先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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早く英雄に脳焼かれ吸血鬼を書きたいけど上手い展開が思いつかない




失墜した龍が見つめる先

荒野を吹き抜ける風が、朽ちかけた外板を軋ませる。

 

積み上げられた荷の隙間から覗く空は、鉛色の雲に覆われていた。進む先には、ヴィクトリアの中心――ロンディニウムがある。

 

ナインは地図を折り畳み、静かに顔を上げた。

 

「もうロンディニウムまで遠くないはずだ」

 

設備の点検を終えた戦士が、油に汚れた手袋を外しながら頷く。

 

「……ああ。運が良ければ、あと一週間ちょっとで城壁が見える。あのボロ車を直せれば、もう少し早く着けるだろうがな」

 

別の戦士が辺りを見回し、声を潜める。

 

「ロンディニウム周辺じゃ天災は滅多に起きない。だが、今は別だ。どこでヴィクトリアの大公爵軍と鉢合わせてもおかしくない」

 

「連中にとって俺たちは感染者だ。レユニオンだ。歓迎なんてされるはずもない」

 

彼は短く息を吐き、付け加えた。

 

「……それに、サルカズもいる」

 

その言葉に、場の空気がわずかに重くなる。

 

軍事委員会がロンディニウムを占領した今、都市周辺はもはやヴィクトリアだけの戦場ではない。

 

サルカズ、ヴィクトリア軍、ダブリン。

 

幾つもの思惑が、一つの都市へ収束している。

 

ナインは静かに口を開いた。

 

「今後の行動は、これまで以上の慎重さが求められる」

 

彼女は仲間たち一人ひとりを見渡す。

 

「我々は幽閉されている仲間を見つけ出さなければならない」

 

「たとえ彼らが、もう自分たちをレユニオンの一員だとは認めていなくても」

 

誰も言葉を返さない。

 

それでも、その沈黙は否定ではなかった。

 

彼らも知っている。

 

チェルのボーグでの顛末から今日まで、あまりにも多くの仲間が散り散りになったことを。

 

志を捨てた者。

 

名前を変えた者。

 

あるいは、生きるために敵へ降った者。

 

それでも――。

 

ナインは視線を遠くへ向ける。

 

「再び団結することは、きっと容易ではない」

 

「だが、我々は同じ苦痛を知っている。同じ悲しみを分け合ってきた」

 

「だからこそ、その記憶が今も私たちを前へ進ませる」

 

「まだ立ち止まることは許されない、と」

 

荒野を渡る風だけが応える。

ナインはゆっくりと拳を握った。

 

「私は、これが何かの埋め合わせになるとは思っていない」

 

「過去を取り戻せるとも思わない」

 

「だが、今の私たちにできることがあるのなら……それは、この道を歩き続けることだけだ」

 

その声に、迷いはなかった。

 

「絶望の淵にいる感染者たちへ伝えよう」

 

「彼らには、まだ仲間がいる」

 

「自分たちは誰にも顧みられない廃棄物ではないと」

 

「そう信じ続ける者が、まだこの大地には残っているのだと」

 

その背中を見送りながら、ナインはふと足を止める。

 

風向きが変わったと同時に、よく見知った誰かの気配。

 

「……」

 

彼女は振り返ることなく口を開く。

 

「いるべき場所にいろ――タルラ」

 

静かな足音。

現れたのは、一人のドラコの女だった。

かつてレユニオンを率い、多くを焼き、多くを失った女。

今はただ、一人の罪人として隊列の最後尾を歩く者。

 

「少し外の空気を吸いに来ただけだ」

 

タルラは短く答える。

 

ナインは肩越しに彼女を見た。

 

「好きにするといい」

 

「私がお前を見ている」

 

責めるでもなく、赦すでもない。

ただ事実だけを告げる声音だった。

タルラは遠くを見つめる。

地平線の向こう。

 

黒煙が空へと立ち上っていた。

 

「……遠くに、火が見えるな」

 

「見えてからしばらく経つ」

 

ナインも同じ方向を見る。

 

「林が落雷で燃えているだけならいいが」

 

「私たちは、あそこを迂回する」

 

「……そうか」

 

タルラは小さく呟く。

 

「雷か」

 

沈黙が流れる。

 

やがてナインが話題を変えた。

 

「野営地で粥を作っていたな」

 

「料理人を少し手伝っただけだ」

 

タルラは視線を落とす。

 

「ジャガイモを籠二つ分、皮を剥かなければならないと言われてな」

 

「食べた」

 

ナインは率直に言う。

 

「悪くなかった」

 

その一言に、タルラはわずかに目を細める。

 

「……アリーナが」

 

言いかけて、言葉を飲み込む。

 

「いや」

 

「昔、ある友人が教えてくれた」

 

「もう作り方など忘れたと思っていた」

 

その横顔を見つめながら、ナインは静かに告げた。

 

「裁きが下るその時まで」

 

「お前がまだ力を尽くしたいというなら、私は止めない」

 

「だが、自分がどういう立場にあるのかだけは忘れるな」

 

彼女の声音は鋭くなる。

 

「タルラ」

 

「私たちは、お前を見ている」

 

「私だけじゃない」

 

「全員がだ」

 

タルラはゆっくりと頷いた。

 

「……分かっている」

 

ナインはなおも彼女を見据える。

ナインはしばらく黙っていたが、ふと尋ねた。

 

「フロストノヴァのことは、もう良いのか」

 

その名に、タルラの瞳がわずかに揺れた。

 

「……フロストノヴァは、あの時点で既に末期だった」

 

「仮にこちらへ連れて来られたとしても、私たちには看取ることしかできなかっただろう」

 

彼女は静かに息を吐く。

 

「あのロドスとの決闘の前に、彼女は言った」

 

「敗れたなら、自分はロドスの一員になる、と」

 

ほんの一瞬。

 

タルラは目を閉じた。

 

脳裏を過るのは、ロドス艦内の一室。

小さな覗き窓の向こう。

源石の結晶に包まれ、眠り続ける少女の姿。

あの眠りがいつ終わるのか。

再び目を開く日が来るのか。

それとも、あれが永遠なのか。

誰にも分からなかった。

だからこそ――。

タルラには、その先の未来をレユニオンの中に思い描くことができなかった。

もし彼女が生き延びていたとしても。

フロストノヴァは、もうレユニオンという器には収まらなかっただろう。

そして、自分にはその可能性までも背負わせる資格はない。

 

「……どちらにせよ」

 

「避けられない結末だった」

 

ナインはそれ以上何も言わなかった。

慰めも、否定も。

ただ短く命じる。

 

「荷物をまとめろ」

 

彼女は踵を返す。

 

「そろそろ出発だ」

 

その声を合図に、一団は再び歩き始めた。

 

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