一般通過農民の不運   作:トマトは後ろから呼んでもトマト

7 / 10
第七話です。
前書きに書く事も少なくなってきました。

第七話、お楽しみいただけると幸いです。


第七話

一冊の図鑑を手に取り、数分の時が経過した。

フェイタルが図鑑のページを捲り続ける。

 

本の内容は、人体に関するもの。

それ自体は何ら普遍的なもの。

内容は当然、人の体の仕組みや臓器などの解説だ。

 

しかし、そこに触手や彼女のような特殊な体質の人間についての記載はない。

いくらページを捲り、いくら自分に関する記載を探そうとも。

決して彼女は望んだ記載を見つけることは出来ないだろう。

 

 

『書いてない…これも違う…これにもない…』

『どこかに…きっとどこかに記述があるはず…』

 

彼女は血眼になって自分のような特殊な体質についての記載を探した。

しかし、いくら読んでも。

突きつけられるのは、自分の体と本来の『人類』との相違点だけ。

 

『…そんな訳ない』

 

少女はだんだんと焦燥と駆られ始める。

図鑑に記載がないはずがない。自分は人類のはずなのだから。

だって、記載がないのなら。

 

自分は、人ではない何かになってしまう。

人と近しい見た目をしただけの、怪物になってしまう。

 

そんな思いを抱え、本を漁り続けてはみるものの。

決して見つかりはしない。彼女の想いは届きはしない。

 

いくら探せども、細かく読み込もうとも、自分のような存在に関する記載はなく。

むしろ生物図鑑に載っている、様々な生物の方が自分に似た特徴を持っていた。

 

その事実はより彼女の自己同一性を揺らがせる結果になる。

彼女は自らを人だと信じていた。当然のように、それが自明であると信じて疑わなかった。

 

しかし、その前提が崩れたら?

自分が人でないと仮定したら?

 

そんな嫌な妄想が少女の思考を蝕んでいく。

そして、結局。

人体図鑑には、彼女のような特殊な人類についての記載は一切なかった。

 

当たり前である。

そもそも彼女は実験動物であって、人類ではないのだから。

 

尚も諦めきれない少女は、手当たり次第に関連資料を漁り始める。

しかし、彼女が人類であると裏付ける証拠はなく。

むしろ疑念だけが深まっていった。

 

触手も、感情に応じて変色する自らの瞳も。

自らの持つ身体能力でさえ。

彼女の持つ特徴は、人類とは大きく異なっていた。

 

 

目につく限りの関連資料を読み終わり。 

散かりきった書庫で、本に埋もれながら。

フェイタルは一つの結論にたどり着いた。

 

 

自分は人ではない。

それどころか、普通の生物ですらない。

突然変異か人為的な要因によって発生した、奇妙な怪物。

 

それが、彼女の思考の果てにたどり着いた結論だった。

 

昆虫のような身体能力や軟体動物のような触手。

人とは仕組みからして異なる治癒能力。

少女の持つ特徴が全て、彼女のチグハグさを際立てていた。

 

 

『わ…私…は。人、じゃない?』

『あの人とは、違う種族で…怪物?』

 

彼女は昔の事を思い出す。

昔の、あの真っ白い部屋の事を。

 

今にして思えば、あれは自分を管理する空間だったのだろう。

通常の人類に行う処置にしては、あまりにも防護装備が過剰だった。

人類がけがを治す速度だって、自分よりも遥かに遅い。

 

そもそも、フェイタルの自然治癒は損傷した肉体の一部を破棄し、生え変わらせるものである。

人間の自然治癒とは、あまりにも毛色が違う何かだった。

 

考えれば考えるほど、自分は人ではないのだと。

自分は悍ましい怪物なのだと。

その事実が少女に突きつけられる。

 

そして、彼女が知る物語では。

殆どの場合、恋する怪物の末路は。

 

『…私は…怪物とは違う』

『あんな風には、なるはずがない』

『私は…受け入れてもらえている、よね?』

 

そう、口にしてはみるものの。

少女は不安でいっぱいだった。

 

何しろ、彼女が深く慕っているあの人物は。

彼女を山に置き去りにしようとしたり、彼女が新しい情報を得ることを異様に恐れたりしていた。

 

彼女に対して、異様なほど忌避感を抱いている仕草を見せていた。

そんな事をされていて、受け入れられている。などと考えるのは、些か無理があるだろう。

 

