先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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サルカズと拾われた異族の子供①

スヴェルドフレムがクルビアに支部を構えてから、十数年が経過した。

 正確に言えば、今の開拓地が「クルビア」と呼ばれる以前からのことだ。

 独立戦争によって、ヴィクトリアは軍を撤退させる決断を下した。

 すでに戦況は決していた。

 辺境領の公爵は、自らの情熱を注ぐこの事業の価値を過大評価していたのかもしれない。

 ヴィクトリアが大貴族の私利私欲に配慮したことが、かつて一度でもあっただろうか?

 

 運命とは、まさにこういうものだ。

 

 大国ガリアはヴィクトリアに対し、強い圧力をかけていた。

 辺境領公爵がこの戦争で敗北したのは、ヴィクトリアの不可解な判断によるものだった。

 ヴィクトリアは公爵に支援の手を差し伸べることはなかった。

 それは、一種の静観とも言えた。

 だが、その静観こそが彼を死へと導くものだった。ヴィクトリアの意思は、決して一枚岩ではなかったのだ。

 

 いずれにせよ、ヴィクトリアは北西の荒野に点在する都市を顧みる余裕はなく、その結果、この戦争がクルビア誕生の契機となった。

 

 

 

 新興国クルビア、それも資源が眠る開拓地から生まれたとなれば、多くの勢力がその地に根をはろうと足を伸ばした。

 ウルサス、リターニア、ガリア、イベリア、カジミエーシュ、独立したシラクーザ、果てには本国たる立場を失ったヴィクトリアの一部勢力までも、この開拓地に少しでも傷跡を残そうとした。

 新興国たるクルビアに大きな力は無いが、混沌とした国内情勢の中、それでも各国の勢力とうまく付き合っている。

 その中で、スヴェルドフレムら「エルデル」は、あくまでも一組織でしかない。

 構成員の多くがサルカズということもあってうまく付き合えている勢力は、何処か後ろ暗さがあり、そのほとんどが魔族の武力を必要とする荒事ばかりだ。

 マトモな交渉事はスヴェルドフレム傘下の異族が行ない、裏社会とつながりのある勢力とはスヴェルドフレムが行う形となっている。

 

医療物資の提供及び医療技術の交流――組織運営に関わる重要なそれらは、スヴェルドフレムが矢面に立って行うものではない。

 より正しく言えば、今回の取引相手とはスヴェルドフレムが表立って関わるものではない。

 なにせ、クルビアの現地勢力ではなく他国――それもリターニアの医療組織相手だ。

 おまけに特別意識の高い傲慢さが鼻につくような厄介な手合い。

 魔族を忌み嫌うのは、クルビアだけでなく大地全てと言っても過言ではない。

 例えスヴェルドフレムが交渉したとて、まともな相手ならば魔族とは正当な取引を行わないだろう。

 故に、スヴェルドフレムはそうした交渉事は、カズデルで拾った異族を中心に任せるしかない。

「……というわけだ、交渉人。後は頼む。勿論経験豊富な補佐役はつけてやる」

「相変わらずですね、ボス」

 そう呼ばれた若いリーベリの交渉人の男は、スヴェルドフレムにじとりとした目を向ける。

「仕方ないだろう? 私も可能ならばやっている」

「……あのリターニアの、傲慢ちきで*サルカズスラング*な輩でなければな」

 そうして取引相手を貶したスヴェルドフレムは粗末な椅子に座り込む。

「私が姿を見せれば、奴らはどう騒ぐと思う? ああ、答えるなよ? どうせ――」

「(リターニア語)『何故魔族がいる! 取引相手? 馬鹿馬鹿しい! 魔族とまともな交渉なんて、する訳が無いだろう』」

「とでも騒ぎ立てるだろう。サルカズの扱いなど、そんなものだ。腹立たしいがな」

「そもそも、サルカズがこうしてクルビアに居座ることも、独立戦争が無ければ不可能だった」

 リーベリの若い男に目を向けたスヴェルドフレムはそうして呟く。

「……異族はさほど苦労せずこの地に居座れる。お前もそうだ。我らサルカズの扱いの差を、見るのは初めてではないだろう」

 その言葉にリーベリの若い男は口を噤んだ。

 新興国たるクルビアとて、そこに住む人々は無から生まれた訳では無い。

 サルカズへの差別は、一体どれほどの間行われているのか。

 まだ二五を過ぎたばかりのリーベリの男でも、サルカズの――魔族の恐ろしさは、子守唄のように当たり前に知っている。

 鉱石病を広める悪魔。

 人々を死に至らしめる怪物。

 残虐非道で、子を連れ去る化物。

 サルカズとは悪の象徴であり、鉱石病そのもののように扱われている。

 大地の人々はそう考えており、事実サルカズの多くは傭兵となって――武装組織を率いることが多い。

 そして、鉱石病もまたサルカズの殆どが患っている。

「はぁ……そう落ち込むな。……ふむ」

 話題の転換とばかりにスヴェルドフレムが告げる。

「ふっ。かくいうお前も、カズデルで拾ったばかりの頃は、魔族だらけだと震えていたな」

 その言葉にぴくりと反応するリーベリの男。

 それは男の恥ずかしい過去だった。

「我らの姿を、異族の子供は恐ろしく感じるらしい。ああなんだったか、確か……私の角を指さして、魔族と呼んだ上……」

「それはっ‥……! 本当に! やめて! ください!」

 大声で抗議したリーベリの男に、渋々とばかりにスヴェルドフレムは言う。

「そう慌てずとも良いだろうに。子供の無知に、怒りを覚えるほど短慮では無いのだが」

「ふっー! はぁーっ! ……ボス! もうこの話は終わりにしましょう! ほら! もうすぐ時間ですし!」

 その言葉にわざとらしく舌を鳴らしたスヴェルドフレムは、

「運が良いな。……では、厄介者は退散するとしよう。ああ、補佐役に現地協力者をつけよう。少なくとも、取引相手よりは信用できる」

 そう告げた後、テントから抜け出した。

 

 

 

 

 カズデル。

 見慣れぬようでいて馴染み深い名。

 この大地の多くの人にとって、そこは「魔窟」だった。        

 魔族が罪を織りなした地獄であり、近づきがたい恐ろしい土地だ。

 そしてサルカズにとっても、カズデルとは複雑な感情が付きまとう名である。

 彼らの間では、サルカズの故郷はカズデルにあると何代にも渡って口伝で教えられてきた。

 約百年前のカズデル侵攻時、放浪者の作り上げたカズデルは崩れ去った。

 双生の魔王が作り上げた新たなカズデルは、未だ貧困と腐敗が蔓延るものとなっていた。

 カズデルの荒野地帯では、スカーモールの傭兵達による略奪や紛争で溢れ、戦災孤児など珍しいものではなくなった。

 傭兵だけでない他の武装組織も荒野を渡り、時に諍いが起きて報復合戦に発展することも珍しくない。

 そうした争いが起きた時に、運悪く他国の輸送部隊や商隊が通りかかれば、骨の髄までしゃぶり尽くされる。

 スヴェルドフレムがその異族の子供を見つけたのは偶然だった。

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