ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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「うん、走り込みのタイムやウェイトトレの負荷には問題なかったし……」

 そこで言葉を区切って、トレーナーさんはビデオ再生を停止させました。

「今見ている限り、フォームにも特に問題なさそうだ。前のレースの疲労残りはないようだね」

「はい、身体に違和感はないです。なにせ鍛えてますので!ご飯も美味しいです」

「元気があって良いことだ。食事はタンパク質マシマシにしつつ、炭水化物と脂質もバランスを心がけて摂るようにね。そうだ、トレーニング後のプロテインもそろそろ在庫が切れるから買うけれど、味の希望があれば聞いておくよ」

「この間はトウカイテイオーさんコラボのはちみー味が美味しかったので、次はメジロマックイーンさんコラボのメロンパフェ味いってみたいのでお願いします」

 トゥインクルシリーズの有名人ともなれば、様々な商品やイベントとコラボしています。アスリートであるだけに、あたしも飲んでいるプロテインブランドとのコラボも常連。

 同じウマ娘。同じ競走バ。

 なのですが、中央所属のウマ娘は天の上と言うか、テレビやネットが映るディスプレイの向こうの存在です。

 ばんえいウマ娘ですと、道東の地元企業とのコラボやタイアップがせいぜい。大きくても北海道ローカルでしょう。国民的スポーツ・エンターテイメントであるトゥインクルシリーズと比べるには相手が悪すぎますが、純粋にその知名度は羨ましい。

 この手のドリンクでウマ娘向け定番のフレーバーであるニンジン味は、普通のニンジンジュースなら好きなのですがプロテインですとちょっとケミカル過ぎるというか、あるいは畑で採れたての美味しい生の人参を知り過ぎているが故でしょうか、あたしはあまり心惹かれません。やるなら普通に人参を絞ってジュースにして、そこにノンフレーバーのプロテイン入れますからね。

「相変わらずのチャレンジャーっぷりだね。さて、スノウ君の希望でもあるし、何よりメイクデビューが遅めだったから多めに出走して少しでもクラスを上げたい。今からだと今週末開催のは間に合わないが、その翌週の第3Rに空き枠がある。これに出ようか」

 前回は〆切ギリギリの登録でしたが、今回は少し余裕があります。

 通常、出走しようとするレースが実施される前週の日曜までには登録申請しないといけません。

 重賞だったら前々週の日曜が〆切になります。それに申請できたからと言って早い者勝ちで出走できるのではなく、枠が溢れるとふるいにかけられ、収得賞金の多い順番での登録になります。そもそものクラスを上げる為にも、そのようにレース前から競い合う状況になった時の為にも、出走して勝利のチャンスは掴んでおきたいのはあたしとトレーナーさんに共通しています。

 トレーナーさんが手元のタブレットを操作して、画面を見せてくれました。

 そこには、出走予定のレースについて色々と情報がまとまっています。

「おぉ、協賛競争ですか……まだレースの名前は決まっていないんですね」

 次に出走を狙うレースは、協賛競争でした。

 協賛競争とは、一般の人がレース名称を好きに付けることが出来るレースの事で、地方競バに特有のレース形態です。レースの内容自体やクラスは普通のレースと変わりありません。

 一定金額を支払えば、レースに好きな名前を付けられる上に、レースの勝者と一緒に記念写真が撮影できるのです。レース開始前には協賛コメントが実況で読み上げられますし、勝ったばんえいウマ娘のサイン色紙とか、ちょっとしたグッズのプレゼントもあります。

 サービス精神の旺盛な子だと、腕にぶら下げたり、お姫様抱っこポーズで撮影したりしてるそうです。ばんえいウマ娘のパワーであれば、腕一本にヒト一人ぶら下げるなんて軽いものです。

 個人なら一口一万円から、企業であれば一口三万円から。

 安いと見るか高いと見るかは人次第ですが、記念になるのは間違いないでしょう。たいていは、誰それ誕生日記念だとか結婚や定年、旅行で帯広来訪など何かしらの記念を表した、そういうレース名がつきます。洒落をきかせたレース名もちょくちょくあるので、出走表を見ていて飽きません。

 最近は推し活とかで、推しているばんえいウマ娘が出そうなレースを狙って出資される人もいるとか。必ずしも命名権が取れたレースに推しの出走がぶつかる訳ではありませんが、もしそれで推しているばんえいウマ娘が勝利すれば一緒に記念撮影できるわけですし、一生の記念になるでしょう。そうでなくても推しを応援できるわけで。ただし協賛競争のレース名称の中に第三者の名前は勝手に使えないので、レース名に競走バの名前が直接入る事はありません。大抵は協賛コメントで推しを披露しています。

 そのうち、あたしを推してくれるファンの方とか現れるんでしょうか。

「いるさ。少なくとも、ここに一人な」

 まぁ、それはそうですけれど。

 勝利を重ねていけば、見ず知らずの人達があたしを応援してくれる。その声援に、あたしは何を思うのか。

 想像力を働かせてみても、それは今は分からない感覚でした。

 

 出走登録を済ませてから数日後。

 協賛競争のレース名が決定したと連絡がありました。特に枠の取り合いにもならなかったようです。

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