ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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「トレーナーさん、かなり回復した感じがしますし、レースしましょう!ほら、折ったところ突っついても、もう痛くないんですよ」

「出走するのは僕も賛成だけど、まだ完治していないのを忘れないように。怪我したところを突くのは止めような。気持ちは分かるけど、あまり調子に乗らない」

「はい」

 メイクデビューを勝利したので、まずはあたしはCクラスからのスタートです

 トゥインクルシリーズとは違い、ばんえい競バはクラス分けが非常に細かいです。クラスと言っても帯広トレセン学園の学級と言う意味合いの方ではなく、強さの階級分けの方です。

 クラス付けのシステムは、基本的に地方競バ、ローカルシリーズと同じ扱いです。同クラス帯の生徒同士でレースを行って、そこで勝つか、1着以外でも掲示板に入るなりして、収得賞金が増えていけば昇格するシステムになっています。降格制度もありますが、よほど勝てなくて収得賞金が積めていない限りは降格はありません。1回でも勝てば降格は回避できるくらいです。怪我や病気で長期間の休場を強いられた子達などが降格させられます。

 同学年の同クラス帯で戦っていく都合上、自然とレース相手は見知った相手ばかりになります。

 シニア級までいくと強さが固定されてしまい、本番のレースなのにトレーニングで模擬レースしている時とほとんど出走メンバーが変わらない、という事態もあるようです。その辺りは中央トレセンとは所属する生徒の人数が違い過ぎるという事情もありますけれど。

 とにかく重賞を目指すにしても、まずはクラスを上げないといけません。

 その為には、レースにばんばん出まくりますよ!

 あたしは鼻息も荒く、トレーナーさんに宣言しました。

 幸いにして、ばんえいウマ娘は丈夫です。ばんばん出まくったとしても、あたし達の脚も身体も、ちょっとくらいの負担ではへこたれません。

「あー、でも疲労回復に温泉とか行ってみたいですね。何と言うか、そういうのってすごくそれっぽくて憧れるじゃないですか」

 実は、帯広トレセンの寮のお風呂は温泉です。ですが、普段から入っているのと、何か目的をもって入りに行く温泉とでは特別感が別物です。それにどこかに入りに行くなら、ちょっとした旅行みたいになるでしょうし。

「まぁそこはスノウ君の疲労の抜け具合とか回復速度とかを見ながら、追々だ。ただ、それは疲労が重なってきた時やダメージが酷い時の対処法だから、その自体には陥らないように僕も全力を尽くすけど、憧れてもらっては困るな。さて頭を切り替えようか」

「はい」

 トレーナーさんは話を区切るように、両手をパンと鳴らしました。

「来週の第4Rに空き枠がある。これに出よう」

 言質は取りましたからね。

 そう思いながら、あたしはトレーナーさんとの、スケジュールとレースに向けての身体の調整の話に意識を切り替えていきました。

 

 六月下旬の土曜日、第4R、ジュニア級のCクラス戦。

 今日のあたしのばんえい重量は、メイクデビューよりやや増えての2750kg。

 やる気は『絶好調』です!

『抜けるような青空のもと帯広競バ場、第4競走、Cクラス戦。デビューを果たしたばかりの9人のばんえいウマ娘たちが挑みます』

『バ場水分は低めの1.5%。やや重めのバ場ですが、爽やかな風が吹き渡っており天候は良好です。各ウマ娘の好走が期待できますね』

 わずかに湿った地面の香りが気持ち良い。

 さらさらと吹き抜けていく風に尻尾や思い思いの髪飾りをなびかせて、九人のばんえいウマ娘たちがゲートイン。平地競争に比べればだいぶ大きな固定式の発バ機。そこに入っていった子の後方に何人もの係員が取りついては橇を寄せて、ばんえいウマ娘と橇が次々と連結されていきます。

 実況と解説が流れる中で発走準備は着々と遅れなく進んでいき、やがてそれも完了。

 場内のあちこちに設置されたスピーカーから、ちょっとばかりひび割れたファンファーレが帯広競バ場全体に流れます。

 スターター台の上で、発走委員の掲げる赤い旗が天を指します。

 ファンファーレと共に翻る旗。

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました。係員が今……離れます』

 一瞬の静寂。

 ガコン、とゲートが開きます。

 目の前を遮っていた金属メッシュのパネルが両側に開き、視界がクリアになる。

『各ウマ娘、一斉にスタートしました』

 ガッジャァン!!

 橇とウマ娘をつなぐ装具が一斉に、盛大に鳴ります。

 九人のばんえいウマ娘が九台の橇を曳く音が、地響きとなります。

 空は高く、風は温く湿り気を含んで柔らかく吹き、大地に様々な花を咲かせようとしています。

 まさに初夏と呼ぶにふさわしい空気。

 己を奮い立たせんとするウォークライのような、喉を振り絞って叫ぶ九つの怒号。その重なりが歪なハーモニーとなって、爽やかな空気を震わせました。

 

 唸り声と共に体がゴールラインを過ぎると、ほんの少し遅れて橇の最後端もゴールラインを超えました。

 順位は、1着!

『やりました、勝ったのはカミノクニスノウ!』

『メイクデビューでの勝利に続いて、これで二連勝です』

『しかし勝ちましたが、メイクデビュー戦に比べると精彩を欠いていたようにも見えましたが、どうでしょうか?』

『ばんえい重量はわずかの増加でも影響は大きいですからね。その辺、不慣れな面が出たのではないでしょうか。とは言え、ジュニア級であれば身体も成長中ですし、次も好走が期待できるのではないでしょうか』

 実況と解説は、さすがに長年レースを見て分析しているだけあって、こちらのコンディションをしっかり見抜いてきますね。悔しいですが、その通りです。

 1着ではありますが、何とかギリギリ、と言う感でした。

 増えたばんえい重量に焦ってしまい。予想外に力を上手く使えませんでした。上手く集中してスタートを切ったものの、得意の序盤でスピードを上げられず、ペースを奪えずに後続に詰められてしまい接戦でした。

 怪我が回復していなかったらスピードが出せず、危なかったでしょう。

 あたしが思った通りに力を出せたのは第2障害だけ。

 第2障害をなんとか上手く越えられたので、終盤に追い込むだけのスタミナが残せていたのは幸運でした。

 薄氷でしたが、しかし勝ち星に変わりはありません。

 重賞参戦にむけて、一歩前進です!

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