一般通過農民の不運   作:トマトは後ろから呼んでもトマト

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育成ゲームやってて思いつきました。
第一話はヤンデレ要素は(ないです)

色々な作品からインスピレーションをもらって作りました。
これなんか『~~~~』って作品と似てるな~って思ったら、多分それがモチーフ元です。
無能な私には0から1は産み出せない…。無能な私を許してクレメンス。




第一話

あるところに、一人の男が住んでいた。

その男は山奥にある過疎地に産まれ、親から受け継いだ畑を耕して生計を立てていました。

これはそんな男が、ひょんなことから面倒ごとに巻き込まれるだけのお話。

 

 

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男はいつも通り、数時間ほどかけて山を下る。

この生活を生まれてこの方続けている男にとっては、苦でもないことである。

 

なにやら巷では自動車というものが普及し始めたらしいが、生憎男が住んでいる地域では、軍が整備した一部の地域を除いて道路整理すらされていないし、その自動車の燃料となる物が売っている場所もない。

ガスに至っては自分で注文して運ばないといけない。

 

いまだに男が住んでいる地域では作物を売り、薪をくべて暖を取るようなストーブが当たり前の環境だった。

当然そんな環境なので、電気もそこまで普及していない。多少普及してはいたが、そこまでじゃんじゃん使えるものでもない。

唯一鉄道だけは通っているが運賃は高いし、遠くまでしか行かないしで、普段使いなんて全くできなかった。

 

せいぜい出稼ぎに行く若者か、この町から出ていく決意をした者たちが利用する程度だろう。

 

 

学校だって高校どころか中学までしかないし、医者も土日は休み、娯楽なんてほとんどない。

同年代の人たちはみな首都や外の街に出稼ぎか勉強をしに行ってしまった。

 

男は親の都合もあったし、そこまでのやる気がなかったから行かなかったが。

 

この国の首都にはこことは見違えるような景色が広がっていて、ここよりも数十年先の近代都市が広がっていると風説では聞く。しかし、男にはそこまで行く金も気力もなかった。

 

仮にあったとしても、親から受け継いだこの土地はどうなる?

行ったとして、うまく生活はしていけるのか?

そのような当たり前の不安もあった。

男はそこまで無鉄砲にはなれない小心者だった。

 

一応、今首都で暮らしているはずの親友や、最寄りで最も発展している都市にいる友達もいるが…。

最寄りの都市に住んでいる方の友人はともかく、親友の方は6年以上たってもなおこの町に帰ってきていない。

それ自体が、首都の方がそれだけ暮らしやすいという証拠なのかもしれない。

 

 

そんなことを考えながら歩いていれば時間も過ぎ去る。

山を下りて、あっという間に町にまでたどり着く。

男はいつも通り小売店に作物を卸し、代金を受け取った。

この作物を売ればしばらくは農閑期である。そうなれば忙しい時期よりは幾分か暇も増えるだろう。

 

彼の家は山奥であり、片道で数時間かかる、行き来がしにくい極地であるという致命的すぎる欠点を除けば、非常に充実していた。

 

彼の父が新しいもの好きで生活を便利にしたがる人物であったのもあり、生活を楽にするための様々な品が、彼の家には取り揃えられていた。

 

その中にははっきり言って何に使うのか分からないようなものも数多くあったが、自動で湯を沸かしてくれたり、洗濯をある程度やってくれたりと、確かにこの町の生活レベルに比べれば一歩…いや、三歩以上先に進んだ製品たちが取り揃えられていた。

 

…そんなものを買ってばかりいたせいで、あっという間に金がなくなり。

息子である男が外の都市に行くことが出来なくなったという点では、文句を言いたいと思う時期もあったが。

 

それでも、男は両親に感謝していた。

 

父からはいろいろなことを教えてもらった。男の父が買ってきた製品が壊れた時に修理するための術を教えてもらったし、中学校では教わらないようなことも大量に教えてもらった。

そのおかげで、男は中学くらいの問題であれば勉強せずとも満点を取ることが出来たし。

 

母からは読み書きについてや、文学を楽しむ力、生活するうえで必要な事柄や生きていく上で大事にするべき心についてを教えてもらった。

男の母は、非常にお淑やかな人物であり、それでいて強かでもあった。

男は二人からいろいろなことを教えてもらったおかげで、この町でも何不自由なく育つことが出来た。

 

