ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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 いちい賞が終わった直後。

 クラス会議は紛糾していました。クラスと言ってもレースでの格付けのクラスの方ではありません。学級の方です。

 紛糾しているのは、あたしのクラスだけではありません。同じ時間に同じテーマでどこもクラス会議となっているので、ドアの向こうから他クラスの遠い喧騒が聞こえてきます。

 ちょうど九月下旬から十月中旬にかけては、ジュニア級からシニア級まで、さらにはその上のオーバーシニアも含めて、どの学年でも重賞競走がありません。

 そこをついて行われるのが、帯広トレセン学園の秋のファン大感謝祭。

 中央トレセンですと如何にも文化祭といった様子らしいですが、帯広トレセンでは半分くらいは畑の実りを祝う収穫祭です。

 クラス会議のテーマは、収穫祭での出し物について。

 大変な授業やトレーニングの合間に行うイベントで、しかも一年に一回のお祭りですから、出来るだけ楽しみたいので何をするかで揉めるに決まっています。我がクラスの担任は、こういう時、だいたい微笑みながらクラスの様子を眺めています。

「さーて、うちのクラスは何やろうか。何かやってみたいとかある人~?」

 黒板の前には、半分ダレたようなグラムさん。

「喫茶店とかやりたいでーす!」

 グラムさんは学級委員長ではないのですが、この手の話し合いの時、なぜか人の輪の真ん中にいます。委員長も進行を、そうそうに彼女に任せてしまっていました。彼女は人の意見を自然に引き出すのと、人に役割を振り分けるのが上手いのです。

「メイド喫茶みたいなのは出店数が制限されてるんよねー。なんでも、ちょいと前の収穫祭で先輩らが『メイド喫茶やる』っつって申請してゴールデンマイクロビキニメイド喫茶やって、ソッコーで風紀委員の手入れ喰らったらしいんさ。それで、それっからは生徒会の目が届くようにしたっぽいね。したっけ希望しても良いけど、結構な倍率のクジ引きになるっしょ」

「あー」「残念ー」「先輩のアホ―」

 そこここから、無念のうめき声が上がります。

 希望してもいいのですが、クジに外れれば当然ながら次の準備時間は削れるので、なかなかに博打です。

 それぞれが自分の周りと相談し合う、潮騒にも似た静かな騒めき。

 今から演劇だのダンスだのをクラス全体の出し物としてやるには、到底間に合いません。

 黒板に様々な案が書き出されては、バツ印をつけられていきます。

「となってくると、やはり食べ物系の屋台が安全だと思うんよね」

 それぞれのアイデアが詰まりそうなタイミングを見計らって、グラムさんが言います。

「いいんじゃない?」「賛成ー」「なに作りましょうか~」「私、人参オッチャホイがいい!」「流行ってるから他と被りそうじゃない?」

「そんじゃま、方向は決まりっしょ」

 パン!

 グラムさんが手を打ち鳴らします。

 注目が集まったところで、普段とはまるで違う、真面目な口調になるグラムさん。

「前に寮で丼祭りやった時にいた子らは知ってると思うけど、今回は自分らで食べるだけの持ち寄りじゃない。客に売るからには、こちらも材料はきちんと代金を支払って買わせて頂く。米はスノウの実家から送ってもらうけど、これも同じように買わせて頂く」

 そこは確定ですか。別に問題ないですけど。

 グラムさんは続けます。

「さて、問題となってくるのは、ほっかほかの炊き立て新米の横にいるオカズの選択だ。今回は寮の裏手を好きに使えた前の時とは違う。当日は目の前には腹をすかせた客もいる。あれもこれもとなってくると調理場やバックヤードのスペースが足りないし、時間もない。その為には、作るメニューは絞る必要がある」

 一息に喋り、反応を伺います。

 グラムさんは滔々と熱弁と拳を奮います。

「そこで問題が出てくる。現在、帯広に奴らがいる。そう、あそこの農高の連中だ。あちらには酪農科があるが、ウチら帯広トレセンにはない。つまり肉を扱う上では、一歩先んじられている。であれば、同じ土俵で勝負するのは愚の骨頂。こちらはこちらの強みを活かすべきだとウチは思う……野菜だ!採れたてのトマト!人参!採った後で熟成させといたカボチャ!これなら互角に、いや、互角以上に勝負できる。こいつらと米をツートップとして、米と同じ皿に盛れて、お客様が揺らしてもこぼれにくく持ち運びが楽なヤツ!作り置きがきくヤツ!そう!カレーだ!!」

 ウオォォォ……!

 教室中が沸き返ります。

 ガタンと、大きな物音。

 グラムさんが空いている椅子に片足を乗せています。彼女のアジテートはだんだんとヒートアップしていきます。

「ばんえいウマ娘どもは農作物を愛しているか?」

「おー」「ぉー」「おー!」

「聞こえねーべ!尻尾落としたか!!」

『応!!!』

「もう一度聞くべ!ばんえいウマ娘どもは!農作物を愛しているかぁ?!」

 手に持ったチョークをマイクに見立ててグラムさんが大声で問えば、クラス中が一斉に大声で応えます。

『生涯忠誠!命懸けて!豊作!豊作!!豊作!!!』

「作物を育てるものは?」

『熱き汗だ!汗だ!!汗だ!!!』

「ウチらの作ったものの出来はどうだ、お嬢様方?」

『最高!最高!!最高!!!』

 教室のボルテージは最高潮。

 なんで、うちの生徒はこと作物や食べ物のことになると、レースへの情熱に負けないくらいにこうも熱くなるんでしょう。あたしも人のこと言えませんけどね!

 人と共に在り続けて、共に働き続けてきた、ばんえいウマ娘の本能とでも言いましょうか。

「と言う訳で、スノウ。スノウんチの米、前みたく送ってもらえるように頼んでもらっていいかな。お金は払うつもりだから、まずはいくらくらいかかるか聞いといてくんない?」

「はい!聞いておきます」

 あたしは胸を叩いて請け負いました。

 もう収穫は終わってますからね。ぴちぴち獲れたての新米が届きますよ。

 玄米60kgの卸相場があれくらいなので、どちらかと言うとお米そのものよりも輸送の方にお金の方がかかりそうです。

 トレセン内部に精米機はないので、今回も精米してから送ってもらいます。

「いやぁ、美味い米が手に入るのは助かるっしょ。という訳で、寮の食堂にある業務用の回転鍋、またアレ使わせてもらえるように交渉よろしくね。今回は寮でコメとカレー作って大鍋に入れて手で運ぶことになっから、そっちも使わせてもらえるようによろしく」

「えっ」

「経理とかはウチがやっとくわぁ」

「えっ」

「誰か飾り付けとか、長机みたいな機材とか資材の手配をやってくんなーい?あ、そうだ、スノウんとこからくる新米と鶏肉をkg単位で交換してくれそうな人いたら手ぇあげて?」

「はいはーい!ちょっと、おとうちゃんに聞いてみるべさー」

「キノコでよければお家からもってこれるかもー」

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