ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける 作:mzk_arachne
──45──
二人しかいない小さな部屋。
そこは、むわりとした熱気に、また鼻にかかったような押さえ込まれた苦悶にも似た声で満ちていた。
部屋の中には、水流で磨かれた岩のような、隆々とした筋肉をまとった若々しい女体が二つ。
肩が太い。腕が太い。腿が太い。二人のうち一人は乳までぶ厚い。
無数の打ち身に擦り傷に切り傷。それらに彩られた、いわば戦士の肌とも言える皮膚の下にはワイヤーを撚り合わせて作られたかのような強靭な筋肉が潜み、それが乙女の柔肌と表現するには些か難しいほどに肌をたくましく盛り上げている。掘りの深さも見事な筋肉はうっすらと汗に塗れ、天井の明かりをぬらりと照り返していた。
当然ながら、それらを包む薄衣も汗を吸い込んでしっとりと濡れる。濡れた小さな布切れはぴったりと肌に張り付いて、鍛えられた筋肉で彩られた見事なボディラインを露わにしていた。
二つに肉体が蠢く度、ぎしり、ぎしりと床が悲鳴を上げるが、夢中になって互いの肉と肉を触れさせている二人の耳には些事であった。
カミノクニスノウとシャコータングラム。
鍛えられたばんえいウマ娘の肉体が絡み合う。
がっちりと鍛えられた腕と足は片方の身体を抑え込み、動かせないようにしては、責めていた。しかし責めてはいるが単に苦痛のみを与えようとするのではなく、苦痛の中に気持ち良い状態も共存させるような絶妙な力加減がシャコータングラムを襲っていた。
「どうですか、グラムさん?」
片方の腕が動くたび、もう片方の半ば惚けたように開けられた口から、はふ、と熱い吐息が漏れる。
探るようなカミノクニスノウの言葉に明確な返事はない。
シャコータングラムの可愛らしい顔は苦悶に満ち、その豊満な胸は主の苦痛を代弁するかのようにふるふると震わせていた。しかし、そこにあるのは苦痛のみではなかった。
「待っ、て、スノウ……も、いけない、これ以上、きつい、から」
「大丈夫ですって。ほらほら~、もぉっといきますよ~」
カミノクニスノウの意図した通り、苦痛に隠されるようにして、彼女の大柄な肢体の関節と肉が引き伸ばされていく快感がシャコータングラムを襲っていた。
「あ、んぅ、んぁ、あ!いぃ、ぃいっ……いったあ、ふぁ!あ!い、いった!んがぁぁぁっ!!あ゛あ゛ーー!あー、のびるー。ふ、あぁー」
「はーい、ゆっくり戻していきますよー」
「ぐぇはーーー……いっや、責め方きついっしょ。そう言えばさー、スノウの次走、なんだっけ?」
「え、次走ですか?『インフラ保守に感謝しよう記念』、ですね」
「インフラ保守ねぇ。実際、そーゆーお仕事してくれる人らのお陰でウチら生活できてっからありがたいっしょ。しかしインフラの保守かー、確かに最近はバイトも雪掻きばっかしだしなー。あとは森仕事か。あんまり稼げてないべさ」
たしかに。
お財布の中身が増えないので、部屋にいるタイシンも三体から増えていません。
ベッドサイドにいるのは、ナナカマド賞優勝の時に貰ったぱかプチタイシン。トレーナーさんからクリスマスプレゼントに貰ったぱかプチタイシン。グラムさんからクリスマスプレゼントに貰った巨大ぱかプチタイシン。
グラムさんが言っていたように林業、特に山からの木材の切り出しは冬が繁忙期です。冬であれば、夏には泥沼同然になる深い山中の林道が凍って道が良いのと、厄介な蜂も熊も出ないからです。とは言え、これは必然的に山間部での仕事になるので仕事場が遠く、気軽にやれそうな募集は争奪戦が激しくて、なかなか回ってきません。
