先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
サルカズの歴史は裏切りと苦難の中で紡がれてきた。
それはサルカズの傭兵も例外ではなく、寧ろ無秩序な戦場に身を置くからこそ、裏切りは常にあった。
サルカズ傭兵の交友関係など、紙切れ一枚で覆るような薄っぺらいものだ。
故に、スヴェルドフレムは多くの傭兵を率いる立場となる前に、己に関するあらゆるものを偽装した。
出自を偽り、顔を隠し、体格と身長を誤魔化した。
かつて磨いた変装技術を存分に生かして傭兵生活に身を投じ続けた。
何時しかそれが当たり前になった頃、より多くの傭兵を率いるようになってからはコードネームを変えた。
無もなき傭兵としてのスヴェルドフレムは既になく、名のある傭兵団の団長がそこにいた。
傭兵が防護の為の装備を身につけることは珍しくないこともあり、最初期の傭兵たち――元奴隷の傭兵達もそれを受け入れていった。
謀略、謀殺。
サルカズの貴族を暗殺したこともあった。
それは対立するサルカズ貴族に雇われての依頼だったが、依頼を終えた途端用無しとばかりに刺客を向けられた――無論返り討って、その刺客の首を貴族に届けたが。
手広く様々な陰謀に関わってきたが故に、怨恨を持った連中から襲われた事もある。
サルカズがサルカズを殺す。
この大地の何処かで起きるそれは、気付けば一つの大きな流れになっていた。
立場の異なる無数の同胞を手に掛け続け――どれほど時が経ったのか。
抗えば抗うほどそれは復讐心を焚きつける事になりさえした。
「傭兵は、長く生きたやつほど賞金が高いからな――そこそこ生きてるあんたは強ぇ」
数を増やし成長し続ける傭兵団に集う、あらゆる層のサルカズ達。
利益、忠誠、野心、貧困、闘争心……悪意を秘めた団員が居てもおかしくはない程に。
数名の団員が事を起こしたとて、団長の首をそう取れるはずがない。
ならば、団以外の組織と手を組めば良い。
裏切り者たる刺客達はそう考えたようだ。
理由付けはどうにでもなる。
襲撃された後方部隊の援護に向かったスヴェルドフレムは、団員の一人が同じ団員に殺された瞬間を目撃した。
「何を……っ」
――思わず動揺するが、他の団員が己に向けて振り翳した刃を見た刹那、迷わず刀を振るった。
同時に、襲いかかる傭兵団員達の凶刃を弾き返しながら、スヴェルドフレムは状況を理解した。
「……誘い出されたのはこちらか」
左から、ナイフを差し込もうと接近した元団員――刺客の喉を、同じくナイフで掻き切ると同時を蹴り飛ばす。
スヴェルドフレムに加勢していた仲間の断末魔が上がる。
あらゆる方向から剣戟や轟音が響いている。
刺客達の中には団員や敵方として戦っていた者もおり、スヴェルドフレムは察する。
いや……まさかこの場で牙を剥く連中がいるとまでは考えていなかっただけで、これまでも起こりうる事だったのだ――むしろ今こうなっているのは遅かったと言えるのかも知れない。
スヴェルドフレムは群がる刺客達をあしらう中で、刺客達の指令塔に徹する男に目を向ける。
「……主謀者はお前なのか? ガラム」
そう目の前の傭兵に尋ねれば、サルカズの男は皮肉げに笑った。
古参の傭兵たちからすれば、数年にも満たない新参者の傭兵。
利益の為と入団理由を告げた男の一人だった。
かつてガラムと名乗った裏切り者は、周囲の喧騒を他所に語る。
「提案したのは俺だ」
「だが、実行にまで漕ぎつけたのは、仲間のおかげ……それとお貴族様のお力だ」
「賛同してくれるお仲間はこの傭兵団の中だけじゃねえ」
「――あんたのやってきたのと同じくらい、それなりにいたってことだ」
そう告げると同時に、下げていた武器を掴み直し、スヴェルドフレムへと向ける。
「……狙いは私の首か?」
「ああ。お貴族様は、あんたの首さえ取れれば良いらしい。傭兵団の方は放っておけだとさ」
