ザコ悪役なので原作無視してレベリングしてたら原作が壊れた   作:ざれこ

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1 何もしてないのに壊れた……

 オタクがゲーム世界に転生したら、何をする?

 正直、答えは一つじゃないだろう。

 転生先によっては詰んでる状況をなんとかしたりする必要があるし、世界観がクソならまずその世界をなんとかしないとやってらんないだろう。

 だからまぁ、ある程度条件を限定させてもらうんだけど。

 

 ゲーム世界に転生したけど、特に責任とか束縛のない自由な立場だったら、何をする?

 

 そのゲームが前世で好きなゲームだったら。

 そのゲームをやりこんだことがあって、知識に自身があったら。

 その知識を、活かしたいと思うのではないだろうか。

 少なくとも、俺はそう思う。

 

 そしてそんな環境に俺は放り込まれたわけだ。

 だから知識を活かしてレベリングするじゃん。

 

 

 まさか、それだけでゲームの原作ストーリーが壊れるとは、思いもせず。

 

 

 いや、確かに俺は原作にもちょっとだけ関わる木っ端ザコ悪役だけどさぁ。

 こんなところで壊れるとは思わないじゃん……

 

 

 @

 

 

 モンスターと、激しくぶつかり合う。

 俺が転生したゲーム「ヴァルキリー・ライジング」はファンタジー異能バトルRPGだ。

 登場キャラはもれなく異能力を所有している。

 かくいう俺も異能者の一人。

 そんな俺の異能は、非常にシンプルかつ強力なもの――

 

「おらあ!」

 

 迫りくるモンスターと、俺は正面からぶつかり合う。

 相手は体中が真っ黒なトカゲ……もしくは小型のドラゴンか。

 何にせよ、ファンタジーファンタジーしているモンスターだ。

 それと正面からぶつかり合う俺も俺だが。

 そんな俺の異能力は、身体強化。

 おそらく、異能者の中でも特に多いシンプルな異能だ。

 中にはこういう、シンプルかつレア度の低い異能を”つまらない”と吐き捨てるやつもいるが、バカにしては行けない。

 

「ど……っせい!」

 

 鍛えれば、こうして小型ドラゴン一匹を投げ飛ばすこともできるのだから。

 とはいえそれで戦闘に決着が突くわけではない、ドラゴンは投げ飛ばされた勢いを利用して転がりながら、こちらに口を向ける。

 まずい、炎を吐き出すつもりだ。

 俺は急いで()()突っ込む。

 

「そんな、ダメです!」

 

 遠くから、俺の戦いを見守っている少女が叫ぶ。

 だが、問題ない。

 俺はドラゴンが炎を吐く瞬間に飛び上がると、その頭を勢いよく蹴りつけた。

 単純な話、口から吐き出される炎はどうしても口元の射程が短い。

 口の上を飛んで、頭へ攻撃する分にはどうやったって炎は俺に届かないのである。

 怯んだところに、続けざまに蹴りを叩き込み。

 空中で何発も蹴りを叩き込む、前世なら考えられないような動きだ。

 でも、この世界は物理法則に喧嘩売りまくりの異世界。

 この程度、なんてことはない。

 

「そろそろ倒れろよ!」

 

 しかし小型ドラゴンもタフなもので、こちらの攻撃を受け止めながら口を開く。

 流石に空中に向けて放たれた炎を回避することはできない。

 俺は慌ててドラゴンの頭を踏みつけると、体の方に突っ込んだ。

 これで俺を引き剥がして反撃に出るつもりだったのだろう、ドラゴンの狙いは空振り。

 それでも大したもので、ドラゴンは鉤爪を振りかぶってきた。

 でも、破れかぶれである。

 遅い。

 

「悪いな!」

 

 俺はそれをひらりと回避、このあたりで先程まで使っていなかった武器を引き抜く。

 小さなナイフのような剣だ。

 いくら小型とは言え、ドラゴンを屠るには不足しているように見える。

 だが、そんなことはない。

 俺がオラクル――異能を起動するために必要な魔力のようなもの――を流し込むと、刀身が光を帯びた。

 

 最終的に出来上がるのは、光に包まれた剣。

 言ってしまえばビームサーベル。

 俺はそれを、力任せにドラゴンへ突き刺す。

 光でできた刃は傷つかない、俺の力任せの刺突でそのままざっくりとドラゴンの脇っぱらに剣が突き刺さり――

 

「これで……終いだ!」

 

 俺は、勢いよくその剣を持ったまま、ドラゴンを両断するべく駆け抜けた。

 

”オオオオオオオオオオオオォォオオオオォォォォォ!!”

 

 そんな断末魔を最後に、ドラゴンは動かなくなった。

 戦闘終了である。

 光の剣をぶぉん……と元の短剣に戻して鞘にしまった。

 この後はお楽しみの経験値吸収タイムである。

 正確に言うとオラクルだが。

 とはいえその前に、あの子が無事か確認しないと。

 

「えーっと、大丈夫か?」

「――――」

 

 少女は、なんだかポカンとした様子で俺を見ていた。

 いや、正確には死に絶えてオラクルに戻っていくドラゴンか?

