先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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極寒の大地より来たるサルカズ①

サルカズの男――スクミングはウルサスを越えた極寒の大地にある小国サーミで育った。

 サーミ。

 ウルサスが大国として力をつける一方で、ひっそりと身を潜めるようにあった小国は、未だかつての暮らしを守っていた。

 凍てつく風が大地を切り裂き、連なる峰の奥深くよりも厳しい環境が、命の芽吹きを拒んでいる。

 屈強なサーミが山々を押し上げ、氷のごとく冷徹な戦士がそびえ立つ障壁を築き上げていた。

 サーミの人々は自身をサーミフィヨドと呼び、数百年彼方にある氷原から訪れる災いと戦いを繰り広げてきた。

 サーミ人のほとんどはエラフィアで、一部特異なサルカズや珍しい種族の者がいる――スクミングはその内の、特異なサルカズに含まれる。

 

 サルカズの種族のうちの一つ、未来を予見するサイクロプス。

 彼らは約千年前、故郷たるカズデルを離れこの極寒の大地へと訪れた。

 ――かつてサイクロプスの魔王が暗殺された時、サイクロプス達はカズデルを離れる決意をした。

 理由は――もはや今の彼らにとってどうでも良いことだ。

 ただ重要なのは、今のサイクロプス達はサーミの人々と共に、災いと戦いを繰り広げているということだけ。

 サーミのサイクロプスは、単に未来を予見するだけでなく、その終焉をも見届ける者たちである。伝承に従い、彼らは予兆に近づき、さらに鮮明にその運命を視る。

 だが、彼らが求めるのは、命をかけてその予言を見届け、災いを防ぐための一手を講じることだ。

 極寒の大地が、次の千年を生き延びるために。

 彼らが「犠牲」の意味を深く理解しているのは、かつてカズデルが絶え間ない戦火に包まれていたからに他ならない。

 最早、サイクロプスはカズデルの地を見守ることはない。

 しかし、サーミの戦士たちが故郷を守るために連山に防衛線を引いたように、ティカズもまた、自らの地を守るために北の果てを見守らなければならないことを、サイクロプスたちは深く知っていた。

 

 もっとも、スクミングはサルカズではあるがサイクロプスでは無い。

 いわゆる拾われ子である。

 北の災厄と戦い続ける大地で、親の遺骸に抱き抱えられていた所をサーミ人の戦士が見つけたのだ。

 

 母親と思わしきサルカズの女に、守られるように抱き締められたまま震えていたという。

 少し離れた場所では、乾いた血溜まりに沈む父親と思わしきサルカズの男の遺骸があった。

 

 サルカズの外国人夫婦の遺児にサーミ人の戦士達は戸惑った。

 結果、サーミの雪祭司を通して、サルカズの遺児はサイクロプスに預けられることとなる。

 

 大多数のサーミ人と同じように、彼はサーミと共に育ち、やがて悪魔憑きを狩る狩人となった。

 成人となり数年が経ち、このままこの大地で一生を終えるのだと考えていた頃。

 彼はサイクロプスの予言を聞かされた。

 

 ――サイクロプスが視るのは災いのみ。

 

 スクミングは、サイクロプスの予言を無視することも出来た。

 或いは彼が本当の若者であったなら、信じるわけが無いと、若さゆえの無鉄砲さで抗ったかもしれない。

 ――しかしスクミングは真の若者でも平凡な人生だけを歩んできた訳でもなかった。経験してきてしまった以上、それに背くという考えは存在しなかった。

 

 

 ほとんどのサイクロプスは、一度は己の目に映った運命に抗い、災厄や死を阻止しようと試みるものだ。

 しかし結局のところ、自らの行動こそが引き金となり、運命を早めてしまったことを思い知らされるのだった。

 

 そうして命を落とした者たちの姿を、あるサイクロプスの女は長い年月の中で見てきた。

 ――己の名を呼ばれたことに気付いたサイクロプスの女は、顔を上げる。

「スクミング」

 見れば、知己の男が立っていた。見覚えのある顔に、男の名を呼ぶ預言者の老女。

 若きサルカズの男を、預言者の老女はよく知っていた。

 

「お前がカズデルに行くのならば止めはしない。お前は聞いたのだろう、かの予言を」

「そしてそれは――かつて私たちが去ったカズデルにあるのだと」

 

 ……かつて、サイクロプスの一族はカズデルに居た。しかしあの出来事を機に我らは去った。その時、我らは未来を視た。

 カズデルの行く末を。

 

 ――我は視た。

 遠方の軍が谷から丘へ、高山から平原へ

 そうして故郷へと襲いかかるのを。

 君主の斬首、サルカズの魂の慟哭。

 我は視た。

 六名の英雄が魔王の屍を跨ぎ

 角笛を吹き、万の部隊を率いて反撃に向かうのを。

 無念、嘆き、怒りの炎が湧き上がり、

 放浪者の都市は崩れ去った。

 我は視た。

 黒い王冠が浮かび

 栄誉、恩恵、救済、すべてが双生の子に帰していくのを

 裂け目は広がり、新たな誕生の一切を裏切っていく

 我は視た 嵐が訪れ、その中央に

 君主弑す剣、王を誅す矛があることを。

 伝説はみな、正義によって終わりを迎える。

 

 

「サイクロプスの予言は災いのみ。……それでも行くのならば、止めはしない」

 かつて見送った者と同じ目をしたサルカズを見ても、予言者の老女は何の感傷も覚えなかった。

 長い年月を生きたサイクロプスの女は、変えようの無い意思を持ったサルカズの男をただ見送る。

 

「……我らサイクロプスの目はカズデルに向けられることは無い。……しかし旅行く者への餞ならば、許されよう」

 

「(古代ティカズ語)旅行く者へ、日の出を祈ろう」

 

 




主人公の記憶が戻るのは大抵物心着く年なのでそれ以前に死んだ場合、転生を自覚しないまま転生する。保存される記憶も、これまでの転生の記憶が戻ってから――転生を自覚してから行われる。なので本人が思っている以上に転生を繰り返している可能性がある。
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