そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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46:サイドリーリアの片隅のカフェテリアにて

数日後。

 俺はサイドリーリアの片隅にあるカフェテリアに来ていた。

 

 俺とシンデリカはテーブル席に並んで座り珈琲を楽しむ。シンデリカの口に珈琲はあわなかったようで、「苦い」と顔を顰めていたが。

 

 暫く待っていると、アセロラが俺たちの対面に座った。相変わらず黒いスーツを着ている。ただ、ネクタイの色が黒から白に変わっていた。

 

「よお。久しぶりだな、アンタら」

「昨日会っただろう」

「まぁそうだが。だが、ここ最近がバタバタしていてアンタらとちゃんと話す時間はとれなかっただろう?」

 

 まあ、そうだな。

 あれから大変だった。いや、俺とシンデリカは別に大変じゃないが、アセロラたち黒ウミヘビの奴らがな。

 

 何せ一連の事件を解決して一息つく暇もなく、市長としての業務の引継ぎを行わなければならなかったのだから。

 

 また、アセロラが市長になったことで黒ウミヘビ・赤狐・青虎の3大マフィアの勢力の趨向も変わったと聞く。彼女は他のマフィアのボス達と連日夜遅くまで会談しているらしい。

 

「あぁ、私は冷たい珈琲を。シロップをたくさん入れてくれ」

 アセロラはメニューから俺たちの方に視線を移す。

 

「で、どうだ? 調査の結果は」

 

 俺たちはここ数日、アセロラに頼まれて、今回の事件が完全に収束したかを調べていた。俺たち、というかほぼシンデリカが頑張ったんだが。

 

 だって、俺は魔法なんてロクに使えないし。

 

「この土地にあったハイアールの魔法は完全に消えたわ。砂漠化はもう進まない。このサイドリーリアが元の風景を取り戻すには、エルフにとっても気が遠くなる時が必要でしょう

 

 少なくとも、俺たちが生きているうちはこのリーリアは砂漠のままだ。

 

 まぁ、これまでも何だかんだこの過酷な土地で人々はしぶとく生きてこれた。これからもそうだろう。

 

「それと貴女の中にある『魔法殺し』は能力の多くが失われてしまったみたい。土地からの魔力の吸収も今は止まってる。そもそも私たちの知ってる『魔法殺し』はハイアールが無理に暴走させたものだから、本当はそこまで危険性はないんだと思う」

 

「……あれ以来こいつの存在をちゃんと感じ取れるようになった。こんな風に出たり消したりもできるようになったんだ」

 

 アセロラの掌が輝く。

 そこには『魔法殺し』が握られていた。

 

「剣ってより、ナイフだな」

「アンタに折られたからな」

 

 黄金の剣は真ん中で真っ二つに折れており、長さは元の半分くらいになっていた。

 

 ナイフや短剣のようにも見える。剣の持ち手に当たる部分にはケガをしないように布がぐるぐる巻かれていた。柄の代わりだろう。

 

「多分シンデリカの言ってることは正しいよ。こいつはもう土地からの魔力は吸えない。制御に必要だった柄もないから、魔力も外に放出できないだろう。刃に触れた魔法を打ち消しすくらいは可能だろうが」

 

「とはいえそれでも破格の武器であることに変わりないわ。流石『神器』ね」

 

 確かにな。

 魔族の魔法とかも消滅させることはできるんだろうか。それが可能ならば、魔族との戦いにおいて、あの短剣はとてつもない切り札になる。

 

 アセロラは『魔法殺し』を体内に戻しながら、

 

「何となく分かるんだ。私は『魔法殺し』だから。私たちは完全に溶け合って、多分もう別れることはない。私が死ぬまでは、な」

 

 

 それはそうと、

「話をぶった切って悪いが、とりあえずアップルパイ食べていいか? メニューに載ってた」

「あ、ああ」

 アセロラは頷く。

 

「お前らの分も注文しておく。好きだろ、アップルパイ?」

「……まぁ、普通だ」

 

「またまたぁ~~! 本当は好きなんだろ?」

 

「なんだこいつ」

「ちょくちょくテンションはおかしくなるのよ、アレインは。特にアップルパイのことになると」

 

「お前も大分変わってるぞ。つまり似た者どうしなんだな、アンタらは」

「ふふっ…! 当然よ! 私とアレインは相棒なのだから!」

 

 

「相棒か……」

 

 どこか浮かない表情でアセロラは呟いた。

 どうしたのだろう。

 

 ああ、そういえば。

 俺もアセロラに聞きたいことがあるんだった。

 

「お前の中の『魔法殺し』については分かったけど、結局お前の中の記憶とかどうなってるんだ? サルモアの記憶が蘇ったとか前言ってたが」

 

 彼女は首を振って、

「殆どは思い出してないよ。サルモアの印象に残ってるエピソードだけだ。思い出せた記憶も正直、自分ごととしては余り思えない。サルモアの人生って演劇を見た気分だな」

 

 そうか……。

 だが、サルモアの人生は壮絶だ。

 

 彼女の記憶を完全に思い出すとアセロラの余計な重荷になってしまうかもしれない。アセロラの人格が上書きされる可能性だってある。

 

 だからアセロラがサルモアと自分は別人だと割り切ったことは良かったと思う。

 

 でも、やっぱり少しだけ寂しいな。

 あの湖上で共に過ごした彼女と、俺はもう会えないのだ。

 

「ただ、サルモアって人が私になる前の私だってことは理解してる。必死に自分の人生を生き抜いた人だってことも。サルモアのお陰で私はこうして今生きている」

 