おっと、話が本題からそれてしまった。

男は小売業者から代金を受け取ると、そのままその場を後にして、今週の生活に必要そうなものを適当に買っておく。

そして余ったお金で、本屋で数冊の本を買った。

娯楽本・勉強の指南書・農業についての本…。

 

男はそれらを詰め込むと、行きよりも軽くなったあれこれをしょい込み、家に帰ることにした。

 

 

そして、帰り道。

奇妙なものに出会うのだった。

 

 

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男がいつも通っているあぜ道。

しかし、今日はいつもとは明らかに違っているあぜ道。

 

男は自分の目を擦る。

しかし、目の前の景色は変わらない。

 

男がなぜ驚いているのかって?

それは簡単。

 

ひどく汚れた、もともとは真っ白であったであろう衣服を身にまとった少女が、道のど真ん中で力尽きていたからだ。

 

幻覚でないことを確認した男は急いで少女に近づく。

少女の脈を確認するために、手首に手を当てると、トクン、トクンと脈打っているのが確認できた。

 

しかし、その脈が少し弱い気もする。

男は一瞬町に戻ることも考えたが、現在の場所を考えると、彼の家で看病した方が圧倒的に早かった。

 

男はすぐに決断すると、すぐさまその少女を抱き上げる。

その体は見た目以上に軽く、十分な栄養を取っているようには思えなかった。

 

 

 

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そうして、男は急いで家にまでたどり着く。

少女を地面に優しく寝かせると、すぐさまカギを開ける。

そして、もう一度少女を担ぎ上げ、運んだ果てに、家にある布団の上に寝かせた。

 

一見外傷はなさそうに見えたし、よくなってくれるといいのだが…。

 

男はそんなことを思いながら、家にある中で、こういう時に使えそうな薬を探すことにした。

そうして数十分近く、彼が外に備え付けられている家の倉庫で、使えそうな薬を漁っていると…。

 

 

 

ガラッという音を立て、彼の家の玄関が開いた音がした。

 

 

 

 

男が急いで倉庫を出る。

すると、ふらふらとした足取りで、先ほどまで寝ていたはずの少女が外に向かって歩き出そうとしているではないか!

さすがにあの状態で外に出るのは危険だろう。

もう日も暮れるし、夜の山であの状態は自殺行為と同義だ。

 

そう考えた男は、少女を引き留めることにした。

 

おい!もう治ったのかい?

 

男は少女に聞こえるように、そういう風に言葉を投げかけた。

 

少女はその言葉を聞いたか聞かずか。

振り向きもせずに走り出そうとする。

 

しかし、少女の完全に疲労しきった肉体が、満足にいうことを聞いてくれるはずもなく。

足をもつらせ、彼女はそのまま倒れこんでしまった。

 

男がそこに駆け込むと、少女は振り向きざまに男の方をにらみつける。

体は動かないのだろう、しかし、心までは死んでいない、とでも言うように。

その瞳には、敵意・不信といった感情がこれでもかというくらいに込められている。

 

どうしてよく知りもしない他人にそんな目を向けるのか、男にはさっぱりわからなかったが。

取り敢えず、一つの提案をすることにした。

 

貴方の事情は知らないし、聞きたいとも思わない。

ただ、貴方が非常に疲れていて、体が満足に動かせないほど弱っていることは分かる。

だから、取り敢えず落ち着いて、一緒に食事でもどうだろう?

 

男はなるべく柔らかい物腰で、目の前の少女にひとつの提案した。

ボディランゲージで、自分に敵意がない事を伝えながら。

 

少女はその提案を聞いたものの、男には少女が言葉の意味を理解できているのかどうかは分からなかった。

しかし、どうやら意図だけは伝わったらしい。少女の目から少しだけ不信が取り除かれたように感じた。

 

 

男が少女に手を差し出す。

しかし、少女はその手を取ることなく自分で立ち上がった。

 

…いけ好かない子供だこと。

 

男はそんなことを思いながらも、彼女を先導してあげることにした。

取り敢えず居間に案内し、そこで座っているように告げる。

 

キッチンまで歩くと、男は夕食の準備をし始めた。

とは言っても、一から食事の準備を始めるのはやっぱり時間がかかる。

 