 まぁオラクルってホタルの光みたいなのがふわふわ周囲に浮いててキレイだもんな。

 俺も、大型モンスターを討伐した後のオラクルは、倒した感慨も合わせて見入ってしまうことがある。

 っと、そんな事を考えている場合じゃない。

 

「大丈夫か? 君」

「――――ぇ、あ……は、はい! 大丈夫です!」

 

 少女は、正気に戻った様子で俺の言葉に答える。

 青白い髪の、楚々とした美少女だ。

 ゲームの登場人物ではなさそうだが、なんとなく見覚えがある気もする。

 名前を聞けば解るかな? いやでも原作キャラは()()()()()()()()()()でもないかぎり、全員覚えてるはずだしな――と思いつつ。

 

「改めて、俺はザック。今はダンジョン漁りをしてる」

「ザックで……ダンジョン漁り……?」

「君は?」

「あ、はい、ごめんなさい!」

 

 どうやら、俺の名前に聞き覚えがあるようだ。

 ちなみにザックというのは相性で、本名ではない。

 だって、俺の本名があまりにもザコすぎて、名乗りたくないんだもの。

 話がそれた。

 とにかく、なんかレベリングしてたら、やたらと周囲から名前を覚えられてるんだよな。

 基本ソロだし、そこまで周りから見られてるわけでもないと思うんだけど。

 それはさておき、俺は彼女の名前を問いかけて――

 

 

「私は……ミリリーといいます。助けていただき、本当にありがとうございました」

 

 

 ――その名前に、硬直した。

 ミリリー? ミリリーで……青白い髪?

 いやいやいや、まだ確定したわけではない。

 今まさに、俺が小型のドラゴン――もしくは、ドラゴンの幼体を討伐したところだとしても。

 

「そ、それにしても……本当にすごいですね、ザックさん! 幼体とはいえ()()()を討伐しちゃうなんて!」

 

 ――はい。

 確定しました。

 今この瞬間、俺は疑いようもなく。

 

 

 「ヴァルキリー・ライジング」の原作を、ぶっ壊しました。

 

 

「え、ええと……無事なら、何よりだよ」

「はい! 今日は妹の誕生日だから、ちょっと遠くまでダンジョン漁りに来ちゃったんですけど」

「そ、それなら……本当に無事でよかった」

 

 ミリリー、とは「ヴァルキリー・ライジング」のメインキャラの一人であるシトリーという少女の姉だ。

 原作開始前に、後に大ボスとなるモンスター「漆黒龍クロガネ」に殺された悲劇の少女。

 ゲームでは妹であるシトリーの口から語られるだけで、()()()()()()()()()()()()()()()少女。

 はい、言うまでもありませんね。

 気付かずに俺は、そのミリリーが殺されてしまう状況を改変してしまったわけだ。

 

 無論、救えたことは純粋に喜ばしい。

 単純に俺は、この原作イベントに介入することが不可能だと考えていたのだ。

 いつ、どの年代で起きるか、全てが不明で介入しようがない。

 そもそも俺みたいな原作では一介のザコでしかない男が倒せるはずもない、と。

 でも、そうか。

 助けることができてしまったか――

 

「それにしても……ダンジョン漁りのザックさんって、やっぱりあのザックさんですよね!」

「あー、うん、多分」

 

 どうしたもんかなぁ……

 

「私、このことは皆にきちんとお伝えしますね。ザックさんの勇姿、皆にも知ってほしいんです」

「そっかぁ、ありがとね、うん」

 

 心ここにあらずで、適当に相槌を撃っていたら。

 とんでもないことを聞き流していたことにも気が付かず。

 俺は、ただ内心頭を抱えていた――

 

 

 @

 

 

 ダンジョン漁りのザック――本名コーザック――といえば、通称漁り狂いのザックとして有名だ。

 来る日も来る日もダンジョンに潜り、ひたすらモンスターを狩り続ける。

 どうしてもそうしなければならない事情があるのかと言えばそんなこともなく。

 強力な異能故に驕っているのかと言えば、持っている異能はなんてことのない普通の「身体強化」。

 金がほしいのかと言えば、装備や魔道具へ湯水のように金を注ぎ込み。

 時には使用用途が不明なおかしなものまで効きとして買い漁る。

 その様子は狂っている、としか言いようがないものだった。

 

 そんなザックが、幼体とはいえ漆黒龍を討伐したという。

 ドラゴンの中でも、一際厄介と言われるあの漆黒龍を、だ。

 隠して彼の二つ名は、すでにあったものと合わさって”漆黒卿”などという仰々しいものへと変わった。

 まぁ、狂いと卿をかけているだけなのだが。

 

 こうして、ザックは原作との自分を勢いよく乖離させていく。

 その中で無数の原作をぶち壊し、良くも悪くも周囲にその名を轟かせながら。

 本人は、ただレベリングがしたいだけなのに、と頭を抱えるのだった。




ゲーム世界の悪役転生です、悪役ムーブはしません狂人です。
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