ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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 グラムさんの勝利を見て心はうずうずするのですが、どうも前のレースの疲労が筋肉に残っています。少しばかり手足が重いような感じがします。

 走りたくて地面から勝手に足が離れてしまうような、そんなやる気はあっても、まだ体がついてきません。やる気に任せて普段以上の負荷にしてマシントレしようとしたら、トレーナーさんに止められました。

 回復は時間に任せるしかないので、空いている時間を有効に使って働きましょう。疲れているからと言って、だらりと休んでばかりいるのも良くないです。怪我した訳ではないので体そのものは普通に動きますし、リカバリーで体を徐々に動かすようにしていかないと普段からトレーニングしている生活のリズムが狂って、逆に調子が崩れてしまいます。あまりハードなのを選ばなければ大丈夫とトレーナーさんも言っていましたので。

 いつもお世話になっている学生課の求人票の貼ってある掲示板。

 求人票をぺらりぺらりと手にとっては、現在、学園に来ているアルバイト募集を確認していきます。

 うーん。

 学生課の求人票を見ながら、あたしは首を捻りました。

 意外に求人が少ないです。

 正確に言えば、仕事が少ないのではなく、今のあたしの条件に合うのが少ない、です。

 夏前のこの時期、野菜などはそろそろ収穫時期が見えてきますし、身体を動かす単発バイトはいくらでもあります。が、トレーナーさんとも相談した以上、あまりハードなのは今回はパスです。

 畜産系はちょっと苦手ですが、あまり贅沢を言えるほど選択肢が豊富ではないので、酪農ヘルプでいきましょう。

 酪農ヘルプとは、基本的には用事とかで家を離れざるをえない酪農家さんのお手伝いです。本業のヘルパーさんはきちんと協会に所属した人達がいますので、あたしはあくまで単なるお手伝いのバイト。やる事は、だいたい畜舎の清掃やエサやりですね。あとはそれに伴う重量物の移動とか。乳牛が相手でも搾乳なんかは今どきは機械ですし、逆にあたしみたいな素人では機械の操作は行えません。

 あたしの得意な事の一つに、動物の扱いがあります。特に猫の扱いが得意です。

 お米に鼠は大敵ですからね、実家と言わず、周りの稲作農家にはどこも鼠対策に猫が何匹もいました

 おかげで猫との付き合い方なら良く知っています。

 それこそ物心ついた時から、ずっと猫達がそばにいました。夏に涼しい場所、冬に暖かい場所、人や動物との適度な距離の取り方。調子の良い時悪い時にどうすればいいか。大事なことはみーんな猫に教わったんです。

 ただ、動物の扱いは上手いと自負してますが、どうしてか、お仕事となると妙に苦手なんですよね。思わず構ってしまうので、仕事が進まないからでしょうか?

 

 乳牛達が牛舎を出て搾乳に行っている間に、えっほえっほと牛舎の清掃です。

 流石の重労働。

 あっという間に、体から汗と熱気が立ち上り始めます。

 ふん尿を牛舎に設えられた専用の水路に掻き落として、フォークと箒で濡れたり汚れたりしている敷料を集めてはネコ車という荷運び用の手押し一輪車に積み込んで、ひたすら搬出。大きい牧場ですと、厩舎の通路床に小さなベルトコンベアが仕込んであってふん尿も寝藁もまとめて搬出したり、大きなトンボを付けた小型ローダーを通路に入れて一気に押し出したりもします。が、今日お世話になっている牧場さんはそこまでの規模ではないので手作業です。汚れた寝藁を出し終わって綺麗にしたら、牛のフトンになる敷料を補充します。新しいフカフカの稲わらや麦稈を、牛の寝床に入れてやります。

 運動用の筋肉と農作業用の筋肉──"農筋"と帯広トレセンでは通称されています──は使う場所や強度が違うので、普段スポーツ向けのトレーニングをしている人でも農作業すると筋肉痛になったりしますが、帯広トレセン生は普段からどちらも鍛えているので心配無用です。

 そうこうする内に、思ったよりも早く用事が済んだとかで、牧場主さんが予定よりも早く帰ってこられました。実働数時間といったところで、本日のお仕事は終了です。

 搾りたての牛乳をご馳走になって、帯広駅近くまで送って頂きました。

 楽ではありましたけど、ちょっと予想外の時間が手に入ってしまいました。このまま寮に帰ってダラダラするのはあまり面白そうではありませんし、かと言ってトレーニングは抑え気味にしていますし。

 ……どうせなら、ちょっと寄り道しましょうか。

 髪をまとめるのに使うリボンや、編み込みの飾りなどの小物を扱うお店を覗いてみましょう。こういう小さな可愛らしいものを見ていると、心が満たされていくというか。ふわふわしてきます。百均でも実用面は問題ないのですが、そこはより良い品の方が満たされ具合が違ってきますからね。

 あたしの得意な事のもう一つは、ヘアアレンジです。

 お父さんもお母さんも田んぼが忙しい時は、四人の妹達の世話は自然とあたしの役目でした。

 けして嫌だと言うことはありませんが、大変でした。

 意味も理由もなくどこかに走っていこうとする子供のウマ娘をとっ捕まえて、髪と尻尾を編み込んでリボンや髪留めで飾ってやっては小学校に送り出す。

 毎日毎日それを繰り返していれば、得意にもなろうってものです。

 得意になってくれば、色々と趣向を凝らしたくなってくるもので、可愛らしいリボンなんかは大好きです。大抵のばんえいウマ娘は可愛いものに目がありませんし、皆レースに出走する時は髪や尻尾を飾るのが常です。あたしもその例に漏れず。レース時に着る体操服は改造したり飾ったりは出来ないので、それ以外の部分でお洒落をするのです。

 あ、と一つの棚の前で足が止まりました。このリボンの色合いはいいですね。

 でも、この色とデザインに合わせられそうな服がないなぁ……。

 うーん。悩みます。

 

「で、思わず寄る予定のない服屋に寄っちゃった、と」

「このワンピがですね、あたしに着てくださいって言ったんです」

「まぁ別にスノウのカネだし、あんまり口出す気もないし、可愛いのはウチも大好きだけどさ。ウチらの生活だとウニクロとスィマムラとワークメンあれば、だいたい十分っしょ」

「あー!あー!聞こえません!確かに、制服とジャージとツナギとトレーニングウェアがあれば八割はなんとかなる生活ですけど!ふわふわと可愛いは心のビタミンなんです」

 

 頂いたお給料は4,000円。

 思わず買ってしまったワンピースは、13,449円。

 計算するまでもなく、大赤字です。

 気に入ったお洋服との出会いは一期一会です。その場は我慢しても、やっぱり欲しい、となって後で店に行っても売り切れていて涙を呑むなんていうのはよくある事。気に入った服は、その場で買う方が後悔が少ないです。

 なのですが、どきゅーとタイシンが大きく遠ざかっちゃいました。

 やっぱ買うんじゃなかったかもぉ。

 

【挿絵表示】

 

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