彼の家にある父から受け継いだ奇妙な機械を高出力で使っても、やっぱりある程度の時間はかかるのだ。

本来であれば、自分で発電する手間やガスを運ぶこと、そしてその費用を考えるとあんまり使いたくなかったが、今回は急いでいるので仕方ない。

 

数分もしないうちに、後ろから視線を感じるようになった。

おそらく、しびれを切らして見に来たのだろう。

あの時の状態を考えると、相当空腹なのは間違いない。

しょうがないので緊急時用の保存食を引っ張り出す。

 

これでも食べててくれ。

 

そう伝えて、保存食を皿に入れ、少女の手が届くところに置くが、食べようとしない。

…もしかしてこいつ、毒がないか疑ってるのか?

 

一瞬そんな思考がよぎる。

男は、その保存食を一つちぎって口にくわえ、飲み込んだ。

その直後、少女は男がちぎった後の保存食を手に取ると食べ始める。

 

こいつ…どんな環境で暮らしてたんだ?

 

男はそんなことを内心思うが、機械の調整と料理の準備でそれどころではないので無視することにした。

そうしてしばらく経った後、結局最後まで男の後ろから動かなかった少女を尻目に男は料理と茶碗を運び始めた。

 

尚、少女は一切手伝わなかった。

 

そうして、居間に置いてあるテーブルに料理を並べる。

少女は男の目の前に座り、無言で男を見つめている。

案の定、毒がないか疑っているらしい。

 

男はそれを無視して、食事の前の定型句を声に出す。

すると、目の前の少女が復唱するかのように、初めて声を出した。

 

それはびっくりするほど透き通った声で、聞くものを魅了するかのような声だった。

まぁ、今の薄汚れた見た目と服装では、その魅了もすぐに打ち砕かれるだろうが。

 

 

こいつ喋れたのか

 

 

男はそんなことを内心思ったが、まぁ別に変な事でもない。

箸を手に取り、副菜と主菜をつまみ始めた。

目の前の少女も、それを真似するかのように箸を手に取るが…。

 

カラン。そんな音を立て、少女の持っていた箸がテーブルの上に落ちる。

少女は男の持つ箸をじっくりと見ながら、何とか箸を使おうと四苦八苦している。

 

どうやら箸を使うのが初めてらしい。

男は目の前の子供のことがますます分からなくなった。

 

男は母から箸の使い方を教えてもらった時のことをやんわりと思い出しながら、実演を交えて箸の使い方を教えてみることにした。

内心では、そんな直ぐには使えるようにはならないだろうと思いながら。

 

しかし、その考えはあっという間に打ち砕かれることになる。

男が実演と解説を交えて箸の使い方を教えた十数秒後に、少女は箸を普通に使えるようになった。

 

というか、男が説明をしなくてもできそうな感じがした。

 

 

…賢い子だなぁ。

 

男はそんなことを思いながら、目の前の少女が身を乗り出して男が口をつけた方の食事を食べているのを見ていた。

 

男は無言で少女の皿と自分の皿を交換した。

 

 

 

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次はその身なりをどうにかしないと。

 

男はそう思った。

というのも、今の今まで指摘しなかったが。

目の前の少女の見た目は不潔だ。

 

体に纏う衣服が汚れ切ってるし、髪もぼさぼさ。

綺麗な見た目が台無しだ。

 

取り敢えず、衣服の洗濯をして、きれいな衣服に着替えさせた方が良いだろう。

後風呂に入れた方がいい。

 

そう思った男は、少女を風呂場に案内し、風呂に入るように告げる。

しかし、その言葉が理解できないのだろうか、少女は動かない。

もしかしなくとも、風呂への入り方が分からないのだろう。

 

一から風呂への入り方を教えてもよかったが、そもそもこの子供、言語を理解しているかが怪しい。一応風呂への入り方を口頭で伝えてはみるものの、やはり伝わっていないようだ。

 

もうなんかいろいろ面倒くさくなったので、一緒に風呂に入ることにした。服を着たままでも、体を洗うこと自体はできる。

そもそも今日だって週に2回しかない町に降りる日で、男だって疲れているのだ。

慣れない子どもの相手をさせられていて、男もだいぶ眠かった。

少女の方も食事をとって眠気が襲ってきたのか、特に抵抗することはなかった。

 