そうして、ああ忘れていたと笑うサルカズの男。
「まぁ……この場に居る傭兵団の奴らには死んでもらうが」
それがあの日の裏切りであり、傭兵団の団長が行方知れずになった日だ。
「……後方部隊の団員と刺客達はグルだった。私に加勢していた団員達は、その命を私の為に散らした」
ガラムは私の首を取れると思っていなかったようだ。
だが、団員ならば殺せると踏んでいたらしく、助けようとする私を予見したうえで悪辣に、残虐に殺した。刺客のほとんどは何とか殺せた。
だが、それまでの戦闘の疲労からアーツの対処に追われて疲弊した所で、源石爆弾をまともに食らってしまった。
なにせ狭い建物内での戦闘だったからな。
建物の瓦礫に巻き込まれかけて、危うく死ぬところだった。
……その時には既に、私が連れていた団員は皆命を捧げていたからな。
私のアーツは広範囲かつ殺傷能力の高いものだ。近くで放てば巻き込まれるが……お陰で命は助かった。
ガラム……奴は殺せたが、私自身死にかけていた所で、バンシーの友人に助けられた。
それから私の死を偽装し、この地下で数年治療に専念していたというわけだ。
「傭兵団もなくなり、未だかの貴族が傭兵に目をつけている以上、傭兵生活は無謀と言える」
「……しばらくは無理だ。そうだな……また数年程地下に潜るか……」
「いっそ、平民街か貧民街の医者……孤児院でもやるか?」
そう言った元団長……スヴェルドフレムに、傭兵達は困惑する。
「気は確かか? ボス……何で医者に?」
「サルカズのため……鉱石病の為だ。私たちには医療が……教育がない。それを手助けしてやりたいのもあるが……それに、傭兵が医者をやるとは思わないだろう」
「私の顔も……お前達を買い取ったあの時と……サルカズ傭兵のお前と話していた時くらいだ、他人に見せたのは」
「普段はサルカズの仮面を模した防護面を被っているからな。ガラムを殺すときもそうだった」
「……ともかく、私の顔は恐らく問題ない。まぁその時はその時だ」
「お前達は……どうする?」
「まあ……あんたがやる事にケチつける気はないが。どうせ行く宛もない俺達だ」
元奴隷や傭兵達は頷き合う。
「それに、あんたに付き合うのも、悪くはなさそうだ」
とある建物内での会話
『――ねぇ、本当に来るのかしら?』
『何の話だ?』
『何って……ほら、貴方の所の子達よ』
『……俺の団の話か?』
『そ。貴方があんなにボロボロな所を見たのって……いつぶりかしら?』
『俺も、あそこまでやられるとは思わなかった。……裏切られるとはな』
『そうねぇ…。けど、裏切り者が出た団の子達を、まだ信じてる貴方も大概……』
『……なんだ? 今更それに触れるなど……怖気付いたのか?』
『まさか! それに、万が一起きたとしても……バンシーの技術を舐めないでちょうだい』
『……サルカズの裏切りか』
『……外から見ればなんとでも言えるものだ』
『だが、彼奴らは……。古株と言っても良い、俺の手足だ。もしそれが、腐り落ちたのならば……』
『適切な処置をすべきだろう』
『ふぅん…。ま、私は場所を貸すだけだし……万が一が起きた時は、前に言った通り……良いわよね?』
『後始末も俺が行おう。それが……元団長としての"私"のケジメだ』
『なら、良かった。お客さんが来た後は……ここも終いね』
『ああ。貴方の夫にも気を使わせてしまったな。……もし順次上手く行けば、礼にリターニア産の良い品でも贈らせてもらおう』
『あら、じゃあ尚更失敗する訳にも行かなくなったわね? ……そうそう、あの人も心配してたわよ、死にそうな顔して』
『……そうだな。俺も、心の底から成功を願っている』
「……そろそろ時間のようだ」
「(古代サルカズ語)また会おう、我が友人よ」
「(古代サルカズ語)さようなら」
「(古代サルカズ語)……さようなら」
なんかかっこいい主人公のバトル描こうかと思ったけど、戦闘描写が描けなくて断念しました。