先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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サルカズの変遷、源石による変化については独自解釈で進めています。


「サルカズ」の運命

 

 かつてのサルカズ――ティカズは、個と呼ぶには曖昧で、存在の濃淡すら定かでない“揺らめくもの”であった。 

 炎、煙、影、あるいは感情を宿した「異形」。

 生物と呼ぶにはあまりにも奇妙なテラの原生生物――それが彼らの始まりであり、やがてティカズと名乗るようになる存在だった。

 それが源石との最初の接触によって、その“不定形”は安定へと導かれた。

 

 しかし安定とは、同時に枷でもあった。

 

 第一世代――「追放者」と呼ばれた最も最初のティカズは、まさに異形。黒く捻れた角を持ち、体は半ば揺らめき、言葉も思想も定まらぬままの生命。だが彼らの中に、初めて“個”という概念が芽吹く。

 魔王の王冠。

 ある時それを手に入れた「追放者」は、自我と知性を手に入れた。

 やがて「追放者」と呼ばれる一体のティカズは、最初の故郷であるカズデルを作り上げた。

 

 そして、次に生まれた者たち。第二世代――魔王クイロンこそが「混血」という現象を初めて成し得たティカズであった。

 この「混血」の誕生は、やがてサルカズと呼ばれるようになる異種族たちの“境界”を、源石によって侵食され変容させられたとも言える。

 

 本来ならば交わることのない血と血が、“形”を媒介に繋がれたのだ。

 

 つまり、サルカズとは一つの種族ではなく、源石によって「概念的に接続された異形たち」なのだ。

 異なる種族たち――翼を持つ者、岩のように硬い者、大地の下から来た者――かつては混ざることなどなかった彼らが、迫害の歴史の中で、一つに括られた。

 だが血が交じり合い、多くの純血種族が滅びつつある現在では、異種族という「境界」が失われて久しい。

 かつての先祖の姿も忘れ、己の根源すら忘れ去った現代のサルカズにとって、もはやサルカズはサルカズでしか無かった。

 

「もはや“サルカズ”とは何か――答えられる者はどれほどいようか」

 

 幾度の交配と放浪の果てに、純血は歴史書の中に消え、

外見も能力も、かつての“定義”を失っていった。

 

 炎のごとく揺らめく体も、

 瘴気を纏う影の羽も、

 記録には残れど、記憶にもつ者は僅かばかり。

 

「血の混じった子らは、かつての憎しみを背負いながら誇りを知ることなく苦しんでいる」

「我らから歴史と芸術が失われて久しい今、多くの者はただ“サルカズ”という言葉だけを、戸籍のように背負っているに過ぎない」

 

 だが、それでもなおその名が世界の憎悪を呼び寄せる。

 

 見た目が変わろうと、振る舞いが変わろうと、サルカズと呼ばれるだけで石を投げられる。

 

「ならば問おう。我らは何を以てサルカズとされ、なぜサルカズである限り赦されないのだ?」

 

「源石は公平だった。変えたのは種ではなく、大地に立つすべての命だった。だが――なぜ変わったのは我らだけだ? なぜ変わったはずの奴らは、いまだ我らを滅ぼそうとするのだ?」

 

 かつて源石はサルカズを人の形へと変え、知性と声を与え、他者と交わる可能性を与えた。そしてその力は、他の種族にも等しく降り注いだ。

 新たな技術、新たな命、新たな文明。

 

 それでも――奴らは変わらぬ「偏見」を持ち続けた。

 

 技術を得た者たちは、力を持った者を恐れ、排した。

 同じく源石に触れながら、サルカズだけが「呪われた民」として、今日まで責めを負わされてきた。

 

 姿かたちを変えようとも、サルカズは赦されなかった。

 

 血を流し、汗をかき、家族を持ち、人と同じように笑い、泣くようになった今も、彼らの背に刻まれた“サルカズ”という烙印は消えなかった。

 

「かつて災いだった者」

「祖先に呪いをもたらした種」

 

 そう囁かれ続けた数千年。文明が進歩し、天災を予測できるようになっても人々は“災いの象徴”としてのサルカズを忘れはしなかった。

 

 それは形の問題ではない。恐れが記憶を、記憶が物語を、物語が差別を継承したのだ。

 

 現代のサルカズがどれほど人に近づこうと、その歴史に蓄積された「恐怖の物語」の方が重かった。

 

 だからこそ、歴史を忘れていないサルカズは問い続ける。

「変わるべきは誰なのか?」

「赦しは、姿によって得られるものなのか?」

 

 そして、こうも問いかける――。

「我らが姿を変えたというのに、なぜそなたたちは変わらないのだ?」

 

 或いは、

「変わるべきは我らなのか? 恨みを捨て去るべきは我らの方なのか?」

 数千年迫害され続けた歴史は、今も続いている。今を生きるサルカズにとって、迫害は過去のものではないのだ。

 サルカズが手にしたのは、赦しではなかった。

 安寧でもなかった。

 ただ、“耐える”という選択肢だけだったのだ。

 

 石を投げられ、職を奪われ、言葉一つで殺され、生まれただけで罪とされた。

 

 それでも、我らが変わらねばならぬのか?

 迫害する奴らではなく――我らが?

 

「数千年の迫害の歴史は、終わってなどいない。今も続いている。今を生きる我らにとって、“迫害”とは過去の名残ではなく、今日の出来事であり、明日の恐怖なのだ」

 

双生の魔王がこの言葉を口にしたのは、それは赦しを拒むためではない。

それでもなお、怒りの果てに滅びることを望まぬが故に。

 

「かつて、融和を目指したこともあった。だが――協定は反故にされ、無辜の民が焼かれた」

 

 信じたからこそ、裏切りは深く。

 歩み寄った手は斬り落とされ、掲げた旗は炎に包まれた。

 

 そして今もなお、サルカズの運命は傲慢なる創造主によって弄ばれ続けているのだと知った。

 

「サルカズの運命を弄ぶ者よ――我らを駒として扱ったその傲慢、必ず砕いてみせる」

 

 テレジア殿下の目的を知ったスヴェルドフレムは決断する。

 それは誇りのためでも、復讐のためでもない。

 今を生きるだけでなく――これからの同胞の未来のためだ。

 

「この手が振るう刃は、敵のみならず、同胞すら斬るだろう。だが――それでも、見過ごすことはできない」

 

 覚悟はとうに決まっていた。

 かつて願った平穏が、嘲笑と共に踏みにじられたあの日から。

 スヴェルドフレムは知っている。

 この決断は新たな悲劇を生む。だが、放置すればそれ以上の地獄が待っている。

 

「血で血を洗う運命を断ち切るには、その連鎖の中に身を投じるしかない」

 

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