それに、男が体を洗えば、少女の方もそれを真似して体を洗う。

その性質を利用すれば、そこまで苦にはならなかった。

 

そんなこんなで紆余曲折あり、ようやく少女の身なりを整え、彼女を布団に寝させることが出来た。

男の目の前で眠る少女はよほど疲れているのか、身じろぎすらしないで安らかに寝息を立てている。

 

 

そうして、心底疲れ切った男は。

そのまま横に布団を敷き、泥のように眠りにつくことにした。

 

 

 

 

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男は目を覚ます。

もう既に外には朝の陽ざしが差し込んできている。

 

疲れた体を無理やり持ち上げ、真横の布団を見ると。

 

 

 

そこには、すでに誰もいなかった。

…あの少女はもう出て行ってしまったのだろうか。

 

お礼もなしかよと思わないでもないが。

結局のところ、男とあの少女は赤の他人である。

 

 

このくらいの冷え切った行動が返ってきても別におかしくはない。

正直残念に思う気持ちがないわけでもないが、それもまた人生というものだ。

まぁ、普通の人生にはあのような少女とお近づきになる機会などないだろうが。

 

取り敢えず朝食の準備でも始めよう。

男がそう思っていると、キッチンから良いにおいが漂ってきた。

 

…?

 

男が急いでキッチンに向かう。

すると、そこには。

 

男がいつも丁寧に使用している機械を巧みに操り、てきぱきと料理をしているあの少女がいた。

ご丁寧に、男がいつも使っているエプロンをしながら。

 

少女は男の方をチラリと見やると、男が使っている緊急時用の棚を開け、昨日少女に渡したものと全く同じ保存食を取り出す。

それを一口かじると、男が昨日したのと同じように皿に乗せて渡してきた。

まるで、以前の動きをリピートするかのように。

そしてすぐに機械の調整と料理に戻る。

 

 

男は唖然としてしまう。

それは昨日助けた少女が男に対して料理をふるまっているから、という単純な理由ではない。

確かに、それも理由の一つではあるのだが。

 

しかし、それ以上に。

男には、目の前の少女が機械を巧みに使用していることの方が信じられなかった。

 

男の父親が買ってきた機械は、次世代的なものが数多くあり、今少女が動かしている機械もそのうちの一つだ。

しかし、ただ次世代的というわけではないのだ。

本当にただ便利なだけならこの農村でも多く普及するだろう。

しかし、現時点では男が持っている機械はほとんど普及していない。

 

その理由は単純。純粋に使いづらいのだ。

 

起動した後に自分で冷却しないと加熱し続けてオーバーヒートする。

(自分で逐一最適な温度を維持する必要がある)

 

ハンドル多すぎてどれがどこに繋がっているのかめちゃくちゃ分かりにくい。

(ハンドルを間違えると止まる場合がある)

 

燃料を供給し続けてると燃料の供給過多で緊急停止するから自分で適宜調節する必要がある。

(燃料の供給を完全に切ると数秒で止まるのでそれも出来ない)

 

その上、使用後に指定個所に油を差さないと次使う時の故障の確率が跳ね上がる。

(一か所でも差し忘れがあると次使う時あからさまに使用感に差が出る)

 

あのお淑やかな母親がこの機械に対して何度も文句を言っていたのも覚えているし。

自分で使うようになってからも何度も機械が原因で料理に失敗した思い出もある。

 

そんな使用感だから、だいたいの家に受け入れられなかった逸品(粗大ごみ)だ。

それをたった一日、それも後ろからただ見てただけの少女が使いこなしている?

 

男の価値観では、それはあまりにも常軌を逸しているように思えた。

…すでに出来上がった料理を見る。

 

それは、昨日作った夕食と全く同じ揚げ物。

どうやらこの少女。昨日とまったく同じ行動をまるっきりリピートしているらしい。

男がしばらく眺めているうちに、少女はきちんと調理用機械の指定個所に油を差しこみ、料理の乗った皿や茶碗等を居間のテーブルに運び始めた。

 

…自分は夢でも見てるのか?

