ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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#6

――6――

 ウェイトを動かすペースは乱さないように、関節は延ばし切らないように、ゆっくりと筋肉を伸縮させるのがここでのたしなみ。

 もちろん、過負荷に耐え切れずウェイトを一気に下ろして音を立ててしまうなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。

 ガ……チャ。

「くっ……ぶっ!はあぁぁ……!」

 あたしはゆっくりを膝を曲げ、ウェイトがぶつかり合って音をたてないように、そっとフットプレートを初期位置まで戻しました。

 全身から噴き出した玉のような汗が身体を伝い落ち、発熱した筋肉からはブワッと白いオーラのように蒸気が立ち上ります。

 追込みのセットを終えた直後。

 身体中が怠くって、立ち上がれません。トレーニングマシンのシンプルなシートの上でしばらく息を整えて、ようやく下りることが出来ました。どれだけ筋肉がブルブルと震えていても、シートを拭いて、ウェイトからピンを抜いて設定を初期状態に戻すマナーは忘れません。

 パンプアップして汗で濡れた筋肉が、あたしの荒い呼吸に合わせて、日本海を渡ってくる風浪のようにうねります。

 

 朝早く起きてトレセン学園の圃場で実習。

 朝ご飯をかっこんで身支度を済ませて、授業。

 放課後には、晴れていればトラックで基礎的な走り込みと練習用橇でのズリ曳きトレーニング。雨が降っていれば屋内でマシントレーニングにトレーニング理論の勉強。

 寮に帰る前にまた圃場で実習。

 寮に帰れば自由時間に談話室で同期の子らとおしゃべりに興じたり、あるいは適度に自主トレ。

 週末には先輩達やメイクデビューを果たした同期の子らのレースの応援か、街中をぶらぶらして休養。たまに趣味のイラストを描いてみたり。

 寮でのしっかりアスリート向けに管理された食生活に、規則正しい生活と、教官達のトレーニング指導。

 あくまでウェイトトレーニングでの話ですが、入学した当初よりも負荷を重くできています。ダートでのダッシュ走のタイムも速くなっています。あたしの身体は着実にリハビリが進んでいる、鍛えられていっているという実感はあります。

 これならば……。

 グッと拳を握りしめます。

 

「失礼します!」

 スパーンと、勢いよく教官室のドアを滑らせて、あたしは入室しました。

「教官!練習コースと練習用レース設備の使用申請を出しに来ました。許可をお願いします!」

「ふむ……」

 ついついとペンでタブレットを操作して、呼び出した画面を眺める教官。

「明日でよければ、15時から17時までは二番が空いている。それで良ければ使用を許可する。ナイター設備の使用はないな?使った用具は自分達で片付けておくように」

「ありがとうございます!」

 会釈して教官室から出ると、あたしはグループLANEで同級生たちを誘うと、我も我もと集まりました。

 重種であっても、走る機会さえあれば走ろうとするのは、やはりウマ娘の性というものでしょう。あっという間にフルゲート埋まりましたよ。

 

 本当は一人ずつ順番で曳いてタイム計測するつもりで借りたのですが、人数が増えたので模擬とは言えレース形式になりました。

 やたら増えてしまった機材は皆で手分けしてえっちらおっちら運んでいたのですが、手隙にしていた先輩が見かねてトラクターを操って運んでくれました。重い橇をトレーナーがトラクターやホイールローダーで引っ張って移動させたりするので、放課後に練習している広いグラウンドではそこら辺を重機が走り回っています。農家出身のばんえいウマ娘も多いので、実家の手伝いでその手の農業機械の操作に慣れている生徒もいます。先輩が華麗なハンドルさばきを見せてもあんまり驚きません……私有地内なので免許とかは大丈夫な筈です!たぶん!

 今日のあたしのばんえい重量は、2000kg。前回の選抜レースと同じです。

 やる気は絶好調です!

 まぁ自分でセッティングしましたからね。やる気なかったら、コース借りたりしません。

 今のあたしはどこまでやれるのか。

 ゲートにいっぺんに入りきらないほど人が集まったので順繰りに交代していく事にして、曳かない子達にはスターターと、スマホでの撮影役をお願いします。

 いざ勝負。

 

「いっくよー?よーい……すたーとぉ!!」

 振り下ろされた手を合図に、気合と怒号を迸らせながらスタート。

 まずは第1直線から一気に第1障害に取りつきます。シャリン、シャリン、シャリンとリズミカルに橇が鳴ります。

 一つ目の障害はスムーズに越えられました。

 第2直線で砂に橇と足を絡み取られて、見る見るうちにスピードが落ちます。が、焦る事はありません。それは周りも同じ。次を見越して、ゆっくり目に曳いてきます。

 ひぃひぃ言いながらも第2障害を越えましたが、そこまででした。

 結果、順位は3着。

 ゴールと同時に、あたしは膝だけを地面につきました。

 両膝を砂につけた膝立ちのままで天を仰ぎ、肺に大量の空気を送り込みます。呼吸するたびに片方の脇腹が疼くような痛みを発しています。

 喉はカラカラ。

 頭はクラクラ。

 一気に噴き出した滝のような汗で体操服はびしょびしょです。

 さすがに1着とはいきませんでした。

 ですが、悪くない気分です。

 なにせ今回は曳いていても、ある程度は周りが見えていましたから。それはつまり、あたしに余裕が出来てきたという事でしょう。

 今回は、最終直線で足を取られて失速してしまい、スタミナを使い切ってしまったのが敗因でしょうか。

 まだ回復し切っていない今の状態であれば、及第点といったところではないでしょうか。

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