先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
サイドストーリー「バベル」の全編ネタバレ含みます。
関連シナリオはメインストーリー序章〜8章、10章〜14章、エピソード「闇夜に生きる」「遺塵の道を」
これらを先に読んでおくことを強くオススメします。
テラ歴1030年秋。
カズデル地区、スカーモール。
はぐれのサイクロプスが作り上げたそこは、今も人々の業を吸い続け、戦争の営みを続けている。
地下深くの窪みに鎮座するこのモールでは、奴隷たちのうめき声のほかに、モール下で源石粉塵が絶えず爆発する音、溶岩が逆巻く音が聞こえている。
この市場を訪れる者は、大金を求めて彷徨う亡者か、闘争に溺れ闘いを求める享楽主義、或いは商売を求めて訪れる闇商人の類ばかりだ。
それらの光景を目にした男は、愛剣を携えつぶやいた。
「……ここは変わらぬな」
檻に押し込められた奴隷。
商談に熱中する商売人。
稼げる依頼を漁る傭兵。
カズデルとは異なり、常に暴力と血の怨嗟が渦巻くスカーモールの通りを歩く男。
ふと耳にしたのは、負傷した傭兵と奴隷商人の会話だ。
「ブツの出処は?」
「こいつはな、路肩でひからびて裂獣に殺されかけてたとこを拾ったんだ。」
「まがいもんじゃねぇってことは俺が保証する。金に換えたところで死んじゃ意味がねぇ。良い武器と交換したい」
「そうかい。そいつはせいぜい二級品ってとこだから、新品の剣二本だな」
「……目が腐ってんのか?」
「値段に納得いかねぇんなら失せな」
「*サルカズスラング*」
そこで……傭兵の背後で怯える奴隷に男の目が行った。
関心が向いた男は、その傭兵と商人の近くへと歩を進める。
「――前回来た時は、別の者が仕切っていたはずだが」
奴隷商人が男に目を向けた。
そして驚いたように目を見開き、声を震わせながら答えた。
「は、はい……それは私の祖父です」
先程の粗雑な対応とは一転して――ひどく丁寧な対応を見せる奴隷商人。
少年のような快活さで、男に羨望の目を向ける奴隷商人は、心を打ち震えさせた。
「祖父を覚えていてくださったなんて、本当に……あの爺さんはデタラメを言ってたわけではないんですね。たしか、もう六十年も前のことですよね……」
だが、奴隷商人の対応も仕方ないと言える――なにせこの男は、カズデルの英雄だったのだから。
カズデル侵攻で連合軍を退却させた六大英雄の一人……。
「……テレシス将軍」
「……残念だ。ここは六四年前と何一つ変わらぬようだ」
男――テレシスはスカーモールの現状を再確認し――それが変わっていないことを嘆いてみせた。
だが、奴隷商人はスカーモールの頑強さを誇りにさえ思っているようで、この市場の需要を語った。
「あなた方にこっぴどくやられても、スカーモールはご覧の通り元通りです。カズデルの動乱がやまない限り、この商売は続いていく。そうは思いませんか?」
驕りさえ感じさせる奴隷商人の言葉に、テレシスは答えた。
「間もなく、お前たちのよく知る物事のすべてに変化が訪れる。どのサルカズも例外ではない」
「……どのサルカズも? 我々も含めてですか?」
「ああ。私はお前たちのような者に道理を説くのは得意ではない。だが、彼女が戻るまでしばらくここで待つとする」
そう宣言した後――テレシスは、愛剣を鞘から抜いてみせた。
そうして、己を監視する刺客達に告げる。
「その間、お前たちの挑戦を歓迎しよう。……六十年前と同じようにな」
「私はお前たちをカズデルへ連れて行くために訪れた。有無を言わせるつもりはないが、異論があるのなら受けて立とう」
彼の声は決して重くはない。
しかしその音には、その場にいたサルカズが一言一句を頭に刻み込みたくなるような力があった。
混血のサルカズがそこに立っている。
従者も、軍隊も伴わずに一人きりで。
ただ飾り気のない長剣だけを無造作に握って。
彼の冷ややかな視線は暗い通りを抜け、唯一気に留めている人物の方へと注がれていた。