男は頭を押さえる。

 

暫くすると、居間から出てきたであろう少女が男の袖をつかみ、催促するように男の袖を引いた。

まるで、(食べないの?)とでも言うかのようだ。

 

…考えるのやめよ

 

男は思考をやめ、取り敢えず朝食をとることにした。

 

いつも通り、朝食前の定型句を二人で声に出し、朝食をとり始める。

サクリ、衣が歯によって砕ける。

今朝の朝食は、昨日の夕食と全く同じ味がした。

 

二人で食卓に座りながら、男は少女の姿を眺める。

 

…目の前の少女は男と同じような所作で綺麗に箸を使い、食事をとっている。

昨日まで、この子供は箸が使えなかったと誰かに言ったとしても、きっと誰も信じないだろう。

男はその成長速度と行動の再現性をみて、少々不気味に思わざるを得なかった

 

そして、二人は無言で食事をとり続ける。

男はこれを機に、聞きたかったことを聞いてみることにした。

 

君は、言葉を理解しているのか?

 

そう、少女に問いかける。

少女は男の方を見るが、返答は返ってこない。というより、返事が出来ないらしい。

どうやら、何かを聞いたことは伝わっているようだが、何を聞いたのかまでは伝わっていないようだ。

 

どうやら昨日の見立て通り、この子供は言語を知らないらしい。

出来るのは復唱までで、それ以上の事はできないようだ。

にしたって勘が良すぎるような気がしないでもないが。

 

しかし、それなら猶更先ほどの行動が意味不明になってしまう。

だって、この推測が正しいのなら。

言語も知らない子供が、たった一度見ただけの機械を巧みに使いこなしたことになる。

 

…ありえない。

 

男の常識では決して測れないことだった。

しかし、現に目の前でそれが起こってしまっている。

それならば、受け入れなければならないだろう。

 

たとえ常識外の事でも、一度見たのならすんなりと受け入れるしかない。

その事実を否定したって何も起こりはしないのだから。

 

 

まぁいったんそこは置いておこう。

言語が分からないのは、この社会において余りにも住みずらい。

 

その見た目の年になるまで誰からも言葉を教えられていないという事実自体が異常極まっているが、この際それも気にしない。

そんなこと言いだしたらこの子、異常な点しかないし。

 

目の前で男の食器を片付け、徐にキッチンに運ぶと、自分で食器洗いを始めた少女を見ながら。

 

男はそれらの事実を思考の外に投げ出し、目の前の少女に最低限の語彙を教えてあげることにした。

取り敢えず、食器を洗い終わった後に。

 

そして、男はまた驚かされることになる。

 

 

男は表音文字を紙に書き、一文字一文字教え始める。

少女は1分もかからず覚え終わった。クイズを出しても正答率は100%だった。

男は違和感を感じた。

 

次に単語とそれに対応する意味を教えてみた。

最初は簡単な単語から。

 

これも教えた傍から覚えていった。

男はなんだか怖くなった。

 

次に文法。

これはさすがに理解に時間がかかったようで数十分かかった。

しかし、やっぱり一度覚えたものを間違えることはしなかった。

 

男は戦慄した。人間の学習速度とは思えなかった。

 

目の前の少女は拙いながらも、男に言語で意思を伝え始める。

 

『どう…これ、で。あたり?』

『これ、が。きかい?で、これが、りんご』

 

『これは、なに?おにいさ ん?』

 

『あな、たの?いう、こと…ヴぁ?って、こ、れ?』

 

男は自分で教えるのをやめ、文法書と単語帳を渡してみることにした。

何か質問があれば聞いてくれというスタンスで。

 

発音がおかしいところはあれど、少女は普通にしゃべるようになった。

 

『これ、で。あってるよね、おに。いsん?』

『これで、話し方は、合ってるよね。おにいさん?』

 

 

男が知る限り、言語というものは覚えるのに個人差がある。

中には言語を覚えるまでにそこまで時間のかからない人も多くいるだろう。

しかし、それはあくまでも他言語を知っており、それによる解説があってこそだと男は思っている。

 

そもそもの言語というものを使用できない状態から、言葉を満足に話せるようになるまで、一体いくらの時間がかかる?少なくとも、男が少女と同じくらいの年齢の時は、これほど物覚えが良い子供はいなかった。

いや、これはもはや物覚えがいいという次元を超越している…。

 

男は内心そんなことを思いながら、首を縦に振る。

それを見ると少女は嬉しそうに言う。

 

