ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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「スノウさー、まだ体の戻し中っしょ?ウチも同じだし、わりと時間に余裕あるしバイト行かん?」

「いいですね!あたしも本調子じゃないので、あんまりハードなトレーニングするなってトレーナーさんに言われてます。体の慣らしに丁度いいかもです」

 寮の自室。

 グラムさんの芦毛を櫛で梳かしながら答えます。

 夕ご飯も終わり、消灯時間までの自由時間。各々が寮のトレーニングルームで追加の汗を流すか、共同浴場のお風呂やサウナで汗を流すか、自室で勉強するか、談話室でおしゃべりに興じているか。

 こうして自室にいても、日々のワークから解き放たれた華やかでのびのびとした雰囲気が、廊下から伝わってきます。

 グラムさんの髪は短いですけど、癖がなく素直にスッと櫛が入ります。毛艶も良いですし、この綺麗な芦毛は羨ましいです。自分の一点の流星もない黒々とした青毛は密やかな自慢の種ですが、綺麗な毛は誰のでも、どんな色合いでも羨ましいものです。芦毛ですと派手な色合いのアクセサリーが引き立って見えますしね。

 梳かした後から、この間、買ってきたリボンを編み込んでいきます。消灯も近いのですぐに解いてしまいますが、手遊びのようなものです。

 あたしが座ったグラムさんの後ろから櫛を入れている間、グラムさんの綺麗な芦毛の尻尾がぱさりぱさりと揺れては、あたしの脚を撫でます。

「しっかし、この間の南北海道特別は惜しかったな~。勝てると思ったのにな~」

「いやー、あれは危なかったです。グラムさんの巻き返しがすごくってドキドキしました」

 グラムさんと走った南北海道特別。

 あれは、今思い返しても全体的にかなりちぐはぐの走りでした。どうも思うように気合が入らなかったというか、レースに対しての集中力に欠けていたというか。ナナカマド賞の時のようにハマった感触はなく、逆に気合が入り過ぎて空回りした感じですらありました。

 上手く第1障害まで越えられたと思ったら、その次の第2直線ではペースはとっ散らかるわバイキをかけるタイミングはズレてまともに力が入れられないわで散々でした。

 リカバリーしようと頑張ればばっちりフォローできたのですが、それでちょっと気が緩むと、空回りを始めてまたグダグダになる。

 グラムさんも調子はかなり良かったのですが、レース運びは似たようなものでした。

 お互いに意識し合うあまり、揃って逸り過ぎたのかもしれませんが、おかげで勝てたようなものです。

 他の子達もこちらの隙を逃さずに迫って来て、結果的には白熱したレースになりました。

 最終直線でも、得意のスピードはあまり発揮できずじまいで、何度も足を止めてしまい、他の子の末脚に追い込まれかけました。

 ゴールライン上での競り合いにまでもつれ込み、後からレースVTRを見返すと、そこだけでも冷や汗が滲むようなギリギリの展開でした。

 接戦にお客さんは沸いていましたが、そんなどこか浮ついた様子は実況と解説とトレーナーさん達にはしっかり見抜かれていて、実況と解説からはゴール後に厳しい寸評を頂き、それぞれトレーナーさんにはレースの分析とお小言をしっかりもらったのでした。

「トレーナーさんにGⅢ勝ったからと言って調子に乗るなと怒られましたからね。次はもう少しちゃんとやらないと」

 思い返して、大きな嘆息を一つ。

 南北海道地区選抜特別の結果は、あたしが1着、グラムさんが2着。

 BGⅡヤングチャンピオンシップには揃って出走可能です。

「どっちにしろ、本番やんのは一ヶ月以上先だし?今はゆっくり休んで、そんで練習するさぁ。とりあえず、明日にでも学生課にバイトの求人見に行くべさ」

 先を見据えて動くのも大切ですが、なんだかんだで開催は先になりますし、目の前にあるやりたいこともやっていきましょう!

 レース後の身体中を苛む重っ苦しい疲労感も抜けてきましたし、今なら仕事でヘマはしない辺りまで体は戻っているでしょう。たぶん。

 

 約束通り、グラムさんと一緒に学園の学生課に来ました。

 まずは現在、帯広トレセンに来ているアルバイト募集をチェックするところから始めていきましょう。

 初雪が過ぎて、本格的な冬支度となってきた今は身体を動かす単発バイトはいくらでもあります。

 トレーナーさんとも相談した以上、あまりハードなのはダメですが、軽めで良ければ体を動かすのはリカバリーにも良いとのことで。

 収穫時期を過ぎたので農業系の募集は激減しました。あたしもグラムさんも畜産系は得意ではないので、そちらはパス。色々と二人で悩んだ末に、手の中に残った求人票が一枚。今回は自動車整備工場さんのタイヤ交換ヘルプでいきましょう。

 この時期ならではのアルバイトです。

 普通は初雪前にタイヤ交換は済ませておくものですが、なんだかんだで駆け込みとなってしまうケースはあるので、自動車工場はまだまだ多忙です。

 自家用車のタイヤなら、ばんえいウマ娘が手伝わなくても十分に何とかなるので、ばんえいウマ娘のあたし達はトラックや重機などのタイヤ一本の重さがかなりあるクラスの手伝いがメインです。

 除雪用のホイールローダーなんかは車体サイズに大小があってもどれもチェーンを巻きますが、それでも冬タイヤは必須なわけで。農家さんが持ってるトラクターなども同じです。

 ばんえいウマ娘が持とうとしても優に一抱え以上はある黒いゴムで出来たバカでかいフレンチクルーラーのような、外したタイヤを保管場所まで持って行ったり、新しいタイヤを出してきては手で持ち上げて軸出ししたり。

「いやー、お嬢ちゃんらが来てくれて大助かりだわー」

 あたしとグラムさんの二人がかりでやれば、そんなに疲れずに本数こなせますからね。

 

 お給料袋には、千円札が十枚ほど。

 二人がかりでやったらだいぶ仕事が捗ったそうで、ちょっとオマケして頂きました。

 自然と頬が緩んでしまいます。

「……今日は寄り道はせんからね?」

「わかってますよ?!大丈夫ですよ?!」

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