彼女の出生と本体性能が分かったり分からなかったりします。
もらったアドバイスを元に、話の転換点に~~を差し込んでいますが、多少は見やすくなっているんでしょうかね?
よく分かんないや。
私が生まれた場所は、何もない真っ白な空間だった。
何の情報もない、不気味なほど白く、恐ろしいほどに情報を感じない空間。
それが、あの部屋で。
そこが、私の産まれた場所だった。
いつから私が、『私』を認識したのかはよく分かっていない。
少なくとも言葉を学ぶまで、私は明確な意識を持っていなかったのだろう。
ただ、本能のままに。
何もしない、何もさせてもらえないままで一人寂しく生きていた。
毎日支給された無味乾燥な食事をとり、何を意識することもなく、体から触手を出したりすることで暇をつぶしながら。
今になって考えると、あまりにも空虚な日々だったと思う。
あぁいや、厳密に言えば一人ではなかった。
言葉を学び、思考を巡らせることが出来るようになった今だから分かるが、恐らく。
あの環境では、私を監視する『誰か』がいたのだと思う。
あそこでは常に嫌な感覚があったから。
それに、あの環境でも何もなかったわけではない。
周期的に部屋に誰かがやってきて。
私に何かをして帰っていく。
それは痛い事もあったし、それは苦しい事な時もあったし、意識が朦朧として苦しむはめになることもあった。
最初の数回は暴れて抵抗したこともあったが、やっぱり多勢に無勢なわけで、暴れたところで無駄なことと、その後がよりつらくなることを経験則で理解してからは何の抵抗もしなくなった。
どうせ結局最後には。私は目覚め、もう一度あの白い部屋に戻るのだから。
それなら、何も考えずに無心で過ごした方がいいだろう。
そっちの方が、心にも体にも優しいわけで。
だが、そんな私にも転機が訪れた。
ある時、大きな音が響き渡って。
いつも、私にひどい事をする誰かが出入りする扉が開いた。
その時は、そこから誰も入ってこなかった。
それどころか、多くの人の声が木霊し、大混乱状態だった。
当時の私は何が何だか分からなかったが、取り敢えず部屋から出ることして、急いでその場を立ち去ろうとした。
理由はよく分からない。
自由を求めていたのかもしれないし、未知の事象に混乱していただけかもしれない。
痛い事や苦しい事ばかりのあの施設に対しては、逃げ出したいと思う理由はあれど、残りたいと思う理由はなかったし。
本能で、そこから離れたいと思ったのかもしれない。
あの時のことを思い返し、施設中に木霊していた言葉を思い返してみると。
当時は何が何だか分からなかったけど、言語を学習した今ならあそこで起こったことも大体予想がつく。
あの施設には、私以外にも同じような扱いを受けていた何かがいて、そいつが大暴れしだしたのが原因なのだろう。
…侵入者と叫ぶ職員の声もしたし、もしかしたら本来あるべきでないイレギュラーが発生したのかもしれない。
どちらにしろ、私としては。
逃げ出すきっかけと隙を作ってくれたその個体と侵入者に感謝するしかない。
彼ら…いや、彼女らかもしれないけど。
その方々のおかげで、私はここまで逃げることが出来たのだから。
そこからの私は、ただひたすらに走った。
一度施設の外に出てからは、何も考えず、山の中を一心不乱に走り続けた。
見慣れぬ景色を前にして、いろいろなことに興奮しながら…。
野生動物とばったり会ったりもしたけど、別に脅威でも何でもなかった。
多少の怪我ならすぐに再生するし、一対一なら動きを見切る事なんて造作もない事だった。
適当に触手で傷つければ、すぐに逃げ出すような動物ばかりだったし。
けれど、一切の食事と水分を取らないで走り続けたから、体の動きがだんだん鈍くなって。
哨戒用の触手を出すことすら出来ないくらいに疲弊して。
そうして、何度も日が暮れ、日が昇るのを繰り返したとき。
私の意識は、暗闇の中に落ちていった。
そうして、次に目を覚ました時。
私は、見知らぬ人物と出会った。
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彼には感謝している。
最初から警戒心をむき出しだった私に、優しく接してくれたから。
それに、あの時の私がボロボロで触手すら出せないほど疲弊していたのもよい点だった。
もし出せてたら、多分…いや、間違いなくお兄さんに怪我をさせていただろう。
これが、俗にいう『怪我の功名』というやつなのだろう。
これ、使い方あってるよね?
