ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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「グラムさん、今日は付き合ってもらって、ありがとうございます」

「いやぁ、なんも、なんも。冬で実習も減ってるし、ウチもスノウもレース前の調整入ってて練習もわりかし暇だし。こうやってスノウとブラブラするのも楽しいしさー」

 クリスマスも差し迫ってきたある日の放課後。

 あたしは、グラムさんと一緒にアイオーン帯広店に来ました。

 アイオーンは、大手流通グループ「アイオーングループ」が経営する総合スーパーです。郊外型の大型ショッピングセンターを中心としていて、郊外型と言うだけあって駅前から離れた場所に出店するのが特徴です。ここ帯広でもJR帯広駅からは結構離れた場所に、巨大な店舗を構えています。

 アイオーンに来れば、普段の生活から趣味のモノ、ちょっとした贈答品までほぼほぼ揃います。選択肢の量と質さえ問わなければ、だいたい何でもあります。帯広駅前の百貨店が無くなってしまっているので、何かちょっとお洒落なものを買おうとすると、駅前から少し離れた位置にある大型のアイオーンが頼みの綱となってしまっているのです。駅前が寂しい状態ですが、車で一時間かけて函館まで出なければいけない実家に比べれば、それでも便利さは段違い。

「いやぁ、助かりました。こういうものを選ぼうとすると、あたしのセンスですと自信が無くって」

 片手にぶら下げた贈答用の少し見栄えのする紙袋を見ながら言いました。

 中に入っているのは、いつもお世話になっているトレーナーさんへのクリスマスプレゼント。

 中身はスポーツタオルです。色々と店を覗きながら考えましたが、結局、あげても貰っても困らない無難な物に落ち着きました。トレーナーという職業柄、輓曳するあたしに付いて走る事も多いのでタオルは消耗品に近いですし、いくらあっても困らないでしょう。ただの消耗品扱いではせっかくのクリスマス気分も盛り下がってしまいますので、やや値の張る、肌触りの良いものをチョイスしました。

 あたしもそれほど自分の感覚が変だとは思っていませんが、やっぱり誰かと一緒に見立ててもらう方が安心します。

 それに、一人で選ぶより二人で選ぶ方が、楽しいです。

「いいってことさー、それくらいお安い御用よ」

「グラムさん、あともう一箇所、付き合ってもらいたいお店があるんですが、大丈夫ですか?」

「ん、いいよー。まだ門限が気になる時間でもないっしょ」

 広いアイオーンの一角。

 目当ては、アクセサリーを扱っているお店です。宝飾品店ではなく、あくまでアクセサリーショップ。それもウマ娘向けの、です。

 耳飾りそのものや耳飾りに追加する飾り、メンコと呼ばれる耳カバー、ラインストーンやリボンなどの尻尾を飾るテイルアクセサリーなど、様々な身を飾るアイテムの数々。

 お店のスペース自体はそれほど広くありませんが、店内にはぎっちりと商品が詰まっており、豊富なラインナップが見ただけで分かります。

 帯広はトレセンがある所為でもありますが、十勝地方と言う北海道開拓の歴史的にもウマ娘が多く住んでいる地域なこともあって、ウマ娘専用の商品を扱うお店もそれなりにあります。ここのようにテナントではなく独立したお店を構えているようなところですと、流石に商品が高価すぎてあたしのお財布では歯が立ちませんけど。

 棚を飾る、無数のきらきらとしたカワイイ物達。

 思わず満足げな溜息が漏れてしまいますが、それはグラムさんも同じ。

 こうして眺めているだけでも、心が躍ります。

 店内には、同じようなウマ娘達が、同じようにきらきらしたアクセサリーを手に取ってはショッピングを楽しんでいます。ちらほらトレセン生徒も見かけますが、市内だと行く場所も限られていますので、見知った顔に出くわす確率は高いです。

「これなんかどうです?」

「あー、いいねー。ちょっと付けてみよっか」

「いいじゃないですかー。可愛いですよー。グラムさん、そういう色も似合いますね。ふむふむ……」

 細い金細工の星型フレームで、中にはスワロフスキーっぽいクリスタルが嵌められているイヤリングを手に取ります。

 繊細なフレームを、畑の土とトレーニング器具を握り続けたおかげでごつくなってしまった指でそっと摘まんで、灯りにかざします。かざした先にいるのは、グラムさん。

 芦毛の中に金色は上品さを感じさせるカラーリング。透明なクリスタルは普段は目立たず、光を跳ね返した時に映える。

 よし。

 これにしましょう。

 

