ばんえいウマ娘、北の大地を駆ける   作:mzk_arachne

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番外編 ─ばんえいウマ娘の結婚式の風習について─

 結婚式。

 結婚式とは、神様や参列者の前でふたりが愛を誓い、夫婦となることを決意し表明する儀式のことです。様式そのものは実に多彩ですが洋の東西、国、時代がどれだけ違っても、二人の婚姻を成立させ、周囲に認めてもらうための儀式であることは変わりありません。

 その結婚式のシーズンと問われると、何月頃が頭に浮かぶでしょうか。

 ジューンブライドという言葉があるように、おそらくは五月から六月にかけての穏やかな温かい季節が連想されることが多いでしょう。少なくとも滝のように汗の滴り落ちる真夏や、歯の根も合わない真冬にウエディングドレスを着て幸せそうにしている新婦の姿は、ちょっと想像しがたいものがあります。

 ですが、かつて、そして今も、ばんえいウマ娘の結婚式は春や秋などの優しい季節には行われません。

 まさに、その歯の根も合わないような寒風と呼ぶのも生やさしい風の吹く、極寒の冬季に結婚式を行うのが、ばんえいウマ娘達の慣例となっているのです。

 これは何も、これから家に入ってくる新婦をいびってやろうなどという不埒な考えに始まったものではありません。そもそも機械化の進んでいない時代にあって、ばんえいウマ娘の強大なパワーは何物にも代えがたいものでした。機嫌を損ねるような真似など、とうてい出来る筈がありません。

 実際、嫁入りしてきたばんえいウマ娘は下にも置かれぬ扱いを受けました。もっとも"人と共に在り、人と共に働く"ことに意義と喜びを見出す当のばんえいウマ娘達が、そのような特別扱いを嫌ったケースがほとんどだったようですが。

 そのばんえいウマ娘の強大なパワーは農地の開拓、田畑の耕作、農作物の運搬、道路の開削、原木の搬送など、重機もトラックもない時代にはあらゆる産業分野で求められ、それに応えて八面六臂の活躍を見せました。

 農業において、土を掘り返したり反転させたりして耕すことを耕起と呼びます。今でこそトラクターなどの農業機械が主力ですが、モータリゼーションの波が訪れる以前の農作業においては、ばんえいウマ娘こそがそのような作業における主力でした。

 当然ながら田畑の耕作は、種が死んでしまうような寒さと厚い雪に覆われた期間には出来ません。

 風が温かくなり始めたら耕起を始めて、冬の間に凍って硬くなって寝ている土を起こして、目を覚まさせてやるのです。それがだいたい四月頃となります。

 ジューンブライドとは言うものの、五月から六月と言えば、北海道においては田植えや植付け真っ盛り。

 まさに猫の手も借りたいような、一族一家総出で行う作業の連続となる時期です。

 そのような時期に、結婚式などやっている余裕はありません。

 なにせ、その時期の作業の出来不出来で、翌年に自分達の食い扶持があるかどうかすら決まってくるのです。どの農家だって必死です。重要な労働力であるばんえいウマ娘を花嫁に出している余裕も、迎え入れている余裕もありません。

 その為、ばんえいウマ娘の結婚式は、農閑期の二月から三月に新郎宅で行うのが慣例となったのです。

 これが、いわゆる"バ橇の花嫁"と呼ばれる風習です。

 昭和三十年代中頃まで北海道や東北地方の農村地域で行われていた風習です。

 花嫁であるばんえいウマ娘が、ぴかぴかの嫁入り道具を乗せたバ橇を曳いて新郎のいる家まで運んでいく、または嫁入り道具と一緒に新郎を乗せて二人の新居まで運んでいくというものです。

 この時に花嫁がバ橇を曳くのに使う、新品の装具を贈れるかどうかが新郎の甲斐性の見せ所の一つでもありました。

 この結婚式の風景は、当時の北海道の冬の風物詩でした。

 

 時代は進み、農業を始めとする各産業分野の機械化が進んだことで、かつてのようにばんえいウマ娘はそれら産業分野の主力ではなくなりました。しかし主力で無くなったと言うだけで、今でも昔同様に田畑を耕し、一次産業に従事するばんえいウマ娘は数多くいます。

 そして農業が季節と天候に従う産業である以上、働く彼女らが従うカレンダーは今も昔も変わりありません。

 今でこそ当時のままの"バ橇の花嫁"は、古式ゆかしい作法にロマンを求めるようなカップルが行う時以外は、見られなくなりました。

 それでも、現代に生きるばんえいウマ娘の間では、たとえ家業が農家でなかろうとも、結婚式を挙げるのは冬であるという"バ橇の花嫁"の風習と言葉は廃れずに、受け継がれているのでした。

 

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