黄金を目指して   作:一般通過流刑兵

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これが書きたかった
ゴドリックのセリフが少し変わっているので注意




 

 褪せ人の視界の中で、ゴドリックの姿が変貌していく。

 一個体での劇的な生体変化に対する正式な名称は『変態』であるが、ゴドリックのそれはもはやその枠組みを逸脱する『進化』であった。

 

 ゴドリックの両手足、それを構成していた大小さまざまな腕たちがバラバラに解け落ちていく。ボトボトと石畳に打ち付けられたそれらは瞬く間にドス黒く変色し、異臭を放ちながら蒸発して石畳のシミとなった。

 数多の腕たちを取り払ったことで露わとなったゴドリックの、一回り小さくなった歪な肉体がボコボコと泡立ち始める。

 

「オォ……グ、ァア……」

 

 ゴドリックの体から、肉の弾ける音と骨の砕ける音が響く。それに伴い、一度は縮んだはずの体が再度肥大化していった。

 先ほどよりも大きく、恐ろしく。そして何より、悍ましいカタチへと。

 

 体の節々から赤黒く濁った血潮が噴出し、彼の薄汚れた肉を彩っていく。

 さながら瀉血のように、ゴドリックからナニカが抜け落ちる。

 それは弱さであった。それは臆病さであった。それは、誇りであった。

 

「ガアアアアアア!!!」

 

 大樹の根のようであった両足はさらに太く、逞しくなっていった。

 先ほどまでと違うのはその毛量である。病的なまでに白い腕たちで構成されていた足とは正反対に黒い毛皮で覆われ、それひとつだけで褪せ人の顔よりも大きい獣の爪が五本生え揃う。

 

 もはや大樹の根どころか幹そのものと言った屈強さを見せる両足に支えられる胴体も比例して巨大化していく。

ただ幅があるだけで痩せこけていた腰が、腹が、胸が、肩が。それらを構成する骨と肉が。

弾け、盛り上がり、収束し、埋め尽くし、膨張すればまた弾ける。

 

 膨らみ続ける肉体の圧力に耐えかね深緑色のローブが内側から引き裂かれると、腰の辺りから緑色の甲殻に包まれた尻尾が現れ地面に垂れた。尻尾は枯れ木が折れる音を奏でながら開き、内側から小さく尖った脚を大量に生やすと地面をがっちりと掴む。

 

 辛うじてヒトの形を保っていた両腕が固い甲殻へと変じ、右腕は鋭く尖って白に染まった。左腕は半ばから真っ二つに裂けたかと思えば、巨大な鋏となって打ち鳴らされる。

 その下の脇からは大量の血飛沫と共に、両足によく似た体毛を持つ獣の腕が生えた。黒紅色の血に濡れた爪がぬらぬらと輝き、鋭利な先端からぽたぽたと滴り落ちる。

 

 両肩の後ろ、ちょうど肩甲骨があったはずの場所からは眼を失った細長い甲殻類がそれぞれ顔を出した。ぎちぎちと、もはや意思を持たないそれの口が蠢いている。

 そして最後に背中の、背中だったであろう部位の中央から桜色の管のようなものが複数本伸び始める。うねうねと蠢く管には赤みがかった線と青みがかった線が走っていた。

 どくどくと酷く生命的な音を鳴らし、とろみのある薄っすらと黄色い液体を滴らせている。

 

 血生臭い獣臭と、泥と潮が混ざり合った匂いと、吐き気を催すような饐えた香りが充満していく。

 この世のものとは思えぬ冒涜の風に、褪せ人の鼻はとっくに使い物にならなくなっていた。

 

「おォ、強キ竜よ……ソの力を、我に……」

 

 ゴドリックがそう言うと、管が弾かれたように加速して竜の首に突き刺さった。

 液体を飛び散らし、ゆっくりと縮んでいく管に引きずられるようにして、眼窩から光を失って久しい竜の首がゴドリックの一部となり動き出す。両側に沼地を這うモノの首を従え、翼を失った空の支配者が吼えた。