…まぁいいや。
初めてコミュニケーションを取ったときは。
彼が何を伝えようとしているのかは全然分からなかったけど。
彼に敵意がなさそうだと判断してからは、私はあの人を観察することにした。
何気に、あの施設以外で初めて会う人型の生き物だったから。
あの人が見たことのない、なぞの機械をがちゃがちゃいじっているのも見ていたし。
あの人が口にした食べ物を、私に渡してくれたところも覚えている。
そして、彼がお皿によそってくれた料理が、とってもおいしかったことも。
あの二つの食べ物は、私が今まで食べてきたものとは、別次元のおいしさだった。
だって、今まであの施設で食べてきた食べ物、一切の味がなかったから。
ご飯を食べてからは、眠くなってきてあんまり覚えていない。
空腹状態から一気に大量の栄養を摂取して、今までの疲労が一気に来たのだろう。
正直意識を保つのもだいぶ限界だった。
ただ、寝ぼけた状態のまま体の芯から温まって。
気が付いたら、衣服を着替えて布団の中で眠っていた。
…いったい、私はお兄さんと何をしていたのだろう?
…深くは考えないことにしよう。
それから数時間後。体の疲労を回復させた私は目を覚ました。
外の景色的には、太陽がようやく差し込んできたぐらいだった。
私はもう一度あのおいしい食べ物を食べたいと感じた。
初めて味覚を実感した瞬間だったし…。
なにより、一度食事の快楽を知ってしまうと、それに対する欲望が止まらなかった。
棚に入った食事の方でも良かったが、やっぱり食べるのならおいしい食事の方がいい。
だから、あの人の行動を真似てみることにした。
意識して実行すれば、一度見た行動を同じように繰り返すことなんて簡単だ。
目の前の機械がどういう風に動いているのかは原理はさっぱり知らなかったけど。
普通に同じ行動を真似すれば動くのだ。大して難しい事でもない。
ある程度料理も出来上がってきたころ、後ろから誰かが近づく音がして。
お兄さんが私のもとまでやってきた。
昨日彼にしてもらったのと同じように、棚に入った料理を取り出し、彼と同じように一口ちぎってから彼に渡してあげた。
…お兄さんは唖然としたように動かなかったけど、そこまで気にしてはいられなかった。
原理不明な以上、動きは全て真似しなければならなかったし。
…後になって気づいたが、私と彼はまだ会って1日の『他人』に準ずる関係なのに、勝手にキッチンを借りるのは失礼な行いだった。
多分、彼は私の『無礼』な行いに辟易していたのだろう。きっとそうに違いない。
料理が出来上がってからは、彼と同じように食事を運んでから一緒に食べた。
昨日と全く同じ味がして、確かに美味しかったのだけれど、なんだか物足りなかったような気もした。
それからは…彼に言葉を教えてもらって、私は『私』という自己を確立するまでに至った。
だから、今までの話は新しく生まれた私の、過去に対する回想にすぎない。
言語というものを知ってからは、この世界が急激に面白くなった。
お兄さんとコミュニケーションを取れるようになったこともそうだが。
この世界にはあらゆる物事に、それにふさわしい名前がついている。
私がいたあの施設は恐ろしいほど退屈だったが、外の世界はなんと素晴らしい事か!
