ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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 出走レースは第8R、個人協賛競争、インフラ保守に感謝しよう記念。

 黒ユリ賞を目指しての、あたしの個人的なステップレースです。

 本日のメインレースは第11Rのクラシック級の準重賞ですので、出走時刻はそれよりも早い17時頃。

 基礎ばんえい重量は、2750kg。

 ただし、あたしは重賞を勝っていて収得賞金が多い為にハンデ重量を追加されて100kg増の、2850kg。

 あたしのやる気は『絶好調』です!

 天気は、曇り。

『どんよりとして今にも雪が舞い降りてきそうな空模様、帯広競バ場。ダート直線200m、七人のばんえいウマ娘たちが挑みます。第8競走、個人協賛競争、インフラ保守に感謝しよう記念。Aクラス戦となります。バ場水分は0.3%。バ場状態の発表は重となっています』

『電気ガス水道に道路と、我々のライフラインを保守してくださっている方々、いつも本当にありがとうございます。今もお仕事中の方もいらっしゃいますでしょうし、是非ともご自宅についてから、レースを見返して楽しんで頂きたいところであります。曇り空とは言え、ここのところずっと晴れ続きでしたので、かなりの乾燥状態となっています。散水してもなおバ場が乾いていますから、曳くには力のいるレースになりそうですね』

 流れるアナウンスに場内が、ゆるやかに沸きます。

 メインレースは、かつてはBGⅢだったレースですが、今はクラシック級の準重賞。そこまで大きいレースではないので、お客さんも入り具合もそれなりです。

 と言っても、声援の多い少ないで、あたしの気合の入り方は変わりません。

 お客さんが少ないからって手を抜いて良い理由などありません。負けて良い理由になんて、もっとなりません。魅せましょう。

 お日様は西の山の向こう。ナイター設備には、既に灯が点っています。

 すぼめた唇からフーッと大きく息を吐き、ついで、ゆっくりと鼻から大きく吸う。

 吐き出した息は真っ白。

 それが選手の分だけ吐き出されれば、ゲート周りは強力なナイター照明を照り返してキラキラと白く煙ります。

 あたしは握った左右の拳で、自分の太腿をトントンと軽く叩きます。

「日本の米はぁ……」

 そのまま右拳で左肩、左拳で右肩を。

 最後に両手が頬を張った乾いた音が、辺りに響きます。

「世界一ぃ!!」

 すー。ふー。

 陽は一時間ほど前に落ちて、帯広は既に夜。下降し続ける気温は、全てを凍りつかせようとしています。ゲートインしつつある七人のばんえいウマ娘が一定間隔で吐く息は蒸気機関車のようで、一瞬毎に白い柱を形作っては風に吹き散らされては消えるを繰り返す。経験の浅いジュニア級と言っても、もうそんな極寒に怯んだり慌てたりするような子はいません。どの瞳も宿す光は落ち着いていて、真剣そのもの。

 重賞でもなんでもない普通のAクラス戦とは言え、皆、あたし同様に厳しいトレーニングを積んできている。所詮は普通なあたしが、才能でも練習量でもトップにいるとは思えません。どの子も、けして侮っていい相手ではない。赤鼻のトナカイ特別で負けたインカアウェイクンさんも出走しています。

 しかし、そんな事では、あたしの足は竦んだりなんかしません。

 漠然と感じている、この"掴めた"感じを試したい。独りでの練習でもなく、併走でもなく、実際のレースで。今の自分がどのくらい戦えるのかを肌を這う風で、手足の重みで、筋肉の痛みで知りたい。その想いがあたしに毅然と前を見据える力を与えてくれます。

 それになによりも、胸の内にあるのは、焼けた金属のように静かに熱い衝動。

 走りたい。

 走りたい。曳きたい。勝ちたい。

 勝つ!

 自分の頭の中に、一月の帯広の空気と同様に冷えた部分と、ドロドロに煮えたぎったマグマのように熱い部分が同時に存在しているような感覚。

 自分の眼付きがきつくなっていくのが分かります。

 ゲートインして居並ぶウマ娘の後方。各々が曳く橇は既に位置を整えられて、スタートラインに並べられています。正確なスタートラインの位置はゲートではなく、ゲートの後方にあり、そこに橇の最後端を揃えるのです。

『注目のウマ娘は、2番人気。2番カミノクニスノウ』

 橇と装具との接続も完了。

 係員さんと、いつもの接続完了と感謝のボディランゲージを交わします。

『前走のBGⅡヤングチャンピオンシップは無念の4着に終わりましたが、落鉄と言うアクシデントがあった上での4着でしたからね。その実力はけっして侮ることはできません。砂塵渦巻く中での熱い戦いが見られそうですよ』

 ファンファーレが響きます。

 トレーナーさんの姿が観客席最前列にあるのが、目の端に引っ掛かりました。

『さぁ各ウマ娘、ゲートイン完了の様子。すべての係員が離れまして……出走の準備が整いました』

 スターター台の上では、発走委員は既に赤い旗を振り終わり、ゲートを見つめています。

 レース開始は告げられた。あとは思いっきり走り出すのみ。細い細い尻尾の毛一本がぴんと張り詰めたような、緊張感に満ちた静寂。

 固唾をのむ余裕もない長い一瞬。

 ガコン!

 居並ぶ七人のばんえいウマ娘達の視界を塞ぐ、開閉扉が一斉に開きます。

『合図かかって、今!各ウマ娘、一斉にスタートしました』

 橇とウマ娘をつなぐ装具が一斉に、盛大に鳴り響き、帯広の冷たい空気を震わせます。

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