これからも推していきたいし、ここでも活躍させるっすよ…!
練習が終わった夜…花帆はさやか・歩夢・四季と共に4人で寮内の大浴場に入っていた。
花帆「いやー…寮の窓にも鉄格子がハマっててどうしようかと思ったけど、大浴場だけは、気持ちいいねー」
さやか「そうですねえ…わたしはまだちょっと、慣れませんけど…」
歩夢「私も…まさか鉄格子まであるなんて、ホントに牢獄みたいって思っちゃうよね…」
四季「不自由感、すごい」
大浴場の湯に練習後の疲れを癒されながら寮の窓について語る4人。確かに安全確保には最も手っ取り早いやり方ではあるが…いかんせん牢獄感がすごくて見栄えが良くないぞ。
さやか「それで今度は、サッカー部のマネージャー、ですか?」
花帆「ああ、うん。といっても、来週までだけどね。練習試合があるみたいで。さやかちゃん達は、サッカー部の練習、どう?」
さやか「やりがいがありますよ。今日も夕霧先輩をはじめとした色んな方と、とてもいい刺激をもらっているんです」
花帆「そっかぁ。よかったね、さやかちゃん!」
歩夢「そうなんだ…私も早くそっちに行きたいな…」
四季「大丈夫。あれは動きを作るための練習で本当に基礎的だから、遅くても明後日には私達と同じ練習が出来る」
さやか「どうしても不安でしたら、朝早く起きて練習してみると良いですよ。私も協力します」
歩夢「ありがとう…頑張ってみるね」
四季「私も協力するから…」
同じ練習が出来ず悩む歩夢をサポートするさやか。四季ももちろんサポートは欠かさないつもりだ。
その後、他の話をするうちにさやかが自分のことについて話す。
さやか「わたしって本当は、どこの部活に所属する気も、なかったんです」
花帆「あれ、そうだったの?部活見学に、あんなにノリノリだったのに」
さやか「あ、あれは、花帆さんがずいぶん落ち込んでいましたから、ちょっと雰囲気を変えたいな、って思って…」
花帆「そうだったんだ。さやかちゃんにも歩夢ちゃんにも、気を遣わせちゃったね、ごめんねえ」
さやか「いえ、いいんです」
歩夢「私も。さやかちゃんが提案してくれたのを一緒にやろうと思っただけだから…」
さやか「今は花帆さんも元気そうですし。それに、素敵な出会いがありましたから」
花帆「綴理センパイ、だよね」
さやか「ええ。花帆さんと離れた後で…夕霧センパイのサッカーを見たんです。その姿は、あらゆるしがらみから解き放たれたかのように自由で、わたしは思わず心を打たれました」
花帆を元気づける過程で、綴理に出会えたさやか。彼女のサッカーに関して語った後、しばらく浴場の中が静かになり、さやかはその中で再び語り出す。
さやか「わたし、蓮ノ空に入学する前からもともとサッカーはやっていたんです。そして、同じ世界で生きてきたからこそ、夕霧先輩のすごさがよくわかります」
花帆「さやかちゃんも、サッカーやってたんだ」
歩夢「確かに、今日もセンパイ達と向こうで練習してたね」
さやか「ええ、そうです。なんですけど…」
さらに語る…と思いきやさやかはそっぽを向いて恥ずかしそうにしてしまう。どうやら語るのは少し気が引けるようだ。
花帆「聞かせてほしいな、さやかちゃんのこと」
歩夢「私も聞きたいな」
四季「me too」
歩夢「え」
ここで四季がさやかの話に関心を持ったことに驚く歩夢。四季はその過去から無意識にさやかを避けていたのだが…
四季「ここで話を聞いたら、本当にあんな人なのか分かるかもしれないから…」
歩夢「そうなんだね…」
四季と歩夢は小声で話し合う。どうやら四季も、さやかが悪い人ではないと信じたい気持ちは芽生えている様だ。
さやか「…あんまり面白い話じゃないと思いますけど」
花帆「友達の話だもん。どんな話でも楽しいよ。あっ、楽しいっていうのは、笑ったりするってわけじゃなくて!」
さやか「わかってますよ。花帆さん、もう。花帆さんと話していると、すぐペースに巻き込まれちゃいます」
花帆「そんなことないと思うけどなあ」
さやか「ありますよ、初対面の時から」
花帆の独特な会話に困りながらも笑顔になるさやか。それはそうと、花帆達にお願いされたので、さやかは改めて語り出した。自身の過去のサッカーについて…
さやか「わたし、サッカークラブに通っていたんですけど、でも、そこで壁にぶつかったんです。どうすればもっとうまくなれるのか、わからなくなって」
