先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
――狩る者と狩られる者の立場は、時に反転する。
一体いつから、己が狩人だと思い込んていた?
ある傭兵団の団長が裏切りにあい、刺客となった傭兵団員に襲撃され、行方知れずとなった。
その傭兵団はスカーモールの間では、良くも悪くも名のしれたものであり、多くの傭兵が酒席でその話を話題に上げた。
ある酔客は、その傭兵団の団長は優秀な傭兵であったが、人望が無かったのだろうと言った。
またある傭兵は、どんな傭兵も運が尽きる時がくるって奴だと悟りを見せた。
ある商売人は、商売口が減った場合を予想し、次の顧客を探し始めた。
しばらくその話題で酒場は賑わった。
だがヒトとは常に新しい話題に飛びつくもので、数週間ほどで忘れ去られた。
団長の消息不明から半月ほどが経ち、次の団長として戦歴の長い傭兵が団長となった。
だが、傭兵達が求めていたものとは異なっていたのか、数年が経った頃。
残された傭兵団の傭兵達は、傭兵団を離れていき、次団長となった傭兵によって一つの傭兵団が終わりを告げた。
傭兵団長の消息不明と言う不幸があったにも関わらず、それ以降何事もなく、傭兵団の解散という穏便な終わりを迎えた。
一部の傭兵達を除き、多くの元団員達がスカーモールから去った。
「……まさかこうも呆気なく終わっちまうとは。ボスの人望の問題か、俺達傭兵の薄っぺらさか?」
顔を覆う装備を身に着けた傭兵の男が、かつて団員だった傭兵達が去った方向を見つめる。
傭兵がボスと呼んだ団長は、最早存在しない。
それは覆りようのない真実だった。
同時にカズデルではありふれた、よくある傭兵の終わり方だった。
一傭兵の終わりよりも、傭兵団が揉めることなく穏便に解散したことがよほど奇跡と言える。
大抵、内輪揉めが起き、傭兵同士の争いに発展するからだ。それなりに稼いでいた傭兵団ならば尚更。
「……あんたに買われた日から、鞍替えするつもりはないが……」
「ああもはっきりと見ちまうと、虚しいもんだな」
やるせない現実の虚しさを振り払うように呟き、傭兵の男――そして男についていくことを決めた一部の傭兵達は、スカーモールの騒々しさを嫌うように足早に去った。
傭兵の男と傭兵たちは辿り着かねばならない目的地があった。
それは、ある貧民窟近くの、人通りの絶えた路地にある寂れた建物だ。
男がとある人物と落ち合うそこは、合言葉でのみ入ることができる。何でも、古の巫術によって、そうでないものは弾かれる仕組みらしい。
言葉は確か――、
「(古代サルカズ語)我らを阻むものは大地に非ず」
カチリ、と何かが開いた……ような気がした。
扉を押せば、先程まで微塵も開かなかったその中に、呆気なく入る事が出来た。
……傭兵は学などないが、それでもそれが傭兵の知らないサルカズの、何かしらの技術が使われているのだろうと察することができた。
一切の光が閉ざされた空間が、傭兵達の目の前に広がっている。……深い闇夜に本能が戸惑うが、それでも一度足を踏み出せば、自然と歩を進めてしまう。
男はかつて、団長がまだ一傭兵であった頃に、買われたサルカズ戦士だった。戦場での四肢の欠損によって、価値なしと定められた哀れなサルカズ戦士。
荒野で捨てられ、奴隷に落ち、ただモノとして生きる日々に、炎が舞い込んできた。
それは奴隷として過ごしていた俺の目を鮮烈に焼いた。
あれは、なんだ?
久しく忘れていた、大地への怒り――サルカズの生き方に、団長は火をつけた。
少なくとも、麻痺した俺の感情を、団長は取り戻してくれた。
奴隷に落ちてから、俺は人としての生き方を忘れていた。
当たり前に呼吸をして、飯を食う。
俺の意思で行動するそれらが、奴隷は許されない。
時に主人の気紛れで罰を与えられることもあれば、褒美を与えられることもある。だが、奴隷である限り主人にすべてを握られるしかない。
長く囚われた奴ほど、従順な奴隷にならざるをえない。
マシな主人に当たれば良い方で、何かしらの事情で手放され、奴隷市に戻されることや売り渡されることもある。
男は信じられなかった。
一傭兵が手ずから奴隷の世話をし、主人自ら特注の装備を拵え、奴隷に与えるなど。
挙句、設計からメンテナンスまで担うことや――奴隷に教育を施すなど。本人曰く、簡単な計算や簡単な文字、サルカズ語についての基礎だけなどと言っていたが。
おまけに教師役は主人自ら行ない、サルカズ語だけでなくリターニア語、ウルサス語、炎国語、ガリア語など多様な言語を話してみせた異様さ。
おまけに、戦場では戦歴が二桁にも達していない傭兵と思えないほど、優れた戦士として活躍してみせる。
……男は何故俺たちを買ったのだと一度尋ねた事がある。答えは人手が欲しかったというものだ。
男は信じなかった。だが、どのような意図があるにせよ、主人から多くの恩を受けたことは事実だ。
男は恥知らずでなかったし、戦士としても、主人は軍時代の上官のようだと感じていた。
……だからこそ、男は信じられなかった。
団長が行方不明となり、戦死したとは到底考えられなかった。
あの時、団長は一部の傭兵のみを連れて、後方部隊の援護へと向かった。男はついていこうとしたが、戦線を維持しろと叱りつけられ渋々従ったのだ。
思えば、その一部の傭兵達は、やたらと戦意が高かったような気がする。
食い気味に援護に向かいたいと志願していた――元は別の傭兵団所属だったが、ウチの噂を聞きつけて金払いの為といつだったか語っていた。
男が異変を察知した時には、刺客となった傭兵達は死体となっていた。何のことはない。
刺客が団長を襲ったように、刺客もまた傭兵に襲われたのだ。
そこにあったのは、裏切り者たちの死体と、瓦礫の山だけだった。唯一、血に汚れた認識票だけが見つかり、男は今でもそれを持っている。
それから数年が経ち、男の元へと手紙が届いた。
団長のかつてのコードネームを名乗るその人物は、現在の事情とセーフハウスの住所を書き記していた。罠の可能性がある手紙から、男は目を逸らす事が出来なかった。
傭兵団の解散が正式に決まり、男は同じく買われた元奴隷の傭兵達と向かうことを決めた。
異質な建物にこうも容易く入るなど、傭兵として褒められたものではない。
どのような罠が待ち構えているのか――、一刻一刻と傭兵たちの精神はすり減っていく。
誰一人として逃げ出さなかったのは、逃げる場所など何処にも無いことぐらい解っていたからだ。
夜目が効く傭兵の指示に従うまま階段を降りていく。
やがて光が見えた。地上の光ではない――人工的な光。
鉄扉の僅かな隙間から漏れた光が、傭兵たちの目に映る。
目配せをして扉を力強く押すと、光が傭兵の目を眩ませた。
光に目が慣れた時、傭兵たちの目に映ったのは――男がよく知る団長の姿があった。
主人公は言語をケルシー並に色々話せる。言語によっては口調が古臭く堅苦しいものになったりする。
ドクターほど一瞬で話せるようになるわけではないが、数日から数週間ほどで流暢に話せるようになる。
スラングを言う時はサルカズ語が多い。
王庭軍時代の主人公
「*サルカズスラング*! 突撃したのはどこの阿呆だ?」