 

「父祖ヨ……」

 

 牙どころか顎すら欠けたその口から黒を内包する紅い火炎が吹き上がり、触発されるように甲殻類の口からは深紫色の水が発射される。

 持ち上がった尻尾と獣の両腕が石畳を叩いて粉砕し、もう一対の甲殻類の腕が打ち合わされて固い不協和音を轟かせた。

 

「ご笑覧あレェい!!!」

 

 彼こそはデミゴッド。接ぎ木のゴドリック。

 大ルーンを宿す、紛うことなき破片の君主である。

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 戦いは苛烈を極め、かつての破砕戦争もかくやとばかりに激しさを増していく。

 

 ゴドリックは両足に接いだ獣の敏捷性でもって、その巨体からは考えられないほど軽やかに跳ね回り褪せ人を轢き殺そうとする。

 暴風を巻き起こしながら振るわれる四本の腕と、褪せ人の大剣がぶつかり合うたびに火花が散った。

 

 恐ろしき獣の腕が褪せ人の胴体を破壊せんと迫り、紙一重でそれを躱す褪せ人が鉄塊を振りぬけば分厚い獣の毛皮が裂け、飛び散る鮮血が戦士の無骨な兜を艶やかに染める。

 武器諸共に圧し折ってやろうと甲殻類の鋏を振りかざせば、その動きがわかっていたかのような反応速度で間合いを外し空振らせる。

 

 距離が離れたならばと二本の鉄砲水が褪せ人を狙い撃ち、回避方向を限定させて誘い込んだ場所を火炎が焼き払う。

 背中を焦がしながら懐に飛び込んだ褪せ人が振り上げた大剣と、小さく折りたたまれた状態から素早く突き出された甲殻類の針が弾きあって甲高い音を響かせた。

 

 文字通りの手数と狭間の地に巣食う魑魅魍魎の力で攻め立てるゴドリックに対し、武器が一本だけの褪せ人はしかし、腕と腕の間を、水と炎の隙間を巧みに立ち回って攻撃を繰り出していく。

 蝶のようにと言うには荒々しく、蜂のようにと言うには強烈に。時に退き、時に攻め、薄皮一枚をなぞって躱し、躱しながら反撃する。

 

 息もつかせぬ攻防の中、ゴドリックはこれこそが褪せ人という存在の最も恐ろしい点であると思考する。

 異常な速度での成長。尋常ならざる適応能力。すなわち、進化の速度。その早さ。

 一合打ち合うごとに洗練され、威力と速度を増していくようだ。

 

 一方の褪せ人もゴドリックの、デミゴッドとしての強さを再認識していた。

 ヒトのカタチをかけ離れた姿になり果てようとも、暴れ狂うその力を十全に扱いきって見せる様はまさしく超越者たりえるだろう。

 ここまでやってなお最弱の誹りを免れないとは、デミゴッドというのは誰もかれもが規格外に過ぎる。

 

 しかし、規格に納まらないということは、倒せないことと同義ではない。

 たとえ本物の神であろうとも、己の攻撃によって血を流し、命をすり減らすのであれば勝てる。殺せない生物など存在しない。

 

 その考えこそが褪せ人という戦士の根幹をなすものであり、彼の不屈の闘志という業火にくべられる薪なのだ。

 攻防を繰り返すたびに、殺意を交わすごとに、より強くなる。反応速度が上昇していく。

 褪せ人という炎が、ゴドリックという巨木を焼き尽くさんとしていた。

 

 空気が弾ける。褪せ人の鎧が欠けた。

 銀光が閃く。獣の指が落ちた。

 甲殻類の鋏が叩きつけられる。石畳が砕けた。

 刃が振り下ろされる。固い殻が砕けた。

 鱗を纏う尻尾が振り回される。剝き出しになった土が抉られた。

 鉄塊が叩きつけられる。甲殻類の頭が打ち据えられた。

 槍が突き出される。褪せ人の兜を掠めた。

 大剣が打ち込まれる。ゴドリックの腹が切り裂かれた。

 