花帆「もっとうまく…」
さやか「はい。そこのコーチからは、“
四季「オリジナリティ…?」
さやかに向けられたアドバイスはよく分からない言葉。同じサッカー経験者の四季も何を言っているのか分からない状態だ。
さやか「自分でも考えてみたんですが、それが少しも掴めなくて。それでうまくなれないままサッカーをやめてしまって、もうサッカーから離れようと蓮ノ空に来たんです。スポーツより芸術に富んだ学校ですので、そこでサッカーとは無縁の生活を送ろうと…」
歩夢「ひょっとして、バスの中で人と仲良くする気がないって言ったのは…」
さやか「あの時は本当に気分が沈んでいて…でも、出会ったんです」
花帆「その出会いって、もしかして!」
さやか「はい。夕霧先輩のサッカーは、わたしの思い描いた理想とは違って…それよりもっと、すごかったんです。だからわたしは、サッカー部への入部を決めました」
さやか「もっと理想に近づいて…昨日より、ほんの少しでも、高く跳んだ自分になりたくて」
花帆「そうだったんだ…素敵だね、さやかちゃん」
さやか「花帆さんがいなければ、夕霧先輩にも出会えませんでした。不思議ですよね、出会いっていうのは」
花帆「ええー!?じゃあそれ、まるであたしのおかげみたいじゃん!」
さやか「少なくともわたしは、そう思っています。ふふふ」
四季「…」
綴理と自分を引き合わせてくれた花帆に感謝するさやか。一方で、歩夢と四季は不思議な出会いという言葉に複雑な心境を抱く。
さやか「花帆さん、前に言ってましたよね。この学校で『花咲きたい』って」
花帆「あ、うん。そうなんだ。だから、あたしね…」
さやか「それって、サッカーじゃ、だめですか?」
花帆「え…?」
さやか「花帆さんは、ここでサッカーをすれば、きっと楽しい毎日が待っているって、思いませんか?」
花帆「あたしは、でも、そんな。サッカーなんて、やったことないし…ぜんぜん、よく知らないから…」
歩夢「私もだよ。それから練習試合まで時間もないし…」
さやか「フィールドの上で仲間の動きを見て自分はどう動くかを考えたり、激しいぶつかり合いがあったりと、想像しただけで大変だと思うところはあります。でも、花帆さんならそういうのも、似合いそうだって思うんです。わたしの勝手な意見ですけど…」
花帆「…」
花帆をサッカーに誘ってみるさやか。花帆は自分がサッカーを知らないことから、それを躊躇して黙り込んでしまう。
花帆「ごめん、さやかちゃん」
さやか「あ、いえ、すみません!わたしこそ、自分が楽しいからって花帆さんを安易に誘ってしまって。ただ、一緒ならもっと楽しいんだろうな、って思っただけなんです」
花帆「あはは…ありがとね、さやかちゃん。あたしもね、さやかちゃんとお友達になれて、すっごくよかったよ」
さやか「嬉しいです、花帆さん」
花帆「あ、もちろん歩夢ちゃんや四季ちゃんとお友達になれてよかったからね!」
歩夢「そ、そんなに焦らなくても大丈夫だよ!」
四季「花帆ならそう思ってくれるって、分かるから」
さやか達と友達になれて感謝する花帆。まだ入学して間もないが、花帆にとって信頼し合える友達は多いようだ。
花帆「誘ってくれてありがと、ほんとに、ね」
ーサッカー部部室ー
湯船に浸かった後、今日も《
圭助「みんな、大変なことが起きた」
海未「大変なこと…ですか」
圭助「まず、練習試合の対戦校、どこかは分かるか」
恋「確か、竜星学園ですよね」
圭助「正解だ。その竜星学園が『ハーデスト』の魔の手にかかってしまった」
歩夢「えっ!それじゃあ、私達の練習試合は…」
圭助「『ハーデスト』のチームと化した竜星学園…つまり『ハーデスト』と戦うことになった」
レアン「試合は中止…ってさせてくれる程優しい連中でもなさそうね」
絵里「それどころか、スケジュールを破ってこっちに襲いかかってきそうね」
圭助から練習試合の相手が『ハーデスト』に征服された報告がされる。練習試合は負けられない戦いとなってしまった。
果林「これは明日から死ぬ気で練習ね…」
圭助「いや、練習は今日と同じようにやる。ヘタに先走ると、いらぬ不和を招きかねないからな…」
四季「こういう時こそ冷静に…」
圭助「その通り。大丈夫だ。偵察したが、こっちに基礎としっかりしたチームワークがあれば十分勝てる相手だ」