 その後、思う存分に普段のトレセン学園での生活では摂取できないカワイイ成分とキレイ成分を取りました。普段は皆、トレーニングにレースに勉強に実習にとひたすらに汗を流す身の帯広トレセン所属のばんえいウマ娘。軽種のウマ娘と比べればパッと見は頑強そうな巨体ですけれど、それだって中身は同じ女の子。可愛いには魅かれます。

 それにしても、買い物の後というのは、どうしてこう高揚するんでしょうか。お財布は軽いですが、満足感は十二分。

 鼻歌が出そうなほどの上機嫌。

 若い客のざわめきが満たす店内。

 アイオーンからほど近いチェーンのハンバーガーショップでラージサイズのシェイクを啜ります。窓の向こうは氷点下ですが、北海道の常として屋内は汗ばむくらい暖房が効いているので、冬でも冷たいものが美味しいです。

 本当ならもっとお洒落にアイオーンすぐ近くの十勝とてぽっぽ工房で、と行きたかったのですが夕方までしかやっていないのです。あそこのワッフルプレートが美味しいのですが、仕方ありません。

「良いの買えて良かったじゃん」

 テーブルの向かいで、同じようにラージサイズのジュースをチビチビ飲んでいるグラムさん。

「ええ、グラムさんがいてくれて助かりました!お陰様でぴったりのが買えましたよ」

 あたしは、丁寧にラッピングされた手のひらに乗るほどの小箱を取り出しました。

「あれ?今出すと汚れっちまわない?」

「いえいえ。寮に帰ると、またドタバタして渡しそびれてしまいそうなので」

「ん?」

 怪訝そうな表情のグラムさんに、スッとその小箱を差し出しました。

「メリークリスマスです、グラムさん。いつもお世話になっていますし、あたしからのクリスマスプレゼントです!」

 鳩が豆鉄砲喰らったような、ぽかんとした表情。

 次第にそれが、はにかんだような笑顔にゆっくりと変わっていきました。

 伸ばしては引っ込めてを繰り返して、逡巡を見せる指先。

 しばらくして、それもグラムさんの嬉しそうな微笑みと共に、終わりました。

「ありがと」

 ラッピングを解いてケースを開ければ、そこに鎮座するのは一対のイヤリング。

 つい、とグラムさんが片方を摘まみだします。

 小さなイヤリングは、指先の揺れに合わせて照明を跳ね返しては、きらりきらりと輝く。

 と、それがスッとあたしの方に差し出されました。

「ね、付けてくんない?」

 手が届くようにと、そっと俯き加減になるグラムさんの頭と、下りてくるウマ耳。拒む雰囲気も、その気もありませんでした。

 長く白いウマ耳に傷をつけないように注意深く触れます。冬になり毛が密になっていて温かく柔らかいビロードの手触り。くすぐったいのか、時折ピクピク震える様子が可愛らしいです。

 イヤリングは自分を主張し過ぎず、かと言って埋没もせずに左耳で光ります。所詮は学生のお小遣いで買える範囲の、安物と言っても過言ではないアクセサリーですが、なかなかどうして良いデザインです。

 続けて右側にもつけようとケースに伸ばした手を、グラムさんの手が押し留めました。

「こっちは、ウチからスノウへのクリスマスプレゼント。もちろん、ちゃんと別に用意してあっけどさ」

 いきなりで事態が飲み込めずに固まっているのをいい事に、グラムさんはあたしの左耳に残っていたイヤリングを付けてしまいました。

 敏感なウマ耳を触られて思わずキュッと目を閉じてしまい、その隙に片方のイヤリングが耳に飾られます。目を瞑ったのは、なにも嫌だったからではありません。むしろ、その逆。優しい手付きが心地よかったから。

 その様子がおかしかったのか、クスクスと笑うグラムさんの声が、指と一緒にウマ耳を擽ります。

「ウチとスノウで片方ずつ。ほら、これでお揃いっしょ」

 グラムさんが見せつける彼女の左のウマ耳に光る、買ったばかりの小さな金の星。

「一緒に入学して、一緒の部屋になって、デビューして、一緒にバカやって、一緒にレースして競い合ってる。したっけ、これもウチとスノウは一緒さー」

 そこまで言ってから、恥ずかしそうに視線を逸らせました。

「今はガラス玉の星だけどさ、そのうち本物が欲しいね」

 そっと届く呟き。

 グラムさんの言う"本物の星"。レースに出るばんえいウマ娘の口から出る言葉であれば、それが意味するところは一つでしょう。

「いつか取れます!」

 そこにはなんの根拠もありません。

 でも、あたしは断言しました。

「グラムさんも、あたしも。きっと、もっとキラキラした星を掴めます!だから、一緒に取りましょう」

 

【挿絵表示】

 

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