ほんの数時間前まで、少女はそれの原因が自分に足りない部分があるからだと考えていたけれど。

その考えはここで否定された。

 

 

 

あの反応は自分が不甲斐ないからではない。自分の努力が足りない訳ではないのだ。

フェイタルという名の怪物に対しての、忌避感だったのだ。

 

彼女にとって、それは酷く苦しい事実だった。

自らに足りない部分があるから嫌われているのならまだ良い。

いつの日か、努力を続けて誠心誠意接していれば。

あの人は振り向いてくれるかもしれない。

そんな風に希望を抱くこともできただろう。

 

しかし、そもそも。

あの人が、自分の事を。

人として見ることが出来ないのなら。

 

 

 

どれだけ努力しても無駄なのではないだろうか。

 

 

 

フェイタルの脳内に、そんな思考が巡り始める。

 

『…そんなことはない。考えすぎ』

『私は…怪物なんかじゃない…立派に生きる…人だもの』

『お兄さん、私。人だよね?貴方はそうやって、私を肯定してくれるよね?』

 

少女はそうやって、自分に言い聞かせる。

このまま考えていたら、本当に頭がおかしくなってしまいそうだったのかもしれない。

 

少女は思考を止め、書庫の片付けを始める。

崩れそうになる本心を、必死に騙し続けながら。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方その頃。

信じられないほどひどい状況になっていることを自覚した男は、頭を抑え唸っていた。

目の前でスヤスヤ眠る親友を尻目に。

 

親友の言葉は男に安心感を与えたが。

それと同じくらいの不安も与えていた。

 

やはり、あの怪物は禄でもない物だった。

このままでは、庇っている自分まで軍に追われることになるだろう。

そして、バレて捕まったら最後…。

世にも恐ろしい事になるに違いない。

 

しかし…フェイタルを追い出すわけにもいかない。

というか、そもそも追い出せない。

 

身体能力的にも、彼女の精神習熟度的にも彼女はもはや男一人で卸しきれる存在ではない。

それこそ、目の前の親友のような軍人が複数人で対処するべきだろう。

 

はぁ…。

 

男は大きなため息を吐く。

少し寝よう。

 

寝ているときに一緒に添い寝をしようとしてくるフェイタルのせいで、男は不眠症気味だった。

本当に自分の肉体が恨めしい。なぜこんな時にまで反応してくるのか。

そんな誰に向けているのかよく分からない愚痴が浮かんでくる。

 

問題は山積みだし、もはや男一人ではどうにもならない域に達しているような気もしなくもないが。

疲弊しきった頭では正しい判断など下せるはずもない。

一旦頭をリフレッシュしよう。

 

そう考えた男は、暖房器具に体を寄せて。

ゆっくりと仮眠を取り始めるのだった。

 

 

そうして、数時間して。

男が夕日に照らされて目を覚ます。

 

既に親友は部屋を立ち去っており、鍵と手紙だけが残されている。

男は目の前に置いてある手紙を手に取り、読み始める。

 

その場で書かれたであろう手紙は、間違いなく親友の物だった。

内容は簡単なものだ。

 

『お前の無事も確認できたし、また首都に戻るよ』

『有休を使って急いでここまで来たから、すぐに戻らなきゃならないんだ』

『慌ただしくてホントにごめんな。埋め合わせは数週間後にさせてくれ。久しぶりに年末に休暇が取れそうなんだ』

『お前の友人も誘って、一緒に年を越そうぜ!』

 

そんな微笑ましい内容が書かれてあり、男は少しだけ落ち着いた。

そんな時、男はもう一枚の手紙が隠されている事に気づく。

それは親友が残していったであろう、追加の文章だった。

 

『P.S この家の鍵はお前にやる。この部屋にあるものは自分のものだと思って使ってもらって構わないし、タンスの中には幾らか現金も入ってる』

『もしもヤバくなったら、それらを使って逃げるといい。俺の今の住所も書いておく』

 

 

『嘘をつくことを悪いとは言わない。けど、本当にヤバくなった時には遠慮なく頼ってくれよ』

『俺たちは親友、だからな』

 

 

…男は思わず笑ってしまう。

どうやら、親友にも嘘はバレていたらしい。

 

だが、それを悟らせないところがあいつらしい。

どうやら、本当に何も変わっていなかったようだ。

 