除雪は募集数こそ多いのですが、豪雪地帯である札幌などの道央出身者に優先的に回されます。これは慣れている者で効率最優先でやらないとライフラインが止まりかねない仕事なので、仕方ないでしょう。上ノ国町は暖かいので雨は多いですが降雪は少ない方なので、あたしは雪掻きに慣れていません。実際、寮の前の雪掻きとかでも、出身地によって雪がどかされるスピードと気合の入り方が全然違います。
「うっし、んじゃ交代ね」
あたしとグラムさんは、寮の自室でトレーニング。
とは言ってもハードな筋トレではなく、既に夕食は終わっており自由時間中なので、お風呂に入る前のペアヨガです。
筋肉を鍛える上でも、レースでパフォーマンスを発揮させる上でも、アスリートにとって体の柔軟性はとても重要です。その為にヨガなどストレッチは大切なメニューの一つなのですが、どうしても痛みが伴う。
どうしても一人では限界手前で止めてしまう事も多いので、こうしてペアで行い、身体を限界まで追い込むのです。
部屋の床にお互いの持っているヨガマットを敷き詰めて、その上で向かい合って座って、今は二人で開脚前屈。
向かい合わせになり、互いに開脚。
これから前屈を行うあたしは大きく開脚し、グラムさんはあたしの脚の内側、足首あたりにそれぞれ踵を置く程度に開きます。入学してからトレーニングを重ねてきた成果で、180度とまではいけませんが、それに近いくらいまでなら大きくガバリと開脚できます。
お陰で、グラムさんとの距離が近い。息がかかるくらいです。さっきまで動いていたせいで吐息が熱い。
指と指を絡め合わせるようにして両手をつないだら、深呼吸を数回。
息を整えてから、大きく息を吸って背筋を伸ばす。
そのまま、背筋を伸ばしたままで身体を前に倒す。グラムさんはローイングの要領で、あたしの手を引いていきます。
ゆーっくりと息を吐きながら前屈します。
しますが、
「ん?ん?!お゛っ!いや、早いです、よぉお゛っ?!グラムさ、んほっ、ちょっと急で、ひぎぃぃぃ?!」
少しばかり慣らしが足らない体から、あがる悲鳴。口から漏れる困惑と苦痛の叫び。
グラムさんの手が、あたしの腕を引っ張ります。
ピリピリと筋肉が延びていく快感。と、それと同じか上回るくらいの苦痛。
あたしも彼女もアスリートだけに、どこまでやれば危ないのかは分かり過ぎるほど分かっています。それ故に、安全な範囲でギリギリ一杯まで様々な感覚を与えられます。丁度さっきまであたしがやっていた事をされ返されているわけですが。
「ほら、ほぉら、延びるべ、スノウ」
「あ゛だだだだだ」
そんな呑気な感想も、それを思い浮かべている余裕ごと、吹っ飛んでいきます。
開いた両の脚はしっかりと彼女の踵でホールドされていて、両手は絡み取られています。襲ってくる痛みで身体がブレないよう逃げないよう、優しく丁寧に捕らえられていて、与えられる全てを受け入れさせられる。
二人の距離が近いので、引かれれば引かれるほどに、まるであたしがグラムさんに抱きつくような、彼女のバッキリ割れた腹筋に頭を預けに行くかのような姿勢になる。
強制的に前屈させられているので後頭部の上の方にある筈のグラムさんの顔は見えません。見えませんが、明らかに楽しそうな気配がチリチリと伝わってきます。
「お゛っ!おお゛っ!グラム、さんっ……い、いたっ!はぉ、ほお゛ぉぉっっっ!!」
「ちょっとー!スノウにグラム、うるさーい!!乳繰り合うならトレーニングルームでやりなさいよー!」
あまりに声が大きかったのでしょう。
隣室の子に乱入されて、部屋からトレーニングルームにと追い出されました。
あと、これはけっして、乳繰り合ってた訳じゃないですからね!