。

 

「アレインの言う通りだ、私から皆離れろ!」

 

 意識は取り戻したアセロラが叫んだ。

 その手に携えられた『魔法殺し』の刃が禍々しく輝く。それを振るうと、周囲一帯の大地が魔力の衝撃波で抉れていく。

 

「すまん、制御が効かないッッ!! 身体が勝手に!」

「っ! アイスシールド!」

 

 迫りくる衝撃波に対して、シンデリカは氷の盾を形成することで対処した。

 

 アセロラがシンデリカは距離を詰める。『魔法殺し』をアイスシールドに叩きつけると、一瞬で氷の盾は霧散した。魔法を吸収したのだ。

 

「魔法が! これが『魔法殺し』の力!」

 

 防御を剝がされたシンデリカに斬撃が届く直前。

「俺が止める! 皆は下がってろ!」

 

 俺はシンデリカたちとアセロラの間に割り込む。

 『魔法殺し』の一撃を正面から受け止め、その刃を掴む。

 

「あつッ!!」

 ジュウ!という音と肉が焦げ付く匂い。 『魔法殺し』が纏う魔力で俺の掌の皮膚が焼けたのだ。

 

「すまん、アレインっ」

「気にするな! これくらい数分もあれば治る!」

 

 とはいえ状況はあまりよろしくないな。

 ハイアール戦で無理をしすぎたな。流石に連戦はキツイ。微妙に身体に力が入らない。俺とアセロラは膠着状態になる。

 

「ぐうッッ!!」

 

「もういい私を見捨てろ! どうせ魔力も大して残ってない! 放っておけば、魔力を全て絞り出して私は終わる!」

 

 その言葉を聞いたスミスが言う。

 

「終わるって、つまりどういうことだ! お前は助かるのか、アセロラ!」

 

「……いいえ、それは違うわ…! 体内の魔力が完全になくなれば人は生きていけない…!」

 

 シンデリカが首を振った。

 魔法に詳しい彼女には、結末がもう見えているのだろう。

 

 スミスは愕然として、

 

「だめだ! それは絶対にだめだ! もう二度と、娘を失ってたまるか! 俺は絶対に諦めないぞ! 死んでも諦めない!」

 

「父さん……!」

 

 黒ウミヘビの幹部たち、トムとマルソーも続く。

 

「そうっすよ! 何が何なのか、正直俺はよくわかってないっす! だから、ちゃんと後で説明してもらわないと! それとアセロラ姉さんを叱らないと! 何でも背負いすぎっすよ! もっと周りを頼ってほしいっす! 俺の方が実は年上なんですから!」

 

「その通りだ、アセロラさん……! アセロラさんが全てを背負う必要はない。……責任なんて、どこにもないんだ…。俺たちは一人の生きた人間だ…」

 

 そこでトムは苦笑した。

 

「まあ、俺たちが不甲斐ないせいもあるでしょうけどね!」

「反省だ……、だからこれから変わっていかねば……」

 

 スミスが続く。

 

「ああ。俺は情けない流されるだけの父親だった。いつもそうだ。お前がマフィアに入れられた時も、何もできなかった。……そんな父親の更に情けない言葉を聞いてくれ。 アセロラ! お前が大切だ! お前は俺のっ…、全部を失った俺の希望の光だった! お前がいないと俺の人生は辛すぎる!」

「父さん……」

 

 声を張りあげて、一人の父親は叫んだ。

 

「それと!! 孫の顔とは見たいとはまだ言わん! だが、せめて花嫁衣装は見せてくれ! 黒じゃないぞ! もうお前の黒衣装はスーツで見飽きた! 白い花嫁衣装が父さんはいいと思うな!」

 

 スミスの言葉にアセロラは激昂した。

「知るかスミス!! 恋人もいないわ!!!!!」

 

 こめかみに青筋すら浮かべている。

 彼氏関係は地雷ワードだったようだ。呼び方も父さんから呼び捨てになっていた。

 

「お前もいい歳なんだ! 彼氏の一人や二人はつくれ! いや、作って欲しくない気持ちもかなりあるが、流石に浮いた話が無さ過ぎて心配になってきたぞ! 仕事ばかりにかまけてないで、たまには――」

「うるさい! 放っておいてくれ! 私の彼氏事情は!」

 

 トムが可笑しそうに囃し立てる。

 