男は眠ってスッキリした頭を持ち上げ、手紙とカギを丁寧にしまい込む。

自分は一人ではない。幾らでもリカバリーが効く。

 

きっと、どうにかなるだろう。

男はそんな気持ちになりながら、自分の家へと歩み始めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

男が家までたどり着く。

夕日はすでに沈み、夜の帳が落ちていた。

男が扉を開けると、いつも通りフェイタルが笑顔で迎えてくれた。

 

『おかえりなさい、お兄さん』

 

そう、少女は笑顔で話しかけてくる。

しかし、男はその笑顔に違和感を感じる。

なんというか、笑顔が引き攣っているような。

貼り付けられたような、そんな感じがした。

 

しかし、男としてもそんなことは気にしない。

変に何か言って、藪蛇になることは避けたかった。

 

『それじゃ、ご飯できてますから』

『一緒に食べましょう』

 

そうやって、少女は先に進んでいく。

拭いきれない違和感を抱きながらも、男はその後をついていくことにした。

 

そして、いつも通り二人で席に着く。

食前の挨拶を述べ、食事をとり始める。

 

いつもだったらフェイタルはちょっとしたジョークや、今日あったことを楽しそうに話すのだが。

 

今日は彼女が何も言わない。

それが少々不気味で、男はなんだか嫌な予感がしていた。

少しの違和感が積み重なり、大きな予感になっていく。

 

男が気まずい気持ちになりながら箸で食事を摂っていると。

目の前の少女が、ようやく口を開いた。

 

『ねぇ、お兄さん』

『少しだけ、話したいことがあるんですけど。話してもいいでしょうか?』

 

真剣な雰囲気でフェイタルが言う。

男にはNoと言うことは出来なかった。

 

『その、まずは謝罪から…ですかね』

『…ごめんなさい。勝手に書庫に入っちゃいました』

 

男は絶句する。

なんか様子がおかしいなと思ったら、そういうことかよ。

そして、書庫に入ったということはつまり。

 

『私、あそこにある本を読みましたよ』

『たくさん、知識を吸収しました』

『…知りたくなかった知識も、手に入れてしまいましたけど』

 

少女は伏し目がちに男に言う。

フェイタルは、男に問いかけてくる。

 

『お兄さん、最初に私にこう言いましたよね』

『私のような人は、珍しいだけで存在しているって』

 

男が隠したかった秘密は、最悪の形で暴かれたようだ。

 

 

『…私、本当に【人類】なんですか?』

『どれだけ本を読んでも、どれだけ図鑑を探しても』

『私のような、【人類】はいませんでした』

 

『私は…人なんでしょうか?』

 

男は何も言えない。

否定も肯定もできない。

どう発言をしても、地雷を踏むのは明らかだった。

 

『…ふ…あはは』

『ごめんなさい、意地悪でしたね』

 

『分かってますよ。…優しい嘘だったんでしょう?』

『だから、嘘について責めてるわけじゃありませんよ。安心してくださいな』

 

少女はそう言いながら、目の前にある食事に口をつけていく。

一方、男はというと。重苦しい空気の中、食事が喉を通らなくなっていた。

不自然に区切られた会話の中、何一つとして言葉を発することができなかった。

 

 

食器がぶつかり合う音だけが響く食卓。

男はフェイタルに目線を合わせることが出来ない。

静かで、冷え切った空気だけが流れていく。

今の季節は冬だが、冬だからという理由では言い表せない冷たさだった。

 

そして、目の前の少女は食事を摂り終わった。

フェイタルの視線が、目の前の男に注がれる。

 

『…また、質問をしてもいいですか』

『初めてあった時みたいに、私に、色々な事を教えてくれませんか』

『私の質問に、答えてほしいんです』

 

少女はそんなことを男に言う。

 

もう、教えることなんてないだろう。

お前は十分に成長したんだから。

 

男はそう返す。

しかし、彼女だってそこで引き下がりはしない。

 

『いいえ、貴方の答えが重要なんです』

『この質問に正しい回答はありませんから』

 

 

 

 

制止しようとしても、少女は勝手に話し始める。

男は何も言わず、目線を下に向けたままその話を聞くことにした。

 

 

 

 

『…私、自分が何なのか分からなくなっちゃいました』

『自分が怪物だったなんて、未だに信じられません』

 

 

 

始まった少女のそれは、もはや質問の体を保っておらず、ただの独白だった。

しかし、男は黙って聞き続ける。割って入るほどの度胸など、男が持ち合わせているはずもなかった。

 

