先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
傭兵という仕事は実に夢がない。
はるか昔の大地には財宝を探す一攫千金の夢と騒がれた時代があったものだが、今は昔。
命を――身体を資本に時に依頼で殺し殺され、時に戦争の工作に駆り出され、或いは知らずに囮として使い潰される。
傭兵と言えばサルカズが連想され――サルカズと言えば傭兵という。
サルカズに、傭兵というイメージが纏わりつくようになったのは何時からだろうか。
或いはたった一枚の紙切れによって、同族同士で殺し合うようになったのは――何時からそうなってしまったのか。スクミングもといスヴェルドフレムは思考を重ねる。
「まってくれ! あんたを殺そうとしたわけじゃない! 依頼書には標的だけ殺せば良いって…… なら、」
遠回しの命乞いをする傭兵を前にして――サルカズという種族に想いを馳せながら、
「遺言はそれだけか?」
――捻るように剣を押し込み、傭兵の胸を貫いた。
「ぐ、ぁ……」
傭兵の体が痙攣し、強張った身体がだらりと弛緩するまで、瞳の色が濁るまで――スヴェルドフレムはその終わりを見届けた。
最後の敵が命尽きる様子を見た依頼人が、危機は去ったと言わんばかりの表情で告げる。
「――やはり傭兵はろくでもないな。特に暗殺任務を受ける輩なんてのは」
傭兵を雇う者は大抵仕事の付き合いとみなすものが多いが――まれに荒事につく人間を唾棄すべきものとみなす依頼人に当たる事がある。
……或いはサルカズという種族を忌む人間に当たることもある。
「俺はあくまで、あんたを送り届けるまでの護衛 だ。……そこから先は、どんな行動をしようが自由だが――言動には気をつけることだな」
相手の傭兵が絶命したのを確認した後、護衛対象を無事目的地まで送り届けた。
カズデルへと戻り、依頼の達成を告げる。
報酬金が支払われる――という所で、報酬金の支払いが相場よりも低い額で出されるという出来事もあったが、
「……相場よりも低いようだが、俺が何かやらかしたか?」
それとも――報酬金の計算が不安なら、俺がしてやっても良いが。
そう告げれば相手のサルカズの男は舌打ちを鳴らし、「インテリぶりやがって……そうだったそうだった、金はこっちのが正しかったな。……ほらよ」
投げ渡した正しい報酬金の額を数えて確認する姿を見届けると、サルカズの男は粗雑な手つきで面倒な輩を追い払った。
「……はっ。命の対価がこれっぽっちとは。イカれてるな」
サルカズの多くが教育の機会を失って久しい今では、必然的に傭兵となるサルカズが増え、戦争の先鋭化と共に傭兵の仕事は傭兵を殺すことになった。
カズデル侵攻後、各地に散らばったサルカズを今代の魔王テレジアが呼び戻し続け半世紀以上。
何とか復興しつつあるカズデルは、いまだ貧困と名ばかりの貴族の腐敗が蔓延る都市でもある。
テラを生きる人々にとってこの「世界」は険しく厳しいが、カズデルという枠の中でも――いやむしろ貧しさがつきまとうからこそ、人々は明日を生きる糧さえ危うい日々を生きるしかない。
一傭兵として生計を立てるスヴェルドフレムもまた、そうした都市の縮図に飲み込まれないよう、力をつける必要があった。
人々は魔族を忌み嫌うが、忌み嫌われるサルカズの中でも人々が立たされる立場は分かれている。
貴族、平民、貧民。
どれほど文明の先鋭化が進もうとも、そうした社会の縮図は変わらず回り続ける。
社会に飲まれぬよう、抗うために力がいる。
力――それは権力でもあり武力でもあり、知恵でもある。
「力ね……はっ、そうだな。今の俺は、ただの傭兵だ。……傭兵として生きるなら、十分だろうな」
スヴェルドフレムが傭兵として過ごし、それなりの金を稼ぎ、傭兵として生きるなら十分な額になった。
だが、足りない。
スヴェルドフレムが、一介のサルカズとして、傭兵としてでは十分でも。
スヴェルドフレムは満足しない。
一介のサルカズが力を持つには、カズデルでの選択肢は限られている。皮肉にもカズデル侵攻以前から武力勢力が多く存在するサルカズの中で、一介の傭兵が成り上がるには、暴力が手っ取り早く、確実でもある。
――そして必要な手足は、あらゆる人の業が煮詰まったカズデルの地下――スカーモールで手に入れる事ができる。
スカーモール。
はぐれのサイクロプスによって作り上げられた地下空間。
長い年月をかけて、サイクロプスの思うがままに形を変えられた結果、カズデルの地下に潜むもう一つの無法地帯が出来上がった。
スヴェルドフレムはカズデル地下の巨大な空洞に隠れた絶壁のたまり場を見た。
彼の耳には、奴隷たちのうめき声のほかに、モール下で源石粉塵が絶えず爆発する音、溶岩が逆巻く音がかすかに聞こえている。
険しい道を目にして、彼は地上からモールまでの危険な道のりを思い出し、一体どれだけのサルカズがスカーモールへとやってきたのか――過去に思いを馳せる。
或いは、どれほど人の欲を吸い続けているのか――地下の統率者として君臨し続けるサイクロプスの姿を思い出す。
傭兵として訪れたことはあれど、人の売買に手を出したことはなかった。
一介のサルカズが手を出すには、あまりにも業が深く、その段階ではないと踏んでいたからだ。
奴隷。
或いは四肢を欠損し戦士を辞めたもの。
力を養うべきだ。だが、スヴェルドフレムという男は一人しかいない。力をつけるためには手足がいる。
だが、一から信頼関係を築くにはサルカズの傭兵達は癖が強く――他者を信用しない。
平民はなおさら荒事には向かず、異族もまたカズデルには居ない。
ならば、落ちぶれたものを買い取れば、まだマシだと考えた。
奴隷など唾棄すべきだろう行いだが、スヴェルドフレムは今なお力を欲している。
だからこそこの人の欲を吸い続けるスカーモールを訪れたのだ。