先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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傭兵と訳ありの奴隷達

 スヴェルドフレムは己の目的のため、地下に潜った。

 奴隷の購入に必要なのはカネとコネだ。今の彼はその持ち合わせがある。並の傭兵では手が出せないような額もモノも、傭兵稼業に勤しんだおかげで払える程になっていた。

 ――カズデルには違法な人材売買を生業としている闇業者がいることを彼は知っていたからだ。

 本来ならば、これらも彼とは無縁の世界だろうと思われるが、純粋な若者と言えぬほど長い時が過ぎた今現在において、こうして力を得るために必要な行為と割り切ることが出来るようになったのも事実だった。

 地下の闇の深奥へと歩むにつれて、次第に人の気配が遠ざかり始めていく。

 スヴェルドフレムの目が暗がりに適応し始めてもなお暗闇が生い茂る道へと進む。

 やがて、彼は目的の場所まで辿り着いた。

 闇市と呼ばれる違法な人材売買を生業とする一角だ――地下の無法地帯と言えど秩序はある。

 スカーモールの支配者の目に余る行為をすれば、命をもって贖うことになるだろう。

 店頭に並べられた奴隷の表情は、どれも生気を失っている。サルカズらしく角や尾が生えたものもいれば、戦闘や病で欠けたのか片角や尾なしの者もいる。

 だがスヴェルドフレムが求める者は、その中にはいなかった。

 スヴェルドフレムの要望を店主に告げれば、物好きな客と思われたのか、戸惑いながらも奥へと案内される。

 ――店の奥に居る奴隷は、どれも元は戦士や傭兵だった者たちばかり。

 戦争や依頼の失敗――様々な要因により結果、四肢の欠損を抱えることになり、紆余曲折を経て奴隷となった訳ありだ。

 現役ならばまだしも、欠損を抱えた戦士としては死んだ奴隷に目を向けるものなど――滅多にいない。

 そんな訳ありを数人買おうとする変人に、奴隷商人はとんだ珍客が来たと思いながらも脳内で算盤を弾く。

 スヴェルドフレムがその奴隷たちに目を向ければ――目を逸らすものや、じっと見つめるもの、虚空を見るもの、見つめ返すものに分かれた。

 だがその誰もが、瞬きほどの間であれど、スヴェルドフレムを一瞥していた。

 一見、その瞳には生気が死に絶えた、絶望に満ちたものに見える。

 だが彼らは戦士であった。過去の話であろうと、一度折れてしまったといえど、その根底には戦士の技量へのプライドがある。

 彼らはスヴェルドフレムを視た。スヴェルドフレムの身なりがどれほどらしくなくとも、本能が察した。

 同時に、相手を見計る癖は彼らが戦士である証と言える。

 スヴェルドフレムは、彼らの瞳に燃えるものを視た。それは怒りだ。無数のサルカズが抱えるもの。

 或いは、この「世界」に生きるものが、不条理なものへと向ける嘆きだ。

 スヴェルドフレムの脳裏に、遠い昔に見た、あの燃える青い炎がよぎる。

 まるで死んだような目をしながらも、その精神が死んでいない――絶えず燃える感情を、奴隷達は燃やし続けていた。

 彼らは奴隷であったが、まさしく戦士と呼べるものでもあった。

 スヴェルドフレムはその燃える瞳を見たと同時に――久しく感じなかったゾクリと肌が粟立つ感覚を覚えた。

 ――サルカズは絶えず憎悪を抱えながら、明日を超えることすら危うい中で生きるがゆえに、怒りを抱くことを忘れている。

 

 故にスヴェルドフレムからしても、今日に至るまで同族への想いが摩耗していた。

 しかし今この瞬間――彼は、過去にない程に己の内にある戦士としての血が滾るのを感じずにはいられなかった。

 恐らくこの中にいるのは紛うことなき強者であると直感したからだ。或いは己と似た境遇を辿った経験があるのかも知れなかった。それ故に彼らはまだ折れてはいないのだろうと悟ると同時に、彼の中にあった何かに火が点いた気がしたのだ。

 

 訳ありの奴隷たちの買取の手続きが終わり、形ばかりの拘束具をつけた奴隷達の前にスヴェルドフレムは佇む。

 

 そんな感情を上手く言葉には出来なかったが、スヴェルドフレムは己の内に生じた熱に突き動かされるように奴隷たちへ告げた。

 彼はその熱を言葉にする術を持たないまま、しかしそれを悟られぬように淡々と告げる。

 しかしその言葉は、これまで彼が得たことのない熱を伴っていた。それ故に意識するまでもなく言葉に出来たのかもしれないが……。

 そんな彼の問いに対しての返答もまた簡潔であった。

 主人の言葉に反応を示したのは皆同じだったようで、数名ほどが同じ答えを返したのだ。

 それは奴隷なら誰もが口にするであろう言葉――隷属と奉仕の言葉だ。

 スヴェルドフレムは思わず声を上げて笑った。何せその答えは予想できたものであり――それを言った彼らの表情が皆、一様にクソ喰らえと言わんばかりの豊かな感情の色がこもっていたからだ。

 それでも彼の問いに対して全員が同じ目をして返したということはつまり、彼らの魂の在り方はそういうものなのだろうとも思うことが出来たのだった。

「これからは俺がお前らの主人だ。お前たちにピッタリの手足をやる代わりに、きっちり仕事はこなしてもらう」

「――やる気は十分のようだな」

「お前等の働きぶりは、しっかり見させてもらうさ」

 

 

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