 

『私は…いったい何なのですか?』

 

『私は、人ですよね?』

『怪物なんかじゃない、立派に生きる一人の【人類】ですよね?』

 

『だって…だって。もしそうじゃなかったら、私は…私は』

『ただの化け物になっちゃいます』

 

『人の見た目をしているのに、人が本来持っていないはずの特徴を持っていて。怪我が治るのが異様に早くて、気味の悪い触手が生えている』

『そんなのを化け物と呼ばないのなら、いったい何と呼べばいいんです?』

 

 

フェイタルの声に、涙声が混じる。

いつも気丈に振る舞い、どんな状況でも笑みと余裕を絶やさなかった。

そんな彼女が、涙声になっている。

 

男の記憶する限り、彼女が泣いているのはこれが初めてだった。

余程、自分が人じゃなかった事実がショックだったらしい。

 

そんな事を思いながらも、少女の独白は続いていく。

 

『…』

『…どうして?なんでなんでしょうか』

『どうして私だけ、こんな目に合わないといけないんです?』

『こんなに頑張って…こんなに愛されようと藻掻いているのに…』

 

『結局誰からも、愛されないのなら…』

『そもそも、人ですらなくて、一匹の化け物だったのなら』

『私…私は…何のために知識を得て…何のために生まれてきたんですか?』

 

 

男は何も言えない。

だって、自分関係ないし。

産んだ軍の人たちとか、研究者の方々に言ってもらってもいいですか。

 

本音を言えばそんなところだ。

しかし、さすがに今の雰囲気でそんなことは言えない。

言ったら殺されそうだ。

 

 

『…ねぇ、お兄さん』

『貴方は、私を肯定してくれますよね』

 

『あの時の様に、言葉を使えない私に優しく教えてくれた時みたいに』

『もう一度、私を救ってくれますよね』

 

独白が自分に向けたメッセージになり始めた。

男は内心ヒヤヒヤする。

このまま放っておけば、エスカレートして自分に直接危害を与えるのではないだろうか。

 

そんな事を考えると、内心気が気ではなかった。

 

 

 

男が黙っていれば、少女は続きを話し始める。

たった一人の独白は、直接的な投げかけに変わっていく。

 

 

『…肯定してください。私の事を』

『一人は嫌です。孤独は苦しいです』

『貴方しかいないんです。私にとって、貴方以外、何もないんです』

 

『だから、私を人だと言ってください』

『嘘でもいいんです。虚偽でもいいんです』

 

『だから、私を怖れないで…こっちを向いて…』

『私から目をそらさないで…もう一度、初めてあった時みたいに』

『あの優しい瞳を向けてください…』

 

『たった、それだけでいいから…』

 

男の頬に、フェイタルの手が伸びる。

男は抵抗しない。出来ない。

そんな事をすれば、どうなるか分からないから。

 

 

男はずっと下げていた頭を上げる。

そうして、フェイタルと顔を合わせてみれば。

 

思っていたよりも、何倍も綺麗な顔だった。

頬を伝ったであろう涙の痕や、必死に涙を堪えるようなつらそうな顔。

普通なら、お世辞にも美しいとは言えない表情のはずなのだが。

 

なぜだか、とても艶やかで。

普通の人類なんかよりもずっと、人間らしく感じられた。

 

 

 

『…ようやくこっちを向いてくれましたね…』

 

 

フェイタルは、辛そうな笑みを浮かべる。

無理をしているのが丸わかりな、そんな苦しそうな笑顔。

 

けれど、男はそれから目が離せず。

フェイタルも、目を離そうとはしなかった。

 

男と目を合わせながら、少女の言葉は紡がれる。

少女の感情の昂りによって、触手が男の手元に伸びる。

男は動けない。

 

『分かってます…分かってますよ』

『独りよがりだって、自己中心的だって』

『でも、これ以外何もないんです』

 

『…独りぼっちは嫌です』

『誰かの温かさを感じないと生きていけないんです』

『怖いんです、一人になるのが。何もできない自分に戻るのが』

 

『大切な人を、失いたくないんです』

『だから、離れないでください』

 

『どんなことでもしますから、どんな風に使ってもいいですから』

『私を…怪物にしないで…』

『人として…貴方の傍に居させてください…』

 

『愛してほしい、なんて高望みはしません』

『ただ、貴方の傍に居させてください…』

 