恋「偵察してきたのですか!?危険です!」
圭助「さすがに俺が直接敵地に乗り込んだわけじゃないさ。いい機会だから紹介しよう」
バサバサっ!圭助が話すと同時に、白鳥が飛んできて机に着地した。
塔子「鳥!?」
恋「もしかして…それを使って偵察を?」
圭助「その通り。人語を喋る事が出来る白鳥だ。《カナリアさん》と呼んでくれ」
カナリアさん「はじめまして。あなた達と同じ、他の世界から来ました。陰ながらあなた達の手助けをさせていただきます」
歩夢「よろしくね、カナリアさん」
カナリアさん「姫巫女様…」
歩夢「え?」
カナリアさん「いえ、何でもありません。少し昔の事を思い出していました」
歩夢が近づくと、どこか悲しげな声色でつぶやくカナリアさん。
歩夢「ごめんなさい!…嫌なこと思い出しちゃったかも…」
カナリアさん「大丈夫です。そちらにとっては知り得ない話ですので」
圭助「世界の数だけ違う自分がいる…そう思って気にしないでおけばいい」
歩夢「それはちょっとまずいと思う…」
圭助「そうなのか?」
絵里「赤の他人ならそれでいいでしょうけど、私達は仲間として戦うのでしょう?」
四季「地雷は絶対避けるべき」
恋「差し支えなければ、ここにいる皆さんがそれぞれ前の世界でどのようなことがあったか話しませんか?…その、本当に辛い場合でしたら申し訳ありませんが…」
みんなでそれぞれの過去を話すことが提案された。これを知っておかないと、知らぬ間に相手を怒らせてそれこそ不和に繋がりかねないからだ。
恋「ではまずは私から…私は母が遺した学校の生徒会長を務めていましたが、学校のお金がなくなってしまい…私が2年生になる前に廃校となってしまい、途方に暮れていたところでこの世界に呼び出されました」
四季「廃校…」
海未「母の遺したものが消えてしまうのは、確かにとても辛いですよね…」
恋は結ヶ丘女子高校という学校に在籍していたが、学校のお金がなくなり廃校になった過去がある。その境遇にそこにいる者全員が悲しい顔になる。
歩夢「あ、あの…次は私で。といっても、本当に普通の人生です…幼馴染の侑ちゃんと一緒に虹ヶ咲学園って高校に入ろうとして、そしたらここに…」
カナリアさん「普通の人生、ですか…」
廃校になったことは過去としてあまりにも重すぎるので、今度は歩夢が普通の人生を話す。とはいえ、ここから突然飛ばされてしまうのは、それはそれで辛いものがある。
四季「私も普通の中学生活。幼馴染と一緒にサッカーしてた。でも…さやかに襲われてメイは攫われた」
絵里「村野さんに…!?」
続いて四季が自分の生活を話す。メイとサッカーをやっていたようだが、それがさやかによって壊されてしまったらしい…
海未「私も幼馴染と普通の生活…とはいきませんね。家で武術を習う毎日でした。ことりを…幼馴染がフードを被った人間にさらわれてしまって、取り戻そうと立ち向かったのですが殺されてしまって…」
四季「これも『ハーデスト』が…?」
海未「分かりません。ですが、フードの人は《ラブアローシュート》などと言って私に向かって小石を蹴ったんです。それであっという間に胸を貫かれてしまって…」
圭助「シュート…か」
続いて海未の過去。こちらはことりという幼馴染が攫われてしまったようだ。相手の手口に『ハーデスト』のかかわりを疑う者も。
絵里「私は普通の高校生活だったわ。音ノ木坂女学院という高校で1年を過ごしていたの」
歩夢「絵里さんも特に変わったことがなかったんですね」
絵里「ええ。でも、ここまで話を聞いていると、それが一番幸せじゃないかしら」
絵里は音ノ木坂女学院で高校生活を送っていたようだ。何も起こらない方が本来幸せなのだ…
果林「…次は私よ。私はさっき歩夢が言っていた虹ヶ咲学園って学校に実際にいて、そこで読者モデルもしながら一年間寮で生活していたわ。もっとも、同じ寮生活でも虹ヶ咲と蓮ノ空だと全く違うけど…」
歩夢「虹ヶ咲って、自由な校風が売りの学校ですからね」
圭助「そんなところからこの蓮ノ空に来てくれたのか…本当にありがとう」
果林「呼び出したのはあなたじゃない…まあ、ちゃんと協力はさせてもらうわよ」
虹ヶ咲と蓮ノ空は真逆の校風。そんな環境で戦ってくれることに感謝する圭助だが、これはほぼ強制的なのだ…
レアン「次は私…私は前の世界ではエイリア学園って組織に入って、サッカーで悪い事をしていたわ」