 攻撃、回避、攻撃、防御、退避、回復、攻撃、追撃、回避。

 

 繰り返される殴打、刺突、捕縛、射撃、猛攻。その間を縫って、斬撃が舞い踊る。

 目まぐるしく変化する戦いの趨勢。揺れ動く天秤は、やがて僅かに傾いた。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 勝ったのは、戦士の褪せ人。

 負けたのは、デミゴッドたる接ぎ木のゴドリック。

 

 肩で息をする満身創痍の褪せ人の前で、地に伏せたゴドリックの「接ぎ」によって積み上げた肉が弾け、真っ白な蒸気となって霧散した。

 まるで、始めからそんなものなど無かったかのように。

 

 その場には一人の、そこまで大柄な体躯をしていない褪せ人よりも小柄な男が、たった一人だけ残された。

 彼こそ、接ぎ木のゴドリック。その純粋なる姿である。

 体力気力共に尽き果てたことで「接ぎ」の力を保てなくなってしまったのだ。

 

 身に余る過剰な力の反動を受け、もはや虫の息となったゴドリックへ歩みを進めようとする褪せ人を、後ろから呼び止める声が届いた。

 

「ちょっと待ってくれないか、あんた」

「お前は…門衛か」

 

 褪せ人を呼び止めたのは、ストームヴィル城に侵入する際に知り合った門衛だった。

 この男とはちょっとした諍いがあったが、褪せ人はそのことに関してはもう気にしていなかったし、いまさら何かをする気もなかった。

 ただ、男が武器を構えていなければ、だが。

 

「何の用だ」

「用があるのはあんたじゃない。そこで転がってる方さ」

 

 そう言いながら、男は手に持った幅広の短剣をゴドリックに向けてゆらゆらと振る。戦いに秀でているようには見えない。

 褪せ人は門衛を見て、ゴドリックを見て、もう一度門衛の男を見た。

 前髪にやや隠れた男の眼を真っ直ぐに見据えて、逸れることなく帰ってくる光に一つ息を吐き、静かに一歩引き下がった。

 

 大ルーンは既に褪せ人の手に渡っている。すなわち、ゴドリックというデミゴッドはもうほとんど死んでいるのだ。

 その命の火はとうに消えている。今まだ息をしているように見えるのは、燃えカスとなった灰がかつての熱を、その名残を残しているだけ。

 今こうしている間にも、ゴドリックの体は末端から黒く染まり、ゆっくりと腐り落ちている。

 

 わざわざ灰を蹴飛ばし、瞬く間に消えていくだけの熱を散らすほど、褪せ人はせっかちではなかったし、門衛の男もそうであろうことを察していた。

 故に、ただ黙して立ち去ろうと決めて踵を返す。聖杯瓶はもう空になっていたため、ボロボロの体を半ば引きずるようにして。

 

 ふと立ち止まった褪せ人は、振り返らぬままに門衛の男に問うた。

 今更ではあるが、名を聞いていなかったな、と。

 男は少し驚いたような顔をして、静かにくひくひと、隙間風を吹かせた。

 

「ゴストーク。ただの、ゴストークだ」

 

 そうか、と頷いて、褪せ人は再び歩き出した。

 後ろは、最後まで、振り返らなかった。

 




【ゴドリックの大ルーン】

破片の君主、ゴドリックの大ルーン
恩恵により、すべての能力値を上昇させる

その大ルーンは、要の輪とも呼ばれ
エルデンリングの中心に位置していた

エルデの王、ゴッドフレイとその子孫たち
黄金の一族は、最初のデミゴッドであったのだ

【接ぎ木の追憶】

黄金樹に刻まれた
接ぎ木のゴドリックの追憶

指読みにより、主の力を得ることができる
また、使用により莫大なルーンを得ることもできる

弱き男は、おぞましい接ぎに力を求めた
兵士たちよ。いつかまた、共に帰らん
黄金の麓、我らの故郷に
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