先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
……争い。貧困。飢餓。
俺達サルカズは他所じゃ平等に嫌われてるってのに、ここじゃ平等じゃねぇ。
あんたはこのカズデルで、毎日どれだけのサルカズが死んでいると思う?
あ?さっさっと働けって? 仕事の時間以外は休む方なんだよ、俺は。
……ま、知るわけねぇよな、俺も知らねぇ。
王庭術師や貴族のクソ共はぬくぬく過ごして、俺たち傭兵は汗水垂らしたって飯どころか糞も出ねぇ生活がザラだろ?
……んなこと話したって、明日の飯の種にもなりゃしねぇってのにってか?
そうだよ物好きだ……まぁ話を戻すが。
少なくとも、平民街近くの貧民窟周りを彷徨きゃあ、そこらに転がってる死体が答えだ。
ただ飯を食える生活が欲しかったから、俺は傭兵になった。こんなクソみたいな所でもな。
で、ヘマやらかしてめでたくスカーモールの奴隷落ちって訳だ。……何をやらかしたって? クソッタレなお貴族様を怒らせて、あれよあれよと言う間にな。
……そっからはあの奴隷売り場で、ご主人様に買われるまで、哀れな奴隷として過ごしてたわけだ。
奴隷に落ちて、生き残るやつは珍しい。
手足を失った俺達みたいな奴なら尚更だ。
大抵安売りされてたらい回しにされた挙句、肉盾として死ぬか、娯楽に使われて玩具にされるか……碌な死に方をしない。
碌でもない場所で生きてきた俺自身、ただ幸運で生き延びただけのクソ傭兵ってだけだが――。
……まさか、あんたみたいな奴に買われるとは思わなかった。
あんたみたいな奴が、クソの溜まり場みてぇな所に来るなんて――どんな風に殺されるのか――あの時俺はブルっちまったよ。
こいつが俺の死か、ってな。
まさか、あんたに買われて挙句挑発されるとは思わなかった……おまけに、文字通り俺たちにぴったりの義手やら義足やらくれるとはな。
傭兵として、戦士として、戦場に出れる日が来るなんざ、数年前の俺に教えても信じねぇだろうよ。
あんたには感謝してる――俺たちは運が良かった。
戦場じゃあ運が良い奴が生き残って――運が悪かった奴から死んでいく。
そうだ。だから、俺たちは運が良かった、あんたに買われた事がな。
あ? はっ、んなこと……知った所で、俺たちに行く宛何かあるわけねぇだろ。
俺たちはあんたの奴隷として買われたんだ。精々こき使って、俺たちをうまく使えば良い。
それなりの見返りをくれるんなら、働いてやるよ。
そう言って唇をにやりと吊り上げたサルカズの男に、スヴェルドフレムは己の審美眼を讃えたくなった。
夜警の依頼を請け負ったスヴェルドフレム率いる傭兵団が、依頼主の元へ辿り着いてから一週間。
或いは、奴隷として買い取った同族達が、傭兵団の一員となってから数年後。
野営地となった荒野は既に日が落ち、多くの団員が警備と仮眠を交互に取っている。
ここ数日敵方の襲撃が減りつつある中、警戒を高める為にスヴェルドフレムもまた夜警の場に混じっていた。
話の一つとして、気紛れにサルカズの男に尋ねたのがきっかけだ。
奴隷として買い取った同族達は、実に素晴らしい働きを見せている。
四肢の欠損という戦士や傭兵としては重いハンデも、スヴェルドフレムが拵えた特注の義手義足で無事補えている。
……とは言え、それらのメンテナンス機材やら薬品やらを揃える為に、傭兵生活で貯めた貯金の殆どが飛んでいるのもまた事実。
……まぁその分、奴隷として買い取った戦士や傭兵達が稼いでくれているおかげで、何とか運営を続けている。
「お前達のような素晴らしい戦士があそこで売られていたとは……カズデルは魔境だな」
そう呟けば、サルカズの男がぶっと吹き出した。
「いや……あんたみたいな奴が、こんな義手やら義足やら扱えんのが驚きだわ」
サルカズの男が、スヴェルドフレムが傭兵たちの義手義足の設計からメンテナンスを直に担っていることに触れる。
「ん……その程度の知識は少し学べばすぐ覚えるだろう。知りたければ教えてやるが」
別段隠すほどでもないことを、ひけらかす訳では無いがそう言うと、
「あー、あー……はいはい、なるほど。そういうタイプか、あんた。……普通のサルカズは、こんな専門の知識も、学ぶことすら知らねぇよ」
顔をしかめながらサルカズの男が言う。
「ま、カズデルじゃ仕方ねぇだろうが。……つくづくあんた……変わってるよな」
変わり者。傭兵時代も度々そう言われていたが、私は他の同族から見ればどうやら変わっているらしい。
何より己自身が特異な存在だという自覚はあるので、そうした評価は甘んじて受けることにしている。
否定はしない。
「あんたのそう言う所だけ見りゃあ、お偉いさんの坊っちゃんに見えないことも無いんだが」
「戦場じゃ、まるで違う雰囲気だよなぁ、本当に」
しみじみと呟くサルカズの男に、スヴェルドフレムは、当然だと返す。
「……戦場では迷えば迷うほど死に近づく。気を張っているからな。顔も変わるだろう」
「……そーいうもんかぁ? あんたが言うなら……まぁそういうことなんだろう」
納得していない顔をして呟くサルカズの男。
ブツブツと呟く姿を眺めていると、不意に五感に触れるものを感じた。
穏やかな雰囲気を乱す、僅かな殺気。
戦場で幾度となく肌に感じたことのあるそれは、悪意。
顔を上げ、感覚に従って違和感を辿る。
ここでは無い。
では一体……。
単独では無い複数のもの。
彼方で蠢くそれらは、この野営地へと近づきつつある。
その悪意の主が姿を現すのも、時間の問題だろう。
その方向を見た直後、サルカズの男と視線を交わす。
サルカズの男の口が動く。
――標的か?
その問いに相槌で済ますと同時に、丁度手入れをしていた武器を引き上げながら、最後の確認を進めていく。
他の傭兵達の招集に向かった団員の気配が遠ざかる。
意識が切り替わる。
ふつふつと湧き上がる戦意――戦いの匂いに滾る血潮。
――戦いが私を待っている。
戦士としての私は喜んだ。
戦いに赴くことに。
サルカズとして私は嘆いた。
今回の敵もまた、同族であることに。
ここがカズデルであり互いに傭兵である以上、逃れられない運命とは言え。
(*サルカズ語* この「世界」はクソだな、本当に)
だが、勝たなければ死ぬ。
敵方の消耗度合いを考えると、今回の衝突は――恐らく激しいものになる。
「それでも、生き残るのは私たちだ」
――さぁ、仕事の時間だ。