言葉を知り、『私』という自己を得てから見る世界は、以前とは見違えて美しく思えた。
お兄さんには感謝してもしきれない。
あの人が、私を見棄てていれば、私は食事の楽しさも知ることが出来ずに死んでいただろうし。
あの人が、言葉を教えなければ、私は『私』を認識できなかっただろう。
出来ることなら、あの人のために何でもしてあげたい。二人で、この素晴らしい世界を知り尽くしたい。
だからこそ、あの人から私の家について聞かれたときは、非常に困ってしまった。
『家』『家族』
辞書の定義に倣うなら、私には家族はいない。そもそも血縁者の存在が不明だし、施設でも人とほとんど接触はしていない。
唯一の接触者は、私に痛い事をする人たち。あれを家族とは認めたくない。
でも、家はある。おそらく、定義に沿うのなら、私が最も長くいたであろうあの施設が『家』となるのだろう。
けれど…あそこにはもう戻りたくなかった。痛みと、苦しみしかない場所。
真っ白で無機質な、面白い事がなにもない空間。
あのような場所に戻されるなど、二度とごめんだ。
あんな場所に戻されるくらいなら…。
一瞬、ほの暗い考えが頭を過った。
もしも彼が、私の願いを聞いてくれないのなら。
昔、あの施設でされてたように、力で押さえつけてしまおうと思った。
結局、力で抑え込めば、自分の願いを押し通すことが出来る。
それが、あの施設で学んだことだ。
はっきり言って、勝算はあると感じている。あの施設でだって、1対1なら人に負けたことはない。
私が読んできた本はそのような行いを否定していたし、私だって彼にそんなことはしたくない。
だからこそ、私はお兄さんが私の願いを聞き届けてくれることを強く願った。
少し触手が出てしまいそうになるくらいには。
だから、彼が私の願いを聞いてくれた時は。
もう本当に、飛び上がってしまいそうなくらいうれしかったのだ。
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その後、彼と一緒に暮らすことが決まって。
彼が私の名前を聞いてきた。
『名前』
個体を識別するためにつけるもの。
私の名前。
そのようなものは、持ち合わせていない。番号だったら持ってるけど。
教科書の物語を読む限り、名前と番号は別のようだったし。
だから、彼に名前を付けてもらおうと思ったのだけれど。
自分でつけろと言われてしまった。
別に、貴方からつけてもらった名前ならどんなものでも文句は言わないけれど…
きっと、お兄さんにも何か思いがあるのだろう。拒否されてしまった以上、自分で名前を付けないといけない。
ならばどんな名前がいいだろう。
その時、ふと施設での事を思い出した。
そう言えば、あの施設で誰かが私に対して、フェイタル・スピーシーズと呼んでいたことを聞いたことがある。たった一度だけだったし、本当に私の事を指していたのかもよく分からないけど。
…意味はよく分からない。別の国の言語かもしれない。
けれど、それが自分の事を指しているのなら、そこからとることにしよう。
あの施設には良い思い出なんて全くないが、自分の生まれた場所であることには変わりない。
それならば、少しくらいは自分と関連させてもいいでしょう?
そうして、私は自分の事をフェイタルと名乗ることにした。
あぁ、楽しみだ。
これから先、一体どんな面白い事が待っているのだろう。
きっと、心底楽しい事が待っている。
ようやく手に入れた自由なんだから。
たくさん学習して。たくさんの事を経験したい。
命は一つだけしかないんだもの。
いっぱい楽しまなければ損でしょう?
そして、お兄さん。
それにはあなたも一緒にいてくれなくちゃ。独りぼっちは寂しいもの。
貴方が私に全てのきっかけを与えた。
学ぶ楽しさも!
食事の楽しさも!
人同士の温もりも!
貴方から教わった。あなたが私に教え込んだ。
なら、その責任を取るべきだと思わない?
私、教科書で見たよ。
家族っていうのは、血のつながりだけがすべてじゃなくて。
互いに受け入れあうことが大切なんだって。
なら、私を受け入れた時点で、私と貴方は家族だよね。
私なら貴方のすべてを受け入れられるし、貴方の益になれる。
だから、最期の瞬間まで私と一緒にいてくれるよね?
途中で、逃げ出したりしないよね?
ようやく馴れ初めが終わりました。
手癖で書いてると、最初の部分がめちゃくちゃ長くなっちゃうのどうにかしたいな…。