先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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我らの歩みを阻むものは源石だけでは無い。かつての同胞の裏切りから、異なる種をまとめあげるため、我らは自らをティカズからサルカズと呼ぶようになった。




テラ歴99⬛︎年〜:カズデル
荒野とカズデル


 ある一人のサルカズの男が、荒野の丘に佇んでいる。

 周囲一帯の大地には――崖や地面から大小様々な源石が突き出ている。

 一度体勢を崩して怪我のひとつ、源石の一欠片でも取り込んでしまえば命を蝕む鉱石病に罹りかねない危険地帯。

 移動都市に住む者から各地を放浪する部族まで、滅多に近寄らないであろう場所。

 

 そんな近寄り難い場所に、男はたった一人――伴の一人も付けずに佇むその姿はまさに異常者、狂人の類と言えた。

 

 大地から突き出た源石が囲う荒地を旅する者には、狂人か行商人、追放者といった世の溢れ者が多い。

 ならず者が常時闊歩している訳では無いが、野生の猛獣に襲われる危険がある大自然では、単独行動など自殺に等しい。

 荒野にたった一人の旅人。

 もしそれを見かけた者が居るならば、同情と憐憫の思いに囚われながらも、世の定めと目を逸らすだろう。

 或いは真のお人好しが、助けを差しのべるかもしれない。

 そのどちらも、佇む男にとっては煩わしいものとしてしか映らないだろうが。

 

 ――男が居たのは、かつてのカズデル侵攻の際、戦場となった場所である。

 数多の同胞が散り、大地に屍を野晒た戦場の風景を、男はよく覚えていた。

 

 898年のあの時、ガリア、ヴィクトリア、リターニアの大国らがカズデルに攻め入った。

 

 視界の端から端まで映る全ての軍勢は、三大国連合軍の兵士であり――その中央に立つ一人のフェリーンを誰もが注視していた。

 

 あのフェリーンは誰だ?

 蒸気騎士が従僕のように彼女の背後に佇んでいる。

 彼女はヴィクトリアの将校か?

 しかし高塔の術師とガリアの砲兵までもフェリーンの指揮に従っている。

 彼は、彼女がサルカズの罪を言い渡すのを聞こえた。

「私はサルカズが企てている大望を余すことなく知っている。憎しみは不治の病であり、君たちの復讐は大地に癒えることのない傷跡をもたらすだろう」

「周辺諸国の安定のため、今後二百年の平和のため、野心は事前に滅ぼされなければならない」

 大火があらゆる方向からカズデルに襲い来る。また一つ、カズデルがもうまもなく廃墟と化す。

 

 誰かがこぼした言葉は、カズデルの歴史を表していた。

 

「ああ、またか……」

  

 ――約百年前、男はカズデルを背に兵士を率いて軍勢を押し留めんと奮戦した。

 フローガと呼ばれその名の通り、炎のアーツで数多の敵を葬り続けた。

 爆炎が炸裂し、撒いた火の粉が敵に降りかかれば、面白いほど敵が燃え上がる。

 燃え盛る炎の壁で敵を閉じ込め、灰になるまで焼き尽くす。

 時に炎の人形を操り、燃え盛る剣で蒸気騎士の胴を溶かし裂いた。

 ――それでも尚、敵は減らず味方は散っていく。

 己が率いた兵士の遺骸を踏み込えた先に、希望があると信じて。

 アーツを発動させ振るえば振るうほど、肌が焼ける臭いや髪が焦げる悪臭が纏わり着く。

 嗅覚は早々に役目を放棄し、疲労とアーツ使用によって呼吸が荒くなる。

 敵味方の血で大地は赤く染る。

 殺して殺して殺し続けて、

 焼いて灼いて焚き尽くして、

 こびり付いた血と汗が、男の体の重しとなった。

 目をかけた味方兵士の一人が、胴を貫かれて死んだ。

 敵のアーツが降り注ぎ、同胞の命が消えていく。

 このままでは、カズデルは。

 ――男の脳裏に滅びの二文字が過ぎる。

 無数のサルカズがこの大火の中で散り果て、逃れた者にはさらなる不幸が訪れるだけだ。

 なぜ我らを殺すのか?