『やった!教えてくれてありがとう!お兄さん!』

 

発音もある程度修正された。

男は恐怖を覚えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

男は丸一日かけて言語を教えるつもりだったのだが、思っていたよりも圧倒的に早く終わってしまった。

いったん席を外して頭を冷やそうと男が立ち上がると、少女が男に問いを投げかけてくる。

 

『ねぇ、お兄さん。あなたはなぜ。私を助けてくれたの?』

 

男はその問いに対して、一言だけ答えることにした。

 

道端で倒れている人がいたら、助けるものだろう。

 

『…そうなんだ。どうして?』

 

少女は男にそう聞く。

 

どうして…どうしてか。昔、親からそう教わったから。

 

男はそう返すことしかできなかった。

別に助けたことに理由なんてないし、倒れている子供を見棄てるなんて惨い真似できなかったから。

そう返してもよかったが、きっとそう返せば、【どうしてそう思ったの?】とか聞いてくるだろう。

それなら、親からそう教わったから。と返した方が楽だった。

少女は男の言葉を聞くと、

 

『そういうものなの…?』

 

と、一人で悩み始める。

男はそのまま席を立ち、取り敢えず一人で考えられる場所まで移動する。

 

 

そして、冷静になって少女について思考し始めた。

 

まず間違いなく、あの少女は普通の子供ではないだろう。

このような山奥でほぼほぼ遭難と同義の形で姿を現した時点で内心嫌な予感はしていた。

 

学習速度、行動の再現性。

その二つが常人のそれではない。

それに、肉体面についても見た目通りなのか疑念が残る。

 

普通の子供が、成人が何時間もかけてくるような場所まで自分の足で、怪我をせずに来れるだろうか?

そもそも男が発見した時点で、記憶が正しければ怪我は【一切】なかった。

あの時は切羽詰まっていて気にならなかったが、今になって考えるとなんかおかしい。

 

擦り傷すらなかった。普通に考えて無理である。

いくら運が良かったとしても、さすがにそれは無理。

考えれば考えるほど不気味である。

しかし、子供は子供。

一応迷子なのだし、町まで運んで警察に

 

 

 

 

 

 

『おにーさん?』

 

 

男がそんなことを考えていると、ふと横から声がかけられる。

思わずドキリとしてしまい、そちらの方に勢いよく向いてしまう。

 

『うわわ、ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたか?』

 

少女は両手を上げ、驚いたような様子を浮かべると、男にそう声をかけてくる。

 

いや、すまん。少し考え事をしていたから、声をかけられて驚いてしまった。

 

男はそう少女に釈明すると、少女はホッとしたように息をつく。

 

『私こそ、ごめんなさい。えっと、少し質問があって』

 

男は一旦少女に対する考察をやめ、大人しく彼女の学習に付き添うことにした。

そして、改めて彼女の学習能力の異常さに辟易することしか出来なかった。

 

というか、もう発音も様になってきてたな…

この子ほんとになんなんだ?言葉を教え始めてからまだ半日しかたってないぞ。

男は目の前で単語帳や文法書とにらめっこする少女を見て、そんなことを思った。

 

そうして、次々と本を読んでは別の本を読むという行為を繰り返していた少女は一旦本を閉じ、それを机に置いた。そして、男にこんなことを言ってきた。

 

『…ねぇ、お兄さん。あの…昨日はごめんなさい』

『その、とっても失礼だったなって思って』

『どうか許してほしい。私、悪意があったわけじゃ無いの』

『ただ、生きるために必死だっただけで…』

 

 

男は一瞬、何に対して謝っているのかさっぱり分からなかった。

しかし、すぐに思い至る。どうやらこの子、昨日の自身の行いの数々が【失礼】に当たることに気づいたらしい。

 

昨日まで言語も解していなかったのに、とても情緒の成長が早いなぁ。

 

…そんなこと言ってる場合じゃねぇわ。

怖い。成長速度が早すぎる。どうやらこの子に渡した中学時代の国語の教科書がもう効果を発揮したらしい。

 

…まぁいい。もはやその程度の事では動じなくなってきた。これが彼女の普通なのだろう。

いちいち驚いていては疲れてしまう。

取り敢えず返答だけはしておく。

 

別にそこまで気にしていない。謝る必要はない。

 