恋「レアンさん…!?悪者だったのですか!?」
レアン「色々あったの…1年前にエイリアは解散になって、今では普通のサッカーを…と思ったところでこの世界に来たわ」
海未「しかし、最初に会った時は悪い人には感じませんでした。それは今でも同じです」
レアン「ありがとう…絶対に裏切ったりしないと誓うわ」
エイリア学園という『ハーデスト』に似たような連中の一味だったレアン。しかし、今では純粋に世界一のサッカー選手を目指すサッカー選手だ。
塔子「じゃあ、最後はあたしだね。あたしはそのエイリア学園を倒すために、雷門ってチームで日本全国旅をしてたんだ!」
絵里「旅を?」
レアン「エイリア学園は日本中の学校を破壊していたから…それを阻止しに行っていたと思う」
塔子「その通り!そして地上最強イレブンを結成して、エイリア学園から世界を守って…いよいよ高校生になるぞー!って時にこの世界に来ちゃったんだ!」
四季「すごい…だからサッカーがあんなに上手いんだ」
レアン「まさか雷門のメンバーと一緒に戦うなんて…あの時は本当にごめんなさい」
塔子「大丈夫大丈夫!それに…レアンの事はちょっと会った記憶がなくて…」
レアン「えっ!?私そんなに印象に残らなかったの!?」
塔子「あ、いや、違うよ…ほら、えーと」
圭助「まぁそんなに落ち込むな。キャプテンやエース、もしくは飛びぬけて弱いとかでもない限り相手チームの選手なんて全員は記憶しないものだろう」
塔子「ホントに違うんだってぇー!」
実は塔子のいた世界とレアンのいた世界は微妙に異なる。この塔子の世界ではレアンが対戦相手に出てくることがなかったらしい。
カナリアさん「では、私のことに関しても教えましょう。私は皆さんとは文化の違う世界で、太陽神様とつながる姫巫女様に仕える僧侶として生きていました」
歩夢「文化の違う世界…?」
圭助「いわゆる皆にとってのファンタジーの世界だな」
カナリアさん「しかし姫巫女様がドラゴンに攫われたことで世界から太陽の光が消え失せ…世界はそのまま闇に覆われ、絶望に満ちていたところをケイスケさんに拾われました」
恋「世界が闇に覆われた…!?では、カナリアさんの世界は…」
カナリアさん「今頃民の
カナリアさんは悲し気に語る。少し分かりにくい用語が混ざっているが、要するにカナリアさんの世界は滅びたのだ。
絵里「ところで気になったのだけど、鳥でも僧侶…っていうのは出来るのかしら?」
カナリアさん「いえ。僧侶の仕事をする際は人間の姿になります。まだ皆さんにも正体を見せたくないので、この姿で過ごさせていただきます」
圭助「俺が許可した。ヘタに人間態を見せて『ハーデスト』に捕まって欲しくないからな」
カナリアさんの正体はトップシークレット。また、圭助や《真蹴球戦士》のみんな以外には人語を喋らないことにしている。
圭助「ではここまで来たら俺も話そう。俺は元々サッカーが好きな神様だった。しかし、『ハーデスト』が他の世界も巻き込んで暴れることを受け、この世界に干渉することになり、そのために神の身分を捨てて人間としてこの世界にやって来た」
海未「神様は直接世界に干渉できないと、以前おっしゃられてましたね」
恋「神様の身分を捨てるなんて、そんな苦労をされていたのですね…」
圭助「確かに今までの自由な暮らしも捨てることになるからな…だが、それでも俺の力が必要だからこそ、この世界に人間として遣わされることになったんだ。どんな環境でも、それを果たすだけだ」
絵里「とても仕事熱心なのね…尊敬します」
圭助「そんなに礼儀正しくならなくても…仕事なんだから当然さ」
果林「そ、それ…ちょっと危ないわよ…?」
どんなことでも仕事だからと引き受ける圭助。読者モデルで働いたことのある果林は少し不安そうな顔をしていた…
圭助「さて、仕事とは言ったが、キミ達との関係まで仕事と割り切るつもりはない。俺もまた蓮ノ空の仲間として、キミ達と戦わせてもらうつもりだ…!」
海未「心強いですね。改めて是非、一緒に戦いましょう!」
ここにいる全員の過去を語ったところで、改めて「仲間」として戦うことを話す圭助。これで明日からは、よりお互いを分かり合った状態でプレーが出来るのかもしれない…そう感じてその日は幕を閉じた。
サッカーしてないのに今までで1番長かった!