ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける 作:mzk_arachne
──15──
「グラムさん、おめでとうございます!」
「おー、スノウありがとう。ようやく勝てたさー」
あたしは同室のシャコータングラムさん――通称グラムさん――を出迎えました。シャコタンさんと言うと、笑顔で頬っぺたを引っ張られますので、注意が必要です。
彼女は、あたしよりも早くデビューはしていたのですが、なかなか勝てずにいました。
勝てないと言っても2着3着ばかりの惜敗だったので、けして弱いわけではありません。
今日のあたしは出走が無いので観戦しながら他の子の応援と、レース展開の分析の練習です。トレーナーさんに言われての練習ですが、応援に夢中になっていて、気が付くとレースが終わっており分析が全然できていないことが稀にありますけど。稀に、ですよ。
大声で声援を送るあたしに手を振って応えてくれた後、スタートしてからの彼女の走りは圧巻でした。
あたしと違って上背がある。
あたしと違って前方向に厚みがある。
ばんえいウマ娘と言われたら、大抵の人がこうだろうと想像するであろう、大きくたくましいブ厚いのにしなやかな肢体。
それが生み出すジュニア級ながらに迫力のある走りは、あたしを含めて、大いにお客さんを魅せていました。
そしてグラムさんは、スタートしてから一度も先頭を譲らず、見事にそのまま最後まで橇を曳ききりました。
全てのレースが終わってから、彼女は部屋に戻ってきました。
それを出迎えてから、あたしは部屋備え付けの冷蔵庫から、あらかじめ購買部で買っておいた祝杯を引っ張り出します。
「大したものじゃないですけど、どうぞ!」
「いやぁ、嬉しいっしょ……ようやく勝てたからさ。それに、これでスノウに追いつけそうだし」
ソフトカツゲン1リットルパックを二本。
ソフトカツゲンは、勇気印メグミルクが北海道限定で販売している乳酸菌飲料です。メインの味としては乳酸菌飲料の代表格ヤクルトに近いですが、後味の強めの酸味が美味しいです。さらっとした感じで、乳酸菌飲料によくある口の中に甘みが残る感じを打ち消してくれます。
一本はグラムさんに。
一本はあたしに。
感慨深げに、手の中のパックを見つめるグラムさん
カツゲンのカツはもともと『勝つ』が由来です。ゲンは『源』に通じます。これほどあたし達、レースを戦うばんえいウマ娘に似合う飲み物があるでしょうか。その商品名からあたし達ばんえいウマ娘だけでなく道内各地のスポーツチームや受験生の間でも、縁起をかついで愛飲されています。その影響で、とうとう札幌の生産工場内に合格や必勝祈願の守り神として勝源神社が出来たくらいです。
「さぁグラムさん、勝利を祝って乾杯しましょう!」
それぞれ紙パックの口を開けて、
「「かんぱぁい!」」
掲げられた紙パック同士がぶつかり合って、ベコン、と気の抜けた音がしました。
ちょっと格好は悪いですけれど、祝杯には違いありません。
ごっ、ごっ、と喉を鳴らす音が二つ。
「ぶっはー!」
「うまかー!」
同時に空になった紙パックを掲げ、再びぶつけ合います。
「次も?」
「きっと?」
「「勝つゲン!」」
自らと友人の勝利を喜ぶ笑い声が、狭い部屋を満たしました。