 我々の起源が異なるからか?

 この大地はもう我々の恨みを担いきれず、それゆえに我々全員を消し去ろうというのか?

 あらゆる大火が、カズデルを呑み込まんと降り注ぐ。

 それでも男の四肢は動き、頭が働く限り、男は持てる全てを奮った。

 アーツの過剰使用と身体の疲労から、手が震えていることに気づいた時。

 やがてカズデルにある炉の方向へと、連合軍の砲撃が落ちた。

 同時に男は悟る。

 ――魔王が死んだ。

 かの魔王イレーシュは、その命をもって敵に一矢報いたのだと。

 彼方に目を向ければ、黒煙と炎が上がるカズデル。

 魂の炉の爆発――その余波により彼方にいる敵の軍勢が消し飛んだことを悟ったが、あくまでも一部であった。

 男の前に立ちはだかる軍勢はなおも健在であり、男の率いる兵は最早僅かとなっていた。

 ――ここで私が倒れれば、カズデルにいる民草はどうなる? 部下達の命も、同胞の命も。

 疲労が積もった頭で、男は思考する。

 ――カズデルは滅ぶ。

 だが、サルカズは生き残る。これまでも、これからも。そうしてまた、再建する。

 希望を失わずに、生き残ってきた同胞の道のりを、男は見てきた。故に信じた。

 未来のサルカズを、同胞の未来を。

 ここで手負いのサルカズが生き残るか。

 一人のサルカズの命で、軍勢を消し飛ばし同胞の命を保つか。

 ――敵に一矢報いなければ。

 男の体内を蝕む鉱石病は、その体の殆どを食い尽くしていた。ここで生き残ったとて、一月も持たないだろう己の身体の惨状。しかし同時に、男のアーツ能力の上限を破れるほどに力を与える根源にもなっている。

 男は笑った。不甲斐ない己を、サルカズを滅さんとする軍勢を嗤った。

「最期に私と踊ってくれないか?」

 そして最期は、命の使い所と看做したこの場所で、アーツの許容範囲を超えて大技を放った。

 それがカズデル侵攻の際、フローガという男の死に様だった。

 

 

 ――男が眺める遥か先の景色は、異様なものであった。

 荒野一帯を抉るように残る巨大なクレーターと、消えずに燃え盛る火種。そしてその範囲内は、大小様々な源石で埋め尽くされている。

 そこでフローガは死んだ。

 男が記憶しているのはそこまで。

 

 そこから先の、サルカズの歩みとカズデルの末を男は知らない。

 風の噂程度では知っているものの、やはり詳しく知るには直接行くしかあるまい。

 しかし男にはツテが無い。一から築かねばならぬ。されど男は恐怖も不安もさほど抱いていなかった。かつては傭兵として身一つから成り上がったこともある。ならず者への扱いも心得ている。

 かつて見知った土地でありながら、魔都のように様変わりした魂の故郷へと戻った男は、僅かに少年のような冒険心を抱えてカズデルへと歩みを進めた。

 

 




フローガには息子⬛︎人と孫がいた。妻と███はカズデル侵攻以前に既に亡くなっており、遺された息子二人を育てあげた。時が経ち息子二人はそれぞれ妻を娶り、やがて孫が三人生まれた。
 カズデル侵攻前、情勢の悪化を悟ったフローガは息子夫婦と孫達をツテを辿りカズデルから逃がした。ただ一人、フローガのみカズデルに残った。
 


 フローガが命と引き換えにアーツを発動させたと同時に、六名の英雄の反撃が始まった。彼は朦朧とした意識の中でアーツを発動させたが、その耳に角笛の音は届いていたのだろうか。
フローガのアーツを目撃したカズデルの軍勢の一部が、その後援軍として到着し荒野は無事死守された。
サルカズは敗北者を記憶しないが、フローガの遺志は兵士達を通じて記憶に残された。
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