『だめ…でしょうか?』

 

少女の手が男の手を包み込み、男の腕に触手が絡みつく。

しかし、それはいつものようにきつく絡んではこない。

 

思いっきり振り解けば、簡単に離れてしまいそうだった。

 

 

男は決断を迫られる。

 

今までずっと、先延ばしにしていた問題だ。

彼女は自分を曝け出し、自分の本心を打ち明けた。

もはや男に一刻の猶予も残されてはいない。

 

 

 

しかし、どのような決断を下すにしても。

男はフェイタルを落ち着かせる必要があった。

 

今の彼女の精神状態はかなり不安定である。

彼女を拒絶するにしても、肯定するにしても。

この子を落ち着かせる必要がある事には変わりない。

 

この状態で拒絶なんてしようものなら、そのまま墓場に一直線なんて事もあるだろう。

 

故に、男はとりあえず少女の要求に応じてあげる事にした。

 

お前は人だ。

例え、辞典に載っていなくとも。

お前が人だと示す証拠が無かったとしても。

人だと信じるんだ。他でもない、自分自身のために。

 

そう、男は言葉にする。

それを聞いた少女は一筋の涙を流しながら、ゆっくりと微笑んだ。

 

『…う…うん!』

『…ありがとう…お兄さん』

 

しかし、すぐに堰を切ったように涙を流し始める。

よほど男の返答が嬉しかったようだ。

 

『ぐすっ…よかった……ほんとうに……』

『ごめんなさい……ホントは…こんな不甲斐ないところ……見せたくないんですけど……』

『でも……今くらい、泣いても良いですよね?』

 

『このまま、1人で過ごすことがないのだと思うと…嬉しくて』

『勝手に…涙が溢れてくるんです……』

 

フェイタルは席を立つ。

そして、男の方に向かうと彼の目の前に立った。

 

その後、ギュッと男のことを抱きしめた。

優しく包み込むように。たくさんの愛情を込めて。

男に対して抱擁をした。

 

打算も意味もない。

ただ、愛する人に対して向けられた真摯な思いがそこにはあった。

 

『暖かいですね…ほんとうに…』

『ほんとうに…よかったぁ……』

 

少女は男の肩に頭を乗せ、ゆっくりと呼吸をする。

その後に吐き出された言葉は、じっとりとした湿度を持っていた。

 

 

 

 

男はフェイタルが席を立った瞬間に、何をするつもりなのかとビクビクしていたが。

ハグをされて拍子抜けしてしまう。

だが、よーく考えてみればそれもそうだ。

目の前の怪物は、まだ言葉を解して1年も経っていない。

幼いものだ。可愛らしいものだ。

 

しかし、彼女の成長速度は頭抜けている。

今はまだこの程度だが、将来はどうなるか分からない。

奇妙な思想に触れ、とんでもないことをしでかすかもしれない。

軍や人間に不信感を覚え、大事件を引き起こすかもしれない。

 

彼女を怪物だと見なすのなら、これ以上躊躇はしていられない。

この場を離れ、軍に通報する必要がある。

 

もはや、男に彼女のことを制御することなど出来はしない。

故に彼女の側を離れるのなら、今しかない。今しかないのだが…。

 

 

男の内心は揺れ動き始める。

この子は怪物だ。しかし、優しく思慮深い。

 

男は怪物だからと言って真正面から向き合うことを拒否してきた。

それでも尚、この子は自分を愛している。

その一途さは折り紙つきだ。

 

いい加減、彼女を信じてみるべきだろうか?

彼女が人と共存できると、信じてみるべきだろうか?

この子は悍ましい怪物などではなく、1人の人間であると信じてみようか?

 

男の脳裏にそんな二つの考えが浮かぶ。

安らかな抱擁をされながら、男は悩む。

 

 

 

 

 

そして、男が取った決断は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。終わりでございます。

私、ゲームのルート分岐とか大好きなんですよね。
知らないゲームのエンディング集とか、小ネタ集とか見ちゃいます。

後、昔の視聴者参加型のテレビ番組とかも好きでした。
dボタンとか押したりしましたね。

と、いう事で。
ちょっとしたアンケートをとらせていただきます。
興味のある方は是非ご参加ください。

第八話 適当に待っていただけると幸いです。

この後、男はどんな行動を取ったと思いますか?

  • 怪物と真正面から向き合った。
  • 怪物から逃げた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。