ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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 一ヶ月のトレーニングでさらなるスピードの為の何かは掴みかけているのですが、残念ながらモノには出来ずじまいでした。もやもやっとした感じに朧げに見えてはいるのですが、手の内に納めきれていないというか。

 何かを掴みかけてはいますが、時間は容赦なく過ぎていきます。

 ちょっとくらいは待って欲しいのですが、全てに対して平等な時間の神様は容赦もないので、待ってくれる訳がなく。

 今自分にあるモノもっているモノで勝負するしかありません。

 その代わり、体調は万全ですよ。

 

 第10R、本日のメインレースの南北海道地区選抜特別です。

 同室のシャコータングラムさんも出走です。

 このレースの上位2名にBGⅡヤングチャンピオンシップの出走権が与えられます。

 つまり1着ではなくても、次に進めます。

 2着でも何とかなる。

 でも、あたしが狙うのは1着です。

 対戦相手にはグラムさんもいます。他に出走する子達だって、なんだかんだで同クラスの強者です。

 2着でもいい、なんて最初から腰の引けた意気込みでいたら喰われます。

 勝ちたい気持ちはみんな同じ。

 そこに勝てなくてもいいかも、なんて半端な気持ちを抱いたままでゲートに入るのは、そもそもとして居並ぶ同級生たちにすごい失礼というものです。

「その意気だスノウ君。出るからには常に勝ちを狙っていこう」

 トレーナーさんが背中をパンと叩いてくれました。

 背中と一緒に気持ちも押されます。

「はい!」

 檜山管内出身でヤングチャンピオンシップに優勝したばんえいウマ娘は、せたな町出身のヤマカツエース先輩ただ一人。

 今までの優勝者は、帯広競バ場がある十勝管内出身者が圧倒的に多いです。

 ばんえい競バのメインストリームから外れた地区にだって強いウマ娘がいるってことを分からせてやりましょう。ギャフンと言わせてやりますよ。

 その為にも大切な、この前哨戦。

「勝ちます!」

 

 南北海道地区選抜特別のばんえい重量は、3000kg。

 天気は、晴れ。

 出走時刻間近になっても崩れる様子はない、良いお天気。

『雲一つない星空のもと行われる、帯広競バ場。ダート直線200m、10人のウマ娘たちが挑みます。今日のメイン競争はジュニア級の特別競走、南北海道地区選抜特別。からりと晴れた帯広競バ場。バ場水分は1.2%。バ場状態の発表は重となってしまいました』

『ここまで重たいバ場だと得意、不得意が出てきちゃいますね』

 流れるアナウンスに場内が沸きます。ナイター照明に照らされた白い息が輝きます。

 重賞ほどではないですが、人が多い。

 さすがはGⅡのトライアルレースと言ったところでしょう。熱心なばんえい競バファンが、すでにここから本番のレースは始まっているとばかりに目をキラキラさせて応援してくれています。

 あたしは握った左右の拳で、自分の太腿をトントンと軽く叩きます。

 いきますよ、あたし。いきますよ、あたしの脚!

「日本の米はぁ……」

 そのまま右拳で左肩、左拳で右肩を。

 パァン!

 最後に両手が頬を張った乾いた音が、辺りに響きます。

「世界一ぃ!!」

 熱くなった筋肉。

 眼の奥から後頭部にかけて、じわりじわりと熱くなる感覚。

 喉の奥がひりつく感覚に、思わず唾を飲み込みます。

「スノウ、気合入ってんねー」

 隣のゲートからグラムさんが話しかけてきます。まだ全員のゲートインが済んでいないので、ちょっと言葉を交わすくらいの時間はあるでしょう。

「はい!グラムさんこそ調子良さそうじゃないですか」

「まぁね~、けっこう気ぃ使ったさー。ま、お互いけっぱるべや……今日は負けないから」

 普段とはまるで違う、気迫に満ちたぎらりとした眼光があたしを射ます。

 火のような強烈な戦意に焙られて、あたしの両目の奥がさらに熱くなっていきます。手足の先から血が逆流するような感覚。ズグズグと理性が蕩けていく。それはまるでグラムさんが発する火が燃え移ったかのよう。

 嫌な気分ではありません。むしろ、この浮足立つような昂りは心地よい。だから、受け入れる。

『注目の1番人気、2番カミノクニスノウ』

『前走のBGⅢナナカマド賞を熱戦の末に制しました。パドックでも注目を集める素晴らしい仕上がりですね。ジュニア三冠の第二戦に向けての前哨戦となる本レースですが、ナナカマド賞で惜しくも2着となった3番シャコータングラムとの再戦にもなります。これはライバル同士の熱い鍔迫り合いが見られそうですよ』

 帯広の広い夜空に、ファンファーレが響きます。

 スターター台の上で、赤い旗が天を指します。

 旗が翻り、レース開始を告げます。もう後戻りはありません。闘(や)る気に満ちたばんえいウマ娘達を留めておくものは薄い金属メッシュの開閉扉一枚きり。

『さぁ各ウマ娘、ゲートイン完了の様子。すべての係員が離れまして……出走の準備が整いました』

 一瞬の静寂。

 ちりちりと空気が帯電しているような感覚。 

 最高に高まる緊張。舌でちろりと唇を湿らせます。

 ふーっと、吐き出された十本の白い息が緩やかに流れて煙る様は蒸気機関車の群れのよう。

 ガコッとロックが解除される音。昂っているからでしょう、小さい筈なのに、それは妙に大きく耳に響く。

 ゲートが開きます。

『各ウマ娘、一斉にスタートしました』

 10人のばんえいウマ娘。それぞれの胸の内から溢れ出る戦意が、自然、あたし達を吠えさせる。

 橇とウマ娘をつなぐ装具が一斉に、持ち主の咆哮に負けないとばかりに、盛大に鳴り響きます。

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