ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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「これ、本当に持って帰っちゃってもいいんですか?!」

「別に良いんじゃないかな」

 あたしの驚いた声に反して、トレーナーさんは落ち着いています。

 指差す先にかかっているのは、三枚の優勝レイ。それぞれBGⅢナナカマド賞、BGⅡ黒ユリ賞、そしてBGⅠイレネー記念のものです。

 あたしとトレーナーさんが二人で掴んだ、大切な勝利の証の筈。

「トロフィーは別にあるし、両方置いておこうとするには、この部屋はだいぶ手狭だよ。まさかカーテン代わりにするわけにいかないだろう?」

 優勝レイは、ばんえいウマ娘であるあたしが首に掛けたら足元まで届くくらいには長く、幅も広いです。

 ナナカマド賞のレイが一枚だけ部屋にあった時は、トレーナー室がとても強豪チームっぽくなったと単純に喜んでいました。初めてもらった優勝レイをニヤニヤしながら見ていた頃が、半年も経っていないと言うのに、なんだかすごく昔のように思えます。

「スノウ君の人生でここまで密度の高い時間は無かったからじゃないかな。実際、僕も担当を持つのは初めてだけれど、サブトレをやっていた時とは仕事の量と濃さが違うね」

 でも、その甲斐は十分あるよ、と目を細めてレイを見つめるトレーナーさん。

 まさか、たった一枚ではしゃいでいた時は、似たようなサイズのものが三枚も集まるとは思ってもみませんでした。いずれはGⅠ、と目指しはしましたがナナカマド賞に勝ったあたりでも、それが現実的に手が届く範囲なのかどうかは別問題でした。でも、あたしはそれを現実にした。その証拠のレイ達。

 複数のウマ娘が所属していて専用の独立した建屋の部室を持っているようなチームならまだしも、ばんえいウマ娘一人トレーナー一人のチームに与えられるトレーナー室兼用の部室はトレセン校舎内の一角にある部屋なので、正直そんなに広くないです。トレーニング器具や家具に色んな資料なども詰め込まれていますし、レイを壁にぶら下げていますと圧迫感ありますし、レースの優勝者があんなに誇らしげに首にかけていてもいざ保管しておこうとすると結構邪魔だというのは新鮮な発見でした。もっとも誰かに聞かれたらめちゃめちゃ怒られそうな、贅沢な悩みでしょうけれど。

 そんなトレーナー室の一角には、真新しい飾り棚が据え付けられています。

 レイがそうならトロフィーも同じで、保管を全く考えていませんでいた。

 さすがにGⅠ級のトロフィーをトレーナー室の机の上に文鎮よろしくずっと置きっぱなしにするのもまずいので、あわてて用意しました。見た目はそれっぽいですが、全国にチェーン展開している北海道発祥の家具屋で買ってきたお値段次第の物です。実績は積まれ始めましたが、帯広トレセン自体が予算少ないですからね。そうポンポンと予算は貰えません。

 棚のガラスの向こうには、ぴかぴかのトロフィーが三つ。当然ながらレイと同じ数だけ鎮座して、ガラス越しに受けた天井の照明を跳ね返して鈍く煌めいています。

 その輝きが、とても愛おしい。

 と、同時に、その輝きは何度見ても顔のニヤニヤが止まらなくなります。

「うふへへへへ、なんか二つ名とか考えちゃいますよね~」

「そうやってすぐ調子に乗らない」

「はい」

 結局、三枚の優勝レイは折り畳んで実家に郵送することにしました。実家にはあたしが使っていた部屋がまだ残っているでしょうし、そこならぶら下げておけます。あたしがいない分、スペースの空いた箪笥にも仕舞っておきやすいですし。

 あたし本人より先に着くので、あとで実家には一報いれておきましょう。

「イレネー記念はだいぶハードなレースだったから、スノウ君はしっかり休んだ方が良い。僕も年度締めの仕事やら、新年度に向けての準備とかがあるから、あまりトレーニングの指導も出来ないな。まぁ、そんなだから、シーズンが終わったら久しぶりに親御さんのところでゆっくりしておいで。ただ、この一年間、レースに勉強に寮生活にと、ずっと皆と一緒になって走り続けた反動が出る子も、たまにはいるんだ。あとで自主トレのメニューは渡すから、気は抜き過ぎないように」

「その辺りは大丈夫だと思いますよ。あんまり、ゆっくりは出来ない、いや、しないかなーって」

 待ち切れないとばかりに無意味に両手の指を曲げ伸ばししながら答えるあたしに、トレーナーさんは怪訝な表情を見せたのでした。

 カレンダーの日付は三月も中旬に差し掛かっています。

 頭に思い描くのは、故郷である上ノ国町の、この時期の景色。

 雪は無くなっていて育苗用のビニールハウスは起こし直し終わっている頃でしょう。おそらく、圃場からも雪はなくなっています。もともと上ノ国町は雪が少ないので、融雪の手間は豪雪地帯ほどかかりません。帰ったら育苗の手伝いからですかね。他に畑もありますし、そちらはまずはトラクターで耕起して土づくりからでしょう。農機が入れない狭い場所こそ、バ犂を曳くばんえいウマ娘の力の見せどころです。

 帯広トレセンに入学するまで毎年手伝っていた作業を思い起こして、行うべき作業を予想します。苦労は多いですし大変ですが、なんだかんだで土をいじっているのは楽しいものです。

 自然、むふんと鼻息が一つ。

 今から腕が鳴るというものです。

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