男が少女にそう告げると、目の前の少女は安心したかのようにホッと息をついた。

 

…せっかくなのでこれを機に、男の方も少女に質問を投げかけることにした。

ずっと気になっていたことでもあり、彼女をずっと家に居候させておくわけにもいかないので、必ず聞かなければいけないことだった。

 

それは、彼女の家と家族についての事だ。

こんな優秀(?)な子供がいなくなって、きっと彼女の家族も悲しんでいるだろう。

 

言語を解していないこの子にそれを聞いても意味はないだろうと思って聞かなかったが。

もはや彼女の言語化能力は常人と大差ない。

ということで、男は少女に家について聞いてみることにした。

 

君の家はどこにある?

君の家族は?

 

 

男は、そんな言葉を目の前の少女に投げかける。

 

しかし、少女はその言葉に対して、少し言い淀むと。

こんな言葉を吐いた。

 

『お兄さん、昨日言いましたよね。事情を聞きたいとは思わないって』

『だから…そのことについては、聞かないでおいてくれませんか』

『しばらく、ここに置いておいてほしいんです』

 

少女は苦しそうに男にそう伝える。

どうやら、訳ありの家出娘らしい。

 

本来であれば受け入れることはしない…のだが。

この子、多分…いや間違いなくまっとうな子ではないよなぁ…。

 

警察に連れて行ったところで、どうなるか分からないし…。

そう考えている男が顎に手を当てて悩んでいると。

 

少女の目つきが、ほんのりと薄暗いものへと変わっていっていることに気づく。

…というか、目つきどころか、目の色自体がどんどん変わっていってないかこいつ?

 

男のなけなしの危機管理能力が大きく警鐘を鳴らす。

とても嫌な予感がした男は、少女の願いを聞いてあげることにした。

 

分かった。しばらくの間だけな。

 

男は、少女にそう返す。

そう返すと少女はパッと表情を明るくさせ、男に対してこう言った。

 

『やった!ありがとうございます!お兄さん!私に出来ることなら、なんでもさせていただきますから!』

 

この子、YESって言わなかったら何するつもりだったんやろなぁ…。

目の色が戻った少女を見ながら、男はそんなことを思った。

 

 

そうして、男と奇妙な少女との共同生活が始まる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

そう言えば。

 

改めて男が思う。

この子に名前を聞いていなかった。言語を理解していなかったし、名前を持っているのかもわからないが。

だがしかし、取り敢えず聞いておくべきだろう。

二人で暮らすのに『お前』とか『君』では少々暮らしにくい。

 

そう思い、彼は目の前の少女に名前を聞いた。

 

『…名前、ですか?』

『…うーん、実は、よく分からないんですよね』

『私、名前を持っていないので、もしよければ、貴方が付けてくださいよ』

 

 

男はそう言われる。

 

しかし、男としては少女に名前をつけたくはなかった。

だって名前つけたら、いつか別れるときに気まずいじゃん。

来るべき別れの時に、名づけのことを掘り返されて面倒なことになるのが目に見えている。

 

男はそう思ったので、少女に自分で自分に名前を付けるように言う。

誰かにつけられるよりも、自分でつけた方が絶対に良いとか何とか適当なことを言いながら。

 

『…え~。あなたからもらった名前なら、文句なんて言いませんけどね…』

『なら…そうですね。フェイタル。フェイタルにしましょう』

 

『今日から、私の名前はフェイタルです』

『お兄さん、よーく覚えておいてくださいね!』

 

少女は胸を張り、元気に自分の名前を宣言する。

 

男は拍手をしながら、彼女の名前を呼んだ。

 

改めまして、ご挨拶を。

初めまして、フェイタル。

これからしばらくの間、よろしくな。

 

フェイタルはとても美しい黒髪をたなびかせ、男に微笑みかける。

 

『えぇ、これからよろしくお願いしますね!お兄さん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、男の不運は開演する。

 




第一話終わりダヨー。ハイスペックな化け物とそこらへん通りかかっただけのただの運の悪い人。
使い古された設定のような気もしますが、逆にそれがいいと思います。

因みにジャンルがSFになってるのは改造生物が出てくるからです。
作中の時代設定としては電気が普及して、自動車が都会で普及し始めたあたりを想定しているので、むしろどちらかというと過去のお話ですね。
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