ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける 作:mzk_arachne
──19──
身体が鉛で出来たシートで覆われているような、何をするにも重苦しい感覚。
肉体を酷使した後に必ず来る、極度の疲労感。
身体に引っ張られて心の方にも澱んだ水のように疲労がたまるので、まずはウォーキングやストレッチ、ヨガなどでごく軽く、筋肉も間接も心も解すところから始めます。
それを一週間ほど繰り返して、ようやく体の内側に何かが降り積もってへばりついているような重い感覚が消えかけてきました。
とは言え、まだ本調子ではないので、いつものトレーニングメニューには戻せません。
時間が余り気味なのもありますし、アルバイトに行きましょう。働くことで全身の隅々まで、それこそトレーニング中には意識していないところまで動かせます。
やはりレースと仕事とでは、使う筋肉も強度も違うのです。
いつもは貼ってある求人票で掲示板の表面が見えないくらいなのですが、なぜか今日は求人票がすかすかで掲示板表面の緑のクロスが見えます。
なんか狩り尽くされていますね。以前にも事務員さんが求人票張り出しのタイミングについて言っていましたし、タイミングの問題でしょうか。
お陰で、ほとんど選択肢がありませんでした。
残っているアルバイトはあまり得意ではないジャンルなのですが、仕方ありません。可愛いを手に入れた代償を支払わねばなりませんので。
建築現場の手伝いをしてきました。
当然ながら資格もスキルもないあたしでは、鉄筋を配置したりコンクリ打ったりなんて出来ません。鉄筋にかけた番線曲げるくらいなら出来ますけど。
と言う訳で、工事現場に納品された資材などを指示された場所へ運ぶシンプルなお仕事です。
両肩に諸々の資材を担いでフォークリフトやクレーンが使えない現場での荷揚げは、ばんえいウマ娘の得意分野と言えるでしょう。とは言え狭い現場で重量物を抱えて立ち回るのにコツがいりますので、あたしはその辺りが不得意なのです。
荷揚げは、ただ資材を揚げて指定場所まで持っていくだけの生きているエレベーターなのではなく、各作業をしている人の手元にいかにスムーズに必要な資材を届けるかにあります。それをやろうとすると、現場の進み具合をしっかり観察しておかないといけませんので、これがまた難しい。
重い資材を運ぶ荷揚げは、働きながら筋トレをしていると言っても過言ではありません。しかも重量物と一口に言っても、コンテナからボードから袋から長尺の鉄材から、重さから形状まで様々。
これらを担ぐなり両手で持つなりして階段を登ると太ももや脹脛などの下半身や、資材を落とさないようにしっかり力を籠める腕や胸など、全身の様々な部分に筋肉がつくのです。もちろん、がっちり保持しないといけませんから握力も使いますし、バランスの悪い長尺物をぶつけないように体幹も大切です。
競バ場で2500kgを曳くばんえいウマ娘にとっては揚げる資材の重さ自体は軽い方ですが、そこに運動が加わると途端に運動強度が上がります。
お陰様で働きながらのリハビリには丁度よい。
苦手なジャンルだけあって、頑張りましたがお給料はちょっと下げられてしまいました。
途中で荷揚げ中の資材をぶつけちゃいましたからね。壁がへこまなくて幸いでした。
かなりハードに体を動かす仕事でしたが、仕事中は違和感なく体を動かせていました。
バーベルを持ち上げたり、バイキをかけたり、ぐっと全力で踏ん張った時に脇腹の奥で疼く感じもしません。
一回、トレセンのお医者さんに診てもらった方がよいでしょうが、これこそ待ち望んだ感触。
全力を出せる。
体の芯からふつふつと熱くなるような喜び。それを噛み締めるように、自然とあたしは左右の拳を握り締めました。前腕の筋肉が撓り、波打つ。
これで、ようやく本領発揮です。