 だから、と続ける。

「私も彼女の人生に恥じない生き方をしたい」

 

 そうか。

 ……そうか。

 

 俺の顔がほころぶ。

 

 サルモアが生きた『過去』が『今』に繋がっているのだと分かったからだ。

 

「で、お前はこれからどうする?」

 

 俺はアセロラに尋ねた。

 

「私は――――――」

 

 

 数秒の沈黙の後。

 アセロラは、はっきりと答えた。

 

 

 

 

「私は、この町に残るよ」

 

「決めたんだな?」

 

「ああ。私はここでやることがたくさんある。父さんのことも放っておけないしな。あの人は別に町の外に行って好きなことをして良いと言ってたが……」

 

 その眼には決意があった。

 

「私はこの町を変える」

 

 でも、と小さく首を振る。

「いきなりは無理だ。サイドーリアは30年かけてこんな風になってしまったんだし。ただ、私は私にできることをしていこうと思う。……私はサイドリーリアを、悲しい思いをする人が少しでも減る町にしていきたい」

 

 いい決意だ。

 そんな風になったら、どんなに素敵か。

 

「もう、『全部』を取り戻すなんてやめた」

 

 アセロラは苦笑いする。

 

「流石に懲りたよ。一息に全てを解決しようとたのが間違いだった。だから魔族なんかに騙された。アンタらにも色々迷惑をかけた」

 

「気にしないで! アレインは世界を救う男だもの!」

 その通り。

 

「……結局マフィア連中が欲しいのは金だ。金さえ貰って特権階級の暮らしさえできれば、奴らはそれで満足なんだよ。それにスラムができるのも、ものすごく大雑把に言えば金の巡りが悪いからだ。この町は人の数に対して仕事の数が足りなくて、生きるための必要な金を稼ぐ手段がないんだ」

 

「なるほど」

 この町の状況を冷静に分析しているんだな。

 

「私はこの町を正しい方向で発展させる。それが私のやるべきことだ。ここじゃないどこかには逃げ出さない。私の住みやすい町は私が造る。多分、色々も失敗もするだろうが―――」

 

 それでも、

 

「都合のいい幻想なんかには頼らない。私は今を生きていく。それがきっと、理想の未来を紡いでいくんだ」

「ああ、そうだな」

 

 頑張れ、アセロラ。

 

「アセロラ。そろそろ、時間だぞ」

 声の方を向くと、スミスやトム、マルソーといった黒ウミヘビのマフィアがずらっと揃っていた。

 

 威圧感が凄いな。堅気には見えない。アセロラが市長になったということは、こいつらもこれから町の要職に就くんだろうか。

 

「悪いな、これから新しい市長としての演説があるんだ。はっきり言って殆どの市民は私に期待しちゃいないだろう。だが、この町を少しずつ変えていくという思いを皆に伝えたいと思う」

 

「他のマフィアの反感を買いすぎないように気をつけろよ」

「そこは抜かりないさ」

 

 俺たちは椅子から立ち上がった。

 今更だけど、アセロラの背は低いな。俺の胸あたりに頭がくる。今やっと気づいた。

 

 アセロラが一歩俺に一歩近づく。

 つま先立ちになり、鼻と鼻が触れそうになりそうな距離となる。

 

「アセロラ?」

 彼女の黒曜石のような瞳が俺の目を見ていた。

 まるで、俺の顔を頭に焼き付けるかのように。

 

 数秒間の沈黙。

 

 ややあって、彼女はつま先立ちをやめる。

 

 ……なんだったんだ?

 

 そして、彼女は告げる。

 

「アレインくん。私には見えました。この世界屈指の美女が断言します。未来であなたは、魔王を倒し世界を救うでしょう」

 

 それは時詠みの賢者の言葉。

 

「………なんてな」

 おどけたようにアセロラは肩をすくめる。顔が少し赤くなっている。

 

「私には似合わないか…! 私はサルモアほど美人じゃないし、胸もデカくないしな。ははっ…」

「そんなことない。なぜ笑うんだい?アセロラはとても美人だよ?」

「っっ———!!」

「アレイン!!」

 

 シンデリカは俺の肩をポカポカ殴ってきた。なんでだよ。なんかアセロラの顔は更に赤くなるし。

 

「なんだ。確かお前砂漠の村で女性は褒めろとか言ってなかったか?」

「ファッションを褒めろって言ったの、あれは! そして私を褒めてほしいの!」

「よく分からんが、分かった」

「まったく! シンデリカ! アンタ、ロクでもない奴と旅してるな!」

「アレインはいい奴よ! でもロクでもないのは否定しない…!」

 

 だから何でだよ。

 

「くくくっ、あはは!」

 

 アセロラがそんな俺たちを見て笑った。

 俺たちもなんだか、笑った。

 

 さて、と。

 いい加減、スミス達がお待ちかねだ。別れる前に俺はもう一度アセロラに尋ねる。

 

 

 

「―――アセロラ。俺は世界を救えるか?」

 

 

「ああ、きっと、必ず」

 彼女は、力強く、頷く。

 

 『きっと。必ず』か。アセロラの時詠みはサルモアに比べて不完全だ。

 

 そもそもサルモアの時詠みだって、何年も後の出来事は正確には視ることはできかった。だから、アセロラが未来の俺の姿を予知した意味は―――。

 

「そうか」

 

 

「――――じゃあ、そんな未来をお前に見せてやる」

 

 さあ、旅の続きを始めよう。

 

 

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