先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
カズデルへと届いた便りに目を通したテレジアは、眉間を指圧しながら疲れを見せた。
そこに書かれていたのはスヴェルドフレムについてのクルビアでの活動……。
最も、それらは彼らが自ら送り届けたものではなく、テレジア傘下の諜報員達の働きにより纏められた、非公式な報告書だった。
スヴェルドフレム。
テレジアがカズデルでその名を知ってから、まだ二十年と経っていない。
しかしテレジアにとって、スヴェルドフレムはもはや替えのきかない人財となりつつある。
思えば彼は、テレジアが目にした瞬間から特殊な存在であった。
魔王の王冠。
無数のカズデルが築き上げられる度に塵芥と化す一方で、「魔王」は何時の時代もティカズを――サルカズを導いてきた。
かつて最初の魔王たる「追放者」から次の魔王へと受け継がれ続けたそれ。
898年のあの時、サルカズの魂に導かれたテレジアとテレシスは、永遠に平等であることを定めた。
テレシスは君主守る剣として、テレジアはサルカズら同胞を導く君主として。
新たなカズデルがようやく形を成し、天災から逃れる術を手に入れてから百年と少し。
テレジアはあるサルカズの噂を聞いた。
――カズデルで「学校」を開いた者がいる。
変わり者と言うには、あまりにも高度な教育を受けた名残を感じさせるそのサルカズの行動は、テレジアの目を引いた。
「――あなたがスヴェルドフレム?」
そうして彼の目を見た時、テレジアは膨大な情報が流れ込んでくるのを『視た』。
この大地は、かつてサルカズだけのものであった。
先民と神民が我らの祖先の手から故郷を奪ったのだ。
無数の天災が空から降り注ぎ、大地が源石で覆い尽くされていく。
「追放者」の都市は崩れ落ち、先民と神民達が同胞達を狩っていく。
長い放浪の末、血脈は悲しみの叫びの中で失われていく。
罪人たちは滑稽なほどに歴史を忘れ、カズデルの廃墟はテラの至る所で数を増やしていく。
先民と神民達の手によって、力なき民草が、同胞が燃やされるのを『視た』。
そして、我らを害する彼奴らは、こう騒ぎ立てる。
「サルカズが我々の故郷を侵した」と。
――長い永い放浪の末、一人のサルカズは親友の亡骸を抱いた。
己の生を、生き続ける限り、目に映る同胞達を救うことを定めた。
――ようやく安寧を得たそれが崩された時、一人のサルカズは異族への消えぬ憎悪と大地への怒りを抱いた。
――最も信頼していた同胞が裏切った時、一人のサルカズの精神は砕かれ、歪んだ形で直された。
数千年、或いは万年にも至ろうかと言う長いサルカズの生涯は、幾度もテレジアを通して繰り返される。
サルカズの歴史の体現者とも言える彼に、テレジアの精神は押されかけた。
それ程までに彼の精神は重く、苦痛に満ちていた。
しかし同時に、同胞への希望――「カズデル」と言う象徴への捨て切れぬ憧憬があった。
鬱屈としたサルカズの同胞とも、闘争に溺れる同胞とも違う逸材を、テレジアは見つけ出した。
「――わたしと共にこのカズデルの行く末を、創り上げましょう」
そんなスヴェルドフレムが、このカズデルに帰還するという。
……ガリアの雲行きが怪しい今、彼のような人財は雲獣の手も借りたい程だ。
スヴェルドフレムから見たカズデルと……カズデル以外の大地の姿を知るには、この機会しか無いだろう。