「俺も姉さんの結婚式には行きたいっす! 余興とか滅茶苦茶しますよ! なあ、相棒!」

「うむ……漫才をしよう。俺がボケ。トムが突っ込みだ」

 

「お前らまで何を言っている! 真面目にやれ、真面目に!!」

 

 傍らのシンデリカが笑い出す。

 

「あははははははははは!」

「笑うなシンデリカ!!」

 

「く、くく……」

「アレイン、お前まで……!」

 

 すまん。

 あまりにも、少し前のシリアスな雰囲気とのギャップがひどくてな。

 

 だけど、これも俺たちらしいといえば、らしい。

 俺は刃を握りこみアセロラの動きを止めたまま、彼女に問いかける。

 

「で、どうするアセロラ? このまま自分が死ぬまで一人で魔力を足れ流し続けるか? それとも悲劇のヒロインぶって、私を殺して! なんて言うか?」

 

「いいや、もうそんな空気じゃないだろ……。まったく、お前らは……全く!」

 

 ああ、本当にな。

 

「………いいのか? 私は何をしたのか、何となく分かったよ」

 

 おや。

「思い出したのか? サルモアの記憶を」

「少しは。舞台の脚本を読んでるような感覚でいまいち自分の記憶とは思えないが。だが、アンタは知ってるだろ? 私が何をしたか」

 

「気にするなよ。お前に責任はない。あれはどうしようもなかった。そもそも時詠みなんてのは、人の手には余るんだろうな」

 

 それに、

「……お前は本当はどうしたいのかは、とっくに決まってるだろ。ここにいる奴らの意見も分かりきってる。だろ?」

 

 俺は背後を振り向いた。

 スミスが頷く。

 

「帰ってこい、アセロラ。お前が誰なのか、何なのか、何をやったのか、なんて関係ない。俺たちはお前に生きてほしい」

 

 ほら、

「だってよ」

 俺はにっこり笑う。

 

「ああ。馬鹿な奴らだ。だが、本当に私は恵まれている」

 

 アセロラも笑った。

 サルモアとよく似た笑み。

 だけど、そこにサルモアが持っていた寂しさはなかった。

 

 

 

 

 

 

「――――頼む、アレイン。どうか私を『助けて』くれ」

 

 

「勿論」

 

 その言葉を待っていた。

 

 『彼女』がその言葉を言うまで。何十年もの時間がかかってしまった。

 でも、やっとアセロラ(サルモア)は自分で自分を許せたのだ。生きてもいい、と自分に言えたのだ。

 

 それはかつてのサルモアを救うことにはならないのかもしれないけど。

 サルモアにとっても、小さな救いになると信じたい。

 

「シンデリカ、これ折っても大丈夫か?」

「ええ、多分。それで暴走は止まる。『魔法殺し』の機能は大きく損なわれるけど、それでアセロラは助かるはず!」

 

 ならいい。

 俺の体力も、こうしてる内に大分戻ってきた。ハイアールにやられて傷も大体塞がった。今なら、壊せる。

 

「四天王の次は女神の作った『神器』か。人の手には破壊不能とか聖教では言ってたっけ…」

 

 両手で『魔法殺し』の刃を強く、強く、握りこむ。

 魔力によって更に肉が焼け、刃によって血が流れた。

 

 だが別に痛くない。

 いや、痛いのは痛いが……何てことはない。

 

 ステラを前に、サルモアを前に―――何もできなかった時の心の痛みに比べれば、こんな痛みはあってないようなもんだ。

 

「いいさ。俺はどうせ、壊すことしかできない」

 

 そのおかげで、助けることのできる命だってある。

 

「いくらでも俺は壊してやる! 何だって!!!」

 

 力を籠める。

 バキバキバキと、甲高い音が響いた。

 俺は『魔法殺し』を圧し折った。

 

 光があった。

 光の粒子があった。へし折れ、大地に落ちた刀身は眩い魔力の光となって、周囲を満たした。美しい光景だった。

 

 アセロラの手元にあるのは、半分となった『魔法殺し』。その機能の大部分は失われ、そして彼女の暴走は止まった。

 

「アセロラ!!」

「父さん!!」

 

 親子は抱き合う。

 それを見ながら、俺はようやくこのサイドリーリアでの事件がひとまずの終わりを迎えたことを確信